藤岡雅宣の「モバイル技術百景」

4月からいよいよ始まる「JAPANローミング」の仕組みとは

 4月1日、「JAPANローミング」という新サービスが始まります。何らかの理由で普段利用している携帯電話サービスが使えなくなると、他社の通信ネットワークに繋がるようになるというものです。

 2022年7月のKDDI大規模ネットワーク障害を契機に、同年9月から総務省主催で「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」が始まり、非常時に他事業者のネットワークを利用できるようにする仕組みの検討が進められました。その間に2024年1月の能登半島地震など大きな自然災害もあり、このような仕組みの重要性への認識が高まりました。

 検討会の成果である答申に基づき、モバイル通信事業者においてローミング機能の実装が進み、いよいよ4月1日から「JAPANローミング」として提供されるようになりました。JAPANローミングには「フルローミング方式」と「緊急通報のみ方式」の2方式がありますが、ここではこれらがどのような仕組みで実現されるのか見ていきましょう。

£モバイルネットワークへのアタッチ
JAPANローミングの仕組みの前に、モバイルネットワークの基本構成と私たちがスマホによって通信を始めるときの仕組みからレビューしましょう。

 図1に示すように、モバイルネットワークは無線で端末とやりとりする基地局群からなる無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)と、端末の認証(正当な利用者・端末であることの確認)、通信経路の設定・選択、通信接続の設定・開放などを担うコアネットワーク(CN:Core Network)から構成されます。ここでは、4Gネットワークを前提として話を進めます。

 スマホが電源をオフからオンにしたとき、あるいは圏外からモバイル通信のサービスエリアに移動してきた場面などで、まだどの基地局ともつながっていないとします。

 そのとき、スマホの周りの無線基地局は周期的に「同期信号」と呼ばれる無線信号を送っています。同期信号を受けたスマホは、基地局とのやりとりできるようになります。そして、基地局が無線チャネル上で繰り返し報知している信号を読み取ります。

 スマホの周りに複数の基地局がある場合には、それぞれの基地局からの報知信号をもとに、信号の中身から自ら選択すべきと判断した基地局にアタッチ要求を送ります。アタッチとは、ネットワークに自らの存在を認知させ、音声やデータの通信を行うための準備を整えることです。

 アタッチの手順の中で、スマホとネットワークの間で互いに相手の正当性(スマホ側では相手が偽基地局などでないこと)を確認する認証が行われます。

 また、スマホの在圏場所をネットワークに知らせる位置登録が行われます。アタッチが無事完了すると、インターネットへの接続など実際の通信で利用する通信パスを設定します。

モバイル通信におけるローミングの仕組み

 ローミング(Roaming)とは、私たちが契約して普段使っている通信事業者とは異なる事業者のネットワークを利用することです。

 一般的には、日本で使っているスマホを海外で利用する場合の国際ローミングが思い浮かびます。一方で、たとえば楽天モバイルのユーザーがエリアによってはKDDIのネットワークを利用するような国内ローミングもあります。

 ローミングを実現するためには、自分が普段使っているスマホがローミング先のネットワークでも使えることが前提となります。モバイル通信の世界では、基本全ての事業者が同一の国際標準に準拠したスマホと基地局の間の無線アクセス技術やネットワークの構成を使用しています。

 異なる事業者のネットワークが同じ国際標準に基づき構築されているため、スマホのサポートしている周波数帯を利用する場合には日本国内も世界全体に亘ってもローミングは比較的容易に実現できます。そして、周波数帯の多くは世界中で共通化しており、それらはスマホでサポートしています。

 ただし、実際にローミングをするためには、私たちが加入契約しているネットワーク(ホームネットワーク)がローミング先ネットワークとの間でローミング契約を結んでいる必要があります。この契約には、データ、音声、SMSなどのローミング時に提供するサービス、ネットワーク間の相互接続条件などが含まれます。

 どのネットワークへローミングが可能かどうかは、通常ホームネットワークのサービス契約時にスマホに記憶され、それが必要に応じて随時アップデートされます。

 具体的には、スマホに装着したSIM(Subscriber Identity Module)にローミング可能なネットワークの事業者を識別するPLMN ID(Public Land Mobile Network Identifier)が記憶されます。PLMNというのは各事業者のネットワークを意味し、PLMN IDはそのネットワークを一意に識別する番号です。

 ここで、たとえばある国の複数のネットワークとの間でローミング契約が結ばれている場合には、その国の複数のPLMN ID、そしてそのうちのどのネットワークから優先してローミングすべきかという優先順位も記憶されます。

 具体的なローミングの仕組みですが、スマホはローミング先でサービスを提供している通信事業者の基地局が発している報知信号に含まれているそのネットワークのPLMN IDを読取ります。そして、あらかじめスマホに記憶されているローミングが許されるPLMN IDのリストを参照し、読み取ったPLMN IDと照合してローミング可能かどうかを確認します。

 なお、基地局からの報知信号には複数のPLMN IDが含まれる場合があります。一つのネットワークが用途・目的により異なる役割を果たす場合に論理的に複数のPLMNとして振る舞う場合があり、それぞれの用途・目的に応じて異なるPLMN IDを割当てているためです。また、基地局が複数事業者により共用されている場合にも、その基地局を共用する各事業者のPLMN IDが全て含まれます。

 ローミング先のネットワークが決まると、図2のように、基地局を通してコアネットワーク内のMME(Mobility Management Entity)にアタッチ要求を送ります。MMEというのは、スマホの位置確認やデータ通信用のパス設定の制御、認証などを担う装置です。

 これを受けて、MMEとスマホの間で認証を行います。この認証は、スマホがホームネットワークで普段利用しているSIMを使って行います。スマホに装着されたSIM(カード)には加入契約者固有の情報が書き込まれており、加入者の識別やサービスの正当なユーザーであることを認証するのためなどに利用されます。

 認証は、ローミング先ネットワークのMMEがスマホのSIMから得られる情報と、ホームネットワークのHSS(Home Subscriber Server)と呼ばれるデータベースからの情報を突き合わせて実現します。HSSはスマホの位置情報、サービス加入情報、認証情報等を保持するデータベースです。認証はホームネットワークとスマホの間の手続きですが、ローミング先ネットワークはそれを仲介し結果を信頼します。

 さらにアタッチ手順の中では位置登録として、スマホが接続される無線基地局を含むエリアを「位置登録エリア」として、ローミング先ネットワーク番号と共にホームネットワークのHSSに登録します。これで、ローミング先ネットワークでのデータ通信の準備が整ったことになります。

 実際のデータ通信に先立ち、ローミング先ネットワークでスマホとの間のデータの送配信を担うS-GW(Serving Gateway)と、ホームネットワークでインターネットなど外部ネットワークへの接続を担うP-GW(PDN Gateway)の選定を行います。S-GWやP-GWはデータ通信におけるルーターのような役割を持っています。

 そして、スマホからローミング先ネットワークのS-GWと、ホームネットワークのP-GWの間のS8インタフェースと呼ばれる経路を経由してインターネットなどにつながるデータ通信経路が確立されます。

 ローミングではこのデータ通信の経路が必ずホームネットワークを通る仕組みとなっており、ホームネットワークではローミング中の自社の加入者のデータ通信量などの通信状況が常に把握できます。またユーザーは、ホームネットワークが提供しているサービスを含めて、例えば海外に旅行中でも様々なアプリを国内と同じ感覚で手軽に利用することが可能です。

ローミングによる音声通話サービス

 4Gでは、通信事業者による通話サービス(110/119番などの緊急呼を含み通話品質を担保するサービス)を、データ通信の枠組みの上でVoLTE(Voice over LTE)として提供しています。

 つまり、音声をデータ通信で用いるIP(Internet Protocol)上のパケット単位で送る一種のVoIP(Voice over IP)として実現していますが、LINE通話のようなベストエフォート品質の電話ではなく通信事業者が自ら提供する電話です。

 通話の接続や切断などの処理は、図3に示すようにIP上でのさまざまな通信アプリを提供するために準備されたプラットフォームであるIMS(IP Multimedia Subsystem)と、その上の一つのアプリとして通話サービスを提供するためのVoLTEアプリケーションサーバーが担います。

 音声をパケットとして扱っているという理由もあり、電話ローミングについては上記のデータローミングを前提として、その上の階層のVoLTEサービス機能の中で実現しています。具体的には、私たちがローミング中に発信すると通話設定要求信号がホームネットワークのIMSに送られ、VoLTEアプリケーションサーバーにより着信者へ通話の設定が行われます。

 私たちがローミング中の着信時にも同様に、発信者からの通話設定要求信号が私たちのホーム・ネットワークのIMSに送られてきて、データ通信ローミングの機能によりHSSを介して位置登録情報に基づきスマホの位置を確認して通信経路が設定されたあと、スマホが呼び出されます。

JAPANローミングの全体像

 JAPANローミングの目的は、私たちが契約している通信事業者のホームネットワーク自体の障害や重大な自然災害によって基地局などが使えない場合に、国内の他の事業者のネットワークに一時的にローミングして、110番や119番などの緊急通報や通常の通信ができるようにすることです。

 JAPANローミングの仕組みは今のところ、4Gネットワークを想定した仕組みとして規定されています。また基本、上で説明したローミング機能を利用していますが、さまざまな追加や変更をしている部分があります。

 JAPANローミングとしては、ホーム(ネットワーク)のコアネットワークが正常に動作しているのが前提の「フルローミング方式」と、ホームのコアネットワークが障害の場合にも利用可能な「緊急通報のみ方式」の2つの方式が規定されています。

 図4に示すように、フルローミング方式では緊急通報に加えて通常の音声通話、SMS、最大300kbpsの送受信データ通信が可能です。一方、緊急通報のみ方式では、文字通り緊急通報のみが可能です。

 JAPANローミングでは、大規模災害や通信障害によりある通信事業者(被災事業者)のネットワークの一部あるいは全体が利用できないとき、まずは速やかにフルローミング方式を発動するか緊急通報のみ方式を発動するかを決めます。

 いずれの方式を発動するかは、災害や通信障害の規模、ネットワークの混雑状況などに応じて、携帯電話事業者間(NTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイル)で協議して決めることになっています。

 その後、ローミング受け入れ可能な通信事業者(救済事業者)が被災事業者の加入者を受け入れる設定を行い、準備が整ったことを公表した後、被災事業者の加入者が救済事業者のネットワークにローミングすることが可能となります。

 自然災害などで被災エリアの基地局のみが障害となった場合、コアネットワークは正常に動作しており、フルローミング方式が選択される可能性が高いと考えられます。

 一方で、2022年7月のKDDIにおける障害のようなコアネットワークが障害の場合には、緊急通報のみ方式が選択されると考えられます。

 なお、JAPANローミングに対応するスマホにはあらかじめ、ローミングの原則に従い非常時ローミング先として使えるPLMN IDのリストと、その優先順位を記憶しています。このJAPANローミングの際に用いるPLMN IDは、通常時のPLMN IDとは異なる番号を用います。各通信事業者の通常時に用いるPLMN IDとJAPANローミング用のPLMN IDを表1に示します。

「フルローミング方式」の仕組み

 スマホは通常ホームの基地局からの無線信号を受信して基地局に接続したあと、ホームネットワークにアタッチします。ホームの基地局かどうかは、基地局からの報知信号の中に含まれるPLMN IDを見て判断します。

 通常、ホームの基地局からの信号を受信できない場合、スマホは周囲の他ネットワークの基地局からの報知信号も読み取り、利用可能なネットワークを探索します。ただし、ホームネットワークが障害となっておらず、JAPANローミングも発動していない平常時には、他ネットワークで通常の通信を行うことはできません。

 なお、非常時PLMN IDは原則として基地局から常時報知されていますが、JAPANローミングのフルローミング方式発動時以外は利用できないよう制御されます。このため、他ネットワークの基地局からの無線信号が受かっていてもスマホ画面上の表示は「圏外」となります。

 一方で、他ネットワークの基地局からの報知信号の中に、「被災事業者のPLMN ID、そのPLMN加入者のローミングを受入れる」という情報が含まれており、その「被災事業者のPLMN」が自分のホームを意味する場合、スマホはその基地局に接続してその基地局を運用する救済事業者のネットワークへアタッチを試みます。

 現時点では、iPhoneの場合は(「ローミング」設定がオフでも)自動的に救済事業者のネットワークへアタッチを試みますが、Androidスマホの多くでは私たちユーザーが手動で「ローミング」設定をオンにする必要があります。これは、ローミングの位置付けがiOSとAndroidで異なることが理由と考えられます。

 実際のスマホの動作としては、JAPANローミング用のPLMN IDで示されたネットワークを選択してアタッチするイメージとなります。これにより、スマホは非常時ローミング用ネットワークを利用しており通信に一定の制約があることを前提に動作します。また、スマホ画面上の通信事業者名として上の表1に示すように「JPN-ROAM X」あるいは「JpnRoamX」(最後の「X」は事業者の頭文字でD/K/S/R)と表示されます。

 図5に、フルローミング方式でのスマホから救済事業者のネットワークに接続する様子を示します。図5左に示すように一般の通話、SMS、データ通信については、基本的に図2、図3で示した標準のローミングと同じ仕組みで実現されます。ここではホームのコアネットワークが正常に動作しており、HSS及びP-GWが利用できることが前提となります。

複数の救済事業者の基地局から「被災事業者のPLMN ID、そのPLMN加入者のローミングを受入れる」という情報を受けた場合には、スマホはその中で一番優先度の高い事業者のネットワークへのアタッチを試みます。これでアタッチができれば、フルローミング方式でのローミングが実現できたということになり、図4で示した通信サービスを全て利用することができます。

 図5右は、フルローミング方式での緊急通報の流れです。緊急通報では、通話は救済事業者のネットワークから直接110番や119番の緊急通報受理機関に接続します。国際標準では緊急通報はローミング先のローカルな機関に伝える必要があることから、ローミングネットワークから直接緊急通報受理機関に接続することとなっていますが、JAPANローミングもそれに準拠した仕組みとなっています。

 日本の緊急通報は制度上、通報の終話や中断後、警察や消防といった緊急通報受理機関からユーザーへ呼び返しの電話を掛けられることが要求されます。呼び返しの通話は図5右の緑の経路に示されるように、緊急通報したユーザーのホームネットワークを経由してHSSに記憶された位置登録情報に基づき、救済事業者のネットワークに接続しているスマホに着信します。

 なお、ホームのコアネットワークが正常に動作していても、フルローミング方式ではなく緊急通報のみ方式が選択されている可能性があり、その場合は通常のアタッチはできません。

「緊急通報のみ方式」の仕組み

 緊急通報のみ方式が発動されている場合、どの基地局からも「被災事業者のPLMN ID、そのPLMN加入者のローミングを受入れる」という情報は送られず、スマホはどのネットワークにも通常のアタッチはできません。

 この状況においてユーザーに何らかの理由で緊急通報をする必要が生じたときに、緊急通報のみ方式を起動することが想定されます。

 緊急通報のみ方式では、私たちユーザーが手動によりスマホ上で「ネットワークの選択」を「手動」にし、画面上に現れる通信事業者の中から、ホームネットワーク事業者以外の事業者を選択する必要があります。

 ここで、実際に救済事業者を指定する際には表1に示された非常時のPLMN IDあるいはそれに相当する「JPN-ROAM X」などではなく、通常のPLMN IDあるいはそれに相当する文字列を選択します。

 これは、通常のネットワーク機能として緊急通報のみを受け入れるということで、フルローミング方式のように一般の通話やSMSなどもサポートするわけではないためです。

 ここで、事業者の選択前後でスマホの画面上では「圏外」と表示されたままとなります。この「圏外」の表示は、ネットワークに通常のアタッチができず通常の通信サービスが使える状態ではないことを意味します。

 この状況では実際には基地局の電波が届いていても通常のサービスは利用できないのですが、通信事業者間で「緊急通報のみ方式」を発動している場合、緊急通報については文字通り緊急性があるため警察や消防との通話が設定ができるようにしています。

 ただ、自然災害などで救済事業者の基地局も一部障害になっていたり、通信トラフィックが集中したりで緊急通報の通話もつながりにくくなっていることも想定されます。

 このような場合、私たちユーザーには救済事業者を選択し直したり、可能であれば移動して場所を変えたりして(例えば、別の基地局からであれば接続できるかもしれないため)、通話がつながるまで繰り返し接続を試みることが期待されます。

 緊急通報のみ方式は、図6に示されるように更に「認証あり」と「認証なし」の2つのケースに分類されます。緊急通報のみ方式が選択される場合ホームのコアネットワークは障害となっていると想定されますが、HSSなど一部の機能は正常に動作していてスマホの認証をできる場合があり、この場合は「認証あり」となります。認証ができない場合は文字通り「認証なし」となります。

 図6の左「認証あり」の場合、ユーザーがスマホで110番や119番へ電話を掛けるために通話ボタンを押すと、スマホは「緊急通報用アタッチ」要求を救済事業者のネットワークに送り、これがホームのコアネットワークへ伝えられます(図6左の1)。これにより、通常のアタッチではなく、スマホとホームのHSSの間で認証と位置登録だけが実行されます。

 緊急通報用アタッチというのは緊急通話のみに利用可能なアタッチ動作で、下記の「認証なし」の場合のように認証を省略するなど、手順を簡略化することも可能となっています。

 認証、位置登録が完了すると(図6左の2)、救済事業者のネットワークにより緊急通報の通話が設定されます(図6左の3)。この際、接続している基地局辺りの位置情報とホームのHSSでの認証を得たことで信頼度を担保された電話番号を緊急通報受理機関に送ります。

 図6右「認証なし」は、スマホのホームコアネットワーク全体が障害になっている、あるいはホームのHSSの障害などで認証が実行できないといった場合に、救済事業者のネットワークが緊急通報の設定を許諾していることを前提に実現されます。この場合、スマホは救済事業者のネットワークに「緊急通報用アタッチ」を行ってから緊急通報の通話を設定します。

 この際、信頼度が担保されていないのでスマホの電話番号は緊急通報受理機関に送らず、代わりにIMSI(International Mobile Subscriber Identity)を位置情報と共に送ります。IMSIは加入者を識別するユニークな番号で、誰からの通話かを高精度で特定するために利用できます。

 「認証あり」でも「認証なし」でも、緊急通報発信ユーザーのホームコアネットワークが障害に陥っているため、緊急通報の通話終了後の発信スマホへの呼び返しはできません。これは、本来の緊急通信の制度要件を満たしていませんが、緊急通報のみ方式のための例外措置として緊急通報受理機関の許諾を得ています。

MVNOのJAPANローミングへの対応

 MVNOは携帯電話の無線周波数免許や無線基地局をもたず、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどのMNOのネットワークを利用して私たちエンド・ユーザーにモバイル通信サービスを提供しています。現在、日本のMVNO加入数は全モバイル通信加入数の約18%であり、徐々に増加する傾向にあります。

 JAPANローミングについては、MVNO加入者にも非常時にローミングサービスを提供することを基本方針として、MVNO各社も積極的に参画して検討が進められてきました。

 さて、MVNOの実現形態としては、MVNO自らがHSSを保有すると同時にSIM(カード)を発行して直接ユーザーに提供するフルMVNOと、コアネットワークの一部の機能を自ら持っている場合も含めて、(ホスト)MNOのSIMを貸与されてユーザーに提供するライトMVNOがあります。

 通話サービスを契約しているライトMVNO加入者は、音声通話サービスやSMSについてはMNOのサービスをMNO加入者と同じ仕組みで利用しています。

 そのため技術的には、スマホでの準備が整っていればJAPANローミングにおけるデータ通信サービス以外のサービスを利用することは可能となります。実際、幾つかのMVNOは既に、4月からJAPANローミングに対応するとアナウンスしています。

 ライトMVNO加入者へのデータ通信サービスは、ホストMNOの設備とライトMVNOの設備を相互接続することで実現しています。JAPANローミングにおけるフルローミング方式ではこの相互接続経路を利用して、非常時データ通信を実現することが前提となっています。

 スマホから見ると、救済事業者のネットワークに接続したあと、被災事業者であるホストMNOのネットワークを経由してMVNOの設備に接続することとなります。

 このように新たな相互接続形態を含む少し複雑な仕組みとなることもあり、一部機能開発や検証試験に時間を要することから、フルローミング方式でのデータ通信サービスの提供は2026年後半以降になると想定されます。

 フルMVNO加入者は、現状通話サービスは利用しておらずデータ通信サービスのみを利用しています。このようなユーザーに対するフルローミング方式でのデータ通信サービスを提供するためには、救済事業者のネットワークからMVNOのHSSにアクセスするなど、より複雑な仕組みを実現することが要求されます。

 このため、機能開発や検証試験により多くの時間を要するため、フルMVNO加入者へのフルローミング方式でのデータ通信サービスの提供は2027年以降になると想定されます。

IoTデバイスにおけるJAPANローミング

 JAPANローミングは、基本的にスマートフォン、タブレット、Wi-Fiルーターなど、私たちユーザーが直接操作するデバイスを主な対象としており、メーターやセンサーのようなモバイル通信機能を備えたIoTデバイスは、現時点では対象外と考えられます。実際、MNO各社が公開しているJAPANローミング対応機種にも、現状ではIoTデバイスは含まれていません。

 多くのIoTデバイスは低コスト化を前提として設計されているため、JAPANローミングに対応するための追加的な仕組みを実装することは容易ではないと考えられます。非常時の代替通信手段としては、例えば複数のMNOのSIMを搭載したり、eSIMに複数のMNOプロファイルを実装し、利用中のMNOに障害が発生した場合に他のMNOへ切り替える方法のほうが、コスト面で有利となる可能性もあります。

 一方で、音声通話機能を備え、緊急時に通話ボタンを押してセンターのサポート要員と対話することを想定したIoTデバイスなどもあります。このようなデバイスについては、非常時ローミングが有効に機能する可能性があり、将来的にJAPANローミングの対象となる可能性があるかもしれません。

おわりに

 モバイル通信はビジネスや生活に不可欠となっており、その重要性は高まるのみです。

 JAPANローミングが始まることにより、モバイル通信ネットワークのライフラインとしての有用性がさらに高まることになります。特に自然災害の多い日本では、このような仕組みは非常に重要と考えられます。

 今回のJAPANローミングの対象は4Gネットワークになっています。

 一方で、5Gの利用は益々広がっており、今後5Gスタンドアローン(SA)の利用割合が急速に増加すると考えられます。当面4Gは併用されるので、5G SAを利用していても非常時には4GにフォールバックしてJAPANローミングを利用するのが現実的です。ただ、長期的にはJAPANローミングの対象に5G SAを追加する必要が生じると考えられます。

 非常時の代替通信手段としてはJAPANローミング以外に複数SIMの利用、公衆Wi-Fi(00000JAPAN等)、スマホからの衛星ダイレクトアクセスなどもあり、これらをうまく使い分けることで最低限の連絡、緊急通報の可能性が確保できることは非常に有益です。

 JAPANローミングには、ここで解説した内容以外にローミング時の緊急時地震速報の扱い、スマホでの追加・修正機能など多くの要件があります。それらについては、公式の資料、通信事業者などの関連サイトを参照して頂くことを期待します。

藤岡 雅宣

1998年エリクソン・ジャパン入社、IMT2000プロダクト・マネージメント部長や事業開発本部長として新規事業の開拓、新技術分野に関わる研究開発を総括。2005年から2023年までCTO。前職はKDD(現KDDI)で、ネットワーク技術の研究、新規サービス用システムの開発を担当。主な著書:『ワイヤレス・ブロードバンド教科書』、『5G教科書 ―LTE/IoTから5Gまで―』、『続・5G教科書 ―NSA/SAから6Gまで―』(いずれも共著、インプレス)。『いちばんやさしい5Gの教本』(インプレス)、大阪大学工学博士