藤岡雅宣の「モバイル技術百景」
MWC2026で見つけた「空飛ぶ基地局とプライベートネットワーク」
2026年4月30日 06:00
モバイル通信業界で世界最大の展示会・国際会議であるMWCが、本年3月2日~5日、スペインバルセロナで開催されました。今回は、AIが現実に広くモバイル通信にも利用される流れを反映して「The IQ Era」というテーマが設定され、実際に多くの講演や展示で、AIが標語というだけでなく様々な適用分野を持ち実態を伴う存在となっていることが示されました。
今回のMWCでは、展示場入口横のコーナーに小型飛行機が展示されていました。これが何かというと、5Gネットワークシステムを搭載して飛行し、地上で実施される自転車レースなどを撮影するカメラの映像を中継する空飛ぶ基地局だったのです。これは非常に斬新で興味深かったので、展示をしたNeutral Wirelessのブースを取材しました。
ここでは、技術進化という切口からMWC2026で見られた全体的なトレンドを概観したあと、空飛ぶ基地局、そしてプライベートネットワークへの新たな取組みについてまとめます。
MWC2026全体のトレンド
今年のMWC全体を通して、技術面を中心に次のようなトレンドが見られました。
(1)AI適用領域の広がりと実用化
MWC全体のテーマがAIの利用を連想させるThe IQ Eraという言葉でしたが、実際多くの展示においてAIが中心的な役割を果たしており、AI利用が不可逆的なレベルに達していることが感じとれました。
特に目立ったのがAIを用いたネットワーク運用の自動化で、モバイルネットワークの各装置における制御信号やデータの流れを監視して異常を検出し、障害が発生する前に対処する、ネットワーク負荷が増加したときに自動的に処理能力を増強するなど、従来人手で行っていた作業をAIに行わせるといった流れがより鮮明となってきていました。
また、NTTドコモのSyncMeに代表されるAIエージェントが具体化してきているのが感じられました。私たちユーザー個人の性格や性癖、好き嫌いなどを理解して、対話型で指示をすると私たちの好みに合ったレストランを探してくれたり、旅行プランを立ててくれるといったことが期待できます。今後、スマホのアプリとして広がっていくと思われます。
(2)5Gスタンドアローン(SA)の広がりとマネタイズ
世界的に5G商用化が始まってから6年ほど経ちましたが、未だ通信事業者の収益に大きく貢献しているとは言えず、いかに5Gをマネタイズするかというのが課題となっています。5G SAが本格化する中で、ネットワークスライシングによって品質面で差別化したサービスを提供して付加料金を課すことで5Gの収益化に結びつけようとする動きがあり、MWCでも多くの関連する展示が見られました。
たとえば、ソニーがエリクソンと共同で展示していたのは、スタジアムの中などでスポーツ競技の間4K映像を送れるスライスを予約しておき、カメラマンの映像を高品質でスタジオに送るというものです。実際のスライスの予約は外部アプリからネットワークAPIを用いて行いますが、この例だけではなくネットワークAPIも大きな広がりを見せていると感じられました。
(3)無線アクセスネットワーク(RAN: Radio Access Network)のAPI
無線基地局の各種設定の最適化、機能高度化、新機能導入、障害検出・復旧など、基地局を監視したり制御するための機能がRIC(Radio Intelligent Controller)として規定されていますが、このRICを外部から操作するためのAPIをAIも活用しながら広く利用していくための基盤が整いつつあることが示されました。
競合ベンダーであるエリクソンとノキアを含めて様々なプレーヤーがアプリケーションパートナーとして、RIC APIを利用する一つのRANアプリが異なるベンダーの基地局に共通に利用できるようにしていくという発表があったのは特に印象的でした。日本にもRANアプリを開発するFYRAのようなベンダーがあり、今後の展開が期待されます。
(4)非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)
地上の端末から衛星への直接アクセスを中心とするNTN関連の展示が多く見られ、NTNがモバイル通信の一つの柱として地位を確立していること、NTNが既に競争領域になっていることが感じられました。そうした中で、Space Xが現在の衛星直接アクセスのStarlink Mobileをバージョンアップしてデータ通信を高速化するという発表がありました。
クルマへの応用を中心にNR-NTN(5Gの無線であるNRのサポート)、NB-NTN(NB:Narrowband、低速度デバイス向けNB-IoTをNTNに適用したもの)の試験についての展示も多く見られました。道路上に隈なくモバイル通信のカバレッジを提供することは難しく、クルマでのNTN利用が期待されます。
(5)6G関連
2030年頃の商用化が想定される次世代モバイル通信ネットワーク6Gについては、5Gが未だ成熟していないということもありそれ程盛り上がっていない印象でしたが、その中でも6Gの有力な周波数帯と見られている6~8GHz辺りのセンチメートル波のデモが多く見られました。
一方、通信用の電波をヒトやモノの存在を見つけ出すセンシングに利用するISAC(Integrated Sensing and Communications)は6Gの一つのフィーチャと考えられており、こちらも多くのデモが見られました。たとえば、エリクソンではISACによって道路の渋滞を推定することにより救急車両の走行ルートを最適化するデモが披露されました。
6GはAIのためのネットワークになるという見方もあり、またAIが6Gにおいてネットワーク運用、最適化、省エネなどに不可欠になると考えられるため、AIと6Gは切っても切れない関係になると想定されます。
Neutral Wireless
さて、MWCで「空飛ぶ基地局」を展示していたNeutral Wirelessは、スコットランド・グラスゴーのストラスクライド大学(University of Strathclyde)のソフトウェア無線(SDR:Software-Defined Radio)研究チームが2018年、ワイヤレス通信の研究をビジネス化しようと考えて設立しました。
会社設立当初は、モバイルインフラを複数のモバイル通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)がシェアして利用するニュートラル・ホスト(Neutral Host)モデルの実現を指向しました。SDR技術と汎用サーバー上で動作するソフトウェアとしての基地局を活用した柔軟なネットワーク構成により複雑なRANシェアリングを、小規模かつ安価なパッケージで提供することを目指しました。
RANシェアリングを実現するためにはMNOとの合意、協力が必要となりますが、通信品質やネットワーク障害に対する責任の所在、MNOネットワークとの相互接続、シェアするRANの持つべき機能など様々な課題があり、なかなかビジネス展開が進みませんでした。
そうした中で、英国政府がプライベートネットワークにおいて幾つかの無線周波数帯域をMNOに依存しないで利用できる制度が確立され、Neutral Wirelessはそれを利用してプライベートネットワークを展開するという方向に舵を切り直しました。この制度は共用アクセスライセンス(SAL:Shared Access Licence)と呼ばれますが、日本のローカル5Gに近い仕組みです。
放送コンテンツ制作用プライベートネットワーク
プライベートネットワークの展開で目を付けたターゲットが放送業界です。特に実況放送・報道では一般のモバイルネットワークとは異なり、カメラの映像をネットワーク側に送る上りリンクがネットワーク側から端末(カメラなど)側へ送る下りリンクよりも大きな容量を求められ、しかもネットワークでの伝送遅延が安定していることが求められるところに着目しました。
2021年から2022年にかけて、BBC(British Broadcasting Corporation、英国放送協会)やParamount、Warner Brothers Discovery、Olympic Broadcast Services、TV2 Denmark、RTÉ Irelandなどのニュース制作・配信会社とともに、「5Gを用いたリモート制作」の実証実験を繰り返しました。
リモート制作では、撮影場所にプライベートネットワークを構築し、撮影現場と映像・音声の編集を行うプロダクションセンターを直結できます。
図1に従来の映像コンテンツ制作と5Gを用いたリモート制作のイメージを示します。従来は、カメラで撮った映像を現場に持ち込んだ大型の中継車に集め、そこが「現場サブ」(サブコントロールルーム:副調整室)として映像選択・切替え、音声ミキシング、字幕・CG挿入、収録などを行います。
つまり、制作の中枢機能が現場側にあります。高品質な画像を安定して供給できる一方、機材輸送・設営・撤収・スタッフ移動の負担が大きく、イベントごとにコストがかさみやすいのが弱点です。
一方、5Gリモート制作ではカメラ、マイク、エンコーダー(音声・映像を送受しやすいデータ形式に変換する装置)、そして最小限の技術者だけを現場に配置し、映像・音声を5G経由でプロダクションセンターあるいはクラウドへ送ります。映像選択、音声調整、収録などはプロダクションセンターあるいはクラウド上で行うため、制作の中枢が現場から離れます。
従来のやり方では、一般に全ての撮影用カメラを光ファイバーや同軸ケーブルで物理的に中継車と接続します。ケーブルが長くなると重量も大きくなり、現場に持ち込む手間、引き回す労力が大きく人手を費やすことになります。一方、5Gリモート制作ではカメラに5G通信モジュールをつなぐだけで、カメラマン一人でも撮影に臨むことができると同時に、移動・撮影場所の自由度も飛躍的に高まります。
下記に実際にNeutral Wirelessが取り組んだ事例について述べますが、多くの場合撮影現場に中継車を配備して一部の作業はこの中継車で行っていたので、従来のやり方とリモート制作のハイブリッド方式となっていました。
無線で映像をカメラからアップロードするに当たって、現場の映像伝送専用に構築された5Gプライベートネットワークは十分な帯域を確保することが可能で、高解像映像を安定して送ることが可能です。Neutral Wirelessの場合は全無線帯域の約3/4を上り(カメラから基地局の方向)に利用するように設定しており、多数の高品質映像を送ることが可能です。
日本の公衆網でもそうですが、一般に5G用の周波数では上りに割り当てているのは全無線帯域の1/4程度なので、上りにこのような大きな帯域を割り当てるのはプライベートネットワークならではの特徴となります。また、5Gスタンドアロン(SA)のネットワークとしていることから超低遅延でリアルタイムでの伝送が可能、独立したネットワークのためにセキュリティ性が高いことなどもプライベートネットワークの利点となります。
ポータブル5Gシステム
実際にNeutral Wirelessが使っているモバイル通信システムは、同社自身がシステムインテグレーターとして開発したPop-up 5Gと呼ばれるコンパクトなものです。Pop-up 5Gは5G SAに対応した5G基地局(gNodeB)とコアネットワーク(5GC: 5G Core)の機能を持っています。図2に、5GネットワークとPop-up 5Gの対応を示します。
Pop-up 5Gは5Gネットワークの全ての機能を持っているので、これだけで独立したプライベート5Gネットワークをセットアップできます。
gNodeBの制御部(CU/DU)は、SDR技術により汎用サーバー上で動作するソフトウェアによって無線通信を制御します。これにより柔軟なカスタマイズが可能となっており、実際報道現場で利用するときには映像送信用の上りリンクの帯域割合を全体の約3/4と大きくしています。
gNodeBで無線信号送受信処理を行う無線装置(RU: Radio Unit)は、一人で持ち運び可能な数キログラム程度と軽量ですが、低出力カメラからの放送品質の映像受信に耐える高感度を実現しています。無線周波数としては、英国の共有アクセス(SAL)帯域であるn77の一部(3.8–4.2GHz)や、都市部での運用に適したn40(2.3GHz帯)など、複数の周波数帯に対応したラインナップが用意されています。
アンテナ装置は装置内に4本のアンテナ素子を持ち、アンテナ素子間の連携により電波に指向性を持たせて電波受信距離を伸ばすこともできますし、指向性を持たせず電波を全方位で利用することもできます。
5GCの機能はCU/DUと同じ小型サーバー上のソフトウェアとして実現しており、国際標準に準拠した機能を提供します。5GCからプロダクションセンターへのバックホール接続については、撮影現場で利用可能であれば光回線を利用したり、Starlinkのような衛星回線、あるいは公衆モバイル通信ネットワークを利用することもできます。
基地局(gNodeB)が一つの場合には、これらの装置と装置間のケーブル類、基地局運用に不可欠な時刻同期のためのGPSレシーバーなどを一つの頑丈なケースに入れて持ち運ぶことが可能となっており、電源さえあれば数分から数時間でどこにでもプライベート5Gエリアを構築できるようになっています。
エリザベス女王の逝去に伴う報道
Neutral WirelessのPop-Up 5Gが初めて実戦投入された重要なイベントが、2022年9月エリザベス女王が崩御され、その棺を英国エディンバラ空港でロンドンへ出発する飛行機に運び入れる際のライブ中継でした。急遽、空港の滑走路の横に基地局を置きプライベートネットワークを構築して、報道に利用することとしたわけです。
エディンバラ空港は公衆モバイル通信が使えないという状況ではなかったですが、多くの関係者や報道陣、警察などが集まり混雑する中でカメラ映像を高品質で中継できるという状況ではないということで、プライベートネットワークを設定することとなりました。
Pop-up 5Gを利用して撮った映像は放送制作会社であるQTVが設営した現場制作サイトに送られ、従来のケーブル付きカメラで撮影した映像と合わせて編集されました。
エディンバラ空港で構築されたPop-up 5Gは無線周波数としてはn77帯域の中の80MHz幅を用い、基地局は一局のみのシンプルな構成でした。短時間で設定できるシンプルな構成とする条件にマッチすると同時に、放送中継専用のネットワークだったため現地での複数のカメラのHD映像を送信するには十分な容量を提供できました。
チャールズ国王戴冠式の報道
Pop-Up 5Gが実戦投入された次の大きなイベントが、2023年5月ロンドンで行われたチャールズ国王戴冠式でした。ここでは公衆モバイルネットワークも利用されましたが、それに加えてBBCがNeutral Wirelessと組んで、戴冠式報道のための一時的なプライベート5Gネットワークを構築しました。
戴冠式においては5G無線装置(RU)及びアンテナを、戴冠式の行列が進む約1.3kmのThe Mallと呼ばれる並木道沿いのエリアをカバーするように8台設置しました。無線周波数はこちらもn77帯域の80MHz幅を使用しています。ここではRU相互間の干渉も考慮して比較的低出力の無線信号を用いたこともあり、木の葉の影響などを最小化するためにアンテナの高さを十分に確保しました。
このプライベートネットワークは、BBCだけではなくITNやSkyといった英国の放送局、また海外の放送局も含めて計20社が利用しました。テレビカメラの映像伝送専用に構築されたネットワークのため、周辺のモバイルネットワーク輻輳の影響は受けませんでした。実際には全体で約60台のテレビカメラがこのネットワークを利用しました。
The Mall全体として、各地点で 1Gbps以上のスループットが得られたため、多くのテレビカメラの映像を同時に5G無線でスタジオ(プロダクションセンター)に送ることができました。5G無線で接続されたカメラは撮影スタッフの動きに合わせて移動し、接続先RU(セル)が切り替わるハンドオーバーが生じますが、Pop-up 5Gシステム内のローカルな処理で円滑に実現されました。
テレビ映像中継は、図3に示すようにカメラが捉えた4~5Mbps程度のHD画質の映像は、映像配信装置および5G無線通信デバイスを介し、プライベート5Gネットワークを通して個々に放送局のスタジオに送られ、国内および世界に配信されました。ただし、試験的にソニーのカメラからの4Kの映像を約55Mbpsの速度、低遅延でプライベート5Gネットワークを通してスタジオに送る試みも行われました。
パリオリンピックでの報道
2024年7月~8月のパリオリンピックでは、Neutral Wirelessはオリンピック公式パートナーである仏通信大手Orangeの主要技術パートナーの一社として、重要な役割を果たしました。
開会式会場であるセーヌ川沿いにOrangeが構築した5G SAプライベートネットワークでは、Neutral Wirelessは5G基地局のCU/DU部分のソフトウェアを提供し、選手を乗せた85台のボートに据え付けられたスマホのカメラや報道用カメラの映像伝送用に上りリンクに無線帯域の約80%を割当てるなどカスタマイズのサポートを行いました。
マルセイユ沖で行われたヨット競技では、図4に示すように3隻のボート(双胴船)に各々Pop-up 5G基地局を搭載し、洋上を移動しながら競技用ヨットに据え付けられたスマホのカメラ映像を受信・伝送する仕組みを提供しました。船上の各基地局と陸上に設けられたCisco製のコアネットワーク(5GC)サーバーとの間は各々ポイント・ツー・ポイント無線(IP Link)で接続されました。
このヨット競技では、n77と2.6GHz帯のn38の一部が用いられましたが、フランスでもプライベートネットワーク用にこれらの帯域が割当てられています。
船上基地局のアンテナは縦方向と横方向の指向性アンテナをT字状に組み合せて配備し、競技用ヨットの位置変化、船の揺れや海上反射波に柔軟に対応して切替えたり補完的に利用できるようにしました。また、陸上の5GCとの間のIP Link用に2つのアンテナが船上に設置されているのも、船の揺れや位置が変わることに柔軟に対応できるように切替えたり補完的に利用するためです。
ヨット上のスマホの接続先基地局が基地局搭載船の位置によってシームレスに切替わるハンドオーバーも、陸上と同じように実現されました。これにより、競技用ヨットで撮影した映像は途切れることなく海上移動基地局を通じてリアルタイムでストリーミング伝送され、視聴者に選手たちと一緒に実際の競技に参加したようなリアルで躍動感あふれる光景を提供しました。
ドローン基地局
空飛ぶ基地局の第一歩として2025年7月伊ミラノで、Neutral Wirelessはイタリア公共放送局RAIと共同で「RAI Drone」と呼ばれる実証実験を行いました。この実証実験では、ドローンに軽量のn77対応5G無線装置(RU)を搭載し、地上の複数のカメラの映像を5G無線で中継しました。
ここで用いたドローンは通常のドローンではなく、地上から電力を供給し続ける有線ドローン(Tethered Drone)が採用されました。有線で電力を供給するため、バッテリー切れを気にせず長時間(数時間〜数日間)安定して基地局を稼働させることが可能です。
この「有線」部分は給電ケーブルだけではなく、ドローン搭載のRUと地上のCU/DUの間を接続する光ファイバーケーブルも含み、これにより高速な信号情報の転送を電波干渉を気にせず安定して送ることが可能となります。この実験では、CU/DUと5GCは地上に置き、バックホールとしてはEutelsatの低軌道衛星(LEO)を利用しました。
航空機搭載の空飛ぶ基地局
MWCでNeutral Wirelessが展示していたのは伊Groppo社製のGroppo Trailという超軽量航空機でした。この航空機は空虚重量(燃料・乗員・貨物なしの重量)が約 285kg、離陸可能な重量が450〜600 kgであり、パイロットやPop-up 5Gシステムが搭乗しても4~6時間程度の連続飛行が可能です。
現状のドローンは通常、バッテリー性能の限界から5Gシステムなどの機材を積んだ状態では数十分しか連続飛行できません。自転車ロードレースのように、コースが数百キロに及ぶ競技では、ドローンでは頻繁な交換が必要になり、中継が途切れるリスクがあります。
また、ドローンのような重量物が万が一市街地や観客席に落下した場合大惨事になります。そのため、多くの国では、大型ドローンの有人地帯(人口集中地区やイベント会場上空)での飛行は極めて厳しく制限されています。一方で、飛行機は航空法に基づき、高度制限を守れば市街地や観客の上空を飛行することが国際的に認められています。
そこで、Neutral Wirelessはこのような小型飛行機に5Gシステムを搭載して、自転車レースのような広域に及ぶ長時間の競技の報道に利用しようと考えました。自転車レースなどでは従来複数のヘリコプターで撮影した映像を中継車に無線で送る手法が主流でしたが、これをよりシンプルな構成で高精細の映像を遅延も短く中継できる手法に変革できないかというのが動機でした。
2025年8月にフランスで開催された国際的な自転車レースであるブルターニュ・クラシック(Bretagne Classic)において、この空飛ぶ基地局の実運用が行われました。ここでは、図5に示すように地上のレースコースで競技自転車の後ろを走るバイクに搭載されたカメラからのHD映像信号を航空機内の基地局が中継しました。
飛行機には基地局だけではなく5GCも含むPop-up 5Gシステム全体が搭載されており、バックホールとしては基地局で受けた映像をPop-up 5Gから5G下りリンクで地上の車載型移動地上局で中継して、移動地上局からEutelsatのLEO衛星を経由して地上のプロダクションセンターに送りました。
Bretagne Classicで地上のバイクなどと飛行機搭載基地局の間の無線リンクとしては、プライベートネットワーク用のn77は移動基地局での利用に許可が下りなかった一方で、フランスで防衛用に割当てられているn40(2.3~2.4GHz)帯域の中の20MHz幅の使用許可が下りたので、これを低出力で利用しました。
飛行機は高度300メートル程度を飛行し、地上の半径約1500mの範囲まで無線でカバーすることができました。実際の機上基地局と地上のバイクとの間の距離は最大1000m程度でした。
機上のPop-up 5Gは地上の公衆モバイルネットワークへのアクセスも可能となっており、飛行機から地上の基地局へアクセスができるエリアでは、衛星用地上局への接続が途絶えた場合にOrangeのモバイルネットワークをバックホールのバックアップに利用できるようにしました。
Bretagne Classicでは空飛ぶ基地局を利用することで、地上ネットワークでは電波が届きにくい起伏の激しい地形でも安定した途切れることのない高品質な映像配信が実現できました。これにより、ヘリコプターに代わる、よりシンプルで高精細、かつ低遅延な映像中継手法としての可能性を世界に示した意義深いものとなりました。
おわりに
本記事で取り上げたNeutral Wirelessの歩みは日本でのプライベートネットワーク、あるいはローカル5Gの展開に非常に参考になると思われます。
Neutral Wirelessは放送・報道の映像中継での5Gプライベートネットワークの利用に着目し、その中で様々なニーズに適応したシステムを構築、提供してきました。そうした中で、空飛ぶ基地局という非常にユニークなソリューションを実現し、実際に放送事業者や視聴者に満足いく結果をもたらしました。
Neutral Wirelessは、放送用として開発した技術を、災害時の臨時通信インフラとして活用することも想定しています。地震や洪水で地上の基地局が運用できなくなった際、航空機を飛ばして上空から5Gネットワークを構築すれば、救助隊のドローン映像をリアルタイムで共有したり、被災者がメッセージを送ったりできます。
日本でも放送・報道での5Gの利用が進んでいますが、5Gを含むモバイル通信の適用分野は放送業界に限られたものではありません。鉄道を含む交通、電気などのエネルギー、土木・建築など、様々な業界でモバイル通信はこれからも大きな役割を果たすと思われ、Neutral Wirelessの取組みも参考に5Gそしてプライベートネットワークの展開に期待したいものです。












