藤岡雅宣の「モバイル技術百景」
どこにいてもスマホを呼び出してくれるのはどうして? 位置登録とページング
2026年3月3日 00:00
モバイル通信では、私たちユーザーが基地局からの電波が届く圏内にいれば、電話の着信やアプリから送られてくるデータがあるとき、モバイルネットワークがスマホのいると思われる位置辺りに無線で着信の呼び出しやデータ通信の起動を行います。
そのためにはネットワークがスマホのいるおおよその場所を知っている必要がありますが、それはどのような仕組みにより実現しているのでしょうか。
今回は、ネットワークがスマホの存在場所を推定する仕組み、その中での位置登録とページングと呼ばれる手続きを中心に見てみましょう。この辺りの仕組みの理解を深めるために、モバイル通信の進化に伴いこれらがどのように変化してきたのかについても振り返ってみましょう。
位置登録とページングの仕組み
家庭の固定電話であれば、受話器は電話ネットワークと家庭を結ぶ「加入者線」と呼ばれる有線回線に接続されており、その回線と電話番号がひもづいています。そのため、発信者が指定した着信先の電話番号から受話器を特定することは容易です。
また、インターネットにつながったパソコンなどの機器はデータ通信における宛先に相当するIPアドレスという番号と対応づけられています。IPアドレスが分かれば、ルーターなどデータを中継・転送する装置でデータの行き先経路を見つけ出し、特定の機器にデータを送ることができます。
一方で、モバイル通信ではスマホが移動するため、着信先や受信先の電話番号やIPアドレスだけからスマホの地理的な現在位置は特定できません。広いサービスエリアの中のどの辺りにいるのかという情報も必要になります。そこで、電話番号やIPアドレスとその時点でスマホがいると想定されるエリアを対応付ける仕組みが必要となります。
その仕組みの中で重要な役割を果たすのが「位置登録」です。位置登録というのは文字通り、スマホが現在いるエリア情報をネットワークに登録(通知)する手続きです。
ネットワークはスマホごとに「今どのエリアにいるか」を常に記録しておき、スマホに電話の着信や配信すべきデータが発生した場合、そのエリアに向けて無線でスマホを呼び出します。この無線呼び出しを「ページング(Paging)」と言います。
ユーザーの移動に伴い、スマホの存在場所は時々刻々と変わります。それに伴い、スマホが受ける無線信号を送る側の基地局も変わっていく可能性があります。都市部では基地局が数十~数百メートル程度の間隔で設置されることもあるため、もし呼び出しをする基地局が変わるたびに位置登録を行うとその頻度は膨大となります。
そこで、ある程度の数の基地局をグループ化した「登録・ページングのためのエリア」をページングエリア(PA: Paging Area)と定義し、位置登録はスマホが移動してPAが変わる際に行うようにしています。
そして、ページングは原則としてPAに属する全ての基地局から一斉に行います(まずはスマホがいる確率の高い基地局から呼び出し、その後範囲を広げる段階的ページングを行うこともあります)。
位置登録の様子を図1に示します。基地局は、所属するPA番号を全てのスマホが受けることのできる報知型のシステム情報として定期的に報知しています。
スマホはこれを受信して現在のPA番号を記憶し、基地局が変わってもPA番号が変わらなければ位置登録は行いません。一方、受信したPA番号が変わった場合には位置登録によるPA番号の更新を行います。
位置登録では、スマホは自分がいる(在圏する)PAの番号をネットワークに申告します。ネットワークはスマホごとにこのPA番号を記憶しておき、ページングではスマホの登録されたPA内の基地局からスマホの識別番号を含むメッセージを送ります。多くの場合、このページングメッセージはターゲットとなるスマホで受信され、応答して通信を開始します。
なお、位置登録はスマホが在圏するPAが変わったときだけではなく、前回の位置登録から一定時間経ったあとPAが変わっていなくても行います。この定期的位置登録は、スマホの電源断や圏外移動でネットワークが端末の存在位置を確認できなくなった場合に記録を更新し、無駄なページングを送らないようにするためです。
なお、「ページングエリア」という用語は国際標準で規定されているわけではなく、ここではページングと位置登録の原理を一般化して説明するために便宜上用いています。実際の2G、3G、4G、5Gにおける国際標準上規定された概念・用語は下記で解説しています。
通信中とアイドル状態
モバイルネットワークは、図2のようには無線でスマホとやりとりする基地局群からなる無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)と、端末の認証(正当な利用者・端末であることの確認)、通信経路の設定・選択、通信接続の設定・開放などを担うコアネットワーク(CN:Core Network)から構成されます。
各基地局がカバーするエリアは電波の到達距離や無線容量の制約からある範囲(だいたい数十メートルから数十キロメートル)に限定されますが、たくさんの基地局を配備して地上での面的なサービスエリアを形成しています。
基地局のサービスエリアは実際にはセルと呼ばれる単位で管理されています。セルとは、基地局の1つのアンテナが特定の周波数帯域(キャリア)で提供するサービスエリアを指します。たとえば、図2のようにある基地局が3つのアンテナを持ち、各アンテナが2GHz帯と1.7GHz帯の電波を送受信する場合には合計6個のセルを提供していることになります。
通信中のスマホは少なくとも一つのセルで基地局と無線接続しています。同時に複数のセルで接続することもありますが、ネットワークとしてはそのうちの一つを主セルとして制御やスマホの位置管理の基準に用います。なので、ネットワークは通信中のスマホについてはセル単位の精度で位置を特定できます。
一方で通信中でない(無線接続を確立していない)アイドル状態のスマホについては、ネットワークが把握できる位置は通常PAの精度になります。アイドル状態のスマホを呼び出すために、ネットワークがそのPAに対して一斉に呼び出すのが上記のページングです。
それ以外にネットワークから見たスマホの状態としては、長期間電源が入っていない、サービス圏外にいるなどの理由でネットワークが端末の所在を確認できず、スマホが自らの所在をネットワークに通知した登録情報が存在しない(または無効になっている)「未登録」の状態もあります。
まとめると、ネットワークから見たスマホの状態は大きく未登録と登録済みに分かれ、登録済みのスマホはさらに、接続状態(通信中)とアイドル状態(待受け中)に分類できます。
2G/3Gでの位置登録とページング
少し歴史を振り返って、2Gや3Gにおける位置登録やページングの仕組みを見てみましょう。ここで、2Gは世界的に普及したGSMとその進化版、3GはNTTドコモやソフトバンクが導入したWCDMAを想定します。
GSMは1990年代初頭に商用サービスが始まり、当初は主に音声通話を中心に提供されました。その後、SMS(Short Message Service)や音声通話と同じ回線交換の仕組みを利用したデータ通信も提供されました。回線交換というのは、通信をする機器・装置間に一定容量の回線を一時的に設定して行う通信形態です。
その後、2Gには現在のデータ通信の主流であるパケット交換を利用したデータ通信であるGPRS(General Packet Radio Service)が追加されました。パケット交換というのは、データを一定量ごとのパケットに分割し、宛先情報などを付加して送受信する方式です。
GPRSは、更により高速通信を可能とするEDGE(Enhanced Data rates for GSM Evolution)へ拡張されました。
一方、WCDMAは2000年代初頭に商用サービスが始まり、GSMとGPRSの進化形として回線交換ベースの音声通話とパケット交換ベースのデータ通信の双方を提供しています。
これら2G/3Gでは、ネットワーク構成の観点から回線交換ベースの音声通話とパケット交換ベースのデータ通信は異なる仕組みで実現されるため、位置登録とページングの地理的エリアの管理単位も音声系とデータ系で分けて規定されています。
音声通話では、ページングエリアはロケーションエリア(LA:Location Area)と呼ばれ、これがスマホ位置管理の単位となっています。
一方、データ通信では、ページングエリアはルーティングエリア(RA:Routing Area)と呼ばれ、これがデータ通信におけるスマホ位置管理の単位となっています。一般に、RAはLAに紐づけて設定され、複数のRAが1つのLAの中に配置されることが多くなっています。
なお、初期の2Gではスマホは存在しませんでしたが、本文では便宜上携帯端末のことを「スマホ」と呼びます。
このRAがLAに比べて狭くなる背景には、音声着信に比べて、データはメール、さまざまな通知、バックグラウンド通信などによるページングが発生しやすいという事情があります。このためページングエリアを小さくし、多少位置登録の頻度が多くなっても、ページング信号の量を減らして全体としての信号量を適度に抑えることが重要です。
逆に音声通話側のページングエリアは、位置登録の集中による混雑や着信への影響を避ける観点から、その頻度が過度に増えないよう、比較的大きめに設計されることが多いです。イメージとしては、LAが県単位、RAが県の中の市や町村単位という関係に近い、と捉えると分かりやすいでしょう。
位置登録については基本、LAとRAでそれぞれ独立に行われますが、両方の境界が同じ場合にスマホがその境界を越えて移動するときには、これらを統合して一つの手続きで実現することもできます。
なお、NTTドコモが3月でWCDMAを停波する予定であり、4月以降は日本での3Gサービスはなくなります。
3Gの無線ネットワーク内ページングエリア
端末在圏位置の管理という意味では、3GではLAやRAに加えて、RAN内でだけで規定されたより小さいエリアを用いることがあります。
3Gでは、コアネットワークと基地局の間に無線ネットワーク制御装置(RNC:Radio Network Controller)が配備され、RNCが複数の基地局をまとめて制御します。RNCは、接続中などのスマホについて、接続セルや無線状態などの情報を保持・管理します。
3Gでは、図3のようにRNCのサービスエリア内の複数セルを束ねたURA(UTRAN Registration Area)を定義し、RNCがURA単位で端末位置を把握できる仕組みがあります。
各セルは報知型のシステム情報として、所属するURA番号を定期的に送信します。スマホは受信したURA番号を見て、URAの境界をまたいで移動した場合には、RNCに対して新たなURA番号を登録(URA更新)します。
URAを利用する場合、スマホは完全なアイドル状態ではなく、RNCとの制御信号をいつでも送受信できる待受け状態となります。このとき、コアネットワークからのページングが発生すると、RNCはスマホが属すると認識しているURAに対してページングを行うことで、LA/RAより限定した範囲でスマホを呼び出し、効率よく通信を開始できます。
URAを利用するかどうかはネットワークの設定により選択できます。また、URAによる位置管理状態のまま一定時間以上通信が発生しない場合、RNCはスマホをアイドル状態へ移行させます。
なお、4Gや5GではRNCのような装置はなく、基地局はコアネットワークに直接つながっています。これは、RNCが持っていた各スマホへの無線チャネル割当てなどの機能が、プロセッサーの処理能力向上により基地局側で十分対応可能となったからです。
4G、5Gにおける位置登録とページング
4Gや5Gでは、2Gや3Gで音声通話サービス提供のために利用されてきた回線交換はなくなり、基本的に全ての通信はパケット交換によって実現する構成になりました。
回線交換は一定の無線資源を占有し無線利用効率が低いこと、音声通話の割合がデータ通信に比べて相対的に小さくなる中で音声専用の仕組みを別に維持するコストが大きいこと、技術の進化により音声通話も高品質でパケット交換で実現できるようになったこと、全ての通信をパケット交換で実現することによりネットワークの構成を単純化できること、などが理由です。
パケット交換のみとなったことにより、2Gや3Gのようにスマホの位置を回線交換用のLAとパケット交換用のRAのように二重に管理する必要が無くなりました。一方で、4Gや5Gでは位置管理・ページングエリアの単位として、LA/RAに代わりトラッキングエリア(TA: Tracking Area)という新たな指標が導入されました。
TAは図4に示すように複数のセルの集合体です。その意味ではLAやRAと似ていて、各セルではシステム情報として定期的にTAの識別子(TAI: TA Identity)を報知しています。スマホは受信したTAIから「現在自分が属するTA」を把握し、TAIが変われば所属TAを更新します。
スマホは現在位置のTAIを含めて位置登録を行いますが、ネットワークはそのスマホに対して複数のTAIからなるTAIリスト(以下、略してTAリスト)を返送します。TAリストには現在位置のTAIを含む複数のTAIが含まれ、このTAリストがスマホに割当てられた登録エリアを表します。
スマホが移動しても、このTAリストに含まれるTAの中であれば移動に伴う位置登録は行いません。逆に、TAリストに含まれていないTAに移動した際には位置登録を行います。4Gや5Gでも、以前に位置登録を行ってから一定時間経った場合、TAリストに含まれるTAの中にまだ在圏していても定期的位置登録は行います。
スマホへのページングは、基本スマホの在圏する可能性のあるTAリスト(登録エリア)が示す全てのTAに対して行われます。ただ、まずは在圏する可能性の高いTA(例:位置登録を行ったときのTA)のみにページングを行い、応答がない場合に対象範囲を広げる段階的ページングを行うこともあります。
登録エリア(TAリスト)の設定
TAリストは必ずしも固定的に設定する必要はなく、時間帯やエリアの混雑状況、スマホの移動特性などに応じて変更したり、スマホごとに異なる割り当てをすることも可能です。
たとえば、よく移動するスマホには広めのTAリストを割り当て、あまり移動しない端末には狭めのTAリストを割り当てることで、位置登録とページングに伴う制御信号の総量を抑え、無線リソースをより効率よく利用できます。
また、人や車両の往来が激しく、スマホが頻繁に行き来するTA同士を同一のTAリストに含めることで、エリア境界を跨ぐたびに発生する位置登録の大量発生を抑えることができます。たとえば、図4にも示していますが、鉄道沿線に連なる複数のTAを同一のTAリストに含めれば、列車で移動するスマホが一斉に位置登録する頻度を低減できます。
一方で、TAリストが大きくなりすぎるとページング対象となるTAが増え、ページングの範囲が拡大します。その結果、ページングのための無線信号が増加し、別の形で負荷が増える可能性があります。
したがって、TAリストは「位置登録の削減」と「ページング量の増加」のトレードオフを踏まえ、全体としての信号量が過大にならないよう工夫して設定する必要があります。
実際、通信事業者は位置登録信号とページング信号の総量が小さくなるよう、さまざまな工夫を行っています。たとえばNTTドコモは、量子アニーリング技術を活用した量子コンピューティング基盤により、TAリスト設定を最適化して位置登録信号とページング信号を同時に削減する手法を商用基地局へ導入しています。
5G SA(Standalone)の無線ネットワーク内エリア
3GのURAと同様に、5G RAN(5G基地局群)と5Gのコアネットワークである5GC(5G Core)からなる5G SAでも、RAN内で定義され通信設定を効率化するためのRNA(RAN-based Notification Area)というエリアの規定があります。
URAとRNAはページングを効率化するというねらいは共通していますが、URAとRNAは前提となる考え方や仕組みはかなり異なります。たとえば、URAはRNC配下の多数のセルから構成されますが、RNAは多くの場合、図4に示すように一つの基地局に属する複数セルから構成されます。
ただし、場合によってはRNAを複数基地局にまたがるエリアとして運用することも可能です。
5G SAではスマホの無線接続の状態として、接続状態とアイドル状態の間に「非アクティブ(Inactive)」という状態を規定しています。非アクティブ状態では、スマホは無線リソースを占有しない一方で、ネットワークでスマホ関連情報(一時的ID、セキュリティ関連など)を保持しており、基地局とコアネットワークの間の制御信号はいつでも送受できるという特長を持っています。
また、非アクティブ状態のスマホはRAN内で位置管理されますが、現在在圏するRNAにいる間はセル間で移動しても通知する必要はありません。
RNAを構成するセルのリストなどは、スマホが通信状態が終わって非アクティブ状態になる際に基地局から通知されます。スマホはこの情報を保持しておき、移動してセルを再選択(セル間で移動して報知情報を受信するセルを変更)した際に、そのセルが現在保持しているRNAセルリストに含まれない場合にはRNA更新を行います。このRNA更新は再選択したセルに対して行います。
非アクティブ状態のスマホについては、5GCがページング信号を送るべき基地局の情報を保持しています。ページングの際、5GCからスマホへのページング信号を受けた基地局はRNA内のセルにページングを行います。
この際、まずはその基地局の配下のセルにページングを行います。ここで、RNAが複数基地局から構成される場合には、スマホからのページング応答がない場合、RNA内の他基地局のセルにも基地局間接続を通して段階的ページングを行うこともあります。
非アクティブ状態のスマホの通信はネットワーク側からの起動だけではなく、スマホ自体からのアプリの起動などに際しても立ち上がりが非常に早くなり、効率良くサービスが提供されます。
なお、非アクティブ状態のまま長時間通信が発生しない場合、RANのタイムアウトや負荷状況によりスマホをアイドル状態へ移行させることがあります。アイドル状態では、ページングは基本的にスマホに割り当てられたTA listに対して行われます。
あとがき
位置登録やページングはモバイル通信における非常に基本的な手続きです。これにより、「モバイル」という名の通りどこにいてもネットワークからの通話の着信や通知、メッセージなどを受けることができます。本文で述べたように、位置登録とページングは2Gから5Gまで進化し改善されてきました。
モバイル通信事業者にとっては、高いサービスレベルを維持した上で位置登録とページングによる無線リソースの利用を最小化するのは大きな課題です。モバイル通信仕様の改善も進みましたが、個々の通信事業者も最適化技術などを駆使してこの課題に取り組んでいます。
今後人工知能(AI)を用い、混雑状況やユーザーの移動などネットワークや周辺の状況に応じてダイナミックに位置登録エリアを変えていくようなアプローチも期待されます。また、スマホによる人の通信だけではなくIoTやさまざまな装置、さらにはロボットなどの通信に最適化した位置管理のあり方なども考える必要がありそうです。







