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第88回:テレマティクス とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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テレマティクス(Telematics)とは
「テレマティクス」とは、通信(テレコミュニケーション=Telecomunication)と情報処理(インフォマティクス=Informatics)を組み合わせて作られた造語です。つまり、携帯電話のような通信技術とコンピューターの情報処理技術をあわせて作られた情報サービスということですが、この用語は特に移動体通信(携帯電話)とインターネットを利用した「自動車向けの次世代情報提供サービス」としてよく使われます。
日本では、国家プロジェクトとして最先端の情報通信技術を使って自動車、道路をインテリジェント化する「ITS」(Intelligent Transport Systems=高度道路交通システム)が研究されていますが、この一環として「車載装置に通信と情報処理を持ち込み、ドライバーにサービスとサポートを提供するシステム」がこのテレマティクスだと言っていいでしょう。
また、日本でのITSと同様の自動車IT化プロジェクトが、欧州ではかつて「TELEMATICS」として進められていた経緯もあって、このような利用方法を目指して自動車に搭載される高度な情報機器を「テレマティクス」と呼ぶこともあるようです。
カーナビとテレマティクスの違い
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2002年1月から慶応義塾大学SFC研究所とトヨタ自動車、デンソー、NECが行なったITS実証実験のシステム構成イメージ
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これまで、自動車に搭載されていた情報機器としては「カーナビゲーションシステム」が挙げられますが、カーナビゲーションシステムとテレマティクスシステムの違いは、扱っている情報の豊富さや双方向性、それによる応用範囲の広さや利便性という点になるでしょう。
具体的にいうと、カーナビゲーションシステムで利用できるデータは、CD-ROMやDVDディスクの中に入っている道路地図の情報や、GPS衛星からの電波を利用して測定した自分の位置情報、ジャイロセンサーから得る情報による自分の走行距離、それからVICS(道路交通情報通信システム)からFM放送などを利用して道路状況を知るといった程度です。
つまり、一般的にカーナビゲーションシステムでは、必要な情報がすべて車の中にあるか、あるいは「放送」として流れているものを読み取るだけで、その利用方法は車内の中で完結しており、外とのかかわりはほとんどないものでした。
しかし、カーテレマティクスで利用する情報は、流れてくる「放送」ではなく、どちらからもやりとりできる「通信」です。携帯電話などのワイヤレス機器を利用し、位置に連動した情報を外部から取得したり、自動車の各種情報を外部に送信してサービスを提供します。
テレマティクスの応用範囲は広く、さまざまな利用方法が考えられているのですが、例えば経済産業省 支援の「インターネットITS共同研究グループ」が、2002年1~3月頃にかけて行なった実証実験では、慶応義塾大学SFC研究所とトヨタ自動車、デンソー、NECが参加して、70台の自動車とガソリンスタンドなどに携帯電話で通信ができるテレマティクス端末がセットされ、「車が給油スタンド内に入ると、無線通信でスタンドが提供する洗車などのサービス内容を車内画面で見られる」「支払いはテレマティクスシステム内のICカードを使った電子マネーを使い、車内で操作するだけで決済できる」というようなことが行なわれたようです。
これは、通信によってテレマティクスシステムが「このサービスを利用する」「この電子マネーで支払う」というような情報をスタンドとやり取りしないとできない応用であり、従来のカーナビゲーションシステムでは実現できないものであることがわかるでしょう。そのようなわけで、テレマティクスはカーナビゲーションシステムに代わる新たな車載機器として将来大きな需要が見込まれており、自動車業界のみならず携帯電話に携わる業界でも注目されています。
例えば、NTTドコモと日産自動車では、今年の2月にテレマティクスサービスの提供に向けた共同検討を発表しています。両社では今後、FOMAなどの3Gサービスを活用した車載機器および情報通信プラットフォームなどの開発をはじめ、自動車への情報提供サービスや日本国内でのビジネス展開、その普及促進策などを検討し、安全・快適なカーライフの提供を目指したテレマティクスサービスを展開していくとしています。具体的には、「ネットワークナビゲーションサービス」「位置連動型音声・データ融合サービス」といったサービスの検討が、2003年頃の実用化に向けて進められるようです。
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テレマティクスサービスの提供で共同検討を発表し、握手を交わすNTTドコモの立川敬二社長(左)と日産自動車のカルロス・ゴーン社長(右)
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既に一部が実用化されつつあるテレマティクス
このテレマティクスに関しては、一部を利用した自動車用搭載機器の販売がすでに開始され、実際に利用することも可能になっています。今年3月から販売が開始された日産自動車の新型「マーチ」の一部モデルでは、5万円程度でオプションの車載機器としてカーテレマティクスシステム「CARWINGS」を設定できるようになっています。
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オプションでカーテレマティクスシステム(CARWINGS)を搭載できる、日産自動車の新型「マーチ」
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「マーチ」の車内。サイドブレーキ脇に携帯電話を接続する
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この「CARWINGS」では、通信用の機器としてPDCあるいはcdmaOne携帯電話を接続して、ハンズフリー通話や簡易カーナビゲーションが利用できるほか、ネットワークから情報を取り込んで電子メールを送受信したり、「Auto DJ」による天気予報やイベント情報、交通情報などのコンテンツ閲覧、車内センサーから得た情報より燃費の計算などが行なえます。なお、「Auto DJ」での天気予報や交通情報は、GPSで測位された自動車の現在位置情報を利用して、車の現在地に最適な情報を引き出しています。
また、車からの情報発信ということでは、同じようにGPSによる測位情報を利用し、自動車の現在地周辺の地図画像URLを携帯電話やパソコンに送信できる機能(ここです車メール)なども利用可能ですので、情報が自動車からも発信でき、他との係わり合いを持つことができる「カーテレマティクス」ならではの応用であると言えるでしょう。
・ 「マーチ」製品情報(日産自動車)
http://www.nissan.co.jp/MARCH/index.html
・ 「CARWINGS」ホームページ(日産自動車)
http://www.nissan-carwings.com/
・ インターネットITSプロジェクト、IPv6を用いた車両2000台規模の実証実験
・ ドコモと日産、テレマティクスサービスの提供に向けて共同検討
・ 日産、テレマティクス搭載のマーチを発表
(大和 哲)
2002/04/16 13:26
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