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日本では、FOMAなどの3G端末にSIM(USIM)カードが利用されている
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現在、日本国内において、NTTドコモのFOMAやボーダフォンの3G、auの一部機種でSIM(USIM)カードを使った携帯電話が提供されています。これらの携帯電話のSIMスロット、カード自体は同じ規格が採用されています。
しかし、それぞれの携帯電話に違うカードを挿しても使うことはできません。たとえば、ボーダフォンの3G端末に、FOMAのSIMカード(FOMAカード)を挿入しても、携帯電話側はFOMAカードを「正しくないカード」として認識し、使うことができません。
このように、携帯電話が特定のSIMカードのみ使える、あるいは使えない状態になっていることを「SIMロックされている」と言います。逆にSIMロックがかかっておらず、どこの携帯電話会社のSIMカードでも利用できる携帯電話については「SIMロックフリー」などと言うこともあります。
SIMロックフリーの携帯電話は、通信方式や周波数に対応していれば、どの事業者のSIMを挿入しても利用できます。たとえば、日本国内では、ノキアが「Nokia 6630 スタンダードバージョン」としてノキアショップなどでSIMロックフリーの携帯電話を販売しています。
同じハードウェアとなる携帯電話のボーダフォン版は「702NK」として販売されていますが、こちらはボーダフォンのSIMカードしか利用できません。携帯電話をボーダフォンでしか使わない場合はボーダフォンから702NKを、国内でボーダフォンとFOMAのSIMを入れ替え差し替えで使ったり、あるいは国外に携帯電話を持っていったときには現地の回線事業者のSIMを使いたい、という場合には、ノキアからスタンダードバージョンを購入すればいいことになるわけです。
■ 回線からの利益を、端末の価格に補填するのでケータイが安い日本
ユーザーにとって、SIMロック、SIMロックフリーの携帯電話の購入にはそれぞれ、メリット、デメリットがあります。
ユーザーにとってSIMロックが施された携帯電話を購入するメリットは、価格です。一般に、SIMロックされた携帯電話は安く販売されており、SIMロックフリーの携帯電話は高い価格で販売されています。先述した「Nokia 6630 スタンダードバージョン」の場合、ノキアの直販サイトでは48,090円で販売されています。一方、ボーダフォンの場合、702NKは販売が終わっていますが、後継機種にあたる702NKIIの価格は、本誌調査によると新規契約で13,440円となっています。
この価格差は、携帯電話の事業者が、端末の販売価格にある程度の金額を補填しているために起こります。携帯電話事業者にとっては、ユーザーがその会社の回線を使うことで、安定かつ継続的な利用料収入が見込めます。そこで事業者は、自社ブランドの携帯電話を販売する際、“得られると期待できる金額”を端末価格に補填することで、安く販売しているのです。
日本国内では、このビジネスモデルが非常に強く確立されており、ほとんどの携帯電話がこの「事業者から安く端末を販売する」方式で売られています。海外でも同様の形で端末販売が行なわれています。
しかし、金銭的な面で考えると、たとえば海外で頻繁に利用する場合などはSIMロック端末は、ユーザーにとっては非常に厳しい状況になることもあります。というのも、国内事業者の回線を利用すると、海外では、国際ローミングで通話することになるからです。もし現地事業者の回線契約で通話やメールができれば、国際ローミングよりも非常に安く済むわけです。そのため、頻繁に海外に行く人などは、あえて高価なSIMロックフリーの携帯電話を購入することがあるのです。
SIMロック付き、SIMロックフリーの携帯電話が両方売られている、という状況は、日本国内だけでなく、海外でも多くあります。むしろ、日本よりもSIMロックフリーの携帯電話が一般的に売られている国のほうが多くあります。
総務省の資料によれば、欧州の場合、EUとしてSIMロックに関する規制はないものの、フランスやデンマークでは6カ月、イタリアでは18カ月経過するとSIMロックを解除するよう義務づけている国もあります。フィンランドでは、GSM方式の携帯電話に関して回線業者が携帯電話端末の価格に内部補填を行なうことを禁じていて価格的にあまり差がでないため、メーカーブランドのSIMロックフリー端末が一般的に売られています。ただし3Gに関しては、最長2年間の販売奨励金とSIMロックを認めています。
■ SIMロックの仕組み
携帯電話事業者は、自前で携帯電話を作るわけではないので、SIMロックの携帯電話の製造をメーカーに依頼します。海外では特に多いパターンですが、メーカーは、ある事業者専用に端末を開発すると開発費用が高くつきすぎるために、メーカーブランドの携帯電話をベースにして、SIMロック機能搭載版の機種を開発することで、設定によって、SIMロック付き、あるいはSIMロックフリーを切り替えられるようにします。そして、SIMロック付きの携帯電話を回線事業者に卸し、SIMロックフリーの携帯電話を自社製品として販売するのです。
そのため、機種によっては、この「SIMロックとSIMロックフリーを切り替える方法が解析されてしまう場合」があり、国によっては、この情報を入手して携帯電話のSIMロックを解除してしまう業者が存在します。
ただし、この作業の適法性ですが、国によっては、規制がないためこの切り替えを行なうことが違法でない国、あるいはある一定の規制のうえで適法となっている国もあり、業者が問題なく営業している場合もありますが、国によっては法律で規制されている国もあります。
先述したフランスでは、SIMロックは6カ月間有効であり、ロックを解除する場合はこの期間を経たうえで解除しなければなりません。あるいは、イギリスでは、SIMロック自体に関する規制はありませんが、IMEI(携帯電話の端末識別番号)情報などを含む電話機内部のファームウェアの書き換えを法律で禁止しており、これで多くの機種のSIMロック解除を阻んでいます。
日本では、先日、ボーダフォン端末のSIMロックを解除する作業を行ない、その端末を販売していた業者が、商標法や不正競争防止法違反などの疑いで、警視庁によって逮捕されています。
この例では、携帯電話事業者から販売される携帯電話が、SIMロックフリー化され販売されると、端末の販売価格の差額が回線事業者の損失となるために、ボーダフォンが警察に訴え、今回の逮捕となったということです。
なお、国内での携帯電話のSIMロックに関しては、SIMロックフリー携帯電話の選択肢が非常に少なく、競争を阻害しているという意見もあり、SIMロックフリー端末に関して一定のルールを設けようという話もありました。
たとえば、総務省が開催している「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」が7月に公表した報告書案などでは、市場活性化のためには、現行ビジネスモデルを見直し、SIMロックの解除についても早急に検討を開始すべきである、とされています。
■ URL
総務省 報告書案第6章(PDF形式)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060719_2_3_6.pdf
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・ 警視庁、SIMロック解除のボーダフォン端末販売業者を逮捕
(大和 哲)
2006/08/30 12:19
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