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第125回:SAR値 とは
大和 哲 大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


携帯電話とSAR値

 2002年6月から、日本国内では総務省令で携帯電話などの機器に対して「局所SARが2W/kgの許容値を超えないこと」が義務付けられました。省令とは、各省大臣が命令した法律の実施のために必要な規則などのことです。言わば、同省令は法律によって守らなくてはならない義務になった、ということになります。

 各携帯電話事業者は、それに伴い販売している携帯電話各機種のSAR値をWebサイト上で公開しています。


各サイトで最近の機種について数値を調べてみると、たとえば、

NTTドコモ N504iS(PDC) 0.615W/kg
N2051(FOMA) 0.578W/kg
au A5303H(CDMA2000) 0.337W/kg
A5302CA(CDMA2000) 0.538W/kg
J-フォン J-SH52(PDC) 0.700W/kg
J-VN701(UMTS) 0.230W/kg


というようになります。


SARとは

 「SAR」とは、「比吸収率(Specific Absorption Rate)」の略で、単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量のことです。この値から、人体がある電波を発する機械から、一定の時間でどのくらいのエネルギーを受けるのかがわかります。

 各携帯電話事業者が発表しているSAR値は、財団法人テレコムエンジニアリングセンター(TELEC)という団体が計測した測定値です。松戸にある同団体の試験所では、人と同じ形、同じ水分を持った「ファントム」という模型と、携帯電話の測定用スタンド、それにSAR電界プローブから構成されるSAR測定システムが用意されており、出力を最大にした携帯電話の実機を使用してSAR値を計測しています。

 ただし、実際に私たちが携帯電話を使用しても、発表された数値通りに電波のエネルギーを受けてしまうわけではありません。というのも、PDC方式にしてもCDMA方式にしても、実験では最大出力という特定の条件下で測定しているものだからです。

 たとえば、CDMA方式を採用しているCDMA2000などでは通信状況により出力を非常に細かく制御していますし、また、携帯電話のアンテナを伸ばすかどうかだけでもどれだけ電波が人体に吸収されるかが違ってしまうからです。一般に携帯電話で通話をするさいにアンテナを伸ばすだけでSAR値は数分の1になる、という報告もあるそうです。


携帯電話の電波と人体

 さて、携帯電話から発信された電波は人体に吸収されると、なにか悪影響を及ぼすのでしょうか。世間では、携帯電話が、頭という人体でも最も重要な部分に近い場所で使われるものであるため、特に脳などに悪影響をおよぼすのではないかと心配する人もいます。

 人の体に電波を当てると、その部分が電波のエネルギーを受け、その分だけ温度が上昇します。この生体作用を「熱作用」と呼んでいます。

 世界保健機関(WHO)が2000年に発行した「Mobile Telephones and Their Base Stations」(携帯電話と基地局)という報告では「携帯電話で使われている周波数の電波の場合、健康被害の原因は全てが熱作用によるものだと推測される。ガイドラインで示された値以下では、現在まで、熱作用が健康への悪影響を示した研究はない」とされています。

 ちなみに、「局所SARが2W/kgの許容値を超えない」という総務省令の基準にもなっている“2W/kg”という値はWHOと協力関係にある国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が示した国際的なガイドラインと同じ値です。

 なお、電波には、熱作用以外にも人体に対して作用があるとする指摘や意見もあり、これが「非熱作用」と呼ばれる場合もあります。「非熱作用」としては、脳腫瘍などのがんの誘発や促進、遺伝子への影響があるのではないか、としている人もいます。ただし、WHOの報告では、「動物実験では、電波が脳腫瘍の原因や促進を促すという科学的なデータは今のところない」としています。

 現在も、WHOやその関係機関、また国内では、総務省や各関係部署などが熱作用、非熱作用両方から、現在でも、実際に電波が生き物の体に及ぼす影響について研究やその結果の検討を重ねています。

 たとえば、国内では総務省が開催している「生体電磁環境研究推進委員会」がそのような研究を行なっています。同委員会は、1998年9月には、電磁波の非熱作用に焦点をあてて行なった動物実験の結果として「携帯電話の短期ばく露では脳(血液脳関門)に障害を与えず」というレポートを発表しています。

 同レポートで行なわれた実験は、ラットに対し、SARが2W/kgとなるように週に5日、1日あたり1時間ずつ、2週間及び4週間、1.439MHzの電波をあてて、脳(血液脳関門)への影響を調べ、影響がなかったという内容でした。血液脳関門は、脳内への毒性物質の侵入を防御する部位で、この働きが弱くなると発がん物質が脳内に侵入することによる脳しゅようの発生のほか、てんかん発作、けいれんなどが電波ばく露により引き起こされる可能性が生じます。

 ケータイ Watchでは、昨年11月に「総務省、携帯電話の電波は記憶能力に影響なし」というニュースが掲載されたこともありました。これも同委員会が行なった実験で、電波を脳平均SAR7.5W/kgというレベルで、ラットに1時間浴びせ、さらにそれを4週間(週55回)続け、T字型の迷路を使って記憶力のテストを行なったというものでしたが、「熱作用が生じない程度の電波であれば、記憶能力、および学習能力への影響は見られない」という結果を発表しています。


2002年11月に発表されたレポートで用いられたT字型迷路図

・ NTTドコモ 携帯電話機の比吸収率(SAR)について
  http://www.nttdocomo.co.jp/p_s/products/sar/
・ au au電話の比吸収率(SAR値)について
  http://www.au.kddi.com/phone/cdmaone/sar/index.html
・ J-フォン 携帯電話機の電波比吸収率
  http://www.j-phone.com/japanese/information/sar/
・ ツーカー 各機種のページから「携帯電話機の比吸収率(SAR)に関する情報」を選択
  http://www.tu-ka.co.jp/line_up/page.html

総務省、携帯電話の電波は記憶能力に影響なし


(大和 哲)
2003/01/28 12:54

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