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「スマホ新法の施行だけで解決しない」、未だ不合理なアプリストアの手数料体系に「CAF」が活動を開始

 Coalition for App Fairness(CAF)は、日本市場におけるアプリの流通や決済手段で、より透明性の高い競争環境の実現に向けて、活動を開始すると発表した。

 CAFは、直訳すると「アプリ販売エコシステムにおける公平性を実現するための団体」だとし、日本におけるアプリストアのエコシステムにおける公平性の実現に向け、企業やモバイル・コンテンツ・フォーラムなどの団体とともに、公正取引委員会を含めた日本の市場全体に働きかけを行うという。

 アプリストアの問題は日本だけでなく、大きな訴訟が継続している米国や欧州、ブラジルなどでも起こっており、各国でCAFの活動が進んでいる。アプリストアを巡る問題の経緯や、現在の日本市場の問題はどこにあるのだろうか。

アプリストアの10の原則

CAF スポークスパーソン兼顧問弁護士のジーン・バラス氏

 CAFのスポークスパーソン兼顧問弁護士であるジーン・バラス(Gene Burrus)氏は、CAF設立の経緯を「モバイルアプリのエコシステムに対し、2社が占有していることへの懸念」だったと話す。バラス氏は、CAFへの参画以前からマイクロソフトやSpotifyに勤めており、Spotify在籍中の2020年にCAFに理事の立場で参画していたという。

 CAFのビジョンは「アプリ開発者はすべて公正な扱いを受ける権利がある。すべての消費者は、自身のモバイルデバイスを自由にコントロールできる環境を整えること」と紹介。アプリストアには、公正な競争の場を保証し、アプリのエコシステム全体で一貫した行動基準を確立することを求めている。

 バラス氏は、過去の事例としてマイクロソフトの事例を挙げる。バラス氏は「1990年代、マイクロソフトがパソコンのインターネットアクセスを制御していた時代があった。今、モバイルの環境にもそういった状況が起きている」と指摘。アップル(Apple)とグーグル(Google)の2社が、モバイル端末のゲートウェイとなるアプリストアを制御することで、ユーザーの行動をコントロールしている状況だとした。

 アプリストアを巡っては、ブラジルやコロンビア、韓国、アジア、欧州、日本でも同様の問題が起こっており、立法に向けての働きかけが進められている。本来アプリストアでは、開発者の規模や事業形態にかかわらず、すべての開発者に公正な市場を提供し、競争する権利があるべきだとして、CAFでは「アプリストアの10の原則」とアプリストアがなすべき義務を定義している。

アプリストアの10の原則
  1. 開発者は、アプリストアヘのアクセスを得るために、アプリストアの独占的利用を義務付けられたり、アプリストア運営者の付随サービス(決済システムを含む)の利用を強制されたり、そのほかの補助的義務を受け入れることを要求されるべきではない。
  2. 開発者は、ビジネスモデル、コンテンツやサービスの提供方法、アプリストア運営者の競合の有無でプラットフォームから排除されたり差別されたりしてはならない。
  3. すべての開発者は、アプリストア運営者が自社の開発者に提供しているのと同じ相互運用性インターフェイスと技術情報に適時アクセスできるべき。
  4. アプリがセキュリティ、プライバシー、品質、コンテンツ、デジタル安全性に関する“公平で客観的かつ差別的でない基準”を満たしている限り、すべての開発者は、常にアプリストアにアクセスできるべき。
  5. 開発者のデータは、その開発者と競合するために利用されるべきではない。
  6. すべての開発者は、正当な事業目的のために自社アプリを通じてユーザーと直接コミュニケーションできる権利を常に有するべき。
  7. アプリストアの運営者とプラットフォームは、自社アプリやサービスを優遇したりユーザーの選択設定やデフォルト設定に干渉してはいけない。
  8. アプリストアへのアクセス条件として、開発者に不当・不合理・差別的な収益分配を課してはいけない。また、アプリ内で販売を望まない商品を販売することを強制してはいけない。
  9. アプリストアの運営者は、自社のプラットフォームで競合するアプリストアを提供する第三者を禁止したり、開発者やユーザーが利用することを妨げてはいけない。
  10. すべてのアプリストアは、ルールやポリシー、プロモーション、マーケティングの機会について透明性を確保し、一貫性と客観性を持って適用すること。変更時は通知し、紛争解決のために迅速・簡便・公正なプロセスを提供すること。

 バラス氏は、アプリストアの現状を「強大なプラットフォーマーが、アクセスに対して制限をかけている状況で、市場での優位性を持っている」と指摘。また、アプリ内決済における最大30%の手数料も、消費者に不利益な行動だと指摘した。

米国では訴訟に発展

 アプリストアを巡って、米国ではCAFに参画している企業の1つ「Epic Games」がアップルに対して訴訟を起こしている。いくつかある訴訟のなかでバラス氏は、カリフォルニア州でのアプリ外での決済処理についてのものを取り上げる。

 アプリ外での決済については、アプリ内決済とは別の料率で手数料が定められているが、この料率が適正かどうかが裁判で争われている。アプリストア側は、アプリ内から外部のWebサイトへ誘導する際に負担があると話しており、裁判所はその負担の根拠を提示するように求めている状況だという。

 バラス氏は「実際にコストがかかっている部分の負担は認められるが、それ以外の(上乗せされている)部分は、手数料として認められないだろう」と自身の見解を示した。このように、アプリ開発者に対して、実質的に自社以外の決済をできないようにしている(いわゆるアンチ・ステアリング条項に近い)行動は、欧州のデジタル市場法(DMA)でも違反している判断を受けており、この裁判の結果は「日本でも非常に大きな動きを起こす内容になる」と指摘した。

日本でも「スマホ新法違反」と思われる条項が残る

 モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)専務理事の岸原孝昌氏は、スマホ新法の施行を機に更新されたアプリストアの規約の中にも、アプリストア運営者の優越とも思える規約が存在すると話す。MCFでは、8団体とともにアップルとグーグルの新規約に対して共同声明として意見表明している。

 たとえば、先述のアプリ外決済について、関連のWebサイトへの利用や代替決済手段の利用については、公正な競争環境を実現するためには無償であるべきだが、新しい規約では“根拠が明らかでない手数料”が課されていると指摘する。

 また、アプリからリンクアウト(外部のWebサイトに移動)した先で7日間、または24時間のすべての取引内容をアプリストアに報告させて手数料を課すようになっている。たとえば、アプリ内の広告で1つのアイテムを買うためにリンクを踏み、その数日後にアプリを経由することなく複数個のアイテムを購入しても、アプリストア事業者には、そのすべての購入履歴を報告し、手数料を支払わなければならない。

 岸原氏は「常識的に受け入れ困難な取引条件を優越的な地位を利用して強制している」とし、スマホ新法の条項に違反しているとコメントする。また、リンクアウトについては「アプリストア運営者の費用と労力ですべてまかなっているということになっているが、考えられないような条件を付けて、関連サイトや代替決済が選択肢として選ばれない状況になっている」と話す。

 一方で、アップルでは、ユーザーのWeb閲覧履歴など許可なく追跡されないようにする機能「App Tracking Transparency」(ATT)を用意している。岸原氏は「一方ではユーザーデータを守るとしながら、同じ事業者がユーザーの行動を7日間追跡して報告しろ、というのは、自社利益を優先したダブルスタンダードなのではないか?」と説明する。

 また、アプリ事業者は関連Webページでの決済で、 アプリストア運営者が指定する決済手段を同時に提供しなければならないとしている。岸原氏は「今までアプリ内の決済手段を利用している場合は便利だと思うが、その必要がないのに決済手段まで強制される状況になっている」と話す。

 この決済手段の指定については、アプリでの決済にとどまらず、広い範囲で影響があると指摘する。たとえば、書籍や店舗での購入キャンペーンなどでアプリ内のアイテムを配布する場合、規約上はこの書籍や店頭での商品購入時の決済にも、アプリストアの決済方法を用意しなければならなくなる。関連Webサイトや特典としてアイテムを配布する際は、アプリ内課金でも購入可能なようにしなければならない条件もあり「形骸化しているという意見もある」としたものの、このようなキャンペーンが打てなくなると岸原氏は指摘した。

バラス氏「多くの日本企業にもCAFの活動に参加して欲しい」

 アプリストアに関するさまざまな問題にあたってバラス氏は「アプリストアからの報復を認めないように働きかけている」とコメントする。プラットフォーマー以外のアプリストアへの乗り換えには、「アプリ開発者で足並みを揃えておきたいという思いと、アプリストア運営者への恐れがあるのではないか」と自身の考えを示した。

 CAFには、理事会を構成しているBasecamp、Epic Games、Spotifyの3社以外にも多くの企業が参加している。日本の企業も参加しているが、社名を明かさない条件で参画している企業もあるという。日本での本格展開にあたり、日本企業にも広く参加して欲しいとバラス氏は呼びかける。