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「プラチナバンド」再割当てで楽天モバイルと割れる3社、技術検証の結果を公開
2022年10月21日 22:25
総務省は21日、携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース(第14回)を開催した。
700MHz~900MHz帯のいわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯を利用したい楽天モバイルは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに割り当てられているプラチナバンドの一部の自社への再割当てを希望している。
再割当てをめぐっては、楽天モバイルと3社との間で意見が割れており今回、楽天モバイルの求めに応じて、他社の影響を軽減して通信品質を保つ「フィルター」の効果を各社が検証。その結果が説明された。
割れる4社の主張
楽天モバイルが4G LTEで割り当てられているのは、1.7GHz帯のみ。周波数の低い電波は大容量のデータのやりとりが難しい反面、障害物を避けてより遠くまで届きやすいという特性がある。
プラチナバンドを獲得し、エリアの構築を進めたい楽天モバイルは「フィルター」は不要と主張する。
電波におけるフィルターとは、他社の電波の影響を低減し通信品質を保つための仕組みのこと。隣接する帯域を使用する他社の端末からの干渉電波をふせぐことで、自社のユーザーに対してサービス品質を保証できる。
フィルターには、ソフトウェア的に電波を整流するものと物理的に設置されるものがあり、楽天モバイルでは物理的に設置されるフィルターについてその必要性はないと主張。もし、楽天モバイルへの再割当て時にフィルターを設置するのであれば、その費用はドコモやKDDI、ソフトバンクが負担するべきとしている。
これに対して、ドコモでは「縮退する帯域を使う事業者が新事業者への再割り当て時の費用を負担することは妥当ではない」、KDDIではフィルターについて「電波法第56条」に準じたもので、混信などが起きるのであれば新規事業者が対処するべきと主張。ソフトバンクも「周波数分割時のフィルターやレピーター設置など、特別な対応は新規事業者が負担すべき。フィルターは既存事業者のサービス維持に必要な特別な対応で新規事業者が負担すべき」と3社同様に楽天モバイルがフィルター設置費用を負担すべきと意見が割れている。
フィルター設置には各社500~600億円必要
3社が主張するフィルター設置費用は、ドコモとソフトバンクが約500億円。KDDIで約620億円という。このほか、レピーターの交換や縮退した帯域分を補完する基地局増設費用などで各社でさらに約250億円~約650億円ほどの費用が発生すると見積もっている。
費用のほか、フィルター設置にかかる期間もまた問題となる。3社ではフィルターの開発から工事の完了までに8年~10年は必要と主張。作業が必要な局数は約6万局~7万局強で、年間1万局前後の作業件数を見積もっている。
楽天モバイルは過去の会合で、フィルター設置は不要で、レピーターの交換は1年で可能とも主張しており、こちらでも対立するかたちとなっている。
フィルターの効果
そうした楽天モバイルの主張に対して、各社ではフィルターを設置した場合としなかった場合のユーザーへの影響を検証し、結果を公開した。各社ともセル全体とセルエッジでの評価をしており、条件などは各社で異なる。
NTTドコモが最初に検証結果を公開。セル全体でのデータ通信を見ると、希望波と妨害波の電力比が同じかつフィルターがない場合、妨害波電力が-41dBm以上になるとスループットが低下するという。一方でフィルターがある場合はスループットは低下しなかったとしている。
音声通話でも同様に、妨害波電力が-40dBmとした場合、フィルターなしでの音声通話にはフィルターありと比較して7dB高い品質が必要で、妨害波電力がそれ以上の場合、全端末で音声通話ができなくなるものの、フィルターがある場合は音声通話が可能だったとしている。
一方、セルエッジでは妨害波電力が-60dBmを超えるとフィルターの有無にかかわらずスループットは低下した。端末がセルエッジにあり、希望波電力が受信感度点になる場合、妨害波の不要発射の影響が大きく、フィルターの効果はないという。BLER(ブロックエラー率)が20%の場合、受信感度劣化が3dB以下ではフィルターの効果がなく、その割合は約6%。約94%の端末はフィルター効果が得られるとしている。
KDDIでも同様に、一定の条件のもと800MHz帯を用いてセル全体からセルエッジまでのフィルター有無の影響を調査。セル全体では、フィルターの効果により妨害波への耐性が2.5~3dB向上。ユーザー全体の影響としては最大で1800万人の通信品質に影響すると見込む。
セルエッジでは、同じくフィルターの効果で妨害波の耐性が2dB向上したとして、この場合でもユーザーの最大690万人に影響するとして、フィルターの必要性を訴えた。
ソフトバンクが900MHz帯で実施した検証でも、測定の詳細は有識者にのみ公開されたもののやはり、フィルターなしの場合にスループットが低下したとして、フィルターの効果はあると主張している。
セル全体では93.8%にあたるおよそ4600万台、セルエッジでは24%の約1200万台に影響があるとの見通しを示し「ネットワーク品質維持には、フィルターが必要」と訴えた。
構成員からは
会合に出席していた、楽天モバイル 代表取締役社長の矢澤俊介氏は各社の調査結果に対して「我々からのリクエストで実証実験をしていただき、まことにありがとうございました」としたうえで「-40dBm」という値に対して「実際にユーザーの体感値で出るのか」と疑問視。
ドコモが提示した「基地局から70m」という条件は、自身もよくその条件で測定することもあるとして「よければここ(総務省合同庁舎)にもアンテナがあるので、見せてもいい。-40dBmはセルの前に立ってやったら出るかもしれないが、日常生活では出ないのではないか」とコメント。今回の実証の前提は結果をミスリードさせるものではないかと指摘する場面があった。
その上で3社から5MHzずつ帯域を割譲してほしいという同社の要求は、3社のユーザーへの影響も考えてのことで「これでもだめというのであれば、1~2社に(再割当てを)ロックオンするしかないのかなと思う」とした。
これについて、構成員のNICT ワイヤレスシステム研究室 室長の松村武氏は「ドコモは評価基準をしっかり出している。その条件でありうるということを実データを用いて言っているのであって総務省の部屋の中で(スループットが)出ないという主張をされても話が違う」と指摘した。
また、大阪大学 三瓶政一教授は「障害が起きるシチュエーションを体感するのは時間率」と指摘。各社の調査は端末の場所を中心にフィルター有無の影響を検証しているが、昨今の通信障害の報じられ方を見ても「〇〇時間、通信が遮断された」というように、影響を受けた時間を軸に考えられることが多いことを指摘。場所と時間の問題を混在させて議論するのではなく、2つを整理して考えるべきではないかと主張した。
このほか、会合では有識者らによる技術的な面を確認する場面が多くを占めた。