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楽天モバイルが求めるプラチナバンド、携帯3社はどう反論したのか

 総務省は30日、「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース(第10回)」を実施した。議論の中では、プラチナバンドの再割り当てを求める楽天モバイルとNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクがそれぞれの意見を述べた。

 議論の場では、楽天モバイルが同社へプラチナバンドと呼ばれる帯域のうち、800MHz・900MHz帯の一部を割り当てるよう求めたほか、1年以内のプラチナバンド利用開始を求めるなどの主張があった。

割譲までに10年かかる根拠

 楽天モバイルは、再割り当てに要する期間が各社5年~10年ほどと主張したことに対して「なぜ10年もかかるのか疑問」とし、1年以内の利用開始を主張している。

楽天モバイルの主張

 これに対して、各社では周波数帯域が減ることによる携帯電話利用者の利便性が損なわれることを懸念。基地局や中継局に対して、相応の対応をするための適切な移行期間や費用が設けられるべきとした。

上=NTTドコモ提示 下=KDDI提示

 10年という数字の根拠として各社が挙げているもののひとつが「レピーター」と呼ばれる中継装置の交換作業となる。再割当てにより帯域が減少した場合、中継局を交換しなければ、他社の中継局で楽天モバイルの電波を中継してしまう。他社の電波を中継する行為は電波法に反する。

 さらにドコモでは、他社電波が高い電力で中継局に入力されると、装置のフェイルセーフ機能によりシャットダウンする場合もあると指摘。このため、各社では個人宅やオフィスに設置されているレピーター、屋内外に設置されるブースターを再割り当て後の帯域のみ中継する仕様のものに交換を迫られる。

 加えて「フィルター」の交換も同様に必要とされる。フィルターは、他社の電波自社の電波との間で干渉が起きないように施される装置で、通信品質の向上に役立てられている。再割り当て後には、各社の帯域が狭まるため、現時点で施されているフィルターでは効果がなくなってしまう。

 ドコモが提示した資料によると、フィルターがかけられた帯域内に他社の電波が干渉すると、9割超の基地局において3%超のユーザーが通信できなくなるおそれがあり、800MHz帯を利用する端末のうち、約2割に影響を及ぼす可能性があるとされた。

各社数百億~1000億円単位のコストに

 ドコモでは中継局交換にかかる費用を150億円、フィルター挿入で500億円、KDDIではそれぞれ257億円、650億円、ソフトバンクではフィルター挿入と中継局交換を合わせて550億円と見積もっている。

左から、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク

 さらに、帯域が減ることにより通信容量が低下し速度低下や同時接続可能なユーザー数の減少を招き、つながりづらくなることが懸念される。ソフトバンクからは公開されなかったが、ドコモとKDDIではこれらの容量増強に係る費用をそれぞれ500億円と150億円と見積もっている。

誰が費用を負担するのか

 楽天モバイルの主張の上では、今回の帯域割譲は「終了促進措置」ではないことから、既存免許人であるドコモ、KDDIが移行費用を負担すべきとしている。

 楽天モバイル 代表取締役社長の矢澤俊介氏は、各社が「すでに大きな利益を挙げている。この状況で赤字の楽天モバイルに対して費用負担を求めるのは制度的にも全くおかしな話。1ミリも納得できない」ともコメントした。

 しかし、一方で3社の見解は基本的に、新免許人となる楽天モバイルが負担すべき費用である旨が主張されている。ドコモでは「狭くなった(縮退した)帯域を使ってサービスを提供し続ける既存事業者が、再割当てに係る費用を負担することは妥当ではない」、KDDIでも「開設指針が策定され、既存免許人が利用中の周波数を新規免許人が利用する場合は、移行費用を新規免許人が負担することが適当」とした。

 ソフトバンクも「周波数利用停止を前倒しする場合、従来の終了促進措置と同様に原則新規事業者負担」としつつ「新旧事業者間での交渉の範囲に属する」とも付け加えている。

 費用と合わせて、工事のリソース確保もまた課題のひとつとして挙げられている。工事にはノウハウを持った工事事業者の確保や準備が必要なほか、KDDI提示の資料によれば、働き手不足などの問題からリソース増強は難しいという。こうしたことから、5Gの普及を進めていく中で並行してプラチナバンドを割譲することにより、5G設備投資の妨げにならないよう十分な移行期間を確保する必要があるともされた。

「できれば20MHz欲しい」

 会合内で行われた質疑応答では、仮に電波が有効利用されておらず、国民が不利益を被っている中、その事業者の意見を聞くかたちで移行が進められるのであれば、さらに損が増えるのではないかと構成員が指摘。

 これについてKDDIは「移行期間は今まさに決めていると思うが、移行されていないとしても電波を利用しているユーザーがいる。それを考慮して移行期間を決めればいいと考える。すべての周波数に対して一律というものでもないと考えており、電波監理審議会で最終的に決定してもらえれば」とした。

 楽天モバイルの自社回線の逼迫度から考えると、どれほどの帯域が実際に必要なのかという問に対して、楽天モバイルは「今後10年~20年を考えるとどうしても20MHzは必要。しかしほかの事業者との構成な競争環境を考えると、5MHz×3というのが他社にとってもフェアになるのではないか、できれば20MHz欲しい」とした。

楽天の主張する「1年でプラチナバンド」作業は間に合う?

 楽天モバイルからは、移行期間の案として、1年以内に区切るというアイデアが示されている。同社の想定では、1年に7000局ペースの移行となっているが、会合では「それでは1年で作業が終わりきらないのではないか」という指摘があった。

 その指摘に対し、楽天モバイルは「フィルターなしの場合を示したため」と説明。

 その上で、「今日の議論ではフィルターが必要とされている。その中で妥協点を見つける必要があり、その場合は1年に7000局ずつ使わせていただくというのが、これは妥協案。本来ならば1年以内にすべて使いたいというのが当然の主張」とした。

ドコモが唱える「プラチナバンド再割当てまで10年」の意味

 さらに、「ドコモなどでの移行期間に必要な10年というのは、全国的に見て10年ということではないか。地域ごとに整備して順次移行していくという考えは」という質問が投げかけられた。

 これにドコモは「地域ごとに、たとえば北海道からやりましょうといったことは考えられる」と回答。

その上で、「高所作業をしてもらう鳶職の方が、各社で取り合いになっている」といった現場の課題を示す。

 もし、プラチナバンドの再割当てに向けた工事を実施するのであれば、各社足並みを揃えて、鳶職のような専門的な工事スタッフの稼働状況を各社間で調整し「地域ごとにやるほうが効果的かと思う」とした。

ドコモの主張に楽天モバイル矢澤社長は「根拠を出して」

 プラチナバンドの再割当てまで10年かかるとするドコモの主張。
 これに対して、楽天モバイル 矢澤社長が「そんなに(時間が)かかるという根拠をちゃんと出していただきたい」と強く迫る。

矢澤氏
「楽天モバイルがこんなに早くできると言っているのに、なぜドコモさんがそんなにかかるのか。我々も根拠にもとづいて言っている。ドコモさんは素晴らしい会社と思うし尊敬もしているが、さすがにそれはないんじゃないか。ちゃんと(根拠となる)数字を出していただければ理解できるが、それもなく(移行期間が)9年というのはちょっと受け入れがたい」。

 仮に地域ごとに移行した場合、楽天モバイルは最終的にすべての帯域割譲が1年を超えてもかまわないと考えているのか?

 これについて、同社では「エリアを7つに分けるとしたらフェアな戦いに7年かかる。そうでなく全国で7000(局)ならここを指定しますというやり方をさせていただきたい」と楽天モバイル側がプラチナバンドをもらうエリアを指定していく考えを示す。

 工事に必要な人手については、「都道府県で1年に200局ずつくらいになる。1エリアに絞ると3社の工事が集中するので、全国にばらけたほうがいい。顧客獲得の観点や工事リソースの逼迫の観点からそのほうがいい」とした。

 プラチナバンドを楽天モバイルへ割り当てる際に、使える場所を楽天側が決め、工事の人手にかかる調整をする、といったかたちであれば、理想的な展開ではないものの、楽天へのプラチナバンド割当の時期が1年以上かかることも、容認する構えを見せた。

KDDIが主張する「通信サービスの設備、20年の運用が必要」への問い

 KDDIは、今回の会合において、システムの世代交代や運用期間の具体的な期間について、「世代交代が約10年」「運用期間が20年超」とする資料を示した。実際、これまでの3G~5Gまでは、KDDIの主張に合致するかたちで世代が交代が進んでいる。

 KDDIでは、ある世代のシステムは20年以上の安定的な運用が必要としている。一方で、改正電波法に定められる規定に沿って考えると、再割当てが認められるということは、既存免許人が電波を有効に利用できていないとみなされたことになる。

 構成員からは、希少な公共の資源である電波を有効利用できていない、社会的に不利益であるとされた事業者に対して「1システムにつき20年の運用が必要だからといって、移行期間を相当程度(今回であれば10年)認めなければならない理由はなにか」という質問があった。同社では「いただいた電波を有効利用するための投資に20年という考え。今回の再割り当ては『開設指針制定の申出があったとき』に当たると考える」とした。