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電波オークション導入のメリットとデメリット、諸外国の事例は?――総務省によるとりまとめ
2022年4月1日 13:43
総務省は、「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会」の1次取りまとめを公表した。
同検討会では、携帯電話用周波数の利用ニーズの急速な増加などを踏まえ、電波の公平かつ能率的な利用を確保するために開催された。
今回公表された1次取りまとめでは、諸外国が導入するオークション方式のメリットやデメリットおよび、デメリットとされる内容への対応策をまとめている。
携帯電話用の周波数、現在は比較審査方式で割り当て
総務省では、携帯電話や全国BWA(Broadband Wireless Access)向けの周波数割り当てについて、最低限の用件を満たしているかを確認する絶対審査に加え、希望が競合した場合には比較審査による二段階の審査を行っている。
2019年の電波法改正によって、5Gなどの開設計画の認定にあたって、従来から用いるエリア展開の大きさや、MVNOへの取り組みなどに加えて、周波数の経済的価値を踏まえて申請者が申し出る周波数の評価額を追加し、総合的に審査を行う「特定基地局開設料」が導入された。
総務省では、新たな帯域確保の目標として、当面の電波利用ニーズ拡大や多様化などを踏まえて2025年度末までに約16GHz幅を、将来的なBeyond 5Gなどの実現に向けて、2030年代には102GHz幅の新たな帯域確保を目指している。
オークションの方式と海外事例
1次取りまとめでは、オークション方式による割り当てを、入札額のみで落札者を決定する「純粋オークション」、必要とされる項目を割り当て条件として課す「条件付きオークション」、技術やサービスの審査項目を得点化や係数化した上で、入札額の得点と組み合わせて評価する「スコアリングオークション」の3つに分類している。
スコアリングオークションでは、技術やサービスの審査項目の評価を得点化や係数化し、入札額の得点と組み合わせて申請の優劣を決定する。純粋オークション方式と異なり、入札額のみで落札者を決定せず、エリア整備の計画や公正競争の促進などの優劣についても評価するため、比較審査方式とオークション方式の両方の要素を持つ割り当て方式と言える。
主要国ではオークション方式による割り当てのみを行っている国は見受けられず、多数の事業者が電波の割り当てを希望した場合には、オークション方式と比較審査方式から選択できる。
近年では、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国において、エリアカバレッジなどの政策目的を達成するために必要な項目を、電波を割り当てする際の条件として課した上で、入札額によって落札者を決める条件つきオークションが主流となっている。
オークション方式のメリット、デメリット
取りまとめでは、オークション方式による電波割り当ては、入札に参加する事業者が周波数をどれだけ有効に活用して価値を生み出せるのかについて行政側が十分な情報を持たない場合でも、より適切な事業者に周波数を割り当てできるという指摘がされた。
また、落札者は落札額を含めた投資を回収する必要があるため、電波を効率的に利用して事業を行うことが期待でき、有効利用に貢献するという意見があったという。
審査用件を緩和することで、事業者の裁量の余地を増やすことが、イノベーション促進につながるという指摘もされた。
オークション方式のデメリットと対策
反対に、オークション方式において適切に制度設計が行われない場合には、落札額が過度に高騰し、結果としてインフラ投資が遅れたり、利用者の料金が高くなったりすることや、特定の事業者が多くの周波数を獲得することで、公正な競争環境が後退することが起こりえる。
欧州の事例では、2000年のイギリスおよびドイツの3Gオークションにおいて落札額が高騰した事例がある。落札した事業者が巨額の負債を抱えたことで3G導入が大幅に遅れたが、この失敗を踏まえて、事業者やモバイルネットワークの発展を政策目標とした制度に改善されているという指摘がされた。
一方、イギリスとドイツの3Gオークションで落札額が高騰した事実と、3Gサービスの導入が遅れた事実の間には因果関係が無く、オークションを採用しなかった国や、落札額が高騰しなかった国でも、3Gサービスの導入は進まなかった事例もあることが指摘された。
特定事業者に周波数が集中した事例として、アメリカのAWS-3オークション(2015年)において、落札免許のうち全体の約7割を大手3社(AT&T、Verizon、Dish)が落札したほか、同国では3.7GHz帯オークション(2021年)においても、落札免許のうち全体の約9割を、VerizonおよびAT&Tが落札した事例がある。
こうした事例を踏まえて、諸外国では落札額の高騰や、特定事業者が周波数を集中して獲得することへの対策として、周波数割り当て時に十分な周波数枠を確保する、周波数キャップ(上限)を適用する、競り上げのラウンド制限を行うなどの対策がとられている。
ほかにも、携帯電話市場の競争環境を勘案し、新規事業者の参入を促進するための優遇措置として、周波数キャップのほかに、新規事業者のみが参加できる周波数枠を設けて入札を受付する、優遇措置や、入札の経済的な負担に配慮するために、一定の要件を満たす小規模事業者に落札額から一定額を減免する割引措置なども取り入れられている。
まとめ
今後の携帯電話用周波数の割り当ては「公共の福祉の増進」という観点から、割り当てされる周波数帯域の特定を考慮し、周波数帯ごとにオークションとの整合性を含めて、適切な割り当て方式を検討を深める必要があるとした。
具体的には、今後割り当てされる高周波数帯は、スポット的な利用ニーズにそくしてエリア展開されると考えられ、事業者の電波利用に係る創意工夫がより強く求められる点や、電波利用ニーズの予測が難しい点などを踏まえて、適切な割り当て方式について検討を深める必要があるとまとめている。