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「電波オークション」にソフトバンクと楽天モバイルが意見、導入には慎重な構え

 総務省は30日、「新たな携帯電話用周波数の割当方式に関する検討会(第3回)」を開催した。

 検討会では、通信事業者に周波数を割り当てる際にオークション方式を取り入れることについて議論された。通信事業者からはソフトバンクと楽天モバイルが出席し、それぞれの意見を述べた。

競争環境により低廉化など達成

 ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、電波オークションの導入において基本的には現行の比較審査方式を支持するとしつつも。周波数ごとの特性を加味し、エリア整備義務の有無や品質要件、免許期間などを個別に検討するのであればオークションを容認する構えを見せた。

 ソフトバンクでは、14年間で5兆円を投資。日本の通信事業者各社は世界的にも評価が高いこと、災害対策などの強化を継続的な設備投資で実現していると説明。国土の面積当たりの設備投資額は、世界の先進国と比較しても日本が圧倒的であると語る。

 これに加えて、昨今の政策により、国際的にみても低水準な料金になったことを紹介した。

電波の使い方の定義も再考を

 諸外国のオークション制度は、導入された当初に比べて落札した事業者に課される条件が多様化。

 3Gでは免許期間と周波数のみが設定されていたが、5Gでは各国ともにエリア整備義務や場合によっては品質要件を満たす必要がある。加えて免許期間もかつての10年~20年から25年超と長期化しつつあるという。

 IoTなどが普及を見せる中、機器の対応周波数を変えることは容易ではないとして、日本も免許期間を長期化する必要があるのではと宮川氏は指摘する。

 そうした海外の事例を踏まえて、宮川氏は日本で現在、電波割り当てに用いられている「比較審査方式」は特定基地局開設料を導入、エリア整備義務もあることからオークションに近いとの見方を示す。

 さらに、「電波の有効活用」の認識についても変革が必要と訴える。6GHz未満のSub6帯といわれる周波数については、これまでも行ってきたような面展開が可能で、従来の割り当て方式は適切に機能すると見通しを語る。

 一方で、ミリ波帯と呼ばれる周波数については、その伝搬特性上、これまでのような面的な展開が難しく、こうしたことも今後、再考する必要があるとした。

 帯域の用途や目的などに応じて適切かつ慎重な判断が必要という宮川氏。6GHz~ミリ波帯の間についても検討したうえでの制度設計が必要だとコメント。

明確な制度整備が必要

 これまで、コミュニケーションが中心だった電波はこれからはさまざまな産業の基盤となっていくという宮川氏。

 現状でも高額と指摘する、特定基地局開設料金がさらに高額なものとなる可能性のあるオークション方式よりも、現状の比較審査方式が最終的には国民にとって有益なのではないかと語る。

 過去に、米通信事業者DiSHが電波オークションで周波数を獲得したにも関わらず、十分に活用されなかった例を挙げ、電波が利用されないまま放置や十分なエリア整備が行われない危険性を「電波が有効活用されない最悪のシナリオ」として、危機感をあらわにした。

 一方で総務省からは、開設料は諸外国のオークションを参考に設定しており、日本が高額であるという指摘はあたらないといった趣旨の反論がなされる一幕もあった。

現行方式がイノベーションをリードした

 楽天モバイルからは、同社代表取締役社長の山田善久氏が登壇。資金的余力のある大手企業が優位に立てる電波オークションには明確に反対の立場を示した。

 山田氏は、電波法第1条の条文を引用し、「周波数の割り当ては電波法の目的実現の観点が不可欠だ」と指摘。

 現在の比較審査方式は、カバレッジや基地局数を審査項目として地方を含めたエリア整備の促進を図っていると山田氏。事業者間乗り換え円滑化などが審査項目に含まれており、エリア整備の推進や公正競争の確保、政策の実現や経済的価値の反映が図られているとした。

経済的価値のみが上がるオークションであれば反対

 山田氏もまた、ソフトバンクと同様に現在の比較審査方式は、諸外国のオークションと本質的に同じであるとの見方を示す。

 その上で、オークション方式を採用し、経済的価値(=開設料)の比重を挙げる合理性や楽天モバイルのような後発事業者が起爆剤となった値下げを実現した現行方式を取りやめるメリットが見つからないと指摘した。

 同社では、オークション方式へ移行することで、資金力の大きい、事業者への周波数の集中による携帯電話市場の再寡占化や小規模・後発事業者が不利になることで、公正競争が後退するといった弊害があるのではと懸念を示した。

 こうしたことから、純粋なオークション方式は電波法の目的実現に沿ったものではなく、前述の懸念があるかぎり、オークション方式は強く反対すると立場を明らかにした。

 一方で検討会座長からは、事業者に条件を課さない、純粋なオークション方式は議論に上がっていないといった意見があった。

5Gの使い方にも議論を

 検討会の構成員から「落札額・免許料が低いとなぜイノベーションが起きるといえるのか」と問われた宮川氏は、「携帯料金値下げでたくさんムチをいただいたが、そろそろ飴玉もほしい時期」とコメント。値下げの影響で収益が下がる中、「オークションで値段のつり上げにこだわるのではなく、これからもっと良いテクノロジーが使えるような環境を整えてもらえる『アメ』をもらえないか」と今後の展開への期待感を語る。

 宮川氏は、アメリカや韓国並みの収益があれば別だが、日本はもはやそういった国ではないとした上で、高額な開設料と設備投資の割合の問題で、決められた財源の中では設備投資に回した方が、国民の利益につながると説明した。

 年に数回ある基地局ソフトウェアの更新に1回で十数億~数十億円かかると明らかにして、そういった部分も続けていく労力の負担も高く、そうした面でも設備投資に回した方が電波の有効利用になるとした。

 また、政府がかかげる地方格差是正のひとつである「デジタル田園都市国家構想」について宮川氏は「どんな5Gインフラが求められるかの議論がないままに話が進んでいる」と懸念を示す。工業や農業へのインフラ整備はまだしも、林業などに広がっていくと、もはや民間企業ではカバーが難しいのではとした上で、5Gを誰がどう使うかといった議論が進んでほしいと語った。