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自動化で迅速な障害対応を実現、KDDIの新たなネットワーク監視の仕組み

 KDDIは、大阪府のネットワークオペレーションセンターにおいて、運用自動化機能を活用した新たなサービス監視の仕組みを導入した。

 12日、すでに同じ仕組みを導入している東京のネットワークオペレーションセンターの様子や同社の災害対策が報道陣向けに公開された。

絶え間ない監視が必要

 ネットワークの監視とは、普段ユーザーが使っている携帯電話回線に異常が発生していないかを24時間365日体制でチェックすること。万が一、回線につながらないなどトラブルが発生した際には、迅速にそれに対処することが求められる。

 これまで、ネットワークの監視業務は、エンジニアの腕によるところが大きかったと、KDDIエンジニアリング 運用保守事業本部長の上口洋典氏は説明する。

 スマートフォンの普及に伴い、携帯電話やモバイルネットワークがより一層、生活に密着したものになるなどの大きな環境変化の中、通信事業者としても運用の変革に取り組む必要があった。

 業務自動化には、エンジニアの作業内容およそ2000項目などを可視化かつ標準化する必要があった。ここから4万件ものシステム要件が整えられ、2021年度から自動化の仕組みを用いたスマートオペレーションがスタートを切った。

 東京都多摩市にある、ネットワークオペレーションセンターは、関連施設が広大な敷地面積を持つKDDIの施設内に位置する。従来、新宿に位置していたオペレーションセンターの機能を移転したかたちだ。

 多摩市が選ばれた理由としては、地震リスクが低いことに加えて海抜100m超の立地が得られたことという。非常用の発電機やUPS(無停電電源装置)なども備え、受電設備や通信ラックを完全2重化し、冗長性を確保した。

地下にある免震ゴム
地震の揺れの収束を早めるオイルダンパー(オレンジの筒状のもの)

 地震対策としては、免震ゴムやオイルダンパーによる免震装置を備える。冷たい空気を外部から取り込み、機械室で温められた空気をビル中央の空洞部分に排気、上昇気流の力で放出するといった循環型の空調設備が整備されている。

水平方向の地震の揺れを記録する「ケガキ計」
線状の傷が地震の揺れの記録
空調の一部。ここに温められた空気が排気される
施設の屋上。ヘリポートを備える

自動化で対応を迅速化

 今後の5G時代で予測されるサービスの多様化に、従来の人に頼ったネットワーク監視ではついていけなくなる可能性があったと上口氏。

 自動化によって、設備故障の発見から復旧までがワンストップで可能になるという。サービス復旧までにかかる時間は最大で40%短縮できると見込まれている。

 従来は設備の何が故障したのか、サービスに影響があるかといった調査を、熟練のエンジニアが手順に基づき実施していた。一方のスマートオペレーションでは、自動化基盤、サービス監視基盤、情報基盤と3つの層に別れたかたちで、ワンタッチで復旧、場合によっては人が介入しないゼロタッチでの対処ができるという。

 最も重要というサービス監視基盤では、さまざまな情報から異常を判断し、その結果を監視者や統制者に通知するという。実際に監視者に用意されるインターフェイスは、障害が発生した時刻やネットワークのどの部分に異常があるか、ユーザーの利用状況はどうかといった内容が表示される。

オペレーションセンター内にあるディスプレイ。左から3枚目には大阪のセンターの様子が映し出されている。そのさらに右ではツイッターなどの情報が確認できる

 統制者の画面にも、設備故障の種別やサービス影響に加えて、ツイッターの情報などが表示され、ユーザーの反応などが確認できるようになっている。

将来的には在宅で監視も

 オペレーションセンターの運用もさらなる冗長化が図られている。従来は、東京のセンターを拠点として、関東被災時には大阪のセンターがバックアップ施設として監視を請け負うかたちをとっていた。

 今回、大阪のセンターにも東京のセンターと同様の機能を有したことにより、双方のセンターで同じ環境での監視が可能になった。これにより、どちらかのセンターが被災しても途切れることなく、通常の監視体制をとれるという。

 現状では、設備の監視システムから異常の判断を行うため、監視業務従事者はセンターへ出勤しなくてはならない。高いセキュリティ対策が必要とされるものの、将来的には自宅やサテライトオフィスなど、どこででもネットワーク監視が行える体制を早期に整えたいという。

将来的には自宅などからノートパソコンでネットワーク監視業務も視野(写真はイメージ)
施設内のオフィス。フリーアドレスで奥にはスタンディングデスクも設置

重要化を増す災害対策

 携帯電話ネットワークに求められる安定性には、災害対策も欠かせない。

 特に近年では、災害の規模が拡大の一途をたどっており、局所的にネットワーク利用に支障をきたしてしまうこともある。2019年の例では、台風15号ではおよそ800の基地局が停波し9日間で4000人を投入。同じく台風19号でもおよそ600局の停波に対して6日間、6000人を投じて復旧にあたった。

 2021年は、前年までに迫るような大規模災害は発生していないものの、気候変動などの影響から激甚災害がなくなることはないだろうとKDDI エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室の尾方淳一氏は語る。

 ネットワークセンターの対策としては、同じ機能を持つ設備を複数用意して冗長化を図っている。しかし、激甚化する災害ではセンター自体が被災する可能性も考えられる。

 そこで、離れた場所に同じ機能を備えたセンターを備えることで、どちらかが被災してもどちらかが機能することを期待するという対策が取られている。もちろん、停電に備えて発電機や燃料の優先給油契約を燃料会社と結ぶといった策も同時に行っている。

基地局の損壊に備えた装備

 携帯電話基地局が機能するためには、電力供給とインターネットにつながる光ケーブルが必須となる。

 これら2つのどちらか、または両方が遮断されてしまえば、ユーザーは携帯電話サービスを利用できなくなってしまう。こうした事態に備え、基地局には少なくとも3時間、場所によっては24時間分の電力を供給できるようになっており、万が一早期復旧が見込めない場合に備えて電源車やポータブル発電機なども用意されている。

 また、光ケーブルの切断時や基地局そのものが損壊した際に備えた策としては、車載型基地局や可搬型基地局が挙げられる。

特殊車両の配備や自治体との連携も

 しかし、こうした対策もまず被災した基地局へたどり着けなければならない。

 従来、道路が破壊された地域などは徒歩で移動して停波の調査や重い機材を手で搬入していたが、KDDIでは、通常の車両が進入困難な地域での活動用にバイクや水陸両用車などの車両を導入している。

 加えて、行政との連携強化のため、自治体の災害対策本部へ同社の社員を派遣。走行可能な道路の確認や基地局へ到達するために必要な道路の復旧の要請といった活動を行っている。

 交通量が少ない道路の復旧は後回しにされる可能性があるが、山中の基地局はそうした道を往かなければたどり着けないこともある。こうした場合には、行政との連携により迅速な復旧を実現できているという。

 一方、陸路のみならず、海上保安庁との連携や同社のケーブル保守船の「オーシャンリンク」と「インフィニティ」に基地局設備を搭載したり、ドローンでのエリアカバーや電波特定による遭難者の発見などの実験が行われたりしている。