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国内初の「ヘリ基地局」で遭難者を救え――KDDIが実証実験、魚沼市の実験現場でヘリに乗ってみた

 少し大きめのカバンにノートパソコンやバッテリー、ルーターを入れ、さらにアンテナやタブレットをくくりつけた、ポータブルな基地局。

実験に用いられたヘリコプター
可搬型基地局

 その可搬型基地局をヘリコプターに乗せて、山で遭難した人の携帯電話からの信号を検知、救助隊を派遣する。そんな取り組みを近い将来、実現できるよう、新潟県魚沼市、KDDI、KDDI総合研究所、富士通が6日、実証実験を行った。今回、本誌では実験を行うヘリコプターに同乗。その様子をレポートする。

実験の流れ

 ハイキングや登山で、何かの拍子に道に迷い、下山できなくなり、遭難してしまった場合、救助する側は目撃情報や家族への連絡などを手がかりに、捜索活動をすることになる。

ヘリコプターが発進

 今回の実験では、ヘリコプターに携帯電話用の基地局を搭載。上空から電波を発射し、サービスエリア内に携帯電話があればGPSで位置情報を取得し、救助隊にその緯度経度を伝えて救出に向かってもらう。

ヘリコプターに可搬型基地局とKDDI側スタッフが乗り込み、電波を発射して遭難者を捜す

 ヘリコプター側と地上の携帯電話はテキストメッセージ(SMS)でやり取りできるが、通話はできない。

 一方、“ヘリ基地局”のサービスエリア内のユーザー同士であれば通話できるようになっており、遭難者と救助隊が電話で話し、遭難者の状態を確認して必要な装備で救助隊が出発する、といったこともできる。

 通常のヘリでの捜索では、木々を揺らして人を探すほか、登山道に沿って移動するためどうしても時間がかかる。しかしヘリ基地局であれば、面をカバーすることを意識して飛行することになり、通常の捜索よりもスピーディに捜索範囲を広げられる。さらに通話までできれば、遭難者を引き揚げる前に、本人の状態を確認し、引き揚げ用の道具を下ろして、速やかに助けられる、といった効果が期待される。

GPS情報を得るためには、暗号化されたデータを読み取るために、ユーザー(遭難者)の携帯電話番号をヘリ基地局側が把握しておく必要がある。今回は、遭難者からの家族からの申し出をもとに捜索する、といった設定での実験となっている。

独立しクローズドな「ヘリ基地局ネットワーク」

 ヘリ基地局は独立したネットワークとなり、既存の携帯電話ネットワークとは切り離された存在として運用される。そのため、もともと圏外になっている山間部、あるいは大規模災害で携帯電話ネットワークが寸断された状況での活用が期待される。

 周りの通信の環境が得られないなか、ヘリ基地局だけのサービスエリアが構築されることになる。ヘリ基地局から先は繋がらない形になり、「ヘリ基地局―そのエリア内にいる地上の携帯電話」だけというネットワークになる。

可搬型基地局と遭難者の間でのSMS
捜索中の画面

 ヘリ基地局がカバーするエリアは、通話できる環境の場合、ヘリの真下から横方向へ最長1.6kmとなる。一方、SMSや単純なデータ通信、GPS情報の取得であれば、多少途切れても問題がないため、その通信エリアは最長約2kmになる。

ボックスの上にタブレットデバイスを収納
中にあるノートパソコンが基地局装置としての役割を果たす

 ただ、遭難した人の現在地をより正しく得ようとすれば、電波は飛びすぎないほうがよいとのことで400m程度に制限することもあるという。

白い四角いパーツがアンテナ。その横にあるTORQUEは加速度センサーなどを活用する

国内初のヘリ基地局、ドローン基地局との違いは

 ヘリに基地局を載せて飛ばすことは国内で初めて。航空機で離発着時に携帯電話の利用が禁止されるように、今回の実験ではヘリコプターの計器や操縦に影響がないか、電波干渉実験を行い、安全性を確認した。

 外部には繋がらないネットワークだが、それでも電話やメールが使えること、GPSで位置がわかることも実験で確かめた。

 そしてヘリコプターを飛ばして通信可能エリアもあらためて確かめた。

 一方、山岳遭難での支援としてはドローンに基地局を搭載する手法も実験が進められているが、たとえば人が行きづらい場所、人にとって危険な場所での活動はドローンが適している。

 一方、ヘリコプターは、室内環境で運用できるため基地局設備の防水性能を簡略化できるほか、稼働時間も一般的なバッテリー駆動のドローンよりも長くなる、といったメリットがある。

 救難隊にとっては、捜索対象の遭難者本人と、落ち合う前から通話などでやり取りできることが最も大きなメリットと期待されているという。

 時期は未定だが、今回の実験を踏まえ、KDDIらは今後実用化を目指す。