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「KDDIオーシャンリンク」に潜入、船舶型基地局としても活躍するケーブル船

 KDDIは3月1日、2018年度の「KDDI災害対策公開訓練」を横浜で実施した。同訓練にあわせて、「船舶型基地局」として災害対策の役割も担う海底ケーブル敷設船「KDDIオーシャンリンク」を報道関係者向けに公開した。

“太平洋の半分”まで届くケーブル敷設船

KDDIオーシャンリンク

 KDDIオーシャンリンクは当初、光海底ケーブルの敷設と保守を行うための船として建造された。1991年8月に進水、KDDI子会社の国際ケーブル・シップ(KCS)が保有している。

 KCSはほかにも「KDDIパシフィックリンク」というケーブル船を保有しており、2019年5月からは新型の「KDDIケーブルインフィニティ」を運用開始する予定。

 携帯電話関連では船舶型基地局としての活躍が記憶に新しいKDDIオーシャンリンクだが、まずは本分であるケーブル敷設船としての役割を紹介する。

 ケーブル敷設船としてのKDDIオーシャンリンクの役割は、「敷設・埋設」そして「修理・保守」という2つの役割に大別される。

 まず、光海底ケーブル敷設のための機能としては、船内にケーブルタンクと呼ばれるスペースがあり、最大4500km分のケーブルを積載できる。同規模のケーブル船をもう1隻使えば、日本とアメリカを同時に出発して中間地点で合流、太平洋横断ケーブルを敷くこともできる規模だ。

海底ケーブルを積み込む「ケーブルタンク」
船首部分

 ケーブル船ならではの特殊な構造が随所に見られ、外からも目立つところでは、船首にケーブルを這わせるためのローラーが付いている。甲板を通ってそのままケーブルを引き込むことができる船内の作業スペースは、柱のない長大な空間が広がっていた。また、海中での作業を行うロボット「MARCAS-IV」の姿も見られた。

MARCAS-IV
人と並ぶとかなりの大きさだ

 敷設後の海底ケーブルの保守としては、たとえば地震や漁業活動によるケーブルの切断や損傷が起きた際、現場に出動して修理する必要がある。

船内は柱のない構造で、ケーブルを引き込んで作業できるようになっている

 ケーブルが切断されてしまった場合、切断部分の両側のケーブルを一度船内に引き揚げ、1つの海底ケーブルの中にある数十本の光ファイバーを繋ぎ合わせて再び敷設する。まとめられている光ファイバーの本数に比例して、揺れる船内での修理はより困難で高度な作業となる。

正常な海底ケーブル
損傷した海底ケーブル

 2011年の東日本大震災の際には、日米間を結ぶケーブルなど多数の海底ケーブルで同時に被害が発生。横浜港から出動したKDDIオーシャンリンクは約5カ月に及ぶ24時間体制での修復作業を続け、同年の8月6日にようやく復旧を終えて帰港できたという。

「船舶型基地局」としての活躍

船舶型基地局

 そして、2017年からはもう1つの役割として、「船舶型基地局」という機能が加わった。

 船舶型基地局とは、大規模な災害などによって通常の基地局がダウンした際に、基地局設備を積み込んだ船を被災地に急行させ、海上から沿岸部のエリア復旧を行うもの。

 2018年9月、北海道胆振東部地震の発生を受けて、船舶型基地局が日高沖で実際に運用された。この時の実績によれば、およそ20kmの距離をカバーできたという。

衛星アンテナ

 KDDIオーシャンリンクに常設されているものではなく、サービス用のアンテナや制御装置などはその都度船内に運び込んで設置される。バックボーンの衛星回線のためのアンテナのみ常設されており、ドーム型のカバーの中にはパラボラアンテナが入っている。

 波のある海上から安定したエリア作りを行うためには陸上の基地局とは異なる苦労もあり、運用中は船の向きの変化などに合わせたアンテナの微調整も必要になるという。

 災害発生時には、海底ケーブルの復旧、そして船舶型基地局という2つの役割が必要とされるタイミングが重なるようにも思われる。一方で、精密な作業を行うケーブル船ならではの能力こそが、船舶型基地局という大役をKDDIオーシャンリンクが務めることになった理由の1つでもある。

 デリケートな光ファイバーケーブルを扱う関係で一定の位置に船を静止させておくための機能があり、これが船舶型基地局の搭載船として求められる能力とも合致しているのだ。