石野純也の「スマホとお金」
なぜ今「音声フルMVNO」なのか? mineoが目指す“ネオキャリア”の正体
2026年1月29日 00:00
オプテージが手がけるmineoが、2027年下期に音声フルMVNOに参入することを明かしました。KDDIから回線を借り、かつ音声網まで手掛けるフルMVNOはmineoが初。ドコモ回線では、老舗MVNOの日本通信が26年11月に音声フルMVNOとしてのサービスを開始する予定です。同社はこれを、「ネオキャリア」と呼んでいます。
また、データ通信のみですが、IIJもコンシューマーにサービスを提供しているフルMVNOの1社です。
とはいえ、現状のMVNOも音声通話のサービス自体は提供しており、かつ大手キャリアよりも料金が安く抑えられている会社が多いため、音声フルMVNOといっても違いが分かりづらいかもしれません。
一方で、その仕組みを紐解いていくと、音声フルMVNOになることで事業者の手がけられるサービスが広がることも分かります。その違いを見ていきましょう。
ライトMVNOの音声通話は卸が基本、中継電話も
一般的なデータ通信網だけを借りるMVNOのことを、ライトMVNOと呼びます。日本で「格安スマホ」や「格安SIM」と呼ばれているのは、ほとんどがこのライトMVNOに該当します。ただ、ライトMVNOでも音声通話サービスは当然ながら提供しており、独自の料金を設定しています。
たとえば、最大手のIIJmioは、30秒当たりの通話料が11円。1回5分の「通話定額5分+」や、1回10分までの「通話定額10分+」、完全無制限に通話ができる「かけ放題+」もオプションとして提供されています。
新たに音声フルMVNOとしてサービスを提供することになったmineoは、通話料こそ30秒22円と大手キャリアと同じですが、「10分かけ放題」や「時間無制限かけ放題」は提供しています。
音声フルMVNOではないからといって、独自の料金設定をした通話サービスが提供されていないというわけではありません。
ただし、データ通信とは異なり、MVNO側の料金設定の自由度は低くなっています。音声通話は基本的に、卸で提供されており、大手キャリアのサービスをほぼそのまま、ユーザーに再販している形になるからです。
IIJmioのように音声通話が安いMVNOは、中継電話という仕組みを活用しています。これは、大手キャリア側の交換機でMVNOの通話は、中継電話サービスを使う他社に迂回することで実現しています。
元々はアプリを使って、プレフィックス番号を頭に付与することで通信の経路を変えていましたが、それを網内で自動化したのがこのオートプレフィックスと呼ばれる機能です。
ただ、これも基本的には中継電話サービスを手がける事業者を経由しているだけで、MVNO自身が音声通話のサービスを提供しているわけではありません。料金設定に限界があるのはもちろん、機能面でもキャリアが開放しているものに限定されてしまいます。ライトMVNOはSIMカードの発行もできないため、国際ローミングのデータ通信なども提供できません。
加入者管理機能と交換機を持ち、自ら音声サービスを提供するフルMVNO
これに対し、音声フルMVNOの場合には、加入者管理機能を持ち、かつIMSなどの大手キャリアが運用しているような交換機を自前で構築して、運用していく形になります。SIMカードは、そのMVNO自身が発行する形。電話番号も、MVNOに割り当てられます。簡単に言えば、MVNO側が管理できる部分が大きく増えるということです。
SIMカードを自身で発行して、音声通話もコントロールしていくとなると、大手キャリアから借りているのが基地局とそのバックホールだけという形になります。
自身で加入者の情報を管理しているため、たとえば2社から回線を借り、通信環境に応じてどちらにつなぐかを決めるといったことも可能になります。1枚のSIMで足回りをマルチキャリア化できるのは、フルMVNOの強みと言えるでしょう。
mineoも、当初はau回線での音声フルMVNOを開始する予定ですが、ゆくゆくは、ドコモ回線もサービスに加えていきたい意向を示していました。現状では、ユーザーが回線を選び、それに応じたSIMカードなりeSIMプロファイルなりが必要でしたが、音声フルMVNOであれば、両方を束ねることが可能になるというわけです。
また、MVNO自身で他社と音声通話の接続を行っていくため、大手キャリアから卸として提供を受けた通話料や中継電話サービス事業者が決めた料金設定よりも、安価な料金体系にすることも可能になります(逆に上がってしまったり、同じになったりする可能性もありますが……)。
設備を借りている以上、フリーハンドとはいきませんが、料金設定権をMVNOが持てる点では柔軟性が高まる格好です。
SIMカード(やeSIMプロファイル)をMVNOが発行できるようになることで、海外事業者とローミング協定を結んで接続しておけば、国際ローミングでの音声通話やデータ通信も可能になります。
先に述べたように、これもライトMVNOでは技術的に不可能でした。パスポート保有率が20%にも満たない日本では、ややニーズが少ない印象もありますが、海外渡航が多いユーザーにはうれしいサービスと言えるかもしれません。
料金よりもサービスの進化に期待、音声に新たな価値をつけられるか
また、SIMの発行ができるようになることで、大手キャリアの設備を通さず、eSIMのプロファイルを提供できるようになります。
現状のライトMVNOでも、一部事業者ではeSIMの提供ができている一方で、仕様はそのキャリアに引きずられていました。ドコモ回線であれば、端末のEID(eSIMに固有のID)を入力しなければならないといったものです。
同様に、細かな点では、iPhoneで利用する際に構成プロファイルなしでも利用することが可能になります。これは、iOS側の仕様として、大手4キャリアのSIMカードやeSIMの場合には自動でAPNをセットする形になっているため。ドコモから回線を借りたライトMVNOのSIMカード(eSIM)は、ドコモ回線と見なされ、ドコモのAPNがセットされてしまいます。
これをMVNOのAPNに上書きするのが、構成プロファイルの役割。SIMカード(eSIM)をMVNOが発行できれば、こうした面倒もなくなります。いずれもデータ通信のフルMVNOでサービスを提供しているIIJmioでは実現していること。
mineoがどのようなサービス設計にするかはまだ決まっていませんが、音声フルMVNOの回線を選択すれば、上記のようなことは可能になるはずです。
もっとも、音声フルMVNOになったからと言って、劇的に料金が下がるかというと、必ずしもそうではありません。
実際、データ通信のフルMVNOサービスを提供しているIIJmioでは、「データeSIM」の方が、ライトMVNOの「データ」より安くなっているものの、容量が大きなプランではその差はわずか。フルMVNOといっても接続料はかかり容量が大きいほどコストに占める比重が大きくなっていることが伺えます。
どちらかと言えば、音声フルMVNOになるメリットは、上記で挙げたようなこれまで対応できなかったサービスが利用できるようになることにありそうです。
また、音声交換機を自前で持てば、これまで実現できていなかったサービスを提供できるようになる可能性もあります。その一例として、日本通信では、ネットワーク側に翻訳機能を持たせるサービスを挙げていました。
オプテージでmineoを率いるモバイル事業推進本部 モバイル事業戦略部長 松田守弘氏も、「(音声やデータといった)メディアの枠を超えたサービスを提供していきたい」と述べており、音声通話自体をアップデートしていく方向性を示しています。
オプテージには、「eo光電話」のような固定電話サービスもあるため、そこと連携することも容易になります。翻訳サービスのような連携は、通信の秘密など、法令や規則をどうクリアしていくかという課題もあるため、実現の難度は高いと言えますが、これまでのMVNOはもちろん、大手キャリアにもなかったサービスの登場には期待したいところです。









