インタビュー
ドコモが新料金プランに込めた狙いと銀行に対する考えとは
2025年6月20日 00:00
NTTドコモは5日、新料金プラン「ドコモ MAX」「ドコモ ポイ活 MAX」「ドコモ ポイ活 20」「ドコモ mini」の提供を開始した。
それぞれ無制限プランと小容量プラン、ポイ活でお得になるというプランだがどういった狙いがあるのか。NTTドコモマーケティング戦略部長の山本明宏氏に聞いた。インタビュアーは本誌関口と法林岳之氏。

新料金プランは“非常に好評”
――新料金プランが開始してから1週間の初動はどうでしたか。
山本氏
非常に好評です。我々の想定を大きく上回っています。
――特に好評だった点や、切り替えたお客様の層はどのような方々でしたか。
山本氏
最初の1週間で切り替えた方々は、DAZNに興味のある方々と、ドコモショップで初めて知って入っていただいた方々が一定数以上にいらっしゃいました。
4月末に発表してから、ここまではデジタルでの広告はありましたが、大規模なマスプロモーションは控えていました。
マスプロモーションは6月5日から本格的に行う予定でしたので、まだ世の中の認知度が低い状況にもかかわらず、これだけの反応があったということは、我々が取りたいと考えていたニーズに、ある程度はまったのではないかと考えています。
――やはり、「ポイ活」がない「MAX」が一番契約数が多いのでしょうか。
山本氏
契約数的にはそうですね。ただ、「ドコモ ポイ活 MAX」も想定している数で言うと非常に好調です。
2年前に「eximo ポイ活」を出してから、ドコモショップでは「eximo ポイ活」を中心に提案することが根付いていました。dカードの提案とポイ活の提案が一体的になって、ご紹介する体制が徹底されています。
DAZNもポイ活もいらないという方は別ですが、ドコモショップに来店される方の多くは、すでにdポイントを貯めていらっしゃる方が多いです。
「さらに貯まるんだ」となると「じゃあそれは良いな」となりますし、月5万円利用すればポイントが付くという条件も、「5万円だったらやってみても良いかな」と感じるようです。
家計のクレジットカード支払いを考えると、ほとんどの方が5万円を超えているので、クレジットカードの支払いを寄せるだけであれば、そんなに難しいハードルではありません。
そうすると、ポイントが溜まり始めると、お客様は嬉しくなります。たとえば、ひとまとまりで5000ポイント貯まると、やはり嬉しいものです。
毎日dメニューなどで1ポイントずつ貯めるようなことをされている方も多いですが、まとまったポイントがもらえると、より貯めたくなり、dカードをメインカードにして使おうという意識が生まれます。
ポイ活は非常に意識して使っていただけているという実感がありますし、お店のスタッフもそれを感じています。
料金プラン開発は“エンドレス”
――新料金プランは、前田社長の就任から1年というタイミングで、前田さんの意向も反映されているように見えてしまうのですが、開発の経緯ときっかけをお伺いしてよろしいでしょうか。
山本氏
料金プランというのは、進化させるべきだと考えています。常にお客さまのニーズや、どういったプランが良いのかという議論を重ねています。
我々としては、ドコモを選んでいただきたいという思いが常にありますので、そのためには一定の差別化が必要です。
これまで料金が「どこでも一緒でしょう」という同質化が進み、端末割引や「安さ」の競争になっていた部分を、何とか変えたいと考えていました。
他社との違いを出し、価格ではなく「価値」で勝負したいという思いがあります。
その「価値」とは何なのか、お客様のニーズにマッチする価値提供とは何なのかを議論し始めました。現在、お客さまのニーズは「ファンダム」など多様化しており、その多様なニーズに応えつつ、ある程度のボリューム感も取りたいと考えていました。
そこで「スポーツ」が良いのではないかという結論に至りました。スポーツは普遍的であり、熱狂に繋がるものです。日本を元気にしたいという思いもありますので、非常に良いと考えました。
スポーツのプレイヤーとしてすぐに思い浮かぶのは、やはりDAZNです。我々は「DAZN for docomo」という形で提供させていただいていましたので、DAZNと議論を始め、「ぜひ、そういう世界を作りたい」と合意しました。
日本中の人々がスポーツを見て楽しみ、熱狂を共有する。オリンピックのように、国中が湧き上がるような状態を作りたかったのです。
DAZNのサービスが、月額4200円まで上がってしまい、誰もが見られる状況ではなくなっていました。それを我々と組むことで、「広げる」ということを実現したかったのです。
まだ見たことのない人も含めて多くの人に見てもらい、「スポーツを見るって良いな」と感じてもらう。それがDAZNを「良いな」と感じるきっかけとなり、スタジアムへ足を運び、実際にリアルで観戦することで、より深く感動し、もっと好きになる。
そういった相乗効果を通じて、みんながスポーツを楽しめるようにしたいという思いで作り上げました。
――これまで料金プランについては常に検討しているというお話でした。実際に、今回の発表のような形になるタイミングというのは、どういうきっかけで生まれるのでしょうか。
山本氏
そういう意味では我々は「エンドレス」なんです。「ドコモ MAX」も進化するプランですよとお話しましたが、次の進化に向けてもう動いています。
「次の進化をどうしよう」という議論の中で、2年前に「eximoもexceed(進化)するプランなんだ」と申し上げていました。
どう進化させるかを検討する中で、やはり「サービスの価値」を入れたいという思いがありました。それを入れるのであれば、eximoという分かりにくいと言われたネーミングを変えて、分かりやすくしたいという考えがありました。
そこで、「MAX」という極めて分かりやすい名前を付け、ドコモと組み合わせることで、ドコモの価値が詰まったものであると表現しました。
今回はDAZNがいらっしゃったので、お互いの合意ができた段階で発表したという形です。まさにゴールのない戦いをずっと繰り広げています。
――今回は会議を重ねる中で、ふと出てきたワードみたいなものから広げていったのでしょうか。
山本氏
お客様のニーズを汲み取りながら、何を入れると一番いいんだろうと、他社とどう差別化できるのか、それによってお客様がどう動いてくれるのかといった行動まで含めて考えています。
料金は我々の事業の根幹なので、変えるということはものすごく勇気がいることですし、失敗したら困るわけです。
そのため、シミュレーションを重ね、幹部とも相当ディスカッションを重ねて、変えるという決断を合意するというプロセスを踏んでいます。
相当な時間と思いを込めたプランです。
――ちなみに、もともとの料金プランに手を加えていくチームと、新しいものを見出そうというチームは、社内的に分かれているのでしょうか。それとも、あまり仕切りを設けずに進めているのでしょうか。
山本氏
今回の検討で言えば、料金戦略担当が料金を常に考え、どう進化させるか、どうマネージするかを担当しています。
一方で、DAZNとの議論を通じてどう進めるかを決めるなど、複数のプロジェクトが並走して考えてきた形です。料金戦略担当だけでは、どうしてもこれまでの延長線上で料金の水準で勝負するという見方をしてしまいがちです。
しかし、「そうではない価値って何なの?」となった時に、「スポーツの価値を入れたい」という思いが生まれました。その時には、やはり料金戦略担当だけでは無理で、パートナーも必要です。
サービスはサービスのセクションがありますので、それとコラボしながら、どの水準が良いのか、どういう風に入れるのかを考えて行っています。
エンタメに注力する価値とは?
――ユーザー体験価値は今回に限らず前からずっとおっしゃられていました。ファンダムの多様化あたりは、ドコモとしてエンタメに注力するというのとの関連は実際どうなのでしょうか。
山本氏
我々が持っている強みを生かすということは、最も重要だと考えています。いきなり自分に何もないものを人とやろうとしてもなかなか難しいです。
ドコモがスポーツに全く関与していなかったのに、急にスポーツプランを出すと言っても、「どういうことなの?」となるでしょう。そのため、会社としてのDNAや持っているアセットを十分に使い、他社との差別化を図ることが重要です。
我々は昔からスポーツ振興に取り組んでいましたし、ラグビーチームも持っていますし、サッカーも応援していました。スタジアムを保有し、ベニュービジネスも一生懸命やっています。
我々からすると、スポーツを盛り上げたいという思いは何十年も前からあり、非常に自然な流れです。議論の中でも、「なんでスポーツなの?」という疑問は出ません。「ドコモといえばそういうことをやる会社だよね」という認識があります。
また、リアルの体験がもっと大きいものなので、デジタルとリアルを融合させると、お客様の体験がもっと良くなるという考えがあります。
DAZNを見てもらうと、スタジアムに双方向で動けるよねとか、逆もしかりだよねといった議論ができます。
我々は支店や支社と連携し、Jリーグとの関わりも非常に強いです。そういったところと組んで地域を盛り上げることもできますし、日本を元気にしたいという思いもあります。
そのため、今まで打ってきた全てのピースが、この1つのプランによって結実するという思いがあります。
――まさに「一石何鳥」という話ですね。
山本氏
今、全国の各スタジアムには我が社の社員やショップスタッフが行き、ユニフォームを着てイベントを行うなどしています。そうすると、クラブも喜んでくれます。「一緒に応援してくれる」「ドコモがファンを呼んでくれる」と。
特にJ2やJ3など、まだまだファンを増やしたいと考えているクラブがたくさんあります。
我々の支店力は他社にはなかなかなく、地域に密着して目指してやるのは難しいでしょうが、NTTのDNA時代からそうした活動を続けてきました。
地域への思いを持った社員もたくさんいますので、ここはすごく活かせる点だと感じています。
――先日、東北支社から、Jクラブとの連携を発表されていました。これもその一環と考えてよろしいでしょうか。
山本氏
今後もどんどん出てくると思います。それぞれのクラブの温度感でも色々と出してもらっています。
販売チャネルの変革も含んでおり、それぞれのJリーグの方々やクラブが、我々にファンを増やしてくれるのです。
もしクラブの方々が「ドコモを応援するぞ」と言ってくれると、我々も「ドコモ MAXを紹介しますよ」となります。紹介してくれた人数に応じて、応援金が支払われ、クラブの立て直しや強化費に使われます。
そういった経済の循環を作っています。dポイントの連携もまさにその1つです。
モバイルdポイントカードの券面をJリーグのクラブに変えられるんですよね。変えると、ユーザーが貯めたポイントの5%がそのクラブに寄付されるようになっています。
そうすると、クラブのファンは喜んで券面を変えて「dポイント」を使っていただけるでしょう。そして、それがクラブのためになっているということが、ファンにとっては最高の喜びになります。
そうした取り組みによって、我々もクラブのファンを増やしますし、そうした方々にドコモを選んでほしい。「ドコモを好きになって、ドコモ好きな人はDAZNも好きだ」という風に広げていきたいと考えています。
新料金プランのラインアップの意図
――ahamoや「mini」、「ポイ活 20」など、「MAX」以外をラインアップした理由を教えてください。
山本氏
ファンダムも多様化していますが、データ利用量も、ものすごく使う方と使わない方がいます。
「MAX」のような価値が必要な人もいれば、「そんなのいらないから安くて良いんだ」という方、セット割引などいらないからという方もいらっしゃいます。
今回の「ドコモ MAX」と「ポイ活 MAX」、「mini」、そしてahamoによって、一通り皆さんのニーズが十分に満たせるのではないかという自信を持っています。
ahamoはシンプルなプランで、30GBで2970円という価格も、登場当初は「なかなかの価格破壊だな」と言われましたが、20GBから30GBに上げたことで、喜んでいる方がたくさんいらっしゃいます。
オンラインで、特に重厚なサービスがいらない方、データだけ安くしてほしいという方のニーズに応えるためには必要です。
一方、もっと小容量が欲しいという声もあり、今まではirumoでカバーしてきました。
irumoは、4GBのようなプランもありますし、他社との関係性もあるので、他社のプランを見ながら、「ドコモとして、このゾーンがないと戦いづらい」というところはきちんと用意しています。
「ワイモバイルにはあるのに、ドコモには少ない通信量のプランはないの?」と言われることのないように、用意しています。
「MAX」によってスポーツやAmazonなどを楽しんでいただきたいという思いがありますが、そうではない「いらないから安くしてよ」というニーズにも、一方できちんとお答えしたいと考えています。
ドコモは長年「ドコモって高いよね」と言われ続けてきました。
ahamoで少しそのイメージを払拭し、irumoへ移行していくことで、「ドコモってリーズナブルな部分もあるよね」と、きちんと理にかなっていて、しかもお得だと思ってもらえるように、多様なメインプランを用意しています。
――これだけの数を用意するのは簡単ではないですよね。
山本氏
そうですね。ahamoはahamoでブランドが確立されているので、「MAX」「mini」を出す時にahamoはそのまま残すという方針は、当初からありました。
30GBに上げたばかりですし、ahamo自身のブランド力もオンラインブランドとしてかなり機能していると感じています。
また、eximoやirumoという分かりにくいネーミングをどういう形に変えるのが、お客様にとって一番選びやすく分かりやすいかという観点がありました。
irumoも以前は4コースあったのですが、多すぎるという意見や、0.5GBでは足りないという声もありました。
そこで、2つくらいのプランに絞り込みたいという考えがありました。そして、「MAX」で価値を入れたいという思考プロセスを経て、現在の形になりました。
これからも進化するという意味で80点
――細かい点ですが、irumoはOCN モバイル ONEのチームがそのまま引き継ぎましたよね。今回の「mini」はOCN モバイル ONEのチームが担うわけではないのですか。
山本氏
はい、違います。確かにirumoは、OCN モバイル ONEのチームを中心にやっていましたが、今回の7月のタイミングで組織も大きく変わりました。
今までeximoを見るチームと、irumoを見るチーム、ahamoを見るチームが分かれていたんです。そこで、1年前くらいにirumoとahamoは一緒にしたのですが、それでもやはりプランごとにセクションが分かれているとやりづらいところはどうしてもあり得ます。そのため、今回は全てを一緒にして、シームレスにしました。
我々からしても、ahamoのユーザーでも「MAX」に来ていただきたいという思いもありますし、irumoの人がahamoへ切り替えることもあってほしい。お客様にとって一番良い料金プランを選んでいただけるようにすることが我々の仕事です。
足りないなら作らなければなりませんし、多すぎるなら絞り込む。1つのコントロールタワーで全体を見るのが良いだろうと思っています。
――取材する側から見ると、今回の組織再編も「一石何鳥」のうちの1つに入るのかなと感じました。
山本氏
結果論ですが、そう言っていただけるかもしれません。
――今回の新料金プランで、ドコモとしてはフルラインアップと言って良いのかなと個人的には感じていますが、点数をつけるなら何点ですか。
山本氏
これからどんどん進化していくという意味では、70点か80点くらいが良いでしょうか。
まだ30点の上積みがあると感じているということです。
――評価が低いというよりは、成長の余地があって、まだまだ成長できるんだと。
山本氏
これで完全体とは考えていません。
割引の意図とは
――割引について伺います。これまでも「みんなドコモ割」などの割引はありましたが、今回の考え方について教えてください。
山本氏
もともと「光セット割」と「dカードお支払割」、そして「みんなドコモ割」の3つは、歴史的にずっと続いてきたものです。
これらの割引をすることで、「ドコモ光」の提案がしやすくなったり、家族で一緒に使っていただきたいという思いがあります。また、ドコモユーザーにはdカードを使っていただきたいという思いもあります。
2000店舗のドコモショップには毎日たくさんのお客様が来店されるので、提案のしやすさという点ではセット割引が重要です。
我々のサービスをどんどん使っていただき、dポイントを貯めていただき、dポイント経済圏にどっぷりはまっていただくのが一番お得になると考えています。
他社のカードを使われるよりもdカードを使っていただきたいという狙いがあり、このサービスをどんどん使っていただくにはセット割引が有効であるという確信があります。
そこに今回、長期の方への恩恵が減っているというお客様の声をいただき、思い切って「長期利用割」を入れたいと考えました。
また、電気のようなインフラも非常に親和性が高いです。光、電気、ガスと組み合わせて提案するのは自然だと考えていますので、そういったものも含めてセット割引に入れることで、お客様の反応も良くなり、「だったら入るわよ」と言っていただけると考えています。
それをさらに加速させるために、割引額を上げています。
dカードは最も分かりやすい例ですが、「dカード GOLD」と「dカード PLATINUM」に500円の割引をつけました。
500円違うのであれば、「GOLD」や「PLATINUM」に入りたいという声が増え、想像以上に好評で、たくさん入っていただけています。
これは現場での提案がうまくできている証拠だと感じています。「GOLD」も千何百万枚発行されており、この規模はクレジットカードの世界から見ても相当なものだと思います。
それが当たり前になっているのが我々の強みです。その強みに拍車をかけ、新たな電気とのセット割引と、長い期間ご利用いただいている方への感謝の気持ち、そしてもっと長く使っていただきたいという思いで作り上げています。
――特にこれは効いているなと感じる割引はありますか。
山本氏
やはりdカードは効いているのではないでしょうか。
今回「PLATINUM」も出したので、dカードは4券種になりました。
日本人は真ん中を好む傾向があるため、さらに「GOLD」を強く推し、「PLATINUM」もあるという形にしました。
今回、割引を500円にしたことで、今までのレギュラーではなく「GOLD」を選ぶ方が増えています。ここが機能していると感じています。
中容量でポイ活
――「ドコモ ポイ活 20」は不思議なプランというか、「これがないの?」と言われれば用意しますというお話からすると理解はできますが、本当にこれにハマる人がいるのかという意見もあったりします。どうしてこれを用意したのでしょうか。
山本氏
我々の課題は、Y!mobileやUQ mobileに、中容量プランを強化されていることで、我々のユーザーがMNPで流出しているという点でした。
eximo、irumo、ahamoの中で、中容量をカバーしているのはahamoしかありません。
ahamoはシンプルなプランで店頭では扱えないため、ミドル層やシニア層がY!mobileやUQ mobileに流出している状況でした。
そこで、店頭で扱える中容量プランが必要だと考えました。
中容量で作るとして、お客様にとっても我々にとってもメリットになるのは何だろうかと考えました。
単純にirumoに追加するだけではいけないので、我々としてはeximoが最上級プランであり、eximo(今では「MAX」)に来てほしいというのが大前提です。
その間を埋めるものが変な埋め方をすると、そちらにみんなが行ってしまい、メインのプランが不調になってしまう可能性があります。
そこで、お客様の声をたくさん見ている中で、ポイ活を推していると「無制限はいらないけれど、中容量のポイ活はないの?」という声があることに気づき始めました。
そうか、中容量を設定する時に、ポイ活のニーズをここで拾うという考え方があるのかと。それで、ドコモユーザーがUQ mobileやY!mobileに流出するのを防げないだろうかと。
流出するユーザーにも、それなりにdポイントを持っていたり使っていたりする人がいました。もっとdポイントのお得さを伝えられたら、20GBのプランでも、ポイ活を加味すると金額的にも他社と遜色がないので、「だったらこれで両方いけるんじゃないか」と考えました。
MNP流出を止める効果も一定あり、eximo ポイ活の無制限はいらないけれどポイ活したいという人のニーズも両方拾えれば、かなり機能するのではないかと思ったのです。
中途半端に思えるというのは、おっしゃる通りだと思います。我々も「ここに必要なのかどうか」を最後の最後まで議論しました。
しかし、使い始めてみると、スタート以降かなり多くの方に契約していただけており、作ってよかったなと。やはりそういうニーズがあるんだなと実感しています。
――「PLATINUM」はびっくりするほど貯まります。少し使い方を意識すれば、おっしゃったようにガラッと変わるのだなと感じました。貯まったポイントをどう使うかという次のステップもありますが、うまくやられたなと思っています。
山本氏
喜んでいただけると嬉しいです。
――個人的な感想ですが、1年以上「マイル」か「ポイント」かを考えてきました。マイルを貯める人は基本的に支払いを寄せるじゃないですか。マイルを貯めるのにみんな熱心だった時期がありましたが、最近はそれをドコモがだいぶ剥がしているなという感じがします。
山本氏
ありがとうございます。私も昔マイルを貯めていたのでよく分かります。最近はもう全然意識もしなくなりました。
――そうなんですよね。多分、「マイル」のクレジットカード部門はかなり怒っているだろうなと思っています。
山本氏
dカードにやられているみたいな(笑)。
d払いでの少額の支払いはdポイントで払うようにしていますが、全然減らないですね。残高が増えていくばかりです。
――細かい買い物はほぼカバーできますよね。
ポイント還元を料金に含めることについての考えは
――今の話を踏まえての質問ですが、「5000ポイント還元でここまで安くなります」という料金の表記についてです。確かにそうでしょうが、それを料金のアピールとして良いのか、ユーザーの実態と乖離していないのかというツッコミがあるかと思います。実際どうお考えですか。
山本氏
ポイントを自動的に充当できる機能は、これから整えようと準備しています。今は、5000ポイントを充当したい方は一つ一つ操作しなければならないので、割と煩わしいことをさせてしまっているという反省もあります。
料金を安くしたいというニーズでポイ活を使いたいという方もいれば、逆に料金に充てるとなんだか損するなという感覚の方もいます。
「2万ポイントも貯まった」「2万5000ポイント超えた」といった、ゲームフィケーションではないですが、毎日d払いを使うと何ポイントか出てくるのは、「貯まっているな、得してるな」と感じられますので、残高が増えるというのは大きいと思います。
昔、通帳を見ながら貯金が貯まったなと喜んでいたように、貯める喜びというのはやはりあると思います。
料金を安くしたいというニーズは当然ありますので、それはそれでお応えします。
そうではない、同じ経済価値であっても、「貯めて使っていただく」ということも重要です。「このお弁当をポイントで買った」と思うと、ちょっと嬉しいですし、得したような気分になります。
規定上できませんが、仮に通信料金に充ててしまうと、ガス代や電気代に充てるのと同様に、お得感を感じにくいかもしれません。
しかし、「買おうと思ったものが安くなる、あるいはタダになる」というのは、やはり嬉しさもありますし、残高が増えると、そちらの方がお得感が高いのだろうと私は思っています。
ですので、両面を睨んで、ああいう表現が分かりづらいというお声はいただいており、そこは反省すべき点ですが、2つのニーズがあると考えています。
料金変動制のしきい値が利用実態に合っているの?
――設定するしきい値がユーザーの利用実態に合っているのか、例えば段階制なら15GBや20GBの方が適切ではないかとも思いました。ただ、それでは実質値引きに近くなる懸念もあります。一方、irumoでは4GBが基準で、1GBとの差も含め設計の意図が少し分かりにくいと感じました。
山本氏
しきい値のお話は、発表後の際にもご質問をいただきました。
元々eximoもギガライトも、1GB、3GBというラインは、これまでずっと低容量の方の使い勝手を見て、1GB、3GBあればカバーできるという認識がありました。
元々ギガライトをご利用の方がたくさんいらっしゃいますので、その方々が移行する先として、そこは必要だと考えています。
一方で、「MAX」の本当の価値は何なのかを追求すると、やはり無制限で使っていただきたいというのが本心です。
しかし、使わない時のセーフティネットや、光回線に加入されている方が多いため、「家で光でDAZNを見るから、そんなにデータはいらない」という声もあります。
「使わないけど安くしてほしい」という声に応えるには、どういう形で残すのが良いのかを見た時に、比較的ご好評いただいていますので、その1GB、3GBという階段を残しました。
1GBや3GBを20GBや25GBに上げられなかったのかというご意見は、「MAX」というプランを背負うのであれば、そういう答えもあったのかもしれません。
しかし、「MAX」は基本的には無制限で使っていただきたいが、セーフティネット、あるいはギガライトからの移行先としては、1GB、3GBが機能していたので、それは残したいと考えました。
一方で、irumoのように「いらないからとにかく安くしてほしい」という方は「mini」に移行してもらいたいと考えています。ベースとして0.5GBにした時に3GBで足りるのかという議論もきちんと行いました。
「少し足りないかもしれない」という意見もありましたが、全てを「MAX」で補完するという考え方ではなく、それぞれ住み分けて考えています。
3GBと4GBという分かりづらさは、おっしゃる通りだと反省していますが、そうした考え方で設計しましたので、1GB、3GBというしきい値はお客様に受け入れられていると考えています。
――私自身の受け止め方になりますが、10年近く前に政府から「使わないならその分安くなってほしい」という要請があり、それが組み込まれたものが、ずっとここまで来ているように思えます。そのため、1GBのしきい値も当時からその形を今もキープしている、というような側面を感じてしまうのですが、その点についてはいかがでしょうか。
山本氏
おっしゃる通り、それを変えるという手段も取り得るという点は、私自身も思いました。次回、そうした進化はきちんと胸に留めていきたいと思います。
――今回の「mini」は、他社が4GBなどのプランを用意していることも、見えているのかなという気がします。MVNOに行っている人を見ると、繰り越しを利用している人が多いです。
1GBを使おうか使うまいかというのであれば、少ししきい値を上げてあげることで、ユーザーの選択肢を広げられるのではないかという思いもあります。
山本氏
1GBを2GBや3GBにすることによって、より「MAX」に来ていただけるという良い効果があるかもしれません。
――そうすると今度は他の4GBのプランが減るかもしれないという別のリスクもありそうですが(笑)。
山本氏
繰り越しについても議論し、「あった方が良いのかな」という意見も出ました。キャリアが提供する機能でもありますし。
ただ、他のもので十分に増やすことによって代替できるだろう、という考え方もありました。
本来我々が提供したい価値は、やはり「MAX」の無制限というのが一番提供したい価値です。
メインキャリアとして、やはりそこは重視したいと考えています。
ポイント還元の上限を上げなかったのはなぜ?
――5000ポイント還元できますという話が、よりお得感、料金だけにフォーカスした場合、なぜ「実質月0円です」「月1000円で済みます」ぐらいの世界観を作らないのかと感じました。どのような考え方で設計されたのでしょうか。
山本氏
ポイントを貯めたいというニーズ、使いたいというニーズ、そして充当して料金を安くしたいというニーズ、それぞれ両方あると思いますので、我々はその両方にきちんと応えたいと考えています。
その5000ポイントを上げることで、通信料金をさらに下げるという見せ方は、今回行っている「ポイ活 MAX」で実現しています。
根元の料金は少し高いのですが、「PLATINUM」カードなどをしっかり使っていただければ、非常に安くなります。
DAZN単品で4200円なのに、ポイント充当を全てすると2900円などといった安い金額で利用できるのは、個人的には「価格破壊ではないか」と感じています。
充当していただけると安くなるという仕組みです。
これをさらに広げて深めれば、5000ポイントではなく6000ポイント、7000ポイントにすれば、「0円ではないか」というアイデアはいただきます。
いずれ採用します。
通信は“当たり前”の支援、エンタメで“熱狂”を提供
――ぜひ次のステップ、未来についてもお伺いしたいです。KDDIのように通信品質をプレミア体験として提供するといったような通信料金に付随する進化の部分、DAZNやファンダムという言葉から考える他のエンタメという部分、そして金融サービスの部分。
大きく3つぐらいの進化の方向性があるのかなと感じるのですが、どのような道筋があるのでしょうか。
山本氏
我々が今回のDAZN導入で、新しい価値をお客様のニーズに応えたいという思い、そしてファンダム、つまり世の中の人々が熱狂して熱くなれるような、そうした差別化をしたかったというのが大きな部分ですので、これからもそこは追求していきたいと考えています。
どのファンダムをターゲットに価値を用意するかは、決算発表でも一部公開しましたが、アニメやアイドルなど、世の中に熱狂するものがたくさんあります。
昨日韓国に行っていましたが、BTSの方が退役されて戻って来るというだけで街が盛り上がるような。そうしたファンダムに応えるというのも一つあると思います。アーティストなども含めてです。
そういった「好きを応援する」という方向で価値を提供したい。それがどういう形で提供されるのかは議論中ですが、これが一番大きな方向性です。
もう1つは、通信としての価値です。
KDDIが発表した内容について、我々が「MAX」の議論をしている時は、の次の動きは見えていませんでした。「ああ、そういう風にいらっしゃるのね」と思いました。
そこはそことして、やはり一定の我々としての打ち返しは考えないといけないと思っています。
現在、一部で通信品質が低下している部分がありますので、そこを一生懸命直しています。「通信品質といえばドコモだよね」というのを、もう一度回復させたい。
「ドコモってエリアが良いよね」というのは、地方ではそう思っていただけています。
しかし、都心部などでは「KDDIが良いよね」と変わってしまっている悲しい事実があるので、それを払拭し、本来の我々のDNAである「ネットワークが良い」というものを守ってきた自負がありますので、そうした根源的で普遍的な価値をしっかり提供するというのは、これから考えていきたいと思っています。
そして、金融系ですね。銀行はやはり「最後のピース」です。どういう風にお客様に価値提供していくのかというのは、これもまた一つの大きなテーマです。
例えば、「MAX」に入っていただけたら、銀行のサービスが受けられる、あるいは安くなるなど、「MAX」のお客様に対して、この新しく作ったサービスをどのように提供するのか。
「MAX」のお客様とそれ以外のお客様で、どういう差別化をするのかも重要なポイントです。
銀行自身でどういうサービスをやっていくのかはまだ議論中ですが、それと「MAX」に入った時にさらにどうなるのか、あるいは「ポイ活 MAX」に入ったらどうなるのかという、段階があると思います。
「ポイ活 MAX」に入っていただけるような設計は、金融系としては作りたいです。
d払いを使っていたり、dカードを使っているのに、銀行は今までなかったため、他社などを利用されている方もいらっしゃいます。そうではなく、我々が一気通貫で全てをしっかりお預かりし、シームレスに良いサービスを提供したいと考えています。
そうした意味で、3つ目の金融の柱である「ラストピース」は、お客様に入っていただけるようにしたいです。
後発なので、皆さんすでに銀行口座をお持ちでしょうから、わざわざもう1つ口座を作るのは面倒だと感じるでしょう。その面倒くささを乗り越えていただけるような、良いサービスを提供したいと考えています。
――今のお答えからすると、ファンダム、つまり「好きを応援する」というところは一番大きな柱で、優先度も高く、サクサクお話が進んでいきそうですね。
山本氏
進んでいかせなければならないと考えています。
やはり差別化の要素でもありますし、お客様のエンゲージメントを高めるということに、そこが一番効くと思うからです。
根源的な通信を良くするとか、通信が早くなるとか、どこでも繋がるというのは非常に重要ですが、それだけではお客様が熱狂するわけではありません。
通信は当たり前を支援するというものです。銀行で金利が上がったとしても嬉しいですが、0.1%上がったところで全然熱狂しないじゃないですか。
我々からすると、そうしたお客様の喜びを増幅させたいのです。そこでファンダムに目をつけたので、ファンダムマーケティングをやっていこうと。
――「ドコモ良いわ」と言われるようなことなんですね。
山本氏
「BTS好きならドコモでしょう」という風に言っていただくように。「Jリーグ好きならドコモじゃないの?」「Jリーグ好きなのに」という風に、どんどんそういう場を広げていきたいと考えています。
――昔からdポイントクラブではクーポンや劇団四季の招待などの特典施策がありましたが、今後の「MAX」ではスポーツやアニメと連携した特典など、より幅を広げた展開になるのでしょうか。また、以前はdアカウントの拡大と通信事業は別の考え方で進める印象もありましたが、今回の取り組みではその融合がさらに進むのかも気になります。
山本氏
今言っていただいたような具体的な例、クーポンであったり、今はご招待企画もありますし、VIPルームにご招待、アーティストに会えるなど、そういった形でどんどん考えていきたいと思っています。
単純にDAZNが無料で視聴できるという価値だけでなく、やはりリアルに来ていただきたいですし、ご招待もしたい。リアルの価値も一緒に提供したいと考えています。これまで提供してきた我々の経験値が生きると思います。
dポイントクラブをどう進化させるかということも議論しています。
「MAX」ユーザーに対して色々な価値を提供できる、熱狂できる、喜ぶ、ポイントが貯まる、といったことを総合的にプロデュースしていかなければなりません。
そのためには、我々のようにマーケティング戦略部の中で回線サービスと料金プランを全て見ながらやっていくのが、あるべき姿だと考えています。
お客様起点で全てを考える。お客様が何をしたら喜ぶのか、それを我々がマネージする。
そのために社内全体を動かし、「こういうピースが欲しいんだよ」「こういうアニメともう少しやらない?」といったことを今、社内でも仲間を増やしながら、色々なプロジェクトを組んで動かしています。
銀行を持ってお金の流れを作る
――今までの銀行は住宅ローンを組むなど、ガッチリ囲い込んでいく感じに受け取られていましたが、今回の話を見ていると、銀行サービスに関しては、囲うというよりは、グループ内のお金の流れを作りたいのかなと感じました。
例えば、「三菱UFJ銀行」の口座も持っているし「三井住友銀行」持ってるけど、今度から「住信SBIネット銀行」の口座を使うよね、という方向にしたいのかなと思いました。どんな感じですか。
山本氏
dカードも最初はそういう入り方でした。ほかのカードも持っていてもいいけど、こういうときはdカードを使ってくださいね、と。
でもやっぱり最後は寄せたい。
「ドコモ銀行」というのを作っていただいたら、最初はこういう使い方で是非、と促しますが、やはり最後はご自身の資産をこちらに寄せていただいて、よりお得に使っていただけるようにしたいと考えています。
――そこが、今の時点での世間の見方やメディアの評価と、本来はここから踏み出していくのかなというところの温度差がものすごくあって……。
山本氏
そう思います。いきなりゴリッとはいけないので、おっしゃる通り、やはり「ぬるっと行って広げていく」という形です。
これは、どういうサービスを付加するかによって変わると思います。
例えば、「じぶん銀行」のように住宅ローンでいくと、割とゴリッと囲い込みをすると思いますし、どういう形で我々が今までにない銀行サービスを出せるかによって、「ゴリッと」やっていただけるのか、それとも「徐々に、そのくらいだったら口座を作っても良いですよ」と思えるように広げていくのか。
まさに、今議論中です。ここからです。
――そこがだいぶ気にしているところなので。でも、あんまりガチガチ感はないですよね。
山本氏
現時点ではガチガチ感は一切ないです。
――そうですよね。それが、結局みんな「でも住宅ローンやるんでしょ?35年縛りでしょ?」とすぐに言うので。
山本氏
可能性はもっと先だと持っています。
やはり今のように、ドコモとして一気通貫でそこまで提供できる時に一体何ができるのか。
銀行単体でも住宅ローンってできるじゃないですか。銀行だけではなく、やはり全体自体のサービスとして設計するのかが大事ですね。
――ありがとうございました。