インタビュー

「Reno10 Pro 5G」皮切りに製品を投入していく――河野氏が語るOPPOの戦略

 クラウドファンディングでの先行提供から一般発売に至ったAndroidタブレット「OPPO Pad 2」や、ソフトバンク「神ジューデン」シリーズのラインアップに連なるAndroidスマートフォン「Reno10 Pro 5G」。このところ積極的に新製品を出している印象があるオウガ・ジャパンは、国内向けの製品ポートフォリオを見直し、より競争力の高いものにしていく方針を示している。

 今回、オウガ・ジャパンの河野謙三専務取締役が本誌のインタビューに応じた。「これまであえてアクセルを踏まなかった理由」は一体何だったのか、そして河野氏が語る今後の展望とは――。

 聞き手は本誌編集長の関口聖と法林岳之氏。

河野氏

Reno10 Pro 5Gについて

ユーザーからの反応など

――Reno10 Pro 5G、売れ行きはいかがでしょう。

河野氏
 Reno10 Pro 5Gはソフトバンクさんメインでお取り扱いいただいている機種で、もちろんSIMフリーもあります。

 ソフトバンクさん主体なので、ソフトバンクさんの売上は我々には当然言えないところ。ですが全体として、いわゆるキャリアモデルとSIMフリーモデルの2つを合わせて非常によく売れている印象です。

――売れている要因は何でしょうか。

河野氏
 我々OPPOは、ミドル~ミドルハイのレンジが、歴史的にも現在も非常に得意なメーカーです。昨今は為替の問題がありますので、そこ(プライシングの強み)がどうしてもぼやけてしまうところはあります。

 とはいえ、為替は我々だけの問題ではありません。海外からモノを輸入して販売するプロセスの企業さんはどこも同じだと仮定すると、そういった状況において、OPPO製品の価格に対する性能や使い心地は非常に高く評価いただいていると思っています。

 ソフトバンクさんでは、かつて「Reno3 5G」という製品を一緒に販売させていただいた経緯があり、非常に評価が高かった製品です。

 詳細はうかがっていませんが、OPPOというブランドに対し、好印象を持っていただいたお客さまからの乗り換えも一定数あるのではと思っています。

――ユーザーからの反応はどうですか。

河野氏
 Reno10 Pro 5GでOPPOの端末に初めて触れていただいた方については、軒並み好印象です。

 たとえば私たちは「人間のための技術で、世界をもっとあたたかく。」というスローガンを持っています。

 スペックに対する価格というような評価指針や評価方法だけではなく、「実際に使う人が何を求めているのか」「使い心地はどうだったのか」というようなユーザー体験や体験価値を大切にしています。

 たとえばReno10 Pro 5Gであれば、私どもの社内基準の目安として「180gになるべく近づける」ということがある。そうなったときにすべては詰め込めませんので、たとえばスピーカーがモノラルになってしまうようなことは当然あります。

 けれども、やはり端末を手にとっていただいた方からすると、非常に使いやすい。

 私どもが日本に進出した際に、「OPPO R11s」という製品を出しましたが、そのときも薄さや持ちやすさにこだわりました。今はなくなってしまいましたが、OPPOのスマートフォンは背面が少しくぼんでいて、手にしたときにフィットするデザインがありました。

 実際の使いやすさにこだわっていることが、お客さまに受け入れられているのかなと思います。

充電技術に関するOPPOの強さ

――このタイミングでReno10 Pro 5Gを投入した理由はなんですか。

河野氏
 OPPOが日本でずっとやってきたのは、「製品を利用される方の真のニーズはどこにあるんだろうか?」ということです。

 OPPOは世界で50を超える国や地域で、スマートフォンやIoT製品を販売していますので、それぞれの国で販売しているラインアップは違います。日本で販売しているものは、日本の方のニーズに合わせて、一部カスタマイズをして出している。

 そのようななか、「急速充電」がユーザーの方に気づかれていない部分だということが我々の調査でわかりまして。

 (ユーザーが)気づいている部分はわかりやすいんですよ。たとえば「スピーカーをステレオにしてほしい」というニーズがあったとして、それはわかりやすい。そうではなく、「急速充電があったら実はとても便利」というのをどう届けようかなとずっと思っていました。

――ずっと思っていた、というのはどういうことでしょう。

河野氏
 OPPOは、グローバルのスマートフォンメーカーのなかでも、急速充電技術……特に超急速充電技術というものにいち早く着目したメーカーのひとつです。

 かつて我々は、「VOOC」という技術をいち早くスマートフォンに搭載し、お客さまから「非常に使いやすい」という声はいただいていた。我々の超急速充電技術、今は「SUPERVOOC」という呼び方で250Wまで出せるものもありますが、これをどうやって日本のお客さまに届けようかなと悩んでいました。

 そういったところに今回、ソフトバンクさんから「神ジューデン」という言葉を使って一緒にやりませんか? というお声がけをいただいた。ぜひ、ということで投入に至りました。

――ニーズが顕在化してきたということでしょうか。

河野氏
 そうだと思っています。

 また、OPPOは充電技術に関して言えば、かなり多くの特許を取得しています。

 単に速度をアップさせるだけではなく、バッテリーをいかに長持ちさせるかという技術でも、長年ずっと研究を重ねてきているメーカーです。超急速充電技術に関しては、グローバルのどのメーカーよりも強い。

 実際のユーザーの知見データとして、数億を超えるデータをお客さまの許可を得たうえで持っているので、安心してソフトバンクさんにご提案できたというのも一つ強いかなと思っています。

薄くて軽いReno10 Pro 5G

――あらためて、Reno10 Pro 5Gの優れたポイントはどこでしょう。

河野氏
 (訴求しているポイントに加えて)アドオンの部分をちょっとお話しすると、たとえば薄さや軽さが挙げられると思います。

 ミドルハイの性能を持ちながら薄く軽くて、かつ使っていても熱くならない。そういうところが非常に魅力的だと思っています。

――日本で出すにあたって、譲れないポイントとして追求したところですか。

河野氏
 そうですね。特に、日本にお住まいのユーザーの方から多く寄せられる要望として、「軽さ」はずっとあります。

 あとは薄さですね。これはOPPOの端末を使った方とそうでない方とでニーズが異なります。

 使った方は、「やっぱりOPPOの端末の軽さと薄さが非常に良い」という方が多いんですね。

 使われていない方は、他社さんが追い求められているようなニーズになります。たとえばチップセットをもう少し高速なものにしてほしいとか、バッテリー容量をもっと増やしてほしいですとか……。

 OPPOを実際に使っている方からのニーズが、使っていない方からのニーズに比べて非常に多い。そういったところを踏まえて、日本で出す製品にはカスタマイズを加えています。メモリーの量もあればあるだけいいですが、「おそらくこれくらいが適切だろう」というような数字に変更したりもしている。

ユーザーニーズの変化

――バランスの取り方にこだわられていますよね。

河野氏
 ニーズ調査という意味で、ニュートンの万有引力の法則の話を僕は頻繁にします。

 ニュートンは何を発見したんだ? ということですが、「りんごは木から落ちた」ということに対し、皆さんは「地球がりんごを引っ張った」とおっしゃるんですね。一般的なニーズもこれと同じ。

 ところがそうではなくて、ニュートンが発見したのは「りんごもまた地球を引っ張った」ということなんです。これが万有引力の法則です。

 ですから、ニーズの調査は単に「何がほしいですか」と聞いて、それを(回答者の)数字が多いものから(製品に)入れていくということではありません。「なぜこれがほしいと思ったのか」ということを掘り下げて、しっかりスペックに落とし込むことが大切だと思っています。

――日本のユーザーニーズの変化はありましたでしょうか。

河野氏
 たとえば、コロナ前は「小さい画面のものがほしい」という声が多くありました。

 直近の話をすると、その声はほぼまったくなくなりました。

――「なくなった」と表現できるんですね。

河野氏
 聞きませんね。たとえば100人に聞いて、1人が2人のような……。深読みして「画面の小ささ」が持ちやすさや軽さにつながることを踏まえると、私どもの読みは当たっていたのかなと。

 つまり、画面は大きいのですが、持ちやすくて軽くてといったところが当たったのかなとは思っています。

あえてアクセルを踏まない選択

――発表会では、今後のポートフォリオの見直しに関するお話もありました。

河野氏
 コロナウイルスの影響で製品の発表が少なくなって、社内外から「OPPOは最近元気がない」というお声が多くありました。

 たとえばスペインかぜが第一次世界大戦のときに流行りましたが、そのときも「この先どうなるかが見えない」という非常に不安な状態が続いていました。

 (今回のコロナ禍も同様に)皆さんも不安ですし、企業としてもそうでした。ですので、企業としてはアクセルを踏まないという選択をした。

 つまり、“ど定番”な製品をいかに安全に出していくかということに、とにかく特化せざるを得なかった。

 どうしてかと言うと、中国はもちろん日本国内も含めて外出ができなかったからです。電波試験なども考えると、“ど定番”の機種が出せない可能性もあったわけです。

 ですので、それをまずは回避すること……新技術とか、何かエポックメーキングなテクノロジーショーケースとしてのスマートフォンを日本市場に出すとか、そういったことは一切やめてました。コロナウイルスがあったからです。

 ただ、今年に入ってある程度の将来の見通しに安全を見出せたので、OPPOとしては久しぶりになりますが、ミドルハイのReno10 Pro 5Gから日本市場に投入したということです。

タッチポイントを増やしていく

――OPPO Pad 2では、クラウドファンディングも実施しました。これまでとは違う手法も試されているのかな? と思いましたが。

河野氏
 販売という意味合いでは、私どもは「三方よし」ということをずっと掲げています。

 まずは製品を購入いただいたお客さまの「買ってよかった」というお声も大事ですし、「製品を取り扱ってよかった」というパートナー企業さんからのお声も大事。

 その結果として私どもも「日本市場で販売してよかった」ということになる。

 これから先広げていく販売チャネルもありますが、すべての関係者、いわゆるコンシューマーという意味でのお客さまも含めて、OPPOという製品に携わっていただいたすべての方に「よかった」と言ってほしいと思っています。

 一方で、(これまでの販売チャネルでは)リーチができていないお客さまもいらっしゃいます。そこで今回、クラウドファンディングというものを使って試験的にタブレットを販売させていただきました。

 次回もし(クラウドファンディングを)やるとすれば、ゴール金額(目標金額)はもう少し上方修正したいですね(笑)。

――タッチポイントを増やしていくということですか。

河野氏
 とにかくタッチポイントは増やしていきたいと思っています。

 今回はクラウドファンディングというタッチポイントを利用させていただきました。今後新しいタッチポイントが増えていくのであれば、それは試験的に取り組んでいきたいと思っています。

――クラウドファンディングはどのような印象でしたか。

河野氏
 今回OPPO Pad 2をクラウドファンディングで投入したのは、購入者にいわゆるアーリーイノベーターの方が多いのではないかなと思ったからです。

 今、店頭でOPPO製品を購入される方は、買い換えの方が意外と多いんですね。「OPPOを使って良かったから、次もOPPOにしたい」というような。

 そうではなく、「OPPOは知らないが、テクノロジーに触れてみたい」というニーズというか、お客さまの声を聞いてみたかった。

 タッチポイントを増やすのもそうですが、お客さまの声という意味で、クラウドファンディングを活用させていただきました。

――成果はいかがでしたか。

河野氏
 お客さまからの声という意味では、ご購入前、ご購入後、非常に多くのご意見をいただいています。

 「こういうところを改善してほしい」という、イノベーターならではの改善要望もありますので、そこは非常にありがたいなと思っています。

――タッチポイントの話として、他社ではポップアップストア開設などの動きもあります。

河野氏
 「フラッグシップストアを日本でも展開したい」という本社の意向はあります。ただ、要件がとても厳しい。天井高が10何メートル以上とか。

 どのタイミングでどうやるのか、決めかねているような状態ではありますね。

市場に関する考え、キャリアとの関係

――マーケット全体に関するお考えをお聞かせください。

河野氏
 我々が日本市場に参入したときは、スマートフォンをお持ちでないお客さまがまだまだ多くいました。

 その後、コロナ禍もあり、不要不急の外出を控えて自宅で“おうち時間”をどう充実させるかという視点が生まれ「せっかくだからスマートフォンに買い換えてみようか」ということで、フィーチャーフォンから乗り換えるお客さまが多かったのも事実です。

 市場の飽和という言葉は使いたくありませんが、スマートフォンをひとり一台持っている時代が、私どもが思っているよりも5年早く到来しました。2027年くらいではないかと思っていましたので。

 そのなかで、いわゆるスマートフォンの企画・製造・販売から撤退するメーカーさんも出てきました。

 つまり「スマホは儲からない」「ビジネスとして儲からない」と判断されて撤退されている。私どもも長年スマートフォン事業を手掛けてきているわけで、そういったところに寂しさを感じる部分はあります。

――なるほど。

河野氏
 実は、海外のスマートフォンメーカーにもっと日本市場に入ってきてほしいと思っています。

 そうでないと、活発な競争ができない。「万人にとって最適なスマートフォン」というものがこの世にあるとすれば、それだけを作っていればいいわけです。

 でもそうではなくて、いろいろな生活スタイルがある。だからこそ、僕たちは違う服を着ているわけで、スマートフォンも同じだと思っています。

 もっと日本市場を活発にしてほしいと思っていますし、スマートフォンを利用する人にとって、より多くの選択肢は本来あるべきだと思います。

――そうですね。

河野氏
 たとえば15年くらい前は、多様な端末があって、使う人が自分のニーズに合わせて適切な端末を選べた……そういう時代がかつてはありました。

 そういったものが日本市場には必要だなと思いますから、多くの海外メーカーさんに参入してほしい。

 その中で自由競争をして、OPPOの端末を選んでくれたらうれしいなと思いますね。

――キャリアとの関係はどうお考えですか。

河野氏
 私どもは楽天モバイルさんとは強力なパートナーシップを組ませていただいて、いわゆるMVNOからMNOへの変化を遂げられたときのパートナーシップからは学ぶものが非常に多かったかなと思っています。

 あとは、キャリアさんにご採用いただく機会も過去数年で非常に多くなってきました。またご採用いただいていないキャリアさんにも働きかけていきたいなと思っています。

 日本へ参入した当時と比べて大きく変わったことと言えば、私どもはいわゆるキャリアフリー端末しか持っていませんでしたので、自分たちの思い描いたブランドイメージ、思い描いた製品を的確なタイミングで投入できていました。

 今は各キャリアさんとの関係性もありますので、当然のことながら、製品の投入タイミングや価格は話をしながら進める必要があります。

――難しさもありますか。

河野氏
 今までは自分たちが車を売っているような感覚だったのが、キャリアの中に入ったら、タイヤを売っているような感覚があります。

 車を買うときにタイヤのメーカーを選んでいる人はいないような……SIMフリーのときは「OPPO(製品)ください」だったのが、キャリアに入ったら「Androidください」に変わるんですよね。そこはやっぱり難しいなと思います。

――今後はより多くの選択肢を提供する、ということにも期待したくなるところがあります。

河野氏
 やはり、キャリアという意味での販路は引き続き増やしていきたいです。

 我々が「増やしていきたい」と思っているだけではダメで、キャリアさんにとっても「OPPOを扱ってよかった」と思っていただけるメーカーでありたいですね。

 次期ColorOS 14では今までのColorOS 13と比べてがらっと変わりますので、そういったところも含めて選んでいただければ。

――ハードウェアの選択肢はいかがでしょう。

河野氏
 海外ですでに発売している一部のフラッグシップ端末についても、日本で積極的に導入していきたいです。

 ただ我々は、「本分」という経営方針があり、我々だけが得をする企業であってはならないという思いがありますので、導入する際はぜひキャリアさんと一緒に導入できたらうれしいです。

――端末の割引規制もこれから変わります。

河野氏
 国の新たな方針について、それがどういう結果をもたらすかは私の口から申し上げませんが、より多くの自由競争が生まれればいいなと思います。

ソフトウェア面での新たな体験価値

――ColorOSで提供される新しい体験価値は、ミッドハイやフラッグシップなど、端末側のスペックで変わってくるものなのでしょうか。

河野氏
 ソフトウェアだけでできる部分とハードウェアと複合的に機能する部分がありますので、「ソフトウェアが最新だからすべての機能が使える」というものではないですね。

――次期ColorOSではGPTが使える、といった話もありましたが。

河野氏
 OPPOはグローバルな開発拠点を何拠点か持っています。欧州、米国、日本、あと北京……4カ所で主要な開発拠点があり、日本ではイメージセンサーや画像処理の研究をしています。たとえば昔の言葉になりますが、ウルトラライトモード、夜景モードは日本の研究所で開発をしました。

 米国ではスタンフォード大学と共同研究をしており、7年ほど前からAIの研究を続けてきました。

 最近ではGPTという言葉がキャッチーになっていますが、我々には7年間の技術の蓄積があると思っていますので、ぜひご期待いただければ。

――日本語対応もしていただけるんですよね。

河野氏
 はい。

――国内で発売されてきたOPPOのスマートフォンに対してColorOSの最新版が提供されるのかどうか。期待していいのでしょうか。

河野氏
 ……ご期待ください(笑)。

――実現したら、たとえばGPTモデルのようなものがどこまで使えるようになるのでしょうか。新しい体験が実現しますか。

河野氏
 GPTモデル……大規模言語モデルが難しいのは、間違いを増幅してしまいがちなこと。

 大きな言語のスナップショットを切り取って、そのスナップショットを結合した結果で回答を出します。間違った情報が少し入っていると、間違ったものをファンタジーみたいに作っちゃう。それが今のネガティブなところなんですよね。

 そういった部分をいかに潰していくかというところが課題です。ですから、日本語にできるかどうかというより、そこのチューニングが課題です。

――クアルコムがAIにも注力しています。

河野氏
 クアルコムさんとは非常に友好的な関係を築いています。

 たとえば時代がまだ4Gだったころ、5Gのチップセットをクアルコムさんが開発して、「世界初となるクアルコム製の5Gモデムを積んだスマートフォンは、OPPOから出す」というようなアナウンスもしていただいたことがあります。

 クアルコムさんが開発して主導するAIというものは、当然のことながら、OPPOの端末にも積極的に入れていきたいと思っています。