インタビュー

新機能登場の「Googleマップ」、フィリップス氏が語る“次世代の地図”とは

 グーグル(Google)は、「Googleマップ」において、没入型ルート案内の「イマーシブビュー(Immersive View)」を導入した。東京やロンドン、ニューヨークやパリなどの都市で順次展開される。

 あわせて、「アニマルラテアート」など特定の検索に対する写真優先の表示など、新機能も導入される。

 グーグルのクリス・フィリップス氏(Chris Phillips)氏が30日、これらの新機能について紹介した。同氏は、Googleマップをはじめとしたプロダクトを手掛けるグーグルの“Geoチーム”を、VP&General Managerとしてリードする存在だ。本稿では、同氏へのグループインタビューとあわせてお届けする。

フィリップス氏

未来の地図はもっとビジュアルで没入感のあるものに

 フィリップス氏は冒頭で、Googleマップのライブビュー機能をあらためて紹介した。ライブビューでは、実際の風景を見ながら目的地への経路を確認できる。「古い紙の地図が完全に多次元3Dになった」とフィリップス氏は語り、イノベーションに胸を張る。

 優れた地図を作る鍵は「正確で包括的であること」(フィリップス氏)。Googleマップでは毎日5000万件以上の地図がアップデートされており、“地図は生きている”というフィリップス氏の言葉通り、常に変化している。また、ユーザー数は実に3億人を超える。

 地図の未来について、フィリップス氏が重要視するのはAI(人工知能)。AIなどにより、「未来の地図はもっとビジュアルで没入感のあるものになる」と同氏は語る。

 未来の地図への足がかりとなるのが、今回のイマーシブビューだ。ユーザーに対して毎日200億kmの“道案内”をしているGoogleマップで、フィリップス氏が「魔法のよう」と形容するリアルな体験が実現する。まるで上空を飛んでいるかのようなルート案内が利用できるだけでなく、交通状況や天気情報もチェックできる。

 イマーシブビュー以外の新機能としては、周囲の状況を把握するのに役立つ「レンズ」機能や、「アニマルラテアート」などの特定の検索に対する写真優先の表示機能がある。また、「何かやること(something to do)」と検索すると「アニメ」「桜」といったテーマ別の場所が表示される機能も登場した。

 自動車向けには、電気自動車の充電ステーションの情報を表示する機能も対象国で導入される。

グループインタビュー

――新機能のロールアウト(展開)についての考えを教えてほしい。

フィリップス氏
 私たちが新しいものを展開する方法のひとつは、特定の地域や都市、国を選ぶことです――そういったリストの一番上には「東京」がありますが。新機能を提供するときにはすべてのユーザーではなく、一部の人に対して提供することで、それがうまくいっているかどうかをチェックします。

 私たちのプロダクトが機能し、高いパフォーマンスを発揮するよう、ロールアウトする際には細心の注意を払っています。

――イマーシブビューについて詳しく教えてほしい。パフォーマンスやバッテリーの消費量などは。

フィリップス氏
 イマーシブビューではクラウドストリーミングを使っており、YouTubeの動画と似たようなしくみです。したがって、オフラインでは使えません。多くの人がショート動画のストリーミング再生に親しんでおり、それを(Googleマップで)再現してみたかったというのがあります。

 これからもパフォーマンスの高速化や最適化は続けていきます。我々は、新しい発明をするときには資源のことも考慮すべきだと思っており、スマートフォンのバッテリー消費に関してもかなり気をつけています。

――イマーシブビューとストリートビューの関係性は。

フィリップス氏
 イマーシブビューはストリートビューの一部を置き換えるような存在になると思いますが、ストリートビューも体験の一部であり、私たちはストリートビューを続けていくことになります。

 一方で、ストリートビューでは天気などを確認したり、時間帯ごとに異なる情報をチェックしたりすることができません。イマーシブビューは、ストリートビューが進化した、次世代のテクノロジーとして位置づけられます。

――Googleマップの機能が多すぎて、すべてを使いこなすのは難しいように感じる。

フィリップス氏
 私たちは、Googleマップのようなアプリを使いやすくしたいと考えているので、(使いやすさと機能性の)バランスについてはとても慎重に考えています。機能をまず一部の人に提供するのは、そういった理由もあります。

 また、人々が慣れている場所に機能を置くようにもしています。たとえば、新しい画像検索のマークは検索バーの右側にある。音声検索を導入したときも同じですが、毎回使われるような機能でなくても、一度その機能を使った人がそれを(気に入って)繰り返し使うことがあります。

 もうひとつは、新たなビジュアル化です。たとえばGoogleマップ上のレビュー(クチコミ)について考えてみましょう。以前はすべてのレビューを表示していましたが、写真や動画(の欄)を追加し始めると、多くの人がそれをチェックすることがわかりました。私たちはすべての情報を持っていますが、それをビジュアルとして要約することで、プロダクトをより簡単にできると信じています。

――生成AIのような新技術が話題になっている。これらを地図にどう取り入れられるか。

フィリップス氏
 すでに私たちがやっている例がいくつかありますし、今後さらにいろいろなものが出てきます。期待していてください(笑)。

 地図で本当に重要なことは、事実と正確さ。たとえばGoogleマップのレビューで評価が4.6となっていたとして、すべてのレビューを見ることができるようになっています。また、予算感のように、人によって評価が異なる相対的なものについても、人々の声を実際に可視化しています。現代のテクノロジーを使いたい、そしてなるべく正確な事実を確認したいというニーズに応えられるのです。

 生成AIでは「Bard」をGoogleマップの拡張機能として使っています。また、イマーシブビューの機能の一部でも生成AIを活用していて、2次元の画像から3次元の描写を生み出していますが、正確性には細心の注意を払っています。

――イマーシブビューのように、新機能などは都市部を中心に展開されるイメージがある。

フィリップス氏
 私たちは、こうしたテクノロジーなどを、世界のできるだけ多くの場所に、できるだけ多くの人々に届けることを大切にしています。

 確かに、新機能の提供は、最初は都市部に集中する傾向があります。なぜなら、より多くの人々に付加価値を与えられるから。ですが、私たちは時間をかけてこうした機能を展開していくつもりです。

 そして、東京はイノベーションの中心です。私たちは東京のケースから学び、必要に応じてそれを世界のほかの場所に持ち込むことができるのです。

――都市や国によって課題は異なると思う。新機能を考えるとき、重要視することは何か。

フィリップス氏
 新機能のひとつである「レンズ」は周囲の建物などを詳しく知ることができる機能になっていて、人々に新たな発見をもたらす可能性があります。

 私たちはまず問題について考え、次に、「その問題は世界中の多くの人にとって重要なことなのか」と自問するのです。その答えが「イエス」であれば、私たちは地理や文化の違いも考慮しながら検討を始めます。

 たとえばGoogleマップに写真などのビジュアルを追加し始めたときもそうでした。なぜGoogleマップにビジュアルを追加したのか。人々がより現代的な方法を求めていたからです。

 ビジュアルの追加は若い人たちだけでなく、年配の人にとっても役立ちます。さらに言えば、識字率が異なっても、視覚情報はテキストよりも有用です。

 そして、誰もがWi-Fiを利用しているとは限らないし、高性能なスマートフォンを持っているとも限らない。私たちのプロダクトは、ベーシックな端末でも動くようにしなければならないのです。

 十数年前、私が初めて東京に来たときは、行き先を書いたカードの束を持って、タクシーの運転手に渡していました。今ではGoogleマップがあり、まったく新しい一日のようです。

――Googleマップ上のプライバシーについてはどう考えているか。

フィリップス氏
 プライバシーの問題には本当に気をつけていて、ユーザーの選択を尊重するようにしています。ユーザーが「レンズ」のような新機能を使う場合でも、ユーザーからたくさんの同意を得る。また、個人が決して特定されないよう、情報を集約しています。

 私たちは道路や建物といった現実世界のデジタルコピーを作りたいと思っていて、それは私的な場所ではなく公的な場所です。もし私的な場所の画像があるとすれば、それは許可を得ているから。世界をマッピングしたいわけであって、人々をマッピングしたいわけではありません。

 以前、ストリートビューにおいて、顔やナンバープレートを自動でぼかす技術を導入したのはそのためです。人々は、もし必要であれば、(マップ上の家を)ぼかすことができる。

 確かに、もし家がちゃんと写っていれば、フードデリバリーを受け取るときなどに便利かもしれません。情報のなかには本当に役立つものもありますが、私たちはユーザーの選択を尊重するようにしているのです。

 もちろん、ストリートビューなどを活用して情報を更新するようにもしています。たとえば以前は素晴らしいラーメン屋だった場所が今はクリーニング屋になっている場合など……。正確ではなく、大きな問題なので。ただ、個人情報に関わることは対象外です。

 セキュリティはこのうえなく重要で、常にユーザーに対して許可を求めるようにしていますし、個々の行動ではなく実世界をマッピングすることに本当に集中しています。

――レビューの信頼性を保つための取り組みは。

フィリップス氏
 信頼性は非常に重要です。ですから私たちは、洗練されたモデレーション技術を有していますし、詳細はお伝えしませんが、信頼性を保つためにあらゆる種類の高度な技術を使っています。

 情報の種類にもよりますが、写真つきのレビューの場合、私たちはダブルチェックやトリプルチェックをして、掲載する前に信頼性を確保します。ある場所の営業時間が編集される場合もそう。世の中には悪意を持った人たちがいますからね。

 そういった信頼性の確保には技術を使いますし、人間のオペレーターもいる。私は実際にオペレーターと一緒に座って、そうした分析などを見てきたので、自信を持っています。

 たとえば新しいレストランが多くのレビューを得たとします。もしかしたらグランドオープン直後で、ポジティブなことなのかもしれませんが、確認する必要はあるのです。

 我々は機械学習やAIのような技術を活用していて、品質チェックを助けてくれる人がいます。人の修正によってAIは再トレーニングされ、新たな世界が作られていく……驚異的な技術で、鳥肌が立つと思いますよ(笑)。