インタビュー
povo2.0に登場した「お試しトッピング」っていったい何だ? 中の人に聞く、その仕掛けとこれから
2022年9月7日 00:00
KDDIと沖縄セルラーのオンライン専用料金ブランド「povo2.0」で、新たな取り組み「お試しトッピング」が始まった。通信障害が発生したため、当初予定されていたお試しトッピングのうち、七夕にちなんだ「7GB/7日間、777円」は延期となっているが、その後、8月下旬にはあらためて「1GB/30日間、499円」が登場し、9月12日まで提供されている。
基本料0円に、ユーザーが使いたいデータ量や、DAZNなどのコンテンツを「トッピング」として購入するpovo2.0だが、お試しトッピングでは、そのときだけ販売される“期間限定トッピング”が登場する。ユーザーにとっても、povo2.0にとっても、どんなトッピングがいいかお試しできるというわけだ。
一般的な料金プランと一線を画す「povo2.0」が、さらに“普通とは違う”お試しトッピングはどういった想いのもとに誕生したのか。そしてこれから、どんなトッピングが登場するのか、「povo2.0」の運営を司るKDDI Digital Lifeのキーパーソンである、サービスデザイン部の中山 理賀氏に聞いた。
「とにかく試して」で登場したお試しトッピング
――これまで、さまざまな料金キャンペーンで、一定の期間、割引するキャンペーンはわりとありましたが、提供期間を区切る「お試しトッピング」には、率直に驚きました。簡単に実現できるものなんでしょうか?
中山氏
この度は障害により多くのお客さまに多大なご不便とご迷惑をお掛けしましたことを、深くお詫び申し上げます。
再発防止策を徹底を図り、サービスの安定的な運用に向けて全力を上げて取り組んでいきます。
そして「お試しトッピング」についてですが、「こんなサービスを、簡単にやりたいな」ってずっと思っていたんです。こういうものこそが、「povo」の良さなんだろうと。トッピングはユニークなしくみですが、決まったもの(がラインアップされ続ける)だけだと面白くない。
「povo」の良さ、仕組みは、「データ容量」と「有効期限」と「価格」の組み合わせです。その組み合わせの妙を、お客さまにいろいろ楽しんでいただきたいとずっと思っていたんです。
「お試しトッピング」の元になるような考え自体はずっと前からあったんです。いろいろとチーム内で話していくなかで、一度、「期間限定で提供する」ことで、トッピングを楽しんでいただける機会を提供できたらいいねと。
だいたい、コンセプトが固まったのは、2~3カ月前のことでしょうか。
――そんな短期間でサービス開始までこぎつけたんですね。povoの提供にあたり提携するシンガポールのサークルズライフ社の仕組みがもともと実現しやすいということだったんでしょうか。
中山氏
「こういうことをやりたい」という話自体は、ずいぶん前から話していたので、仕組みの準備を裏のほうで進めていたんです。そこに、マーケティングと言いますか、表に出すコンセプトを固めていけたかな、ということです。
――あらためて、その「コンセプト」とは、どういうものなんでしょうか。ここまでのお話だと「決まったトッピングだけでは面白くない」「データと価格、利用期間を組み合わせて、ユーザーによりフィットするものを提供したい」といったことでしたが、あえて一言でまとめるなら、どうでしょう。
中山氏
「とにかく試して」っていう感じでしょうか。面白いと感じていただいて試していただきたいんですよね。
今回、2つのお試しトッピングを発表しました。ひとつは1GBが30日間で499円。もうひとつが七夕にちなんで、7GBを7日間、777円です(編集部注:KDDIは7月2日の通信障害を踏まえ、7GB/777円のトッピングの提供を中止した)。
ちょっとおもしろいのもあっていいよな、ということで七夕にちなんだものをご用意しましたし、1GB30日という結構リアルなものもご用意したということになります。トッピングって簡単に使えるんだ、こんな種類もあるんだ、ということが根底にありますね。
――ユーザーと話しながら創り上げていく「povo Lab」という仕組みがありますけども、今回との関わりは?
中山氏
今回は、povo Labの方とのお話はあまり深くはしていません。一方で、わたしたちは、時々、お客さまへアンケートを実施しています。「どんなトッピングだったら使ってみたいですか?」というもので、「お試しトッピング」では、そうしたアンケート結果を参考にしています。
――これまでも、料金プランで「キャンペーンで一時期だけ安くなる」といった施策はありました。しかし、「トッピング」という形とはいえ、期間限定での料金プランの提供、というのは珍しいと思います。KDDI側のルール、あるいは法制上のルールで乗り越えた課題はあったんでしょうか。
中山氏
法律上の問題は特にないです。期間限定とはいえ、利用規約に定めて提供しますので。
KDDI内としても、auやUQ mobileで、キャンペーンを実施してきましたので、障壁と言えるようなものはありませんでしたね。
povoは、トッピングという仕組みですので、チャレンジしやすい環境だとは思います。それに、実店舗がないオンラインだからこそやりやすいところもありますね。
――au、UQで似たようなしくみを取り入れるのは、難しいんでしょうか。
中山氏
auでもギガをちょい足しするような取り組みを実施していますし、povoでの取り組みをauやUQ mobileに還元したいという想いはあります。povoでもっと経験を積んで検証を進めていきたいですね。
提供してみてどうだった?
――提供してみていかがでしたか?
中山氏
7月1日に発売しましたが、事前の想定をはるかに超えて好評でした。
直後に障害が発生しましたので、プロモーションなども止めたのですが、ご利用件数は伸長しました。
利用された方を対象に、アンケートをお願いしたところ、そこでも好評の声が多かったです。想像以上に満足度のスコアもよかったのです。
――具体的にはどんな声が寄せられたんでしょうか。
中山氏
「こういうのを待っていた」という内容ですね。「定番メニューにしてほしい」「2GBも欲しい」といった声もありました。
新たに加入されたお客さまにとって、狙い通り、お試しとして使えるトッピングになったのは良かったと思っています。
普段から、大容量のトッピングを利用されている方は、そこまで今回のお試しトッピングはお使いにならなかったようです。
――初心者専用メニューとして、契約から3カ月間は「1GB30日」のトッピングが使える、といった形もできそうですね。
中山氏
そうですね。ただ、今の段階では、「お試しトッピング」の内容をそのまま定番メニューにする考えはありません。
――あくまでお試しと。
中山氏
さまざまなライフスタイルのお客さまがいらっしゃいますので、どういうものがいいのか、次々と提供していきたいですね。
――定番のトッピングになる可能性もあるんですよね?
中山氏
可能性としてはあります。ただ、別のお試しトッピングをまずは提供していきます。(定番には)その後、広げていければと。
――通信障害を受けて、七夕にちなんだ「7GB/7日間/777円」というトッピングは提供が見送られました。今後復活することはありますか?
中山氏
延期することにしましたが、悩んでいます。もうちょっとひねって、違うかたちでと考えています。
――七夕にちなんだもの、ですもんね。
中山氏
8月24日からは1GB/30日間のお試しトッピングだけではなく、増量キャンペーンもはじめました。
以前の施策では、購入後、プロモーションコードを入力して増量、という流れでしたが、今回はボタン上に増量後の通信量が示されており、コード入力不要で、購入するだけで良いかたちにしました。
コードを入れたいという方もいれば手間に感じる方もいますので、異なる方法を実施した次第です。
これからの「お試しトッピング」はどんなものが登場する?
――こうなると、次の「お試しトッピング」が何になるか、気になります。
中山氏
そうですよね、わたしたちの中でも、絶賛、大議論中です(笑)。
――これから登場するトッピングは、どんな流れで決めていくことになるんでしょう?
中山氏
お客さまからのフィードバックはぜひいただきたいです。アンケートも実施しようと思っていますし、「こういうのができるんだ」と知っていただいた上でのことになりますので、もっとリアルな要望を寄せていただけるんじゃないかなと。
あるいは「夏休みだから」といった、季節にあわせたニーズも出てくるかなとも思います。
――季節感というあたりが、ちょっとピンと来ないところはあるんですが……。
中山氏
なにかしらイベントにあわせてですとか……これから考えます!
――ありがとうございます(笑)。とはいえ、一度出したら数年は用いられるのが一般的な料金プランですが、「お試しトッピング」は旬にあわせて柔軟に提供できる、というのが良いところですね。
中山氏
社内では「『冷やし中華始まりました』みたいな感じかな」なんて話もしてます。冬は姿を消すけど夏になると登場する商品が世の中にはあって、それに近い部分があるのかな? という。
――たとえば、セールみたいな販売もあり得るのでしょうか。
中山氏
今回も、議論する中で「セールの方が分かりやすいのか、まったく新しいものがわかりやすいのか」といった話はあり、今回はまったく新しいものを提供することにしました。ただ、セールもありだと思っています。
――Amazonでも最近、povo2.0を含め、携帯3社のオンライン専用料金プランの取り扱いが始まっています。たとえばAmazonのセールにあわせて、「お試しトッピング」として、データ通信量のセール販売もあり得るのかな? と感じました。
中山氏
povo2.0の良さは、一度出して終わりではなく、お客さまの生活のリズムの変化にあわせて変えていける点だと思っています。
――仕組みとして、位置情報と組み合わせて、「この街に行ったら」「この場所に行ったら申し込める」といったような、お試しトッピングも実現できるのでしょうか?
中山氏
公平性という観点でちょっと難しいかもしれませんが、基本的には多くの方に楽しんでいただけるよう考えていました。ただ、イベント的なものがあってもおもしろいかもしれませんので、今のご指摘のような考え方も面白いですから、検討してみたいです。
――ありがとうございます。となると、トッピングになるには、何かしら「これを満たさなきゃ」といった基準、条件のようなものがあるのかな? とも感じたのですが、いかがでしょう。
中山氏
あ、そこは特に決めていないですね。もちろん、社内では、利用公平の観点などは確認はしていますが、あんまり型にとらわれないように、という感じです。
――それは思っていたよりユルい印象がありますね。
中山氏
トッピングって、まだまだこれからです。期間限定の「お試しトッピング」だからこそ、お客さまに何が受け入れていただけるか、チャレンジできる面もあります。ですので「これはダメ」といった先入観は持たずに取り組めたらと思っています。
――なるほど、たしかにその通りですね。では、これからの「お試しトッピング」はどれくらいのペースで投入したい、といった考えはありますか?
中山氏
ひとつは「暑いうちに」とは思っています。
でも、たとえば「四半期にひとつ」といったことは決めていません。ただ、(このトッピングを提供すると)決めるときは、すぐ決めます。
――なるほど、今夏中には次の「お試しトッピング」を、ということですね。お試しとして提供されるトッピングが、成功したかどうか、その指標はやっぱり利用件数なんでしょうか。
中山氏
利用していただくのはもちろん嬉しいです。一方で、「povo2.0」のコンセプト、あるいはトッピングという新しい形態が、どれだけ皆さんに浸透していけるか、というのも大切なポイントだと思っています。
――第1弾と第2弾の「お試しトッピング」はデータ量を買うという形で、とてもわかりやすいですが、たとえば、レギュラーのトッピングでは「DAZN」が用意されています。今後、「お試しトッピング」で期待されるジャンルってあるんでしょうか。
中山氏
常に議論はしています。確かにコンテンツ系のトッピングは、DAZNと、smash.の2つ以降、登場していませんので、その次はどうする? という議論ももちろんしています。
一方で、ギガや使える日数はわかりやすいですよね。なので、まだまだこれからの議論です。
大きな一歩
――お試しトッピングは、ユーザーの立場としても「これもできる?」「あれもできる?」と妄想がふくらむ仕組みだと感じているんですが、やっぱり「povo2.0」にとって、大きな意義のあるアップデートということですよね。
中山氏
個人的には、とても意義深いと思っています。これまでもさまざまな取り組みを進めており、そのたびに、お客さまにどう反応いただけるか楽しみなんですが、「お試しトッピング」は、やっぱり仕組みができたことが、大きな違いだと思っています。これを機に、次々と展開できるわけです。
キャンペーンですと、「これどうぞ」とお渡しするだけのものが多いんですけども、今回は「トッピングを買う」、つまりお金をいただくところまでセットになっています。これって仕組み面では、キャンペーンとの大きな違いなんです。そういう意味で、すごく大きな一歩です。
――これから、ヒットするトッピングを量産するような、ヒットメイカーみたいな人がチーム内に出てくるのかもしれないですね。
中山氏
本当に、「次は何やろう」って話をしていて結構盛り上がるんですけど、お客さまのこと、季節感のことなどを踏まえた、ヒット集団みたいなものになれるといいなと思います。とにかく「お客さまに近いキャリア/ブランド」でいたい思っています。
povoユーザー向けに「Pixel 6a」10%オフクーポン
――お試しトッピングから少し離れまして、先日発売された「Pixel 6a」のキャンペーンについても教えてください。
中山氏
povoでは、スマートフォンなど端末を販売していません。以前からいろいろと考えていたのですが、今回は、グーグルさんと何かできそうだねと話が進みました。
実際始めてみると好評です。こういう機会を今後も提案していかないとですね。
――auオンラインショップでの購入を進める取り組みも有り得そうです。
中山氏
確かにそうですね。とはいえ、機会があるのにそれをご紹介しないというのも、ちょっと違うと思っています。KDDIから距離を置くのではなく、ITリテラシーの高い方が多い「povo」のお客さまが本当に欲しいものと思われるものに、タイミングよくキャンペーンなどをご紹介できる、そんな関係性を作ることが大切かと考えています。
――パートナーとともに歩むというのは、KDDIがこれまでさまざまな分野で手掛けてきた取り組みと通じるところがありますね。今後はいかがでしょう。たとえば毎年9月には話題のスマホも登場するところですが……。
中山氏
9月については何もお伝えするものがありませんし、いわゆる春商戦のような商戦機に向けた取り組みも、刺激的なものは正直あんまりないかなと思っています。
ITリテラシーが高い方であれば、端末をご自身で入手して、SIMの交換もできます。povo2.0としては、幅広い選択肢をご用意できればと思いますし、povo2.0ならではの特徴をしっかり磨き上げたいです。
――本日はありがとうございました。