インタビュー

月4950円で100GB、ドコモに聞く「ahamo大盛り」ができた理由

 NTTドコモは、オンライン専用料金プラン「ahamo(アハモ)」で、6月に「大盛りオプション」(月額1980円、80GB追加)の提供を開始する。

 ahamoの基本料とあわせれば、月額4950円で100GBまで使えるようになる「ahamo大盛り」は、どういった経緯で生まれたのか、そして、今後はどんな進化を目指すのか。NTTドコモ ahamo推進室長の岡 慎太郎氏に聞いた。

ahamo1周年、300万契約目前で「半数超が30代以下」

――「ahamo」が登場した2021年3月26日からちょうど1年経ちました。

岡氏

 契約数はほぼ300万になりました。これは、1年前に描いていた「サービス開始から1年後の姿」よりも多いです。

 その内訳として、年齢層別の具体的な数は開示していないのですが、30代以下のユーザーが50%を超えています。サービス開始時から同じです。

 ドコモにとっては、「若年層の基盤を強化したい」「つなぎとめたい」という点もそうですし、「他社ユーザーをドコモ、ahamoへ取り込みたい」と考えていましたので、一定の成果が出ているなと考えています。

――発表会では店頭でのサポートの充実ぶりも紹介されてました。若年層に受け入れられている状況もありますが、シニア層にも利用されているのでしょうか。

岡氏
 「30代以下が半数以上」という点の見方を変えると、その残りは40代以上の方ということです。

 「ahamo」は、デジタルネイティブ向けといっても、年齢に関わりなく違和感なくお使いいただける方も一定数いらっしゃいます。

 30代以下だけではなく、年齢層としては、もう少し上の方にも受け入れられている部分はあろうかと思います。

 店頭でのサポートで、お手伝いという場面はありますが。昨春に店頭対応を始めた際には、私どもの想定よりも、多くの方に関心を持っていただいていたところがあります。「こういうものがあるなら契約したいよね」と。

 その店頭サポートの利用率が増えたかと言えばそうではなく、一定のレベルが続いていました。

 そういう意味では、(オンラインの手続きがわからないのに)無理して加入される方がすごく多かったか、といえば、そうでもないかなと受け止めています。

 私自身は、ahamoに限らず、「対面でのサポートの力」はやはり、ある程度、強いものがあると思っています。そこをいかに、オンラインでできるようにしていくかは、やはり大きな課題ですし、今後も継続して改善をはかりたいですね。

他社の取り組み、影響は?

――約300万契約ということで、1年間での実績としては大きなものかと思います。一方で、競合他社では、トッピング方式を拡充させた「povo2.0」、ミニプランを追加した「LINEMO」といった動きがありました。

岡氏
 通常のサービスですと、1年経ってようやくといったところもあると思いますが、やはりこの業界の1年はとても速いと感じています。

 確かにこの1年、「ahamo」はスペック面で、大きな発表はありませんでした。3月23日の発表では、「やっとahamoが動いたか」と評されたところもあったと思います。

 もともと「ahamo」を提供するにあたり、さまざまな調査やユーザーへのヒアリングで、「料金でもう悩みたくない」「いろいろ比べても、どれが得かわからない」といった声が見えてきていました。一定期間安く見えても気づくと高くなっている……と受け止めて「騙されている」ような印象を持つ方もいました。

 この1年、競合他社さんの取り組みを踏まえ、我々もいろいろ考えていましたが、「シンプルな料金プラン」に手を加えて、「ahamo」本来の良さが損なわれるしまうようなことになってはいけないと。

 そこで、「ahamoの本質」をお客さまに知っていただき、さらに理解していただき……そして、いかに興味を持っていただけるか、というところにフォーカスしてきたのです。

 ドコモショップでのサポートがあるとはいえ、「ahamo」はオンライン専用料金プランです。どうお客さまへアプローチするかが大切です。たとえば、いかに自然と検索していただける方を増やしていくか、というところを(この1年は)試行錯誤してきました。

 もちろん、他社さんの取り組みの影響がなかったわけではありませんが、「ahamo」の契約数が著しく減ったのか? というと、そうではなかったです。

――なるほど、あまり影響はなかったと。シンプルさを大切にしたいという点は、発表会でも触れられた点ですが、ドコモ社内から、何もリクエストはありませんでしたか?

岡氏
 ahamoの大きなスペック変更はなかったのですが、メールポータビリティへの対応や、eSIMへの対応などがありました。

 社内からもさまざまな課題を投げかけられ、お客さまや競合各社の動向をしっかり見ながら進めてきたというところです。

「ahamo大盛り」になったプロセス

――6月から「ahamo大盛り」が提供されることになりました。王道の進化と言える一方で、ちょっと興奮に欠ける面もありました。

岡氏
 2021年3月に「ahamo」が始まったとき、「20GBあれば、かなりの需要を満たせるだろう」と思っていました。

 しかし、この1年で、データ通信量は増えました。特に20代、30代の増え方が大きい。その背景には、「5Gの普及」「ウイズコロナ時代」「動画サービスの広がり」などがあろうかと思います。

 そうすると「もっと自由に使いたい」という方がやはりいるのではないかと……で、いわゆるユーザーインタビューを実施したんですね。

 そこで見えてきたのが、無料の公衆Wi-Fiへ勝手に繋がってわずらわしい、ずっとモバイル通信のほうがいいといった声です。

 たとえば就職活動も、今は企業紹介などYouTubeで実施されますし、面接もオンラインです。するとパソコンやタブレットを使うんだけど、固定回線がなくてテザリングでいい……ということが結構ある。

 サービス開始から数カ月経った、2021年6月~7月ごろには、ahamo推進室内でも「次は大容量ができたら面白いかもね」なんて話をしていたんですが、徐々に固めていった、という感じです。

 これまで不便に感じていた方にとっては、煩わしさを取っ払って、何も考えずに選んでいただければいいな、という形を目指しました。

――なるほど。では、「小盛り」のような話は最初から出てこなかった?

岡氏
 ドコモとしての(ギガライト、エコノミーMVNOといった)取り組みはあります。

 ただ、「ahamoで小容量」をやるかどうか、という点については、ahamo推進室ではあまり考えてませんでした。

――なるほど、ahamoとしては検討するまでもなかったと……ahamoで大容量プランというお話は、ドコモとしてゴーサインが出る際、支障もとくになかったですか?

岡氏
 はい、社内での理解はスムーズに得られました。

――シンプルなプラン、そして煩わしさをなくすということであれば、やはり「使い放題」のほうがahamoのコンセプトに合うのでは? と考えてしまいます。

岡氏
 選択肢としてなくはなかったんですが、ユーザーアンケートでも「100GB」と「無制限」で、そこまで大きな差がなく、ほぼ同じような受け止めだったのです。100GBあれば大丈夫、と考える方が結構多そうということがわかったわけです。

 社内で同じようなプランを出して共食いするのか、といったことを考えると100GBはいい線じゃないかと。

 このあたり、妥協したつもりはないのです。

 確かに無制限、使い放題はわかりやすさがありますが、お客さまにとって100GBがネガティブに捉えられるかというと、そうでもなかった。ではこれでいってみようか、という感じです。

――なるほど。では逆に、小容量の方はいかがでしたか。エコノミーMVNOの存在が影響したのでしょうか。

岡氏
 エコノミーMVNOがすぐに開始できなかったことはありますが、「ahamo」とはどういったサービスなのか、その認知が進んできて、(中容量、大容量を)しっかり頑張らなきゃいけないと考えました。

 ドコモ全体としては、(エコノミーMVNOやギガライトと)それぞれの容量で選択肢をご提示しています。

「ahamo大盛り」登場の時期

――エコノミーMVNOは発表から1年を経ての登場でしたね。ahamo大盛りは、もっと早目にリリースされたかったのでは?

岡氏
 いろいろ検討していくなかで、実際には、それなりに準備がやはり必要でした。エコノミーMVNOの時期が影響を与えたかというと、そういうことでもなくて。

岡氏

 (春商戦向けの取り組みとして)ギガホプレミアでも「U30ロング割」といった施策も実施しており、そちらを選ばれることもあるでしょう。

 そういう流れの中で、「そもそもahamoはどうしていくべきか」と考えていたのです。時期は早くに越したことはないかもしれませんが、「(社内事情で)ずっと焦らされて出せなかった」わけでもなかったのです。

――携帯電話市場としては、3月は一番の商戦期ですが、機会を逃したことになりませんか?

岡氏
 こういうと語弊があるかもしれませんが、たとえば、今でも「ahamo」の20GBでテザリングなどをお使いの方はいらっしゃいます。100GBを出すとして、約300万契約の全員がお使いになるわけでもない。となると、「大盛り」が春商戦の強力な武器なのか、というと、そういうわけでもないかなと……。

 昨年3月に「ahamo」をリリースしたわけですが、そのときには(今のスペックで)「ahamo」を選んでいただいたわけですから、この春も、「現状では戦えない」とはまったく思っていないのです。そこは、そんなに意識していなかった、というのが正直なところです。

これからの「ahamo」

――では、今後はいかがでしょうか。今回「大盛り」が出ましたが、トラフィックが増え続けるというトレンドは今後も続きます。基本メニューの20GBでは足りない時期もやがてやってくると思います。今もさまざまな検討をしていると思いますが、スペックの進化をどう考えているのでしょうか。

岡氏
 これからの姿は、明確に今の段階で定まってはいません。

 データ需要が増えているなかで、今回「大盛り」を出すことになって、まずはそこをしっかり取り組んでいきます。

 やはり多くの方に知っていただくことがすごく大切です。お客さまがどう反応されるか、見ていきたいですね。

 もちろん50GBはないのか、といったことがあるかもしれません。何が求められるか考えていくんですが、「ahamoはシンプルでわかりやすい」ことが大切です。いろいろ足していくと、今までの料金プランと変わらない、なんてこともあります。

 これは、過去の携帯電話料金が繰り返してきたところでもありますよね。

――では、スペックではない、別の形での進化はいかがでしょうか。先の発表会では「新たな価値」と表現されていましたが、今、ahamo担当のチーム内ではどんな話をされているんでしょう。

岡氏
 ちょうど先日、ドコモの新たなキャンペーンとして、「ディズニープラス」とのセット割が発表されました。

 これまではギガホ、ギガライトだけでしたが、今回、ahamoも対象に加わります。こういった取り組みをahamoで今後広げていければいいなと思っています。

 また、ahamoでは、音楽などのコンテンツを鍵に、さまざまなプロモーションを実施しています。これも、「ahamo」の存在をちょっと身近に感じていただければと思ってのことです。「ahamoって何か良いよねと思っていただけるような……ちょっと漠然としている説明ですが、たとえば音楽をやりたい人たちと、熱量を持って、一緒に楽しめるようなものを提供したい。そして「ahamoって良いよね」と思っていただけるようにしたい。

 まだ具体的には申し上げられないのですが、そのためのちょっとした仕込みみたいなものを、いろいろと進めています。

――なるほど。ありがとうございました。