石川温の「スマホ業界 Watch」

「ドコモショップ3割減」報道、ドコモの狙いと競合各社の考えはどうなっている?

 5月19日、一部報道で「ドコモショップが3割減、700店舗を閉鎖へ」というニュースが流れた。

 コロナ禍の影響、ahamoの提供、さらに端末の購入サイクルが長期化していることもあり、NTTドコモの井伊基之社長は「ドコモショップの来店数は減少傾向が続いている」と語る。NTTドコモでは実際にドコモショップへの来店客が3割、減少しているという。

ドコモ井伊社長(5月12日の決算会見で)

 ドコモショップ削減のニュースは数カ月前から週刊誌などが報じていた。

 5月12日に開催されたNTTドコモの決算会見において、井伊基之社長から「エリアごとに適切な店舗数、店舗規模にしていく」という、とてもマイルドで遠回りな語り口で店舗を削減していく意思が表明されたのだった。

 NTTドコモでは削減したショップで働いていたスタッフに対して、オンラインでコンサルティングする環境にシフトさせていくとした。
 ahamoが300万ユーザー規模になるなか、メタバース時代を見据えて、オンラインでの接客を強化していくというわけだ。

決算会見で示されたチャネル改革

 ユーザーは自宅に居ながらにして、オンラインでドコモショップと同等の接客を受けられる。一方、ドコモショップのスタッフもオンラインで時間や場所の制約を受けることなく働ける。井伊社長は「(販売代理店は)リアル店舗をなくすのではなく、ネットも両方やってくださいということ」というのだ。

 確かにNTTドコモにとって全国2300店舗を超えるドコモショップを維持していくのは経営的に大きな負担だ。

 NTTドコモ関係者は「ショップの大切さは理解しているが、一方で、我々の顧客層は年齢層が高い人が多く、サポートが重荷になっているのは事実。どこかで大きく体制を変えていく必要に迫られているのは間違いない」と語る。

 政府主導の値下げによって、ahamoを導入したり、その前にギガホプレミアなどを改定した結果、NTTドコモでは2019年度から2021年度までのモバイル通信サービスは2700億円規模の減収となった。

ワイモバイルへの支持は店舗接客も要因のひとつ

 一方で、KDDIやソフトバンクも700~900億円規模の減収となっている。

 では、KDDIやソフトバンクはキャリアショップをどうするつもりなのか。

ソフトバンク宮川社長

 ソフトバンクの宮川潤一社長は「ソフトバンクとワイモバイル、LINEMOという3つのブランドを展開しているが、お客様の支持を受けているのは正直なところワイモバイル」と語る。

 安価な料金プランに加え、店舗での接客がユーザーの増加につながっているようだ。一方で、LINEMOはさほど伸びていない印象がある。ソフトバンクとしてはオンラインよりもリアルショップでの顧客獲得に手応えを感じているようだ。

KDDI髙橋社長「雑にやらないほうがいい」

 KDDIもサブブランドである「UQモバイル」が成長の牽引となっている。

KDDI髙橋社長

 先日、髙橋誠社長に単独インタビューをしたのだが、UQモバイルについては「シンプルな料金プランが受けている。CMを変えたあたりからモメンタム(勢い)がグッと向上した」と語っている。

 気になるキャリアショップの運営について、髙橋社長は「Webが増えたからといってリアルを減らすなんて、雑にやらないほうがいい。新規契約はリアル店舗で安心しながらできる一方、数年後、機種変更の時は店舗でもいいし、オンラインでサクッとやれるのもいい。ユーザーに対して最適な演出をチャネルが提供すればいいのではないか」と語る。

 髙橋社長が参考にしているのが家電量販店「ヨドバシカメラ」なのだという。

「ヨドバシカメラさんは『ネットもリアルも』とどちらも注力されており、ユーザーがその時に応じて選べて買い物を楽しめる。うちのチャネルもそのようにしていきたい」とのことだった。

 KDDIが特に注力しているのが直営店だ。

 「うちの直営店は全国で29店舗、展開してる。結構、頑張っていて、お客さんにとっては最後の砦にもなっている」(髙橋社長)。

それぞれのサブブランド/マルチブランドの目標の違い

 ソフトバンクとKDDIは「サブブランド」を持っているからこそ、「通信料金の支払いを下げたいけど、よくわからない」というユーザーを取り込むため、ショップを重視しているようだ。

 その点、NTTドコモは「エコノミーMVNO」という仕組みはあるが、注力しているのはahamoであるため、ネットでの対応にシフトしていくのかもしれない。

 特にahamoはNTTドコモが弱点としている若者層の取り組みを意識している。井伊社長によれば「6割ぐらいが20~30代、狙っていた層は着実に入っており、外からの新規も獲得できている」(井伊社長)という。

店舗急増の楽天モバイル

 一方、楽天モバイルはMVNO時代は6年弱で600店舗だったが、MNOになっての2年間で500店舗、全国に1125店舗の規模に拡大している。そのうち、285店舗は郵便局内に設置されている。

 「郵便局に来る人がスマートフォンを契約するのか」という疑問がわくが、実際には、郵便局を訪れる人は、定期的に郵便局に用事がある人が多いようで、一度、楽天モバイルがショップを出しているのを見て興味を持ち、改めて郵便局にやってきて、契約をしていくそうだ。

 ネット通販が母体の楽天モバイルではあるが、ネットだけではスマートフォンの新規顧客開拓には限界がある。いかにリアル店舗で、しかも普段、店に来ないような人たちを郵便局で獲得するかが、これからも重要になってくるだろう。

楽天モバイルの三木谷浩史会長

 最近、街中を歩いていると、路上や空き店舗にドコモショップが出張所的に出店しており、新規契約の獲得を頑張っている様子も見られる。

 NTTドコモとしては、運営費がかさむ店舗を減らす一方、こうした路上や空き店舗、ショッピングセンターに出店を出すことで、コストを抑えながら、ユーザーを獲得していくつもりなのだろう。

 楽天モバイルがゼロ円プランを値上げすると言った途端、povoやLINEMOがキャンペーン攻勢を強めてきた。結局は「ネットもリアルも」両輪で販売を強化しなくてはいけないのかも知れない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。