【MWC Barcelona 2022】
三木谷氏もサプライズで登場、タレック・アミン氏が語る楽天モバイルと楽天シンフォニーの「完全仮想化ネットワーク」
2022年3月2日 08:10
楽天グループで完全仮想化ネットワークを海外キャリアなどに販売するRakuten Symphony(楽天シンフォニー)は、1日(現地時間)にスペイン・バルセロナで、「Symworld」などの最新ソリューションを公開した。
パートナーイベントとして開催された基調講演では、同社CEOで楽天モバイルのCEOにも就任したタレック・アミン氏がプレゼンテーションを行った。シークレットゲストとして、日本から楽天グループの会長兼社長を務める三木谷浩史氏が駆け付け、イベントに登壇した
目指したのは「携帯電話ネットワークの民主化」
アミン氏は、楽天モバイルに入社した18年のことを振り返りながら、「無線アクセスをブラックボックスのアーキテクチャーから、すべてがソフトウェアで動く世界に移行させようと決断した」と語る。仮想化したネットワークを導入しようとしていたアミン氏だが、当初は既存の基地局ベンダーを採用しつつ、仮想化ネットワークを併用しようとしていたという。その計画を、完全仮想化に一本化したのは三木谷氏だったと明かされた。
「なぜ、そのような大きなリスクを取ろうとしたのか」――アミン氏にこう尋ねられた三木谷氏は、3つの理由を挙げつつ次のように語る。「まず、2つのアーキテクチャーを採用するような予算はなかった。また、センシティブな話だが、自由のない経済圏の国(中国を指していると思われる)が提供している設備も採用したくなかった。楽天は25年前にスタートし、スクラッチから努力を積み重ねてきたが、当初は誰もインターネットで買い物をするとは思っていなかった。チャレンジするのは、我々のDNAだ」
三木谷氏がやりたかったのは、「日本における無線接続の民主化」だったという。三木谷氏には、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの 「既存3社は、ほとんど同じようなサービスを、同じような値段で提供している。その料金はとてもとても高い」ように見えたという。「それを低価格化して、人々が買い物や旅行、ゲームなどを楽しむためにもっとお金を費やせるようにしたいと思った」と語る。
完全仮想化ネットワークの完成度を高めたユーザーの存在
そんなリスクを取って採用した完全仮想化ネットワークだが、20年4月に楽天モバイルは本格サービスを開始。ユーザー数はMVNOとMNOを合わせて550万を突破したが、ネットワークは正常に稼働している。
Rakuten Symphonyは、こうして培ったノウハウや完全仮想化の技術を、主に海外のキャリアに外販していく組織だ。21年10月には、ドイツの新興キャリアである 1&1とパートナーシップを締結。MWCの開催に合わせ、米キャリアAT&Tとの協業や、米クラウド技術会社ROBIN SYSTEMの完全子会社化を発表した。
Rakuten Symphonyの強みは、パートナーとともに構築した完全仮想化ネットワークを、楽天モバイルで実際に使用しているところにある。550万のユーザーを抱えたネットワークとしての実績があるというわけだ。
アミン氏は、日本のユーザーの品質に対する要求の高さが、提供するサービスのクオリティを上げているとしながら、次のように語る。「音声が着信できなかったり、ネットワークにトラブルが起こったり、音質が悪かったりすると、日本のユーザーはすぐTwitterを開いて文句を言い始める。だからこそ、我々はソフトウェアのクオリティのバーを上げることを日本でテストし、証明したかった」
基調講演では、その成果として、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークに適用する管理ツールの「Symworld」を披露。楽天モバイルの商用環境のネットワークを使用して、その制御の簡易さなどをアピールした。このツールは、無線ネットワークの最適化や、設備の拡張、顧客管理などまで一元的に行うもので、MWCの講演会場のスクリーンには、リアルタイムな東京都のネットワーク稼働状況が写し出された。
三木谷氏の一問一答
イベント終了後には、三木谷氏が日本の報道陣からの囲み取材に応じた。主な一問一答は次のとおりだ。
――アミン氏とMWCで会ってから4年経ったと思いますが、当初からRakuten Symphonyがこうなるとは思っていましたか。
三木谷氏
もともと、こういうふうにしようと思ってやっていました。既存の人たちは、我々がやっていることは理論的には正しいが難しいと言う方が大半でした。
それが(楽天モバイルの契約者数が)50万、100万いった段階で、1000万、3000万でも動くということ。しかもクラウドで分散しているので、1億人でも動く。
昔、僕が銀行に勤めていたときはメインフレームで動かしていたが、今はクラウドでもできるじゃないですが。でも、テレコムでは難しかったわけですよ。そこをブレークスルーしたのは大変価値があると思っています。
――楽天モバイルをスタートしてから、加入者が順調に増え始めたことがSymphony立ち上げのきっかけでしょうか。
三木谷氏
本来、そういう設計だったんです。プレゼンテーションでも出ていましたが、(小売などのサービスを手掛ける)「Amazon」と(クラウドサービスの)「AWS」のようなものです。楽天モバイルも赤字は出てますが、ある意味Symphonyのマーケティングコスト。日本ですでに600万人近く(の加入者)がいて動いていることに、世界が驚いているわけですよ。
――Symphonyの売上はどのぐらいの規模まで行くと見ていますか。
三木谷氏
もう数千億円の受注は終わってますからね。最終的にどこまで行くかはこれから次第だけど、テレコム業界は年間15兆~20兆と言われているので、その中の何%を取れるか。そこから収益がどれぐらいになるかは別にして、売上規模で言えばそういうことです。
――将来的にはSymphonyの方が利益が大きくなるということもあるのでしょうか。
三木谷氏
うーん。(楽天)モバイルも損益分岐点を超えれば、利益は出るし、5Gになればデータ(量)が2倍、3倍になってARPUも上がっていくことは分かってるんですよね。KDDIのローミングを減らしていって、2年以内ぐらいにはほぼゼロまで持っていければ、大きな収益で投資回収はそんなに難しくないかなと思ってますけど。
サーバーのコストは多少上がってきますが、5Gが来たとき、たとえばミリ波はうちだけががんばってますが、海外でミリ波を使っている人は本当にデータの使用量が多い。既存の人たちは3Gの延長線上で見ていますが、私たちは違う視点で見てるんです。ですから、収益は上がると私は思いますけどね。
楽天カードを始めたときもこんなになるとは思っていなかったけど圧倒的になった。その3倍から4倍ぐらいのスピードで行っている。これだけコストアドバンテージの差が出てくると、最終的な価格面もそうですし、ユーザーのサービスの充実化もできるので。そうなったときに、どれぐらい差が出るか。他社はうちの価格に合わせてくると厳しいんじゃないですかね。謙虚にがんばっていきます。