インタビュー

シャオミの日本市場の分析と投入モデルの選定理由は?

半導体不足でも最新チップセットを搭載する理由を聞いた

 シャオミ(Xiaomi)は、国内向けに「Mi 11 Lite 5G」を発売することを発表した。

 同社東アジア地区のゼネラルマネジャーSteven Wang氏は、弊誌を含むグループインタビューに応じ、「半導体不足におけるシャオミの対応」や「Mi 11シリーズの中からLiteを日本市場に投入した理由」などを聞いた。

世界的な半導体不足

 Wang氏はまず、同社のビジネスに関する数字と「世界的な半導体不足」に対する同社の方針を説明した。

 シャオミの2021年第1四半期は、売上高が約1.32兆円(769億元、前年同期比+54.7%)となり、売上高・利益ともに過去最高水準。また、スマートフォン出荷台数は世界で4940万だとなり、前年同期比で+69.1%となった。

 世界でも第3位のスマートフォンメーカーとして躍進していくなか、2021年の家電業界に「半導体の供給不足」が課題になっている。

 「半導体不足は、スマートフォン業界など多種多様な業界に影響を与えており、多くの企業の意思決定に影響を与えている」とコメントするWang氏は、「世界的な半導体不足の概要」と「シャオミの対応」の2点について説明した。

半導体不足の原因

 半導体不足の原因のひとつは、需要の拡大。「スマホ業界」や「AIや暗号通貨、ブロックチェーン技術を扱う業界」、「IoT業界」、「スマートカーなど自動車業界」の4分野で需要が拡大している。

 たとえば、スマホ業界では、4Gから5Gへの切り替えが2021年から移行ペースが拡大し、“4Gの2倍の生産能力が必要な”5G用のチップセットなど生産能力が以前よりも必要な部品を供給するために、サプライチェーンにストレスが掛かっている。

 また、電気自動車では1台につき1000個以上のチップセットが必要なことから、生産台数の抑制が図られている。

スマートフォン本体のチップの数

コロナによる需要予測の誤り

 この需要の増加になぜ供給が追いつかないのかという問いに対しWang氏は「業界全体がコロナの影響を見誤った」と分析する。

 Wang氏は自社(シャオミ)も含め業界全体が「コロナで経済が悪化し、人の購買力も低下する」と見立てた。しかし、実際は逆で多くのユーザーが在宅勤務に移行し、購入ペースが増加するという結果になった。実際にシャオミで売上が落ち込んだのは2020年の4月までの短期間で収束し、移行急速に販売が回復している。

 長期的に予測していた「需要の減少」を短期的に「供給を増やす」という手当をするのは非常に難しいとWang氏は指摘。チップセットを提供するサプライチェーンは2~3年前から計画を立てて準備しており、ラインを1つ増やすのに2~3億ドル必要とのこと。

自然災害による供給力の低下

 チップセットを供給するサプライチェーンは、米国テキサス州オースティンに集中しているが、2020年にこの場所が大雪に見舞われ、これがサプライチェーンに大きな影響を及ぼした。

 この影響は、これから顕著化するといい、Wang氏は「第3四半期に影響が出てくると見込んでいる」とコメント。

 スマートフォンでは、SoC以外にもさまざまな部分でチップセットが使用されておりCPUやディスプレイ周り、急速充電関係などにも最新のチップセットのニーズが高くなっていると分析しているWang氏だが、「シャオミも実際に試されている。シャオミとしてどう対応するべきか。コアバリューに立ち返って深く考えなければならない」とコメント。シャオミを含めた業界全体で同じ状況だと指摘した。

最新のチップセット不足の対応法

 このチップセットに対応する方法として「使用するチップセットの削減」や「少し古いチップセットを使い『今年のモデルです』として発売する」方法がある。

 また、すでに最新のチップを確保できている“勝ち組企業”では、チップセット不足を利用して従来よりも高値でビジネスを行おうとしている企業もあると指摘する。

シャオミの対応

 シャオミでは、今回発表の「Mi 11 Lite 5G」を実現することは大変困難を伴ったとしながらも、「最良の製品を届ける」という基本的な原則を堅持し、最新のチップセット「Qualcomm Snapdragon 780 5G」を搭載している。

 また、4万3800円という価格にも半導体不足に対しての誠実さを見せているといい、Wang氏は最近の他社製品について、「率直にいうと、他社のミッドレンジモデルは昨年のテクノロジーを使いながらより“高い”値付けをしている。『Mi 11 Lite 5G』は、最新の技術を搭載している」とコメントした。

日本市場投入モデルの選定

シャオミ東アジア地区のゼネラルマネジャーSteven Wang氏

 シャオミはグローバルでハイエンドからエントリーモデルまでさまざまな端末をリリースしている。日本市場に投入するモデルを選定する際のポイントはどのようなものか。

 Wang氏によると、1年先のマーケットの予測を立てて投入モデルを選定するという。

 今回の「Mi 11 Lite 5G」では、1年前に日本市場がどのようになっているかを予測した結果「ハイエンドモデルを投入して(日本ユーザーに)“大きな付加価値”を与えられるかというとそうではない。一方でミッドレンジを見てみると『日本のミッドレンジモデルは、昨年のテクノロジーが使われている』ことに注目しました」とWang氏は説明する。

 ミッドレンジモデルで他社との差別化を図れるということで、最新のチップセットや薄い本体、フレキシブルな有機ELディスプレイを搭載している「Mi 11 Lite 5G」を投入した。この選定方針にはシャオミの「市場に破壊的な影響を与えるようなプロダクトのみを投入して行きたい」との考えに基づいているとしている。

 ちなみに、他メーカーで似たスペックでFeliCa対応の端末が同時期にリリースされている点をWang氏に尋ねたところ、「全くの偶然。FeliCaなどを搭載する場合リリースの約1年前から検討しなければならない」(Wang氏)と回答している。

キャリア版への力の入れ具合

 今回の「Mi 11 Lite 5G」はSIMフリー版の発売となる。同社はキャリア版の端末もあり、たとえば2月にソフトバンクから発売された「Redmi Note 9T」について、「非常に人気のある機種」(Wang氏)と一定の支持を得ている。

 シャオミとして今後キャリア版とSIMフリー版のどちらに力を入れていくかについて、Wang氏は「トリッキーな質問、(日本で)さまざまな新しい政策が導入されており、日本のスマートフォン市場は急速に変化し続けている」とした。

 今回「Mi 11 Lite 5G」をSIMフリー版で発売する背景として、3キャリアの「オンライン専用プラン」の存在を挙げ、「コンシューマーの観点から見ると、コストパフォーマンスの良い『SIMカード(通信契約)』と最新のチップセットなどを備えた『Mi 11 Lite 5G』で最強の組み合わせができる」(Wang氏)とコメントした。