インタビュー

パソコン市場に挑むクアルコム、ミゲル・ヌネス氏が語る今後の展開

 クアルコムは5月、ノートパソコンなどに向けた新型チップセット「Snapdragon 7c Gen2」を発表した。

 これに関連して、クアルコムのパソコン市場への姿勢や今後の展開についてクアルコム ミゲル・ヌネス氏が日本メディアの質疑に応じた。

クアルコム ミゲル・ヌネス氏

7cシリーズの新型が発表

 Snapdragon 7cシリーズの製品としては2019年のデビュー以来のアップデートとなり、クアルコムによればこれまでのエントリークラスのノートパソコンにはなかった先進的なAI技術やカメラ、オーディオといった機能を利用できるとしており、1度の充電で他社製品の2倍ものバッテリーライフ、LTE常時接続機能を利用できるとしている。

 クアルコム シニアバイスプレジデント 兼 モバイル・コンピュート・インフラストラクチャー ジェネラルマネージャーのアレックス・カトゥージアン氏は、「Computex 2021」において、新型コロナ禍におけるパソコンの重要性を説明。

 多くの企業が今後もリモートワークを継続する移行を示し、そうしたスタイルの実現のためにはブロードバンド対応や高性能なカメラ、AI、セキュリティ、オーディオなどの技術が重要という。

 同社ではマイクロソフトをはじめ、ヒューレット・パッカード(HP)、エイサーなどと5G対応パソコンの開発に取り組んでおり「Snapdragon Compute Platform」で5Gへの常時接続に加えて、これまでスマートフォン分野で培ってきた経験をもとに、リモートワークに必要な技術を取り込んだパソコンを実現するとしている。

 Snapdragon 7c/8cによりポートフォリオを拡大できたというヌネス氏。アプリ開発者側の対応に時間がかかったものの、幅広い価格帯でこれまでのパソコンの在り方を変えられるプラットフォームの提供につなげられたと語る。

 アップルも同様にArmでパソコン市場に打って出ているが、これに対してヌネス氏はアップルは高価格帯のみを狙っており、さまざまな価格帯があるWindows製品とは事情が違うと説明。アップルとは異なるアプローチでChrome OSを含む市場全体にソリューションを提供していくという。

 また、Snapdragon 7cと同時に発表された開発者向けキットの「Snapdragon Developer Kit」の価格についてヌネス氏は「非常に安価になる」と語った。

今後のパソコン用Snapdragonラインアップは

 毎年、新製品が発表されるスマートフォン向けチップセットと異なり、パソコン向けSnapdragonは製品のサイクルが長い。ここについて、ヌネス氏はパソコンとスマートフォンの市場環境の違いがあると説明。パソコンのほうが製品の進化のペースがゆっくりと流れていることにあるためという。

 また、マイクロソフトはデュアルスクリーン対応OSの「Windows 10X」の開発中止を発表する一方でデュアルスクリーン搭載のAndroidデバイス「Surface Duo」は継続している。これについてヌネス氏は、これまでフォームファクターの制約として発熱や性能などがあったと語る。ただし、同氏は今後、チップセットの性能が向上し、さまざまなユースケースが増えることでAIやカメラの性能の向上や電源効率の改善が期待でき、新しい形のデバイスの登場が期待できるとした。

 文部科学省推進の「GIGAスクール構想」のもと、シャープではそれに対応する形でSnapdragon 7c搭載のChromebookを発売した。今後、さらに製品の普及を拡大させる策として7c以下のカテゴリーのチップセットを開発する意向はあるのか。

 ヌネス氏は、ユーザー体験とのバランスが重要と思っていると語る。エイサーが教育向けパソコンとしてSnapdragon 7c採用製品を開発しておりJPIKも同様に低価格な製品をリリースしており、低価格帯の製品でもカメラやAIなどでこれまでにない優れた機能を有しているとした上で、サムスン電子も新たに低価格帯の製品を出しており、Snapdragon 7cの競争力は非常に優れていると説明。現状では7cシリーズがパソコン向けにおいては最も廉価な製品であることに変わりないことを示唆した。

Snapdragon Soundへも対応検討

 ヌネス氏は、オーディオの重要性についても言及する。「クアルコムの技術や機能の中でオーディオは非常に重要。オーディオだけでなくカメラも含めてそれらをパソコン分野でも活用している。新型コロナ禍以前はあまり重要視されなかったものの、今では欠かせないもの」とコメント。

 スマートフォン・タブレット向けとして発表された高音質・低遅延技術の「Snapdragon Sound」は今後、パソコン向けのプラットフォームでも対応していく意向を示した。

Arm 64bitでのネイティブ対応に注視

 クアルコム製のプラットフォームは従来のアプリケーションとの互換性の問題があると指摘されている。この問題の解決のためにマイクロソフトでは64bitアプリケーションのエミュレーター(ベータ版)を用意している。

 しかし、クアルコムが目指す方向としてはArm 64bitでのネイティブ対応とヌネス氏。「インテルが基調講演で我々(の互換性問題)を指摘したのは、Snapdragonをライバルとして認識しているからでは」と推測。その上で「カメラ、AIなどこれまでパソコンになかった機能を取り入れて提供することで優れた体験を届けることが重要。今後もArm 64bitネイティブ対応のアプリが発表されていくだろう」とした。

 一例としては、ソフォスが提供するセキュリティソフトが、Arm 64bitネイティブ対応を果たしたことで動作速度が7倍ほどに向上したという。

 加えて、ヌネス氏はバッテリーライフとパフォーマンスのバランスの重要性も指摘する。たとえば、1Wあたりのパフォーマンスを常に考えており、さまざまな最適化やCPUまたはGPUに依存した処理ではなく、コンポーネントコアをきちんと組み合わせてパフォーマンスと電源管理のバランスを取るかが大事という。

 こうした技術はこれまで、クアルコムがスマートフォンで培ってきた経験の中にあり、こうしたところをパソコンに展開していくと語る。さらに同社はモデム分野で世界をリードしてきた。

 新型コロナ禍により、外出機会が減ったことによりモバイル回線が不要なのではないかという考えを持つ人もいるが、むしろ家の中での通信が増えることで、家庭内のWi-Fiの速度が低下、結果的に仕事ではモバイルネットワークにつないでテレビ会議を行うといったケースも多いという。

 こうしたことから、パソコンにおいてもLTEや5Gネットワークに対応することが重要であり、パソコンにとってのこれからの大きな変化となるだろうと語る。また、待機電力をいかに少なくするかが常時接続を実現するかのポイントであるため、重要なポイントであるとした。

今後は5G対応も視野

 今回発表のSnapdragon 7c Gen 2はLTE対応のみで5Gには対応しない。ヌネス氏は、いかに広いマーケットに対応するかがポイントだったためLTE対応としたという。一方でスマートフォンで5G対応が広まっているように、パソコンの世界でもいずれこの流れが波及してくると見ているとした。

 加えて、ゲーム分野については、ゲーミングパソコンのみにフォーカスしているわけではないが、ゲームを含めてさまざまなアプリケーション開発者とコミュニケーションしているという。

 今後、ゲームがクラウド化されていくに従って、常時接続を強みとするSnapdragonにより世界が広がっていくだろうと語った。

【お詫びと訂正】
 記事初出時、Snapdragon 7cの価格について事実と異なる表記がありました。お詫びして訂正いたします。