インタビュー
他社にはない優位性はどこにあるか――技術者が語るソフトバンク 5Gのメリット
2020年6月1日 06:00
今年3月、各キャリアの5Gサービスが続々とスタートを切った。新型コロナウイルスの渦中ということもあり、静かなスタートを切ったという印象は否めないが、新たな時代の幕開けとなったことは間違いない。
従来の4G以上に高い周波数帯を用いる5Gでは、これまで以上に多くの基地局の設置や2社共同での基地局整備など、各社は様々な対応を迫られている。ソフトバンクでは、4G時代から培ってきたMassive-MIMOの技術や多数の基地局サイト数を武器に5G整備を進めているが、果たしてどのようなアドバンテージを秘めているのか。
ソフトバンク モバイルネットワーク本部 執行役員本部長の関和智弘氏によると、ソフトバンクにおける5G基地局の展開におけるキーポイントは3つという。
ソフトバンク 5Gの3つのキーポイント
23万カ所の基地局を有効活用
1つ目に挙げられるのは、23万カ所という他社に比べて圧倒的に多いサイト数(設置場所数)。これは携帯電話以外にもPHSの基地局も含めた数字だ。これらをフルに活用することで、他社にさきがけて早期に5Gの展開をすすめていくという。
基地局間の間隔が狭く、高密度なPHSネットワークとは対照的なワイドエリアのモバイルネットワークの組み合わせにより、都市部では高密度に、郊外ではワイドにという5G時代に求められるネットワークの形をすでに実現できていると関和氏。
PHSの高密度ネットワークの利点を活かし、ソフトバンクでは4GですでにTDDとFDDをミックスしより高速で高品質な通信を利用できる「Hybrid 4G LTE」すでに展開している。
5G時代においては、通信センターに基地局の制御装置を配置し、そこに無線基地局を接続ることで従来よりも高度な基地局制御を可能にする「クラウドRAN」が重要視されている。これを4Gですでに取り入れているソフトバンクは、密接に配置された基地局同士を上手く制御し、快適な通信サービスを早期に提供することに自信を持っていると関和氏は語る。
さらに、Hybrid 4G LTEの運用経験を活かし、既存周波数を5G化することが可能になれば、新周波数とお互いの特徴を補完しあうネットワーク展開ができるという。
23万カ所という数だけがクローズアップされがちになるが、5Gの特徴である高密度なネットワークに加えてワイドエリアを展開できるという条件が揃っており、高速通信とさまざまな場所からも5Gを利用できるのが、真のソフトバンクのネットワークの強みだと関和氏は語る。
Massive-MIMOの経験値
2点目はMassive-MIMOだ。これは複数のアンテナ素子を使って通信するMIMOを発展させたもので、従来よりも圧倒的に多い数のアンテナ素子をひとつの無線基地局の中に納めて必要な場所に必要な電波を発射することができる。
こちらもまた5Gにおいて重要視される技術だ。高い周波数であるがゆえに、飛びにくい5Gでは、ビームフォーミングも合わせて快適な通信を利用するために注目は大きい。ソフトバンクは4Gですでにこれを導入しており、これは同社だけの独自の取り組みだ。
電波が届きやすいところにいる人、届きにくいところにいる人に効率的に電波を発射し、無線のリソース効率を向上、キャパシティアップにつなげられる。ソフトバンクではこれを導入してきた4年間の間でそうした運用の技術力もつけることができたという。
関和氏によると、最大のメリットは、通信速度の向上よりもすべてのユーザーに均一な品質の通信を届けられるところだという。電波が届きづらいところでも、十分な速度で通信できたり、人が多く混雑しているエリアでも通信速度が落ちづらくなるという。
KDDIとのインフラシェアリング
4月にKDDIとの合弁会社である「5G JAPAN」が発足した。これまでの基地局の展開スピードを考えると、最初に人工が集中している都心部から広まり、それ以外の郊外地域は後回しにされる傾向にあった。
5G JAPAN最大のメリットは地方への5G展開スピードが向上することだ。KDDIとのインフラを共有することにより、効率的な展開が可能になるため、これまでよりも早いスピードでの5G展開が予想される。人口カバー率的という観点でも大半をカバーできる90%に達するまで、従来の3G、4Gと比べても非常に短期間での実現が見込めると関和氏。
これら3つを組み合わせることで、他社との差別化を明確にして5Gを展開していけるだろうと関和氏は語る。
現在提供されている5Gは、4Gのネットワークをベースにした「NSA(Non-Stand Alone)」という構成。今年度末には全国47都道府県でのサービス開始を実現し、1万局超の展開を目指しているという。
その後の来年度以降は純粋な5Gの「SA(Stand Alone)」構成の5G展開も進めていく。NSAでは4Gに接続後、5Gに切り替わる形になるが、SAでは当初から5Gに接続されるため、5G本来の高速通信を体験できる。
SAの展開が開始される2021年度には、5G全体の人口カバー率90%超、5万基地局規模のネットワークになるという。ここには5G JAPANでの取り組みも非常に重要なポイントとなってくる。関和氏は地方での共同インフラ整備の重要性を説く。
ソフトバンクでは、今年度中に1万局を超える5G基地局の整備を予定している。計画前倒しで進めていく理由として関和氏は「無線基地局や工事のコストダウンで実現できた」としており、ここには5G JAPANでの取り組みも含めているという。20年度中は準備期間としての意味合いが強く、本格的に5G JAPANが展開するのは21年度に入ってからではないかとした。
低遅延サービスなどを地方でも広めようという動きが4~5年後には来るだろうと関和氏。そうなったときには、5G JAPANが担う役割も当初に比べてどんどん大きくなってくるだろうという。
ミリ波やDSS……新技術はどのように広がっていくのか?
ミリ波の展開
ミリ波の活用については、駅や市街地などユーザーが多く集まるところを中心に考えているという。特性上、障害物を迂回するのが難しく、屋内では使いづらい。よって当初は、渋谷や新宿などに代表される人が多く行き交う場所をメインに据えるという。
現在は、ミリ波自体が世界ではそれほど普及していない。アメリカで一部使用例がある程度だ。こうした状況の中でミリ波対応のスマートフォンがどれほど増えてくるかが、ソフトバンクのミリ波の展開に大きく影響してくるという。
アメリカでは、FWA(固定無線アクセス)のような使い方もあり、それも1つの候補となるかもしれないというが、スマートフォンでの利用も目指していくとした。
DSSで4G周波数を5Gに転用
今夏以降にも日本でも制度化されると見られる「DSS」(Dynamic Spectrum Sharing)。ソフトバンクでもその活用を計画中だ。4Gで使用されている周波数を5Gにも共用するもので、複数の周波数を5G化することを検討しているが、一方で既存の4Gユーザーへの影響も最小限に抑える必要がある。
どのような展開になるかは制度化されていないこともあり、未定としているが関和氏によると、完全に5Gに転用するものとDSSで4Gと共用する周波数が混在する形になるだろうと語る。
DSSによる5G展開は、ソフトバンクが進める5万局の計画の中にも織り込まれており、4G周波数の転用は、5Gを広げていく上で重要なポイントだという。
コロナの影響は?
新型コロナウイルスの影響で、トラフィックは全体の1.2~1.5倍の増加を見せている。こうした影響はネットワーク設計に変化を与えるのだろうか。関和氏によると、たしかに昼間のトラフィックが増えているが、現状でもネットワークが最も混雑する時間帯は夜という。夜間の状況が日中にも再現されているといった具合が現状で、逼迫しているということはないと説明する。
ただし、都心から住宅街にトラフィックの中心が移ると、厳しい部分があるという。現時点ではそういったことはないが、今回の新型コロナウイルスの影響で本当に国民の生活スタイルが変わってくるということがあれば、注意深く見ていく必要があるとした。
基地局整備において新型コロナウイルスの影響を受けているのは全体の1割ほどという。他社では一部に遅れが見られるがソフトバンクの影響は軽微なものに留まっている。
その理由を、関和氏は「そもそも遅れを見越した計画をしている」からだと説明、他社よりも同時並行で工事を進めている数が多いことがポイントになっているのではと指摘する。エリア構築にあたり苦労した経験が多いソフトバンクは、短期間で多数の工事を行う経験が豊富で、支障があったとしても1万局を達成するという動きが、今回に活きているのではないかという。