インタビュー

ドコモから「Magic Leap 1」登場、XRデバイスが示す“スマホの次”とは

 NTTドコモがウェアラブルタイプのXRデバイス「Magic Leap 1」を6月19日に発売する。現実世界にコンピューターグラフィックを重ね合わせる複合現実(Mixed Reality、MR)を楽しめるデバイスだ。5G時代に向けた新デバイスとして提供される「Magic Leap 1」に、ドコモはどんな考えを持って臨むのか。担当者に聞いた。

価格は25万円、まずは法人がメインターゲット

 ドコモオンラインショップでも購入できる「Magic Leap 1」の価格は24万9000円(税抜)。気軽に買える価格帯ではなく、実際に個人で入手する人の数は多くなさそうで、担当者であるNTTドコモのXRビジネス推進担当の齊藤氏は「まずは法人、開発者向けが最初のターゲット」と率直なコメント。

 ただ、もし個人で購入した場合、Magic Leap社が用意するポータルのような場があり、そこから海外で開発されたコンテンツを楽しめるようだ。

 ドコモとしても、全国102カ所のドコモショップで展示し、体験できる準備を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、体験デモはいったん見送り。いくつかイベントも用意していたようだが、こちらも現在は延期しているようだ。

 一方、法人からの引き合いはいくつかあり、商談は進んでいるという。たとえばアミューズメント施設のような場所に導入されれば、一般ユーザーも「Magic Leap 1」を使ったエンターテイメントを楽しめる。ドコモが提供するコンテンツを楽しむ、というよりも、ドコモから法人が「Magic Leap 1」を導入、それをコンシューマーが楽しむ、いわゆるB2B2Cとして、遠くない将来、体験できる機会が創出されそうだ。

3月の発表会で披露されたMagic Leap 1

高い精度、軽量なデバイス

 手ごろな価格で体験しやすい環境が整備されてきたVRデバイスと比べ、MRデバイスはまだまだ一般的ではない。そうした中で、「Magic Leap 1」の利点はどこにあるのか。

 斎藤氏と同じくXRビジネス担当の荒木氏は「一番の特徴は現実との融合。Magic Leap 1は空間認識能力が高い」とコメント。Lightwearと名付けられたウェアラブルグラスを通じて、部屋をスキャンして段差、高さ、奥行きなどを高い精度で認識できる。その空間内で、ユーザーが居場所を変えても周囲をすぐ認識し、コンピューターグラフィックのオブジェクトとすんなり融合でき、どの角度から見ても全て立体的に見える。複数人が同じ仮想空間を体験するということも実現しやすい。

 プライベートでもし使うなら、机の上をフィールドを見立てて、スポーツの試合をこれまでにない視点で観戦しつつ、現実世界に置いてある飲み物を手にする、といった使い方もできる。VRのような仮想空間に加えて、現実世界も見えるからこそできる体験、というわけだ。

 またスマートフォンと違って、かけるという行為もコンテンツを楽しみやすい形。サウンドもあわせて、よりリアルなものを楽しめる点は、ウェアラブルデバイスならではの利点だ。

ドコモが見据える「スマホの次」

 ドコモでは、今春、いよいよ始まった5Gサービスにおける重要な分野のひとつに「XR」を挙げている。そうしたなかで登場する「Magic Leap 1」は、その戦略の象徴的な存在だ。

 Magic Leap 1はWi-Fi対応デバイスだが、荒木氏は「ドコモの強味はネットワーク」とコメント。高速大容量などの特徴を生かすデバイスとして期待をかける。ウェアラブルなXRデバイスを使う習慣もまだまだこれからで、半年、1年といった短期的な視点ではなく長期的な視野で取り組む方針だ。これは、スマートフォンに続き、ネットワークを活用する新たなデバイスとして、「Magic Leap 1」を含むXRデバイスへの期待感の高さを示すものでもある。

 Magic Leapについては、経営に関して不安視する報道もいくつかなされたが、荒木氏によれば「Magic Leap社からも、日本はXR市場として大きく、チャレンジしたいと聞いている。実際に日本法人も立ち上がり、一緒に開発者の開拓や法人向けの提案を進めているという。

 競合他社の中では、たとえばKDDIが「nreal」というウェアラブルグラスタイプのXRデバイスとの連携に取り組む。ソフトバンクも、5Gを活用したVRコンテンツ、サービスを発表した。こうした他社の取り組みについて、斎藤氏は、「業界が盛り上がることは良いこと」とコメント。

 現実世界で楽しむデバイスだけに、新型コロナウイルス感染症がどうしても影響する形になるが、両氏ともに開発者向けの働きかけや、法人向けの取り組みに意欲を示す。筆者自身、3月のNTTドコモの5G発表会で、10分にも満たない時間ながら「シン・ゴジラ」のコンテンツを楽しむ機会を得たが、確かに目前に広がるミニチュアの都市に、仮想空間のゴジラが登場するさまはもっと楽しみたいと感じさせるものだった。「スマホの次」としての存在感がどこまで増すことになるのか、たとえば特定の場所だけで体験できるサービスといった形で、わたしたちも「Magic Leap 1」を通じたXRコンテンツを楽しめる日がそう遠くない日にやってきそう。その日を楽しみに待ちたい。

3月の5G発表会では、東京を模したジオラマを使ったシン・ゴジラのMagic Leap 1向けコンテンツを楽しめるようになっていた