ケータイ用語の基礎知識

第934回:ミリ波とは

 ミリ波とは、電波で波長が1~10ミリメートル、周波数に直すと30~300GHzのものと定義されています。この周波数帯の電波を英語ではEHF(Extremely High Frequency)と呼ばれることもあります。

 前回の本連載で、「5Gで使われる周波数帯は、大きく分けて、FR1(Frequency Range 1) 450~6000Mhz、FR2(Frequency Range 2) 24250~52600MHz(=24.25GHz~52.6GHz)」の2つがあると説明しました。

 「FR2」は今回解説する「ミリ波」を含む……というか、ほぼミリ波帯であると考えてよいでしょう。たとえば、日本では、n257と呼ばれる、26.50~29.50GHzの周波数帯が5Gに使用されます。厳密にはここは30GHz未満ですが、この周波数帯も「ミリ波」帯と呼称することがほとんどです。

日本でのn257の各事業者への周波数割当て状況
周波数社名
27.00GHz~27.40GHz楽天
27.40GHz~27.80GHzNTTドコモ
27.80GHzHz~28.20GHzKDDI(au)
29.10GHzHz~29.50GHzソフトバンク

 上の表のように27.0~28.2、29.1~29.50GHzをNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天に400MHzをずつ割り当てており、それぞれの事業者が1CC(コンポーネントキャリア)で最大400MHz幅までを利用することができるようになっています。ちなみに、n257は韓国なども5Gに採用している周波数帯です。

 なお、n257はより帯域の狭いn258(24.25GHz~27.5GHz・欧州/中国向け)、n261(27.5GHz~28.35GHz・北米向け)などの周波数帯も含んでいます。

 また、米国・中国などではこの他にも、n260(37.0~40GHz)なども新周波数として運用可能になっています。

ミリ波の特長と応用用途

 これまで3Gや4Gで利用されてきた周波数帯に比べて極端に短い5G NRのミリ波帯ですが、特徴としては、従来よりも「光」と同じ性質に近づいてきました。電波一般に言えることですが、波長が短くなればなるほど性質は光と似たものになります。

 ミリ波の特徴としては、「直進性が非常に強い」ことがあります。800MHz・2GHzと建物などの陰を回り込みにくくなってきた電波ですが、26GHzともなると工夫なしには、建物の影にいる人まで電波を届けることはできません。

 また、「水分による減衰が大きい」ことも特徴のひとつです。つまり、遠くなればなるほど空気中の水分によって減衰させられ、遠くまで届きにくくなります。前述の壁による遮蔽や雨が降って視界が悪くなるだけで、通信パフォーマンスが悪化することからこの周波数帯での通信を「Line of Sight(LOS:視界)通信」と呼ぶこともあります。これを屋外などで実際に移動体通信に使うというのはかなり技術的にはチャレンジングなことであると考えられます。

 しかし、技術的には、この周波数帯を使う、ならではのメリットもあります。「指向性、利得の高いアンテナ設計が容易」という特徴があるからです。これは大きなメリットで、電波の位相や振幅制御により、指向性を持たせてビームフォーミングを行うことが可能になります。超多素子アンテナによるMassive MIMOや任意の方向に電波のビームを形成することによるカバレッジの拡大が期待できます。

また、「伝送情報容量が非常に多い」ということも挙げられます。つまり、超高速・大容量通信が実現できます。

 アンテナなどの小型化メリットも1つです。基本的に電波を受ける理想のアンテナの長さは、波長の長さの半分や4分の1という長さと波長の長さに左右されますから、ミリメートル単位の波長の電波を受ける無線機のアンテナはそれだけ短くなるわけです。実際にミリ波用の無線を使う機器のモジュールでは、ワンチップモジュールなどがよく使われています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)