ケータイ用語の基礎知識
第737回:Massive MIMO とは
(2015/12/22 13:13)
Massive MIMO(マッシブ マイモ)は、次世代通信の要素技術で、複数のアンテナを用いる“MIMO”をさらに発展させたものです。Massive MIMOの“Massive”とは、英語で「大規模な」を意味する単語です。
MIMOとは、本連載の「第264回:MIMOとは」で説明したように、複数のアンテナを使ってデータの送受信を行う無線通信技術のことです。2015年現在、携帯電話のデータ通信規格の主流となっているLTEや、商業サービスのLTE-AdvancedやWiMAX 2+、あるいはWi-Fi(無線LAN)規格のIEEE802.11g/n/acで採用され、データ通信を高速化する、要の技術の1つとなっています。
たとえば2×2 MIMOと呼ばれる仕組みでは送信側・受信側とも2本のアンテナを用います。4×4 MIMOではそれぞれ4本を使います。ここまではLTEなどで利用されており、LTE Advancedでは8×8 MIMOという規格もあります。
今回紹介する「Massive MIMO」では、送信用のアンテナ数が劇的に増え、基地局側では数十、あるいは100以上のアンテナを活用することが想定されています。さらにビームフォーミングと呼ばれる、鋭い指向性を持って一定方向に電波を送る技術を組み合わせて、基地局間の干渉を減らしつつ、高速な通信を可能にします。
日本の大手携帯電話会社はMassive MIMOに関する研究を既に進めています。最近では、ソフトバンクグループのWireless City Planning(WCP)が、AXGP方式のMassive MIMO対応基地局を設置し、野外の実環境に近い状態での実証実験を2016年10月まで行うと発表しています(※関連記事)。
ソフトバンクだけではなく、NTTドコモやau(KDDI)も実験を行っています。たとえばドコモでは、2020年ごろの商用化が見込まれる5G(第5世代の携帯電話通信方式)で、「Massive MIMO」などの技術を採用するよう働きかけており、Massive MIMOは次世代の携帯電話の通信技術として利用されるでしょう。
数多くのアンテナでスポット的に電波を届ける
Massive MIMOの特長は、非常に多いアンテナを使うということです。これにより、出力電波の強さや位相(タイミング)を調整し、ピンポイントに電波に強い箇所ができる「空間指向性」を持たせられます。周辺にいる携帯電話のうち、特定の端末だけ信号を強めて、他の端末との干渉を抑えられます。
電波は、電磁波、つまり電場と磁場の変化によって形成される波のことです。波ですから、その伝わり方には山や谷があることになりますが、もし、ここに複数の波が一度に送られてきた場合はその山や谷の高さはどうなるでしょうか? これは“山の高さ・谷の深さが複数の波の高さの足した高さ”になります。複数のアンテナから送られる複数の電波の“山の高さ”や、“山を出すタイミング”をうまく調整してやれば、特定の場所で非常に“高い山になる波”を作り出せるというわけです。
この原理を利用すれば、基地局が携帯電話の位置を把握していると、特定の携帯電話のある位置だけ電波の信号強度を強くできます。これがビームフォーミングです。
特定の場所にだけ信号強度を強くすることができる、ということは、たとえば、同じ空間に複数の基地局があっても、たとえば、ある基地局はこの携帯電話に、別の基地局はまた別の携帯電話にだけ通信、ということが可能になります。同じ周波数帯の電波を使いつつも、同時にそれを複数の端末で使うことができ、周波数帯域の利用効率を劇的に向上できるわけです。
LTE-Advancedの次の世代にあたる5Gでは、端末の通信速度を2010年時点の100倍にあたる「10Gbps以上の通信」を目標にします。これを実現するためには、空間内での周波数帯域の利用効率の向上が必要であり、そのために、このMassive MIMOは非常に有効な技術であると考えられているのです。
高速化通信を実現するためには、Massive MIMOのような技術だけではなく、これまでよりはるかに広い周波数帯を利用する必要もあります。現在、携帯電話には、「プラチナバンド」と呼ばれる800MHz帯や、国内外でLTE用に利用される「IMTコアバンド」の2.1GHzなどが利用されていますが、5Gに向けて、より高い周波数帯が活用されます。Massive MIMOという技術は、この高周波数帯の電波と相性が良いことも特長のひとつに挙げられます。