石川温の「スマホ業界 Watch」

ユーザーに向き直ったドコモ、「DAZN」は料金プラン競争の新局面を開くか

 NTTドコモは4月24日、新料金プラン「ドコモ MAX」などを発表した。詳細はほかの記事に譲るが、発表会でプレゼンを見た瞬間、「ユーザーにキチンと向き合って、ドコモの強みを生かしたプランだな」と感心してしまった。

左からNTTドコモ 齋藤武副社長、DAZN Japan Investment 笹本裕CEO

料金プランはかっこよくなくていい

 正直言って、2年前の「irumo」「eximo」は本当にひどかった。

「ahamo」がヒットしたことで調子に乗ったようで「なんとかmo」にこじつけるカタチで「irumo」「eximo」という名前をつけた。これがユーザーには、そもそも何の名前なのかさっぱり伝わらなかった。「irumo」「eximo」の発表会でプレゼンを見た瞬間からユーザー不在の「ドコモの自己満足」が見え見えで、本当にガッカリさせられたのだった。

eximo/irumo発表時の様子

 しかし、今回の新料金プランは「ドコモ MAX」「ドコモ ポイ活 MAX」「ドコモ ポイ活 20」「ドコモ mini」と、どこから見ても、ドコモの料金プランだということがわかりやすい。料金プランの名称なんて、かっこいい必要なんてない。ダサくてもいいから、わかりやすいほうが重要なのだ。

 「ドコモMAX」は、DAZNが追加料金なしで見放題という点がポイントだ。スポーツなんて興味ない人からみれば「余計なものをつけやがって。DAZNなんていらないから無制限プランをもっと安くしろ」と思うのは当然だ。

 ただ、DAZNを見ている人からすれば、こんなに刺さるプランはないだろう。個人的にはF1が好きで2017年に「DAZN for docomo」が始まったときにはすぐさま飛びついた。月額980円でスポーツコンテンツが大量に見られるなんて、夢の世界だった。しかし、その後、DAZNは値上げを繰り返し、いまでは月額4200円だ。ここまで上がってしまったことで、「解約した」という人も多いだろう。

 DAZNの解約者が増えるということは、プロスポーツ配信を見なくなる人が増えるということだ。ファンが気軽に見られる場所がなくなるということは、結果としてスタジアムに来る客離れも引き起こしかねない。まだ、ほかのスポーツは別で配信されているところもあるため、DAZNを解約しても逃げ道はあるが、全試合を配信するJリーグにとっては死活問題だ。

ドコモとDAZNの双方にメリットか

 2024年6月、NTTドコモの前田義晃社長にインタビューしたことがあった。

 社長に就任したばかりの前田氏はコンテンツやパートナーを開拓してきた経緯がある。いくつかの質問の中で「Jリーグとは関係性を強めており、Jリーグの各チームを応援しようと地元のドコモショップやd払い加盟店と一緒に盛り上げて行きましょうという話になっている」と語っていた。

 NTTドコモは国立競技場の運営事業を手がけている。最近、スポーツやコンサートのイベントではチケットの購入はスマホから行い、チケット自体もQRコードで発券される。スタジアムにいけば、飲食はキャッシュレスで支払える。

 何万人も集まるスタジアムでは快適な通信環境が不可欠だ。まさにスポーツイベントは通信キャリアにとってビジネスチャンスの宝庫でもある。前田社長は「スマートフォンとスポーツ、エンターテインメントは親和性が高い」と語っていた。

 インタビューの際、前田社長がやたらとJリーグを盛り上げたいと語っていたので、終了後「ひょっとしてNTTドコモはJリーグの配信権を購入してドコモの配信サービス『Lemino』で流したりしないのかな」なんて一人で妄想してしまった。

 調べたところ、すでにDAZNがJリーグと国内の契約を2033年まで延長していたため、NTTドコモが横入りする余地はなさそうであった。

 しかし、今回、DAZNをドコモのプランに包含してしまうという、ウルトラCを出してきた。DAZNの契約者が増えれば、それだけJリーグファンが増え、結果として、NTTドコモが手がけるスポーツやエンターテインメント事業が活性化されるというわけだ。前田社長としては、Jリーグを盛り上げるには、まずDAZNをなんとか立て直さなければという危機感があったのだろう。

 DAZNとしても、値上げが続いてユーザー離れが起きていた可能性が極めて高い。とはいえ、値下げできる余裕はないわけで、NTTドコモとの話は「渡りに船」だったのではないだろうか。

ドコモとauのDAZNめぐる戦いに?

 今回、DAZNとNTTドコモでは、単に視聴料を組み込んだ料金プランを提供するだけでなく、「ドコモ MAX」などを契約しているユーザーに対して、スポーツイベントの招待なども計画している。また、dアカウントの会員基盤を生かした、DAZNでの広告配信なども行うようだ。

 DAZNがNTTドコモとガッツリと包括協業契約を締結する一方、気になるのがKDDIとの関係だ。auでも「使い放題MAX+5G/4G DAZNパック」といった料金プランを提供している。DAZNとしては、NTTドコモとの関係を強化するなか、KDDIとは、もはや「さよならau」なのだろうか。

 DAZN Japan Investmentの笹本裕CEOは「KDDIとは有料のバンドルという形になっており、引き続きご一緒させていただく。一方、追加料金ゼロ円のバンドルはドコモのみの取り組みになる」と語った。

 NTTドコモの山本彰宏マーケティング戦略部長は「(auから)かなり来ていただけるのではないか。auだけでなく、他キャリアでも4200円支払っている人もいるし、4200円を支払えずDAZNから離脱している人もいる。そういった人にドコモに来てもらいたい」と意気込む。

 NTTドコモがDAZNを強力にプッシュしていくなか、auからNTTドコモへのユーザーが流れていくことはあるのか。KDDIはどんな対抗策を打ってくるのか。今後、2社とDAZNをめぐる駆け引きが面白くなってきそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。