インタビュー
話題の「公衆電話ガチャ」ついに発売、開発者にこだわりを聞く
2019年12月3日 15:04
2019年夏に発表され、SNSなどで話題を呼んだタカラトミーアーツの「NTT東日本 公衆電話ガチャコレクション」(以下、公衆電話ガチャ)がいよいよ発売される。
「公衆電話ガチャ」は、NTT東日本が制作協力した非常にリアルな公衆電話のミニチュアフィギュア。2019年現在でも設置台数が多く認知度が高い「MC-3P」という緑色の機種から、グレーのデジタル公衆電話「DMC-7」、懐かしの“赤電話”や希少な「デュエットホン」に至るまで、全6種をラインアップする(※関連記事)。
NTT東日本との異例のタッグによる「公衆電話ガチャ」はどのようにして生まれたのか、開発担当のガチャ企画部 加藤しずえ氏に話を聞いた。
見慣れたアイテムを公式フィギュアにする「街角公共物シリーズ」
――本日は取材の機会をいただきありがとうございます。弊誌では普段、スマートフォンや携帯関連のことを中心に取材しているのでなかなかこのような機会はないのですが、実は私もガチャ好きで今回の製品は気になっていました。
加藤氏
最近だと何を買われましたか?
――面白いミニチュアが好きで、信号機のガチャを見かけてつい……
加藤氏
あ、それも私の担当商品です!
――そうなんですか!?
加藤氏
実は「街角公共物シリーズ」という流れがあって、今回の公衆電話ガチャもそのひとつです。第1弾は2016年発売の「郵便局 ガチャコレクション」(※公式サイト)で、日本郵便様と、郵便ポストや配達員のヘルメットなどのミニチュアを作りました。
ガチャは従来パロディー文化としたところもあるので、オフィシャルライセンスで本物の公共物を再現するのはあまり前例がありませんでしたが、郵便局を皮切りに、第2弾は信号機大手の日本信号様とコラボして「日本信号 ミニチュア灯器コレクション」(※公式サイト)を2017年に発売しました。実は信号のガチャは今年9月に再発売したのですが、最近買われましたか?
――そうですね、9月か10月頃だったと思います。ガチャって同じ商品は一度きりというわけではないのですか?
加藤氏
生産にかかる時間やトレンドの移り変わりもあるので、基本的にはおっしゃる通り一度きりですが、異例なヒットがあると再生産をすることがあります。
――なるほど、信号機ガチャもそれだけ反響が大きかったということですか。個人的には、信号機も公衆電話もガチャの題材としてはマニアックなのかなと思っていました。
加藤氏
公衆電話を使ったことがないお子さんも増えていますし、ガチャのモチーフにするにはニーズが少ないかなと私も最初は悩みました。
ですが、NTT東日本様から「災害時のインフラとして、公衆電話のかけ方教室など公衆電話に触ったことのないお子さんに啓蒙活動をしている」ということを知り、そういう社会的な役目がガチャにできるかなというちょっとした使命を感じながら作りました。これが売れるよ、で供給するのではなく、微力ながら社会貢献のお手伝いもできればなという切り口の製品です。
定番の4機種+実物もレアな2機種
――今回の公衆電話ガチャは全6種ですが、モデルにする機種はどう選ばれたのでしょうか?
加藤氏
歴代の出荷台数などの資料をもらって、触れたことのある人、馴染みのある人が多い機種を重点的に選んでいます。
公衆電話に慣れ親しんでいた世代がだいたい30代後半以上で、普段ミニチュアトイを楽しんでいただいている方も30~40代が中心です。当時使っていた方には懐かしく、若い方には公衆電話に触れるきっかけに。精巧さやミニチュアならではのかわいさを味わっていただきたいです。
――馴染みのある機種と考えると、1971年の「新形赤電話機」から2016年の「MC-D8」まで、幅広い世代で見覚えがありそうなラインアップですね。
加藤氏
「MC-3P」(1986年)は一番設置台数が多かった機種で、公衆電話が一番使われていた時代の機種。見覚えがある方も多いでしょう。赤電話を入れたのはシニア層にも懐かしんでもらい、ガチャを手に取るきっかけにしてもらいたいと思っています。
――ガチャでシニア層にも、というのは意外でした。
加藤氏
実は、郵便局のガチャを作った時に、年配の女性の方からご丁寧なお礼の手紙をいただいたんです。その方のお父様が郵便局職員だったそうで、郵便局員のヘルメットなどが父を思い出して懐かしかったです、と。
――ラインアップについての反応はどうでしたか?
加藤氏
実は、夏に公衆電話ガチャを発表した時に、SNSでは「ピンクの電話がない」という声を多数いただきました。学校やお店、病院などで目にする機会が多かった物なので、公衆電話と聞いてピンクの電話を思い出す方が多かったのではないかと思います。
厳密に言うとピンクの電話は一般的な公衆電話とは違うということで(編集部注:特殊簡易公衆電話、店舗向け)、NTT東日本さんと相談して今回のラインアップからは外しました。
――やっぱり、みなさんそれぞれに記憶の中の公衆電話があるのでしょうね。弊誌はモバイル専門のニュースサイトということでちょっと特殊かもしれませんが、データ通信機能のあるグレーのデジタル公衆電話の思い出を書き込んでいる読者さんがちらほらいらっしゃいました。
――デュエットホンと金色の公衆電話機はレアアソートなんですね。
加藤氏
他の4種類と比べると低確率で出てきます。
――確かにどちらもかなり変わった公衆電話で、ガチャのレア、シークレットのようなポジションがしっくり来る気がします。
加藤氏
デュエットホンは全国に数台残っていて、そのうちの1台が川崎の中原区役所にあり、そこでも採寸させていただきました。設置されている電話ボックスもかわいいんですよ。本物と一緒に写真を撮る、“巡礼”を楽しむ方も出てくるのではないでしょうか。郵便局ガチャのときにも、上野のパンダポストで本物とフィギュアを一緒に撮ってくれた方がたくさんいらっしゃいました。
「金色の公衆電話機」は、最初は「へ~、昔そんな公衆電話があったんだ」という感じで、ガチャのシークレット向きだなとラインアップに入れたのですが、ご成婚パレードに合わせたカラーだったと知り、今年は特にタイムリーなアイテムになったと思います。
“緑色”や細部の印刷までこだわった作り込み
――現行の機種はともかく、珍しい機種や古い機種も含まれていて、これだけ精密なフィギュアを作る資料を集めるのは大変ではありませんでしたか?
加藤氏
基本的にはNTT東日本さんの本社で採寸や色合わせをさせてもらいましたが、すべての機種が揃っているわけではありません。許可をもらって実際の公衆電話ボックスにこもって採寸したり、史料館に保存されている貴重な物をお借りしたりと苦労した機種もあります。
――色合わせという話が出ましたが、並んでいるフィギュアを見ると、同じ緑の公衆電話でも「MC-3P」と「MC-D8」は違う色なのですね。旧型の方が明るい色に見えます。
加藤氏
そうなんですよ、現行のほうが少し黄味が強いんです。気付かれないかもしれませんが、こだわっているところです。
――あれっ、カプセルの色も本体に合わせているんですか?
加藤氏
カプセルの色も機種ごとに違うので、出た瞬間にどれが当たったか分かります。筐体をのぞいた時に、「欲しいのがあそこにある!」という楽しみも(笑)。もちろん、カプセルの緑色も2色ありますよ。
広報
通常はピンク、青、赤といったカプセルの基本色があるのですが、今回のように商品の色と合わせたり、あえて1色にする人もいたり、企画担当者によってこだわりと遊びの要素が出るポイントなんです。
――実物は初めて見ましたが、ダイヤル周りの印刷がかなり細かくてリアルですね。細かい文字もしっかり読めます。
加藤氏
8月の発表時点ではまだ完成していなかったのですが、「MC-D8」や「DMC-7」の液晶部分の印刷にはかなりこだわりました。デジタル表示っぽく見えるように、そして液晶を照らすライトの色合いも再現しています。
――高さ5cmほどの手のひらサイズで、実際に受話器を取って操作できるギミックもすごいですね!
加藤氏
街角公共物シリーズでは毎回、本物に近い動作ができると楽しいなと思い、ギミックを入れています。郵便ポストが開いたり、信号機が光ったり。
今回の公衆電話ガチャでは、受話器を取ったり、ダイヤルボタンを押したりと操作を疑似体験できます。受話器のフックやコイン返却口も動きます。ちなみに、赤電話のダイヤルも実際に回せるんですよ。
――実際に操作できるギミックは、やはり冒頭にもあった「公衆電話を知ってもらう」という話に繋がるのでしょうか?
加藤氏
そうですね。ガチャや自動販売機ってまずお金を入れないと始まらないじゃないですか。でも、公衆電話だけは受話器を上げないとお金を入れられない。
身近な機械と順番が逆なので、触ったことがない世代だと、いざ使おうとしても「(受話器を上げずに)お金を入れても硬貨が返ってきてしまってかけられない!」ということもあるそうです。
「まず受話器を上げる」ということを知ってもらえるだけでもけっこう違うんじゃないかと、最低限のかけ方をシミュレーションできるギミックを入れています。
――なるほど。最後にひとつ、加藤さんのお気に入りを教えてください!
加藤氏
デュエットホンはガチャらしくていいなあと思い、気に入っています。3人で話せる珍しい公衆電話なので、実物を見に行って会社に電話してみたとき、会社で電話を受けたスタッフの反応も面白かったです。
――今日はありがとうございました。