石野純也の「スマホとお金」

「2万円還元」が招く“ホッパー”問題 SIM単体キャッシュバックの仕組みと行方

 総務省で開催されている委員会で大手4キャリアが“規制”の必要性を訴えていることもあり、「SIMのみキャッシュバック」がにわかに注目を集めています。SIMのみキャッシュバックとは、端末購入を伴わない回線契約に対して、現金やポイント、割引といった利益提供を行うことを指します。

総務省の委員会で取りざたされたこともあり、SIMのみキャッシュバックが注目を集めている。画像はドコモオンラインストア

 端末の場合、税抜きで8万を超えるもので割引が4万円までと定められていますが、ガイドラインでは、SIMのみのケースも規定されています。

 一方で、現状では1年なり2年なりの期間拘束も基本的にはできないため、キャッシュバック目的で各キャリアを転々と移ることが容易になり、“ホッパー”が問題視されるようになりました。

 ここでは、そんなSIMのみキャッシュバックが登場した背景や、現在主流の方式を改めて解説するとともに、今後、どのような方向性になっていくのかを占っていきます。

SIMロック禁止でキャリア変更が容易に、違約金禁止も背景

 元々のキャッシュバックなり割引なりは、端末購入を伴うのが一般的でした。これは、ケータイやスマホにSIMロックがかかっていた影響が大きいと言えるでしょう。キャリアを移るには、端末ごと買い替えなければならなかったからです。キャッシュバックやMNPでの割引は、その負担を軽減するために生まれた特典という側面があります。

 一方で21年に総務省でSIMロックが原則禁止され、状況は変わってきています。今では、キャリアが販売するスマホにはSIMロックがかかっておらず、SIMカードを入れ替えるだけで別のキャリアで利用することが可能になりました。対応周波数に差分があるなどの障壁も、徐々になくなりつつあります。

時期によって少々異なるが、約4年半前にSIMロックが原則禁止になり、以降に発売された端末ではロック解除不要で他社のSIMカード/eSIMを読み込むことができる

 また、政府がeSIMの普及を後押ししたこともあり、乗り換えはより簡単になっています。特にSIMのみ契約の場合、キャリアのオンラインストアに行き、MNPの手続きをするだけ。

 あとはプロファイルを端末にダウンロードすれば使い始めることができます。手元の端末そのままでキャリアを移るハードルは、以前よりかなり低くなっていると言えます。

SIMロックがなくなり、かつeSIMが広がったことで、各社ともより手軽にキャリアを移れる手法としてSIMのみでのMNPを訴求するようになった。特に楽天モバイルやオンライン専用ブランドなどが、こうした打ち出しを強めている

 このような背景があり、各キャリアとも、SIMのみ契約をアピールするようになってきました。ここでユーザーを引き付けるためのキャンペーンとして展開されているのが、SIMのみキャッシュバックです。

 キャリアにとっては、端末割引より提供額を低く抑えることができるのがメリット。端末販売をしないため、手軽にユーザーを獲得できる手段になっています。

 ただ、ガイドラインでは同時に期間拘束も禁止されており、現在では、違約金の上限が1000円もしくは1カ月分の料金の低い方と定められています。これを受け、各社とも2年縛りのようなものはおおむね撤廃しています。

 SIMのみキャッシュバックをもらい、すぐに逃げてまた別のキャリアでキャッシュバックを受けることが可能な仕組みになってしまっています。冒頭で述べたような規制を求められているのは、そのためです。

長期契約自体は認められている一方で、その違約金が限りなく低い水準に定められていることから、各社ともこれを廃止した。結果として、キャッシュバックをもらいながらキャリアを渡り歩くホッパーを防げなくなっている

SIMのみの上限は2万円、各社ポイントで付与も額には差も

 冒頭で述べたように、SIMのみキャッシュバックの上限は端末割引より低く、2万円までと定められています。額で言えば、2万円のエントリーモデルの割引上限と同じ。ユーザー視点では、端末を無料でもらえない代わりに自ら端末を持ち込み、そのぶん、キャッシュバックを受けているとも言えます。

 キャッシュバックと言っても、主流になっている還元方法は、各社の経済圏に紐づいたポイント。NTTドコモであればdポイント、KDDIであればau PAY残高、ソフトバンクであればPayPayポイント、楽天モバイルであれば楽天ポイントといった具合で、いわゆる“現ナマ”をポンと渡すケースは少なくなっています。

各社とも、自社の経済圏に紐づいたポイントで還元している。画像はPayPayポイントで還元するソフトバンク。そのため、厳密にはキャッシュバックではなく、ポイントバックと言える

 とは言え、それぞれのポイントは各社の「何とかPay」を使うことで、あたかも現金のように利用できます。現金に比べると利用できる店舗は限定されるものの、それに限りなく近い形で利用できるポイントと言えるかもしれません。オンラインショップなどの決済に対応している点では、一部、現金以上の使い勝手も実現しています。

 額は時期によっても変動しますが、おおむね1万ポイントから上限いっぱいの2万ポイントが多くなっています。受け取れる金額は、契約する料金プランによって左右されます。一般論としては、月額料金の高いものほど、もらえるポイントが多くなります。

 また、純粋な新規契約よりも、MNPにキャッシュバックをつけているキャリアも多いと言えます。こうした傾向は、4社共通です。

MNPは1万ポイント前後から上限いっぱいの2万ポイントが主流。画像の楽天モバイルのように、純粋な新規契約は低く設定されているケースが多い
複数の料金プランがあるキャリアの場合、低い金額のものはポイント還元も少なめになるケースもある。画像はドコモだが、上限いっぱいのdポイントをもらうには、MNPかつドコモMAXなどの契約が必要

 また、MVNOもSIMのみでキャッシュバックしているケースがあります。以下はIIJmioの回線をビックカメラブランドで提供しているBIC SIMのページ。こちらでは、端末割引かビックカメラのポイントでの還元を選択できるようになっています。SIMのみキャッシュバックは大手キャリアだけの特権ではないというわけです。

大手キャリアだけでなく、MVNOがSIMのみキャッシュバックを実施しているケースも。画像はIIJmioの回線を提供するBIC SIM

一括付与だけでなく分割ポイントバックも、規制見直しの議論も

 一方で、特典付与の仕方はキャリアによってまちまち。契約の翌々月に一括ですべてのポイントを付与するところもあれば、トータルでのポイントを3カ月程度に渡って付与するところもあります。

 以下は、ドコモと楽天モバイルの場合。ドコモは、開通の翌々月に、指定した額のdポイントをまとめて付与する形になっています。

ドコモの還元スケジュール。回線開通の翌々月と定められている。

 これに対し、楽天モバイルは条件達成の翌々月から、3回に渡ってポイント還元する形を取っています。条件をすべて契約直後に満たしたとしても、すべてのポイントを受け取れるのは5カ月後ということになります。分割でのポイント付与は、その間の解約を抑止する効果があります。ユーザーにとって、損になってしまうからです。

これに対し、楽天モバイルは分割でポイントを付与していく方式を取る

 では、1年に渡ってポイントを付与し続ければ、ホッパーのような行為はできなくなるのでは……と思われるかもしれませんが、現状のガイドラインでは、そこまでの分割は、期間拘束と同等と見なされるおそれがあります。ポイント分割で実質的な縛りになることが、許容されていないと言えるでしょう。

 ガイドラインでは、割引の上限の期間が6カ月となっており、これを超えるといわゆる縛りと見なされます。楽天モバイルのポイント分割払いは、これに則って比較的ギリギリの期間を設定していると言えるでしょう。ただ、料金が安いキャリアだと、これでもSIMのみキャッシュバックを十分回収できないまま、解約されてしまうリスクがあります。

ガイドラインには、継続利用を条件としないための期間が6カ月と定められている。これを超えると、縛りと見なされてしまうということだ

 各社が総務省でSIMのみキャッシュバックへの規制を求めているのは、そのためです。額を減らす案や、1年程度に渡る分割払いを認める案、さらには、契約から一定期間経過後に支払う案など、現状ではさまざまなケースをキャリア側から提案している段階。こうした意見が通れば、SIMのみキャッシュバックの形が変わっていく可能性もありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya