石野純也の「スマホとお金」
スマホ料金の競争ふたたび過熱!? 次の注目「お試し割」のしくみとは
2024年12月26日 00:00
12月26日に「電気通信事業法第27条の3等の運用に関するガイドライン」が改正されました。前回、本連載で示したとおり、改定ガイドラインでは端末購入プログラムで免除する残価の算定方法が厳格化されるのがその主な特徴。リユースモバイル・ジャパン(RMJ)の平均値を利用することになり、高めの残価をつけるのが難しくなりました。これにより、一部キャリアでは端末の実質価格が上がってしまう懸念があります。
一方、あたかも“アメとムチ”かのように、緩和される規制もあります。ミリ波対応端末の端末購入補助緩和は、その1つ。ミリ波普及のため、これを利用できる端末は割引の上限が2万2000円拡大します。 もう1つ新たに解禁されるのが、「お試し割」 です。これによって、キャリア各社が数カ月間、無料で通信サービスを提供する可能性が見えてきました。その中身を解説していきます。
NGだった新規契約の料金値引きがガイドライン改正で解禁に
主に端末割引の規制が注目されるガイドラインですが、実際には端末に関してだけでなく、長期契約者の優遇や定期契約時の違約金、さらには通信料金の割引の仕方まで、幅広い規制が事細かに記載されています。競争を促進しつつ、過度な端末割引や“キャッシュバック合戦”にならないよう、アクセルとブレーキを踏み分けているような内容になっていると言えるでしょう。料金割引の規制に関しては、どちらかと言えば競争の公平性を担保するためのブレーキに近い内容です。
12月25日までのガイドラインでは、端末を購入しない新規契約で、かつ継続利用にあたらない場合、2万2000円のキャッシュバックやポイントバックがルールに抵触する と規定されています。MNPや新規契約でSIMのみ契約をするとポイントがもらえるキャンペーンは各社が実施していますが、これらも、上記のルールの範囲内で行われています。
ただし、OKなのはあくまでキャッシュバックやポイントバックといった一時的なユーザー還元。通信料金の直接値引きは、「継続利用」の縛りにもなるため、別途規制されていました。そのルールは25日までのガイドラインだと、「禁止の対象となる利益の提供を行う『条件』」の「ウ」に記載されています。「『新規契約』を条件として行う利益の提供については、通信料金の割引を行うものであれば、法第29条第1項第5号に規定する要件に該当する可能性があり」という部分がそれです。
この規制が、26日からのガイドラインで緩和されました。上記の記載はそのままですが、例外として、注釈で特定の条件を満たす場合はこの要件に該当しない旨が追記されることになりました。もはや本文のように長く、細かな条件が記載された注釈ですが、これはガイドラインの原則は維持しつつ、お試し割だけを追加で導入したいという思惑によるもの。割引競争になることは避けたいものの、競争促進のためにやむなく導入した仕組みであることがうかがえます。
実際、この お試し割は総務省の検討会で、楽天モバイルが提案した仕組みがベース になっています。楽天モバイルは、新規参入から日が浅いため、大手3社と比べ、シェアには大きな差があります。にも関わらず、自身で基地局などの設備を持つMNOとして、ドコモ、KDDI、ソフトバンクと同じ規制が課されています。これは競争環境として、イコールフッティングではないのでは……というのが同社の主張でした。
とは言え、MVNOと比較すると楽天モバイルの方が規模的に有利であることは確か。そこで、規制の対象事業者であることは変えずに、部分的に同社の主張を認める結果になりました。一方で、規制の対象事業者を定める枠組みはそのまま残されているため、このお試し割は楽天モバイルだけでなく、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社にも認められる形になりました。楽天モバイルが導入したお試し割に、3社が対抗することも可能になったというわけです。
計2万2000円で最大6カ月まで可能なお試し割、1人1回ずつの制限も
では、具体的にどのような条件であればお試し割として、新規契約に伴う料金割引が認められるのでしょうか。ガイドラインでは、先に挙げた注釈部分に、その条件がすべて記載されています。 1つ目は、割引の条件が税抜きで2万円に収まること 。この金額は、キャッシュバックやポイント還元などと同じ。料金割引だからと言って、特に増額なり減額なりはされていません。
2つ目の条件が割引期間で、その上限は6カ月 に定められています。例えば、3カ月間でも料金が2万2000円を超えてしまうのはNGですし、毎月2000円程度の料金割引を11カ月続けたりすることもできません。この条件から逆算すると、1カ月あたり最大で3666円までの割引が可能になります。
最後の条件が、同一事業者で1人のユーザーに対して1回しか適用してはならない というものです。これは、サブブランドも含めてです。例えば、ソフトバンクで6カ月間お試ししたあと、ワイモバイルに移ってさらに6カ月間使い、最後にLINEMOでもう6カ月無料にするといったことはできません。
契約者の本人確認をしたうえで1回までの判定を厳密に行うことが求められているため、いったん割引を受け切ったあと、別のキャリアに転出し、再度戻ってきたときに割引を受けるといった使い方もできないようになっています。お試し可能なのは、あくまで1社につき1回。より具体的に言えば、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルでそれぞれ1回ずつという形になります。
とは言え、それぞれで6カ月の割引を受けていけば、その期間は2年間にもおよびます。その合計額は8万8000円です。ポイント還元やキャッシュバックとの違いは、ユーザー側の持ち出しがないこと。お金が出ていかないという点では資金繰りにも優しい仕組みで、端末の購入などの条件もないため、気軽に利用できそうです。あまりにもユーザーに有利な制度のため、 6カ月おきにキャリアを変える“渡り鳥”のようなユーザーが増える可能性 もありそうです。
Rakuten最強プランやahamoなどが半年無料に? 楽天モバイルは引き金を引くか
計2万2000円で最大6カ月までの割引が可能というのは、絶妙な金額と言えます。先に挙げたように、1カ月あたりの金額が最大3666円になるからです。楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」の場合、20GBを超えたデータ容量無制限の金額は各種割引適用前で3278円。 実際にいくら割引するかはキャリアの裁量次第 ですが、ガイドライン上は、6カ月間、料金を丸々無料にすることも可能になっています。
楽天モバイルが言い出しっぺで、金額の上限もRakuten最強プランに近いとなれば、同社がこの仕組みを使ってこない理由はありません。同社は現在、MNPで新規契約したユーザーに1万ポイントを還元するキャンペーンや、他のユーザーからの紹介でMNPしたユーザーに1万3000ポイントを還元するキャンペーンを実施していますが、どこかのタイミングでこれをお試し割に切り替えてくる可能性は高いと言えるでしょう。
他社の場合、メインブランドだとお試し割を使っても料金を引ききれません。3666円割引でも額としては大きいものの、「6カ月間無料でデータ通信使い放題」とうたえるインパクトにはかないません。裏を返せば、無料をうたうためには、比較的料金の安いサブブランドやオンライン専用ブランドなどでお試し割を導入する必要があります。SIMのみ契約が多いという意味でも、サブブランドやオンライン専用ブランドの方がお試し割には向いていると言えるでしょう。
例えば、ahamoの料金は30GBで2970円、UQ mobileの「コミコミプラン+」は33GBで3278円です。ソフトバンクもLINEMOの「LINEMOベストプランV」を、30GB、2970円で提供しています。いずれの料金プランも、お試し割の1カ月ぶんの範囲内。対抗措置を取らなければやられっぱなしになってしまうおそれもあるため、 どこか1社が導入したのをきっかけに、各社が一斉導入する可能性もある と見ています。言い出しっぺかつ自ら仕掛けるメリットが大きいのは楽天モバイルのため、同社の動きには要注目です。
もっとも、ガイドラインはあくまで上限を定めているだけにすぎません。実際のキャンペーンを決めるのは各キャリア。割引額や割引期間は、懐事情にも左右されます。例えば現状のポイントバックと同じ1万円程度の割引で十分効果があるとなれば、無料にする期間が3カ月になる可能性もあります。また、無料期間終了後にユーザーを取り戻せればいいと考え、楽天モバイルに対抗する各キャリアの割引期間がそれよりも短くなることもありえる話です。とは言え、制度上、このような割引ができるようになったことも事実。少なくとも、SIMのみ契約による流動性が高まることは間違いないでしょう。