法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

楽天モバイル「Rakuten UN-LIMIT」の挑戦はモバイル業界を変えられるか?

 3月3日、かねてから予告されていた楽天モバイル(MNO)の料金プランやサービスなどが発表された。料金プランは月額2980円の「Rakuten UN-LIMIT」の1つだけに限り、同社ネットワーク内であれば、データ通信量を無制限に設定するなど、思い切った内容で注目を集めた。かねてから「携帯電話業界の民主化」を掲げてきた三木谷社長率いる楽天モバイルの挑戦は、業界を変えることができるだろうか。

予想通りの月額2980円

 2018年4月に1.7GHz帯の周波数割り当てを受け、昨年10月からサービス開始を予定していた楽天モバイル(MNO)。ところが、基地局整備などの遅れから、昨年10月に5000人を対象にした「無料サポータープログラム」に切り替え、約半年間、実際のユーザーが利用する環境でテストを重ねてきた。今年2月には無料サポータープログラムの対象を2万人、追加することを発表したが、わずか数時間で目標に達するなど、ユーザーの期待値もかなり高まってきていた。

 そして、3月3日。いよいよ正式な商用サービスへ向け、料金プランとサービスなどが発表された。当初は都内で発表イベントを開催する予定でいたが、残念ながら、新型コロナウイルスの影響を考慮し、ストリーミング配信で提供されることになった。発表会後の質疑応答はブラウザのフォームに内容を入力し、ピックアップされた質問が会場で読み上げられて、登壇者が答えるというスタイルなど、今までにない異例の形で発表イベントが行なわれた。

 今回、発表された内容については、本誌速報記事を参照していただきたいが、全体的に見ると、予想された範囲の内容と予想を上回る内容があったと言えそうだ。

 まず、もっとも注目度の高い料金プランの内容については、前回の本コラムで5G全般の話題を整理して、取り上げた際、「楽天モバイル(MNO)の新料金プランは月額2980円で100GBくらいが目安になると見る向きが多い」と説明していたが、月額料金はその通りの金額に落ち着いた。質疑応答では楽天モバイル 代表取締役社長の山田善久氏が「経緯はいろいろある」と答えていたが、楽天モバイル(MVNO)で提供されている料金プランが月額2980円(割引前)であり、これよりも高ければ、MVNOで契約するユーザーに対して、移行を促すことは難しく、将来的な値下げの余地を考えたとしても2980円は妥当な設定だったと言えるだろう。

 この2980円という月額料金について、一部のメディアでは「大手3社の半額」といった表現で伝え、「4割下げられる余地がある」発言で、携帯電話料金の値下げ騒動の口火を切った菅官房長官も3月3日午後の会見において、「今般、楽天モバイルが発表した料金は、一昨年の時点で大手携帯電話事業者の料金水準の半額以下の水準であり、海外事業者と比べても相当に安い水準になっているのではないかと思います。」と発言するなど、歓迎する意向を見せている。

 しかし、楽天モバイル(MNO)が発表した「2980円」という金額は、あくまでも設定された料金プランに過ぎず、後述するエリアなどの内容を鑑みると、本当に割安と言えるかどうかは判断が難しいというのが実状だ。しかし、そういった内容を踏まえず、安易に「安い」と表現してしまうのはいかがなものだろうか。もし、金額だけで比較するのであれば、すでにMVNO各社は何年もの間、2000円を切る料金プランを提示しており、そちらの方がはるかに割安なのだが……。こうした表面的な判断だけで、通信料金が評価されてきたからこそ、ここ数年の混乱を生み出していることに気づくべきだ。

予想を超えた無制限

 予想の範囲内だった料金プランの2980円という設定額に対し、予想を超えた内容とも言えるのが料金プランが1つであること、そして、データ通信量の上限や国内通話が「無制限」であることだろう。

 まず、料金プランについてだが、携帯電話サービスは当然のことながら、ユーザーによって、使い方が異なるため、これまでの主要3社ではそれぞれのスタイルに合った料金プランが提案されてきた。料金プランが1つしかないということは、最大公約数的なアプローチになり、幅広いユーザーの細かいニーズに応えられないという見方をされてしまいそうだが、裏を返せば、ユーザーが自分の使い方と料金プランの適合性を気にする必要がなく、エリアやサービスなど、料金以外の部分で楽天モバイルの可否を判断できることを意味する。同時に、月々の料金が変動する要素のひとつであるデータ通信量や国内の音声通話は、エリアや接続方法での制限があるものの、実質的に無制限となるため、月々の支払い額が2980円よりも大幅に増えてしまう心配はほぼない。つまり、使おうが、使うまいが、月額料金は大きく変わらないため、ユーザーとしても支払い面で「この料金プランは損をしているのではないか?」といった不安を持つ必要がないわけだ。こうした楽天モバイル(MNO)のアプローチは、ある意味、既存の主要3社に対するアンチテーゼを示したとも言えそうだ。

 一方、「データ通信量無制限」については、ちょっと判断が難しいところだ。今回、発表された「Rakuten UN-LIMIT」でデータ通信が「完全データ使い放題」とされるのは「楽天基地局に接続時」、つまり、楽天モバイル(MNO)が設置した基地局によって構成されるエリアに限定される。同社ネットワークのエリアから外れ、ローミングパートナーであるauのエリアで接続した場合は、月々のデータ容量(データ通信量)が最大2GBに制限されてしまうわけだ。2GBを超えた場合は通信速度が最大128kbpsに制限され、通常速度に戻すためのデータ容量の追加は、1GBあたり500円で購入しなければならない。auのデータチャージの「1GBあたり1000円」に比べれば、割安になるものの、ローミングエリアばかりで利用していれば、せっかくの2980円という割安な料金設定もどんどん高くなってしまう。

国内の音声通話はRakuten Link発信時のみかけ放題

 そして、3つめの「無制限」とも言える国内通話の「通話かけ放題」については、「Rakuten Link」と呼ばれるアプリを使って発信した場合のみ、適用される。発信先は楽天モバイル(MNO)の契約者だけでなく、他の携帯電話会社の回線や固定電話などもかけ放題の対象になる。エリアについては楽天モバイル(MNO)のエリアとローミング先のauのエリアのどちらで発信してもかけ放題であることには変わりない。ただし、「0180」や「0570」などの相手先に対しては、いずれのエリアでも別途、通話料が発生する。Rakuten Linkではなく、端末の電話アプリで発信した場合も「30秒20円」の通話料が発生する。ちなみに、国内から海外にかけた場合は相手先の国と地域によって、通話料が課金されるが、月額980円の「国際通話かけ放題」を契約することで、海外宛の発信は話し放題になる。海外から国内については国内通話同様、Rakuten Linkでの発信でかけ放題の対象になる。SMSについては国内外ともに使い放題となっている。

 では、そのRakuten Linkでの通話がどの程度のものなのかが気になるところだが、実はRakuten Linkは今年2月、無料サポータープログラムが2万人、追加された段階でアプリが公開され、利用が始まったばかりだ。Rakuten Linkは国内の主要3社が提供する「+メッセージ」にも採用されている「RCS(Rich Communication Services)」の技術を使い、音声通話やメッセージをやり取りできるアプリになる。音声通話は通常の携帯電話回線の音声通話に比べ、音質がやや劣るものの、LINEやメッセージアプリの通話のように途切れたり、遅延が発生することはあまりなく、安定した通話ができる。筆者は国内で数回、試した後、中止になったMWC Barcelonaの日程消化のため、スペイン・バルセロナに渡航した際、編集部と打ち合わせなどで1時間以上、通話で利用したが、特に大きな問題もなく、通話をすることができた。ただし、Rakuten Linkのユーザー同士で、間近で話してみると、実は遅延が起きているものの、それを体感させないような処理をしていることがうかがえる。

 実用面で考えると、通話の度にRakuten Linkアプリを起動して、発信する手間があり、連絡先なども端末から読み込む形になっていながら、うまく連動しないケースも見受けられるため、まだまだアプリとしてのブラッシュアップが必要な印象は残る。とは言え、追加のオプション契約などは必要なく、国内通話はかけ放題となるメリットは音声通話が多いユーザーにとって、かなりメリットと言えそうだ。

カギを握るエリア展開

 音声通話については国内通話がかけ放題で利用できるが、そうなってくると、最終的に楽天モバイル(MNO)を使ううえでカギを握るのは、データ通信の環境を大きく左右するエリアだ。前述のように、同社は昨年、基地局整備が順調に進まなかったため、急遽、無料サポータープログラムという形でサービスを開始することになった。筆者は昨年10月の段階で、無料サポータープログラムに当選したため、都内を中心に楽天モバイル(MNO)の回線を利用してきた。当初、穴だらけに感じられたエリアも徐々に充実し、都内の移動であれば、最近は楽天モバイル(MNO)のエリアのみで利用できることがほとんどとなっている。ただし、これは筆者が主にクルマで移動しているためで、電車などで移動することになると、どうしてもローミング先のauのネットワークにつながることが避けられない。なかでも地下鉄や地下街についてはローミングに頼り切りの状態で、東京、大阪、名古屋の地下鉄などを使って通勤するようなユーザーは、それだけで前述の2GBを使い切ってしまう可能性が十分に考えられる。たとえば、編集部にもっとも近い東京メトロの神保町駅はauのローミングエリアでつながり、出口から地上に出る数メートル手前で、楽天モバイル(MNO)のネットワークに切り替わるような状態だ。

 また、今回の発表では関東の神奈川県や埼玉県、関西の京都府や兵庫県などの近隣の府県にもエリアが拡大しつつあることが明らかにされたが、楽天モバイル(MNO)が公開したエリアマップを見ると、神奈川県方面は東名高速や第三京浜、東海道線や湘南新宿ラインのいずれも神奈川県に入って、数キロ程度で、auのローミングに切り替わるため、まだまだエリア展開は不十分な段階にある。当初に比べ、かなりエリア展開がスピードアップしたことは確かだろうが、やはり、主要3社が俗に言われる「プラチナバンド」で広い地域をカバーしつつ、他の周波数帯域で利用者の多い場所を補完するようなエリア構成している状況に比べると、1.7GHz帯のみで構成する楽天モバイル(MNO)のエリア展開はとても太刀打ちできないというのが実状だろう。

 これらの状況を鑑みると、主要3社の契約から楽天モバイル(MNO)に乗り換えて、同じように利用することは、ほぼ不可能と言え、乗り換えるにはリスクが大きいと言えそうだ。とは言え、楽天モバイル(MNO)は1年間、無料で利用できるため、東名阪など、当初から提供されていたエリアのユーザーは、2回線目として、楽天モバイル(MNO)を契約し、エリアの展開を見ながら、最終的な移行を検討していくのが賢明な判断と言えそうだ。

 ちなみに、今回の発表イベントでは「他社は経験則か何かに基づいて、基地局の設置場所を決めているようだが、楽天はAIを活用することで、効率的にエリアを展開できる」といった主旨の発言もあったが、主要3社はかなり緻密な設計によって、基地局を配備し、エリアを構成しているのが実状だ。まるでその発言に反論するかのようなタイミングで、NTTドコモは通信品質の最適化にエリクソン・ジャパンと共同で開発したAIを導入したという発表を行なった。

 楽天モバイル(MNO)としては自社の優位性を訴えたいのだろうが、まるで他社が思い付きのようにエリアを展開しているように揶揄するのは、同じ携帯電話事業を展開する企業として、かなり軽率な発言と言わざるを得ない。逆に言えば、こうした実状を踏まえないような発言がくり返され、不十分な説明がくり返されてきたからこそ、現在の楽天モバイル(MNO)に対する不信感が生まれていることをもう一度、経営陣はよく考えるべきだろう。

エリア展開の見込み

 では、いつ頃になれば、ある程度、利用できるエリアが拡がってくるのだろうか。主要3社並みになるには追加の周波数割り当てなども含め、おそらく十年以上の歳月が必要になるだろうが、主要3社と同じレベルとまでいかないまでも都市部を中心に、ローミング先への接続もかなり少なくなるレベルまでエリアを展開できるには、おそらく3年くらいがひとつの目安になりそうだ。

 過去の例を振り返ってみると、2005年11月に周波数の割り当てを受けたイー・モバイル(割り当て時はイー・アクセス、現在はソフトバンクが承継)は2007年3月にデータ通信サービス、2008年3月に音声通話サービスを開始したが、当初、音声通話サービスはNTTドコモのFOMA(W-CDMA)にローミングする形で提供された。この音声通話のローミングが終了したのは2010年10月で、2年半ほど、NTTドコモにローミングを続けたことになる。

 今回の楽天モバイル(MNO)は提供するサービスがデータ通信のみで、音声通話はVoLTE、もしくはRakuten Linkの音声通話を利用するため、少し事情が異なるが、順調にエリア展開が進めば、2022年から2023年頃にはある程度、利用できるエリアにはメドが立つのではないかと推測される。ちなみに、今回の発表イベントの質疑応答に登壇した楽天モバイル 取締役兼CFOの廣瀬研二氏が収益黒字化の目安として挙げた3年とほぼ同じ時期になるという見立てだ。

廣瀬氏

 また、次に触れる収益面を考えてもエリア展開は、できるだけ急ぎたいというのが楽天モバイル(MNO)の本音だろう。エリアを拡大するには、当然のことながら、基地局の設置場所の確保を含め、多大なコストがかかる。かつてのイー・モバイルでも明らかになったように、後発の事業者の方が最新の設備が利用できるというメリットがあるものの、そのアドバンテージは数年で挽回されてしまう可能性が高い。エリア拡大に注力せず、ローミングに頼るばかりでは収益を増やすことはできない。同時に、今回の発表で明らかになった同社のMVNOサービスの新規受付終了に伴い、既存の楽天モバイル(MVNO)ユーザーに移行を促していかなければならず、そのためにもエリア拡大は急務となっている。

 これらのことを考慮すると、「3年で黒字化」という回答は、メディアやユーザーに対しての答えとしてだけでなく、社内やグループ内に対しても「3年で黒字化するんだ」という強い意志を伝えたかった面もあると言えそうだ。

1年間無料で収益は黒字化できるのか?

 さて、財務的な話が出たところで、ひとつ気になるのは、楽天モバイル(MNO)が現実的にどういう形で黒字化を目指すのか、本当に黒字化できるのかという点だろう。

 ユーザーとしてはとにかく使えるエリアが拡がり、料金が安ければ、それで良しとしたいところだが、携帯電話サービスに限らず、どんなサービスにしてもきちんと収益の黒字化が見込めなければ、その企業やサービスを利用するのはリスクがある。ましてや、携帯電話回線のようなライフラインともなれば、事業としての信頼性は重要なファクターになる。

 特に、楽天モバイル(MNO)については、主要3社に比べ、月額料金が2980円と割安なうえ、当初の1年間は無料でサービスを提供するため、収益がまったく期待できない。無料サポータープログラムの出費を無視したとしても今回の300万人を対象にした1年無料は、単純計算で月89億4000万円もの売り上げを捨てることを意味する。仮に、予定通り、2年目から有料化に切り替えたとしてもその段階でやめてしまう契約者が一定数、いることも予想されるため、本当に3年で黒字化ができるほど、順調に収益を上げられるのかは疑問が残る。

 その答えはまだ見えていないが、ひとつカギを握るのは、今年6月にサービス開始が予定されている5Gサービスにありそうだ。楽天モバイル(MNO)は当初から5Gへの移行を考慮し、世界初の「完全仮想化ネットワーク」を構築したとしている。無料サービス提供中に、何度かネットワークのトラブルを起こすなど、安定性には疑問点を持つ声も少なくないが、5Gへの移行、あるいはNSAからSAへの移行という点については、設計や設備が新しい分、主要3社よりも早く実現できる可能性が高い。もし、これが可能になれば、5Gサービスで期待されているネットワークスライシングなどのビジネスを展開しやすくなり、企業向けのサービスなどで、主要3社に先んじることができるという見方もある。

 5Gサービス全盛の時代になると、携帯電話サービスはスマートフォンや携帯電話で利用するためのものではなくなり、多様な活用が可能になるとされているが、主要3社が携帯電話サービスから金融やコマースなど、他のジャンルへ展開を拡げて行くのに対し、楽天グループは金融やコマースなどを持った立場から、携帯電話サービスに挑んでいる。楽天モバイルや楽天グループがどのように自らのリソースを活かし、事業を展開していくのか、ユーザーに対し、どんな姿勢でサービスを提供していくのか、それに対し、消費者がどのように評価を下していくのかなど、今後の展開をじっくりと見守る必要がありそうだ。