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【第1018回】モバイルバッテリーで「やってはいけないこと」とは、発火防ぐ重要知識

 2025年7月、JR山手線の車内でモバイルバッテリーが発火する事故が起きました。走行中の電車内で、乗客がスマートフォンを充電中のバッテリーから出火。持ち主は手にやけどを、また列車の運行も最大で2時間停止するなど、大きな影響が出ました。

 さらに、2025年8月には東海道新幹線車内でも、座席ポケットのモバイルバッテリーから火が出る事案も報じられています。

 スマートフォンやタブレットなどをいつでもどこでも充電できる便利なアイテムである一方、扱い方を誤ると事故につながるおそれもあるモバイルバッテリー。特に、暑い夏場に「発火」のニュースが増え、恐怖を感じていた方も多いでしょう。

 確かに、扱いを誤ると発火や爆発といった重大な事故につながるおそれがあるアイテムです。今回は、そんなモバイルバッテリーの使い方の注意点について解説します。

モバイルバッテリーに「やってはいけない」こと

 モバイルバッテリーの扱いで、特に気をつけたいのは、日差しの強い場所への注意です。

自動車内への放置

 夏場など、もっとも危険なのが、モバイルバッテリーの自動車内への放置。直射日光のあたるダッシュボードの上や、密閉されたグローブボックスの中などは最悪です。

 モバイルバッテリー内に多く使われている「リチウムイオンバッテリー」には「高温に弱い」という特徴があります。なぜなら、内部の化学反応が活性化し、ガスが急激に発生してしまうため、発火や爆発のリスクが高まるからです。

 自動車内部は、日差しの強い日には、締め切った車内の温度は50~60度、ダッシュボード上はそれ以上になることもあります。「使わないから、とりあえず置いておく」という理由で自動車内に放置することは、絶対にやめましょう

熱が籠もりやすい場所での充電

 スマホをカバンやポケットに入れたまま、モバイルバッテリーで充電しながら持ち歩く……これも実は、避けるべき使い方のひとつです。

 充電中のバッテリーは熱を持ちます。密閉された空間の中で使用すると、熱がこもり、温度は上昇していきます。

 もちろんそれでも、本来、リチウムイオンバッテリーは、内部の温度が一定以上になると保護回路が働いて停止する設計になっています。が、設計上問題のある製品、経年劣化が進んだ製品などでは、この機構が正しく動作しないことがあるのです。

 そのため、夏の外出中、直射日光があたる中で持ち歩く際、高温+充電中という条件が重なることで、内部が膨張、最悪の場合バッテリーが発火する、というようなケースがあり得ます。

古い劣化したケーブルを使う

 モバイルバッテリーとスマートフォンをつなぐ充電ケーブル。これが見落とされがちですが、ショート(短絡)・スパークが最悪の場合は火災の原因となることが考えられます。

 そのため、ケーブルの根元がほつれていたり、被膜が破れて内部の金属線がむき出しになっているようなものは非常に危険です。

 あるいは、意外と多いのが「ある角度で使っていれば充電できる」というような接触不良を起こしているケーブル。これも内部では先ほどのものと同じようにショートを引き起こす原因となる可能性があります。

モバイルバッテリーはなぜ発火するのか? 発火のメカニズム

 便利なモバイルバッテリーですが、そもそも構造的に「発火しやすい仕組みである」ということを忘れてはいけません。

 モバイルバッテリーは、2025年現在、市販の製品で内部にほとんどが「リチウムイオン電池」を使用しています。これは、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで、高密度の電力を出し入れできるという特性を利用した装置です。

 電解液(リチウムイオン溶液)を使用していることで、電池に異常が生じた際に水素、一酸化炭素、メタンのほか、炭化水素系のVOC(大気中で気体になりやすいもの)ガスなどを主成分としたガスが発生します。これが揮発性・引火性が非常に高いため、火が付きやすいバッテリーとなってしまっているのです。

 また、ガスの発生と同じく、温度上昇も、発火の大きなファクターです。バッテリーが発火する大きな原因のひとつに、内部の温度上昇による「熱暴走(サーマルランアウェイ)」が挙げられます。

 たとえば次のような状況で、内部温度が急激に上昇し、制御できなくなることがあります。「過充電状態が長時間続く」、「高温下で使用/放置された」、「強い衝撃を受けて内部が破損した」、「内部でショート(短絡)が発生した」。

 一度「熱暴走」が始まると、バッテリー内部の電解液が発熱し、さらに温度が上がって自己加熱の連鎖反応に入ります。そして、最終的には煙が出て、炎が上がるような状態になってしまうのです。

リコール情報にも注意

 先述の、山手線の発火事故の例は、実はモバイルバッテリーが、2023年からメーカーから発煙・焼損する可能性があるとして「リコール(無償回収)」が実施されていた機種でした。

 このようなモバイルバッテリーは、有名メーカー製のものでも多くあります。本誌特集記事や、メーカーのWebサイトなどで、リコール対象製品の型番やロット番号が公開されています。

 現在使用しているモバイルバッテリー、あるいは、何年も前に購入して押し入れに入れっぱなしになっているバッテリーなども、一度型番を確認してみることをおすすめします。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)