石川温の「スマホ業界 Watch」

携帯料金が期間限定でタダになる「お試し割」は幻だったのか? 楽天ら各社の思惑とは

 2025年2月14日金曜日、午前10時半から開催された楽天モバイルのプレスカンファレンス。当日午後には楽天グループの決算会見が予定されていた。

 「金曜日の午前にプレスカンファレンス、午後に決算会見」という流れは、2023年5月12日に「楽天最強プラン」を発表したのとピタリと符合する。

楽天モバイルの三木谷浩史会長(2024年2月撮影)

 案内を受け取ったとき、「これは、もしや料金プラン改定などでかい話なのでは。それとも、いよいよお試し割開始か」と胸を躍らせたのだが、結局、発表されたのは春商戦に向けたキャンペーンであった。

 楽天モバイルの一挙手一投足に、スマホ業界全体が注視している。

 もちろん、楽天モバイルがいつお試し割を始めるのか、固唾をのんで見守っているのだ。

 お試し割とは昨年12月26日に改定されたガイドラインで導入された施策だ。

 これまでは端末を購入しない新規契約において、継続利用に当たらない場合、最大2万2000円のキャッシュバックやポイントバックしか認められていなかった。

 12月26日以降、新規契約に関して、料金の割引が認められ、割引の条件が税抜きで2万円以内、さらに割引期間は最長6ヶ月までというルールが設けられたのだ。

 これにより、最長6ヶ月、1ヶ月あたり3666円までの割引が可能となった。

 例えば、楽天最強プランであれば、6ヶ月間、データを無制限に使っても、まるまる無料で使えることになる。

 このお試し割、楽天モバイルが総務省の検討会で提案し、導入が決まったという経緯がある。つまり、楽天モバイルは、その当時は「お試し割をやりたくて仕方がない」というスタンスだったのだ。

 また、総務省としても、国策的に第4のキャリアとして楽天モバイルに周波数を割り当てた以上、過去の新規参入事業者のように経営が立ち行かなくなってしまっては、総務省のメンツは丸つぶれだ。そこで、楽天モバイルをユーザーが契約しやすいよう、お試し割の導入を決めたのだった。

 ただ、お試し割を導入する上で、さすがに楽天モバイルだけを優遇する訳にもいかない。結果として、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクもお試し割を導入できることになった。

 さすがにahamoを6ヶ月試した後、同じNTTドコモのeximo、irumoなどを渡り歩くことはできず、1キャリア1回までしかお試しできない。それでも、4キャリアをまたげば、約2年間、無料で使い続けられる夢のような施策といえるのだ。

 もちろん、キャリアとしては顧客獲得合戦の激化が予想され、収益にも悪影響を及ぼすことが考えられるため、できるだけ導入したくないというのが正直なところだ。

 12月26日のガイドライン改正によるお試し割により、年末商戦は一気に過熱するかと思われた。しかし、お試し割を導入するキャリアはひとつもなく、無風状態が続いている。

 NTTの島田明社長は「ドコモがお試し割を検討しているかは把握していない。ただ、楽天モバイルが提案したのだから、楽天モバイルからスタートするのが筋ではないか」と静観の構えだ。

 KDDIの高橋誠社長も「お試し割は各社とも出してこなかった。引き続き、他社の動向を見ながら慎重に検討していく」と語った。

 では、肝心の楽天モバイルは、お試し割を導入する気はあるのだろうか。

 楽天モバイルの鈴木和洋代表取締役共同CEOは「今回のキャンペーンはお試し割を上回る内容になっていると自負している。お試し割についても引き続き検討していく」としている。

 楽天モバイルでは春商戦向けに学生や新社会人をターゲットにした最大1.4万円の還元キャンペーンを展開する。また、楽天店経済圏で得たポイントを活用すれば「永年無料だ」という強気のアピールもしており、お試し割への執着心はなかったようなスタンスをとっている。

 三木谷浩史会長も「戦略についてしゃべりづらい。選択肢の一つとして無料期間を設けるというのもアリかなという風にも思っているが、そうはいっても、いわゆるお客様にいくらバックしていいのか。なにが有効なのか、冷静に判断しながら考えていきたい」とした。

 肝心の楽天モバイルがなかなか動きを見せない中、いつもガイドラインのギリギリを攻めて、総務省ににらまれているソフトバンクはどう動くのか。

 1月22日、アメリカ・サンノゼで開催された「Galaxy Unpacked」に来ていたソフトバンクのコンシューマ事業推進統括、寺尾洋幸氏は「何が正解かわからないが、お客さんや市場の動向を見ながら、いつでもいけるようにはなっている」と語る。

 決算会見で2025年度における楽天モバイルの目標を聞かれた三木谷会長は「まずは1000万件の獲得をしっかり達成したい。そのためにも、若年層は非常に強くなったが、年配層さらに地方が比較的弱いので、このあたりを強化したい」と意気込んだ。

 昨年12月には懸案だったEBITDA単月黒字化も達成できただけに、資金的にも再度、アクセルを踏むことも不可能ではないだろう。年配層と地方を手っ取り早く取り組むためにも「お試し割」が最適なようにも見える。

 ただ、業界関係者からは「楽天モバイルは通年黒字化が最優先なので、赤字要因となりそうなお試し割を簡単に始めるようなことはしないのではないか」と言う声もある。

 楽天モバイルと総務省の肝いりであったはずの「お試し割」は幻で終わってしまうのだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。