本日の一品
ロック好きのベーシストが眼鏡型オープンイヤーオーディオを買ってしまった
2025年12月22日 00:00
もう何十年も、筆者の耳と音楽体験はカナル型イヤフォンとともにあった。外耳道を密閉し、低域を逃さず、時に鼓膜をビシバシと直接叩くような強烈な音圧。それがロックやヘビーメタルを聴く正解だと確信し全く疑ってこなかった。
そんな筆者が、ある日JR上野駅エキナカの3COINSに立ち寄り、ふと目に留めたのが「AUDIO PC GLASSES」だった。左右の眼鏡のツルに極めて小さなスピーカーを内蔵した、眼鏡型のBluetoothオーディオである。自分の嗜好とは真反対側に居る骨伝導やオープンイヤーのイヤフォンに興味もあった。
オープンイヤーというジャンル自体は知っていたが、自分が選ぶとは思っていなかった。しかも価格は税込5500円。カナル型一筋の筆者が、正反対の思想を持つプロダクトをどう感じるのか。期待よりも好奇心が勝った衝動買いだった。
今回購入したのは3COINSの「AUDIO PC GLASSES」という製品だ。付属品は眼鏡本体の他にはUSB充電ケーブル、メガネクリーナー、眼鏡ケースというシンプルな構成である。
度なしのファッショングラスをベースに、ブルーライトや紫外線カットをうたっている。一般的なメガネと比べるとツル部分はやや太めだが、全体の重さは約34gと軽く、見た目の印象もごく普通だ。
昨今のAIスマートグラスのように、ひと目で「ガジェット」と分かる主張の強さはない。中央が今回の商品だ。前後は普通の眼鏡とAIスマートグラス。
充電方式は少し独特で、ケーブル途中から二股に分かれ、左右のツルを別々に充電する。左右のツルに独立したリチウムポリマー電池を内蔵する珍しい構成だ。
電源オンも左右それぞれで行う仕様で、ヒンジ付近のタッチセンサー部分を左右別々に3秒ほど長押しする必要がある。このあたりからも、左右が完全に独立したデバイスとして設計されていることが分かる。
さて、肝心の音質である。結論から言えば、筆者の嗜好であるロックやヘビーメタルのリスニング用途にはまったく向いていない。
筆者は普段、60年代のオールディーズから70~80年代のブラスロック、さらにはヘビーメタルまでを好んで聴いているが、AUDIO PC GLASSESでは低域が圧倒的に不足する。音量を上げるほど高域が前に出て、シャカシャカとした印象が強まる。
Amazon Musicのイコライザー機能を使い何度も補正も試みたが、音域の微調整はできても、音楽そのものの向き不向きを変えられるほどの効果はなかった。
しかし、これは欠点というより用途の違いだろう。AUDIO PC GLASSESは音楽に没入するためのデバイスではなく、「ながら聴き」に特化している商品だ。
実際に家の中で装着して歩き回っていると、家族から「どこにいるか音で分かる」と言われた。それほど音漏れはある。一方で、「食事よ~」と呼ばれる声が自然に聞こえるのは、いつものカナル型イヤフォンでは得られない体験だ。
この特性は、原稿執筆中にradikoを流したり、リモートワークの会議音声を聞いたりする用途では非常に快適である。耳を塞がないため疲労感も少ない。筆者が想像以上に「これはありがたい」と感じたのは、AIとの音声対話における自然さだった。
ナチュラルと言えば、AUDIO PC GLASSESはカナル型イヤフォンのように外界音を完全にシャットアウトしない。そのため、自分の声も明快に耳へ返ってくる。結果として、ChatGPTやGeminiとの会話が非常にスムーズだ。
最近はスマートフォン側のマイク性能や音声認識機能が著しく向上しており、静かな室内であれば、ほとんどスマホを口元に近づけなくても、周囲にはあまり聞こえない程度の小さな声でAIに話しかけても認識精度は高い。
ただし、これは実際に使ってみて分かったことだが、JRの車内など周囲の環境ノイズが大きい場所では話は別だ。その場合は、誤認識を減らすためにも、スマートフォンを口元に近づけ、囁くような声で話しかける必要があるがこれは車内ではかえって便利だ。
自宅にいっぱいあるAmazon Echoに囁くように小声で話しかけると同じような小声で応えてくれるのに近い。カナル型イヤフォンのように自分の声殆ど聴こえず無意識に声量を上げてしまうこともないため、AIとの対話はどこでも終始スムーズだ。
最終的に、それほどリモートワークやWeb会議の多くない筆者の場合、AUDIO PC GLASSESの用途はradikoとAIからの音声フィードバックが9割以上を占めそうだ。
純粋な音楽リスニング用途では、ほぼ確実に従来のカナル型イヤフォンへ戻るだろう。それでも、意外とこの製品を手放す気にはならない。
AUDIO PC GLASSES最大の利点は、100%普通の眼鏡として成立している点にある。来年以降、第一波のピークを迎えそうなAIスマートグラスとは異なり、周囲に違和感を与えない。
静かな場所でこそ真価を発揮するが、音楽ではなく、情報やAIの音声を“そっと生活に添える”ガジェットとして見ると、その価値は明確だ。税込5500円という価格を考えれば、これはオーディオ機器というより、生活道具として評価すべき一品だろう。
| 商品名 | 発売元 | 実売価格 |
|---|---|---|
| AUDIO PC GLASSES | 3COINS | 5500円 |








