石川温の「スマホ業界 Watch」
「Webサイトが読みにくくなってきた」今、アップルが「iPhone」×「Safari」で目指すプライバシー保護
2024年7月22日 00:01
最近、Webサイトがいままで以上に読みにくくなったような気がしてならない。
一部のWebサイトでは「続きを読む」というボタンを押したら広告ページに飛んでしまうとか、広告が画面いっぱいに表示されてしまい、「×マーク」を押したくても見つからないとか。
もちろん、Webサイト上の広告を否定するものではない。広告があるからこそ、ニュースサイトなどの運営は成り立っているし、自分がもらっている原稿料も広告があるからこそだ。
ただ、さまざまなWebサイトを渡り歩いているにもかかわらず、似たようなというか、同じような広告が掲示され続けるのは、ちょっとつまらない。広告も、時代を表すクリエイティブな作品とも言えるので、バラエティに富んだ広告を見たかったりするものだ。
ユーザーが興味を持ったコンテンツに合った広告を出し続けるのはデータ会社によるトラッキングが効いているからだ。クッキーなどによって、ユーザーは複数のWebサイトをまたいでもトラッキングをされ続ける。Webサイトによっては1ページの異なる企業の100以上のトラッカーが含まれていることがあるという。
こうした動きに対して、ユーザーを守る動きをしてきたのがアップルだ。同社のブラウザでは2005年にサードパーティのクッキーをブロックする機能を搭載。2019年にはすべてのサードパーティのクッキーをブロックする初のブラウザとなった。
最近では欧州の動きもあり、そもそもWebサイトにアクセスした際、クッキーの拒否を可能にするメッセージが表示されるようになった。
しかし、データ会社は、ユーザーが誰でどこでWebサイトを閲覧しているかを理解するため、ユーザーが使っているデバイスのシステム構成やインストールされているフォントやプラグイン、画面の解像度などデバイスの特性を組み合わせてユーザーを特定。フィンガープリント(指紋)としてユーザーを追跡できるようにしているという。
そこでアップルは、Safariに簡略化されたシステム構成をトラッカーに提示するような機能を盛り込んだ。トラッカーからは多くのデバイスが同じに見えるため、特定のデバイス、ユーザーを追うことができなくなったという。
また、Safariでは「リンクトラッキング保護」という機能も備える。Webを閲覧する際、リンクに閲覧者を追跡できる追加情報を埋め込んでいる場合がある。リンクトラッキング保護機能では、そうしたメッセージやメールで共有するURLに追加された不要なトラッカーを削除してくれるようになっているのだ。
グーグルは本業が広告業であるため、Chromeにはそうした機能はあまりないが、アップルはメーカー出身であり、こうしたトラッキングからユーザーを守る機能を徹底的に盛り込んでいるようだ。
パーソナライズされた広告を選べる仕組みも
もちろん、逆にクッキーなどを使い、すでにサイト側がユーザーのことを知ってくれていた方が便利だと感じることも多い。どのサイトでも自分の関心事に関する広告を優先して表示してくれたり、それこそ大量にあるニュースのなかから、自分が興味のあるネタを中心に見せてくれた方が便利だと感じることもある。
アップルとしてはそうした機能を一律に拒否するのではなく「ユーザーが受け入れるか、拒否するか」の判断材料を与えるというスタンスに徹している。
例えば、一部のWebサイトは、ユーザーが検索を行った際、位置情報も一緒に収集することがある。この位置情報データを業者に販売するところもあるという。
もちろん、ユーザーが最寄りのレストランを検索する際、細かい位置情報を共有した方が、すぐに見つかるというメリットがある。
ただ、Safariに関しては、位置情報をサイトに共有して良いか、ユーザーに許可を求めるようになっている。「1日だけ許可」といったように制限付きで許可を与えることも可能だ。
アップルとしては、どんな情報がサイト側に共有される可能性があるかを提示し、OKなのかNGなのかをユーザーの判断に委ねるという立場をとっているのだ。
アップルとしては、それこそ、スティーブ・ジョブズが生きていることから「プライバシーは基本的人権」として、ユーザーのプライバシー保護に注力してきた。その信念のもと、Safariのプライバシー保護機能が強化され続けてきたが、なかなか一般ユーザーには理解されにくい。
そんななか、アップルではiPhoneでサイトを見ている際、逆にサイトがユーザーのことを見ているという状況を、監視カメラが追いかけてくるという映像で表現。CMとして流している。
EUや日本の政府はアメリカのテック企業がユーザーのプライバシー保護を軽視していると規制を強化しつつあるが、アップルとしては「他社とは違う」というスタンスを明確に示していきたいようだ。