石川温の「スマホ業界 Watch」
日米で共通する「電波が強いキャリア」の条件とは
2024年7月17日 00:00
ノキアは2024年7月11日、最新の技術やソリューションを紹介するイベント「Nokia Amplify Japan」をメディアに公開した。
そのなかで個人的に気になったのが「世界で最も成功した5Gネットワークを構築したキャリア」として、米国のT-Mobileが紹介されていた点だ。
ノキアの製品管理部門責任者 RAN 製品ラインマネジメントのブライアン・チョー氏は「T-Mobileは、5Gにおいて広大なエリアカバーと高いネットワーク品質を両立している」と評価するのだ。
現在、世界的に5Gネットワークが広がっているが、「どうやって5Gネットワークで稼ぐのか」というのが、世界各国のキャリアにおける共通の課題となっている。
そんななか、T-Mobileはいち早く5Gネットワークを米国全土に広げつつ、高いネットワーク品質を実現。高品質な5Gネットワークをベースに、5Gスタンドアロン、さらにはネットワークスライシングにも着手した。5Gでのマネタイズに繋げることで、さらなる5Gネットワークへの設備投資という好循環を作り出しているとブライアン・チョー氏は語る。
では、なぜT-Mobileは広大な米国で高品質なネットワークの構築に成功したのか。
ブライアン・チョー氏によれば「T-Mobileは、2.6GHz帯でTDD方式を展開。すべてMassive MIMO対応でトラフィックをさばいている。一方、600MHz帯ではFDD方式で、エリアカバーを一気に展開。1.8GHzのFDDにより質の高いネットワークを実現した」という。
実際、ネットワーク品質の調査会社であるOpenSignalによれば、米国のキャリアにおいて、T-MobileはベライゾンやAT&Tに比べて圧倒的に高評価をマークしている。
先日、ソフトバンク関係者と話をする機会があり、T-Mobileの話になったのだが、彼曰く「そりゃ、T-Mobileがいいのは、もともと、Sprintが持っていた2.6GHz帯が大量にあるからに他ならない。我々がSprintを買収した際、2.6GHzのTDDを徹底的に磨き上げていった結果がいまのT-Mobileの評価につながっている」と語っていた。
TDDの強み
TDDは時分割多重といって、同じ周波数帯で上りと下りの時間を切り替えて通信する方式であり、FDDは周波数分割多重として上りと下りの通信で異なる周波数帯が割り当てられている。
TDDはトラフィックの状況により、下りに多めに通信を割り当てるというような柔軟な処理ができるのに対して、FDDは下りも上りも同じだけの周波数が割り当てられているため、下りが混雑する一方、上りがスカスカなんてことも起きている。
そのため、下りの通信が多い場合、TDDのほうが有利と言われている。
日本では……
また、別の日にはKDDI関係者とも話をする機会があったのだが、その時には「世界的にミッドバンドでTDDをやっているキャリアのネットワーク品質は高い」なんてことを口にしていた。
確かに日本では、最近、ソフトバンクに対するネットワークの評価がすこぶる高い。そんなソフトバンクを追いかけているのがKDDIという状況になっている。実際、KDDIはUQコミュニケーションズが2.5GHz帯でTDDを展開。ソフトバンクもワイヤレスシティプランニングが同じく2.5GHz帯でTDDを提供している。
ソフトバンク関係者は「5G開始前は、2.5GHz帯のTDDでソフトバンク全体のトラフィックの半分以上をさばいていたこともある」と語る。実際、5Gが開始以降も、ソフトバンクの総トラフィックに対して、2.5GHzだけで3割近くが流れているというデータもあるほどだ。
ソフトバンクとKDDIは、2.5GHz帯のTDDをベースに、4Gで利用していた周波数帯を5Gに転用。「なんちゃって5G」なんて揶揄されることもあったが、着実に5Gエリアを広げつつある。
最近では、衛星の地上局との干渉も解消され、Sub6による5Gネットワークの拡大、さらに出力アップも始めている。
特にKDDIはSub6においては100MHz幅を2ブロック、保有しており、さらに高速の5Gネットワークが実現する可能性がある。
まさに「なんちゃって5G」から「真の5G」にフェーズが移りつつある。今後は、5Gスタンドアロンの拡大、さらにネットワーク・スライシングの導入により「5Gの収益化」に本気になっていくことだろう。
いずれにしても、これからのキャリアにおける5Gネットワークの競争軸は「広さ」や「速さ」だけでなく「いかに儲かるか」という次元での戦いになっていきそうだ。