石川温の「スマホ業界 Watch」
Open RAN普及に向け、「人材投入」のNTTドコモと「サブスク型」の楽天シンフォニー
2024年3月8日 00:00
2月下旬にスペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcerona 2024」。ここ数年のトレンドではあるが、今年もOpen RANに注目が集まっていたように感じた。
ただ、この数年でOpen RANの導入が世界的に進んだかと言えば結構微妙だ。昨年12月にドイツのキャリアである1&1が楽天シンフォニーの支援を受けて完全仮想化のネットワークを構築し、商用サービスを始めたが、楽天モバイルや1&1のように新規参入でゼロからネットワークを立ち上げるキャリアは世界でもまれな存在だ。
新規参入となれば、既存のベンダーを使うことなく、安価なコストが期待できるOpen RANでネットワークを構築するのは極めて現実的だ。
しかし、古参のキャリアが、すでにエリクソンやノキアなどのベンダー機器を使って、安定的に稼働しているネットワークをOpen RANに切り替えるには心理的なハードルが相当大きいだろう。
NTTドコモのOREXエバンジェリスト・安部田貞行氏は「コスト的なメリットは大きい。また、ナショナルリスクの回避や、特定のベンダーに依存するのではなく、オペレーターが自由度持ってネットワークを運用を運用したいというメリットはある」とOpen RANへの切り替えメリットを訴求する。
ただ、ここ数年、思うようにOpen RANの導入は進んでおらず、機器を世界のオペレーターに売ろうとしていたNECも関連事業は赤字が続くなど、目論見が大きく外れた感がある。
NTTドコモは「人的リソースの投入」で普及進める
そんななか、NTTドコモは昨年、「OREX」というブランドを立ち上げた。さらに今年、NECとともに「OREX SAI」という法人を設立し、無線機やサーバーのベンダーやvRANのソフトウェアベンダー、AWS、Red Hatなどのクラウドベンダーを揃え、世界の通信会社に売り込みをかけようとしている。
NTTドコモが世界でOpen RANを売ろうとしても海外に拠点は少ない。その点、NECであれば海外拠点も多く、営業や設計、サポートなどがしやすくなるというわけだ。
安部田氏は「フィールドトライアルをするオペレーターが出てくるようになると、これまでの出張ベースの対応では限界がある。現地での継続的なサポートできるようケイパビリティを獲得していきたい」という。
Open RANを広めたいNTTドコモと、事業の赤字が続き何とか黒字化にしたいNECが手を取り合い、世界規模での「人的リソースの投入」でOpen RANをテコ入れする考えのようだ。
楽天はサブスクでの提供
一方、逆に人的リソースに頼らず、Open RANを普及させようとしているのが、楽天・三木谷浩史会長だ。
楽天シンフォニーでは「リアルOpen RANライセンシングプログラム」をスタートさせる。これまで楽天シンフォニーが構築し、楽天モバイルや1&1に展開してきたソフトウェアをサブスクリプション型で他社に提供するという取り組みだ。
三木谷浩史会長は「誰もが難しいと感じている仮想化やOpen RANをウチは5年前から導入している。(サブスク型にして)Open RANが安く、みんなが使えるようになれば、色んなハードウェアにつながっていく。コミュニティも作り、NECや富士通には接続テストは自分でやってもらうようにする」と語る。
今回のサブスクリプション型モデルを三木谷会長は「Linuxのようなものにした」と例える。すべてまるごとのネットワーク設備では導入のハードルは極めて高くなるが、ソフトウェアをサブスク型で提供すれば、より手がけるにOpen RANを試すことが可能になる。
これまで楽天シンフォニーは1&1のように、キャリアが必要とするネットワーク設備をすべて構築してきた。三木谷会長は「現在、何件か話は進んでいる。1&1のような巨大なものは難しいが、発展途上国を中心に引き合いが多い」というが、検討から導入、運用まで時間もかかるし、人的リソースを多く割かなくてはならない。その点、コミュニティを作り、ライセンスするカタチにすれば、メーカーが勝手に接続テストなどもやってくれる。
まさにオープンソースの発想で、エコシステムの拡大を狙っているようだ。
NTTドコモと楽天シンフォニー、果たして、どちらの仕組みが世界のキャリアに受け入れられるか。1年後、2025年のMWCで何らかの結果が見えてくるかも知れない。