石川温の「スマホ業界 Watch」

MWC 2024で「AIスマホ」「1ユーロスマホ」登場、日本と逆の方向を歩む欧州キャリアの施策

 2024年2月26日よりスペイン・バルセロナで世界最大級の通信見本市「MWC Barcerona 2024」が開催されている。

 今年の話題と言えば、CES同様に「AI」なのだが、通信事業者が集まるイベントだけにネットワークにAIを組み込み、効率化を実現するといった企業が多く見られたのが印象的であった。

 そんななか、ドイツのキャリアであるT-MobileはAIを取り入れたスマートフォンを展示し、かなりの注目を浴びていた。

 実際、デモを見せてもらったが、Web上で表示してある画像などに対して長押しし、音声で質問をすれば、答えを出してくれるという、音声アシスタントの発展系的な機能となっていた。

 これまでの音声アシスタントは一問一答であったが、最近のAIによって、継続した会話が可能となってなり、AIが画像をキチンと認識した上で次の答えを出してくれるなど、昨今の生成AIにおける使い勝手をスマホに入れ込んだといった感じであった。

 これとは別にオンデバイスAI対応したスマートフォンもデモしてくれたが、こちらはSnapdragon 8 Gen 3をベースにしており、画像の周りの部分をAIが作ってくれたり、テキストから画像を生成してくれたりと、クアルコムが行ったデモとほとんど一緒であった。

 個人的に気になっていたのが、「なぜ、キャリアであるT-MobileがAI機能を載せたスマートフォンを開発しているのか」という点だ。

 先週、このAIスマートフォンが発表された際、X(旧Twitter)に「キャリアがサービスを載せたスマホ出すって昔の日本みたいだな」なんてつぶやいたのだが、実際、T-Mobileの担当者によれば「ウチは、独自のブランドでスマートフォンを出しているんだよ」ということであった。

 別のブースを見てみると確かに「T PHONE」としての展示が行われていた。そこの担当者は「200ユーロ台のリーズナブルなスマートフォンを18カ月前から展開している。5Gを普及させるのが狙いだ」とのことであった。

 どんな風に売られているのかとWebサイトをチェックしてみたら、なんと「1ユーロ」という価格となっていた。

 ちなみにMWC開幕前日、Xiaomiが新製品発表会を行い「Xiaomi 14」を披露していたのだが、価格発表の際には「T-Mobile 1ユーロ」とデカデカとアピール。Xiaomi 14は本来、999ユーロなのだが、1ユーロで販売してくるとは思わず「日本と一緒じゃん」と突っ込んでしまった。

 T-Mobileのこの売り方、よくよく調べてみると、購入時には1ユーロしか払わない。しかし、月々はデータ容量が40GB込みで89.95ユーロの料金プランを契約することとなっている。

 最初に489.95ユーロ支払ってしまう買い方よりも、月々20ユーロ高い設定となっているのだが、2年間使い続けると39.95ユーロ、割引される仕組みも備わっている。

 つまり、T-Mobileは「料金プランと端末代金の一体化」を行っており、しかも「2年間の拘束」もやっているのだ。

 日本が「料金プランと端末代金の完全分離」だのやっている間に、ドイツは逆の方向を歩み始めている。しかも、ヨーロッパのキャリアは結構、似たような売り方をしているのだ。

 しかも、かつて総務省は「日本の通信料金は海外に比べて高すぎる。4割値下げしろ」なんて圧力をかけていたが、T-Mobileの料金プランを見ると、使い放題で94.95ユーロ(約1万5500円)、20GBでも59.95ユーロ(約9790円)と日本に比べても、相当、割高だ。

 やはり、端末代金と通信料金を一体化すると、結局、1ユーロスマホが誕生するものの、端末代金が見えなくなり、通信料金が上がっていくのかも知れない。

 まさに、かつての日本の手法がヨーロッパにも広がっているのだろう。

 確かに、いまの日本のやり方であれば、通信料金は安価になり、庶民にとってはとてもありがたい。一方で、端末は売れず、5Gは一向に普及せず、いつの間にか端末メーカーが撤退に追いこまれる状況を生んでいる。

 一方、ドイツはキャリアが自らスマートフォンを調達し、独自ブランドをつけて安価に販売。また、高価格なスマートフォンは1ユーロという値付けをつけて、買いやすいようにしつつ、AIスマートフォンなども開発し、5Gの普及に躍起になっている。

 折しも先日、日本のGDP(国内総生産)がドイツに抜かれて4位になったという報道があった。

 もちろん、スマートフォンの通信料金と端末代金が直接、GDPに影響しているわけではない。

 ただ、通信料金が上がっても許容できる経済情勢であるドイツと、5Gの普及を犠牲にしてまでも通信料金は安価なままでなければ困るという日本の違いをハッキリと見せつけられた気がした。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。