石川温の「スマホ業界 Watch」

ドコモは「オープンRAN」で世界市場を獲得できるのか

 先日、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級の通信関連見本市「MWC」では「オープンRAN」(O-RAN)に関する動きが活発であった。

 これまで携帯電話キャリアは、エリクソンやノキアなど単一のネットワーク設備メーカーから通信機器を購入し、通信ネットワークを構築していた。しかし、携帯電話キャリア向けの専用機器であるため、とても高価で柔軟性に欠けるというのが難点であった。

 しかし、ここ数年、単一ベンダーに依存することなく、さまざまな通信機器ベンダーの装置やシステムを自在に接続できる「オープンRAN」という仕組みが注目を浴びている。

 そこで、NTTドコモはオープンRANに4G時代から取り組んでいるが、その知見を武器に世界でオープンRANを事業にしようとしている。

 NTTドコモでは、すでに韓KT、フィリピンのスマートコミュニケーションズ、英ボーダフォン、米DISH、シンガポールのSingtelの5社に対して支援を行っているところだ。NTTドコモではオープンRAN事業をさらに加速させるため、新たにブランド「OREX」を立ち上げ、さらに世界のキャリアを開拓しようとしている。

ドコモの安部田氏

 MWCでも、OREXがパネルディスカッションを行ったところ、立ち見が出るほど盛況であった。世界のキャリアにとってもオープンRANは無視できない技術になりつつある。

 ただ、オープンRANの話は何年も前から語られている。2023年になって、ようやく世界で導入が検討され始めた、という感じなのだろうか。

 NTTドコモ OREXエバンジェリストの安部田貞行氏は「これまではどちらかというと開発や検証が中心であったが、今年ぐらいからは実際に商用化を意識した検証に移行しつつある。検証や展開に時間がかかるものの、2023年の終わりか2024年には実際に導入され、その後、広がっていく感じになるのではないか」と予測する。

 実際のところ、オープンRANで設備を提供するNECなどは「市場の立ち上がりが想定よりも遅い」とぼやいていた。コロナ禍による景気低迷で、世界のキャリアが設備投資を控えたというのが原因にあるようだ。

 安部田氏は「確かに当初は2020年ぐらいのタイミングで広まるとみられていたが、ここに来て、今年、来年の商用化を目指したいという声が増えてきた」という。

 世界にキャリア向けのネットワーク設備を売っていくというビジネスモデルは、楽天グループも楽天シンフォニーという会社を作っており、端から見れば「競合」のように感じる。NTTドコモの井伊基之社長は「楽天とは芸風が違う」と語る。
井伊社長
「彼らは買ってきて、売るというモデルだが、僕らは研究所などで技術を磨き、13社のメーカーを入れて、自分たちのネットワークで使って、その結果を他キャリアに売るというビジネスモデル。
 テスト環境も作って、検証できる。サポーティング能力、フォローする能力を信頼してもらい、売るモデル。売り切るよりも、アフターもしっかり面倒見る。

 そもそも、他社とは会社の成り立ちが全く違う。全部とは言わないが、グリーンフィールドのように新しくやるところとは楽天シンフォニーのほうが相性がいいのかも知れない。しかし、ブラウンフィールド的に3G、4Gをやってきた人たちからすると『いったい、どうやって移行すればいいの』という話になってくる。ハイブリッドとなるとどうしたらいいのか。僕ら自身がそういう状態なので、そのノウハウを上手くシフトしながら、数%をO-RANにするというアプローチをしている」

ドコモ井伊社長(撮影:編集部 関口聖)

 安部田氏も「ビジネスモデル的には確かに他社(楽天シンフォニー)と同じように、機器含めてわれわれが提供するかたちになる。

 ただ、他社の場合はかなり垂直統合的にやられてると思うが、われわれの場合、そこは自由度がある。いわゆるオープンネットワークなので、この機器でないと駄目ではなく、導入先の周波数帯に自由に合わせられるのが特徴だ」と語る。

 実際、NTTドコモは長年のネットワーク運用経験を持っているというのが、楽天シンフォニーとは大きく違うようだ。

 安部田氏は「マルチベンダーの運用や使い方、適材適所に使い分けるというのは4G時代からやってきた。そのあたりはいろいろと経験が豊富なのではないか」という。

 日本では2030年ごろ実用化されると言われている6G時代に向けて「日本の通信分野における国際競争力を上げていこう」という機運が高まっている。オープンRANが世界に広がれば、NTTドコモやネットワーク設備を作るNECや富士通の国際競争力が高まると期待される。

 ただ、世界的に移動通信の規格が統一された3Gの時代も「日本企業が世界に進出するチャンス」と期待されたが「日本の製品は品質が良いが値段が高すぎる」と世界のキャリアから見向きもされなかった。

 オープンRAN時代も「日本の製品は品質が良いが高すぎる」とそっぽを向かれたりしないだろうか。

ドコモの安部田氏

 安部田氏は「われわれは最初からグローバルを意識してやっている。

 そのため、NTTドコモの要求条件は考慮するものの、どちらかというと海外キャリアの要求条件を聞きながら、今のロードマップをひいている。
 今までの考え方は“NTTドコモでやりました、日本品質でいい製品だから、それを海外に広げていきましょう”みたいな考え方が結構あったが、どちらかというとオープンRANに関しては、世界に出ていきましょう。もし、日本で使えるようであれば、日本でも導入しましょう。というような考え方で進めている」と語る。

 3Gのころの教訓をきちんと生かしつつ、NTTドコモは世界でオープンRANを普及させ、収益を上げようとしているようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。