石川温の「スマホ業界 Watch」

契約者数500万突破の楽天モバイル、次の悩みは“通信のキャパシティ”?

 第4のキャリアとして2020年に新規参入した楽天モバイルが、MNO単独で契約者数が500万を突破した。

 ウィルコムやイー・モバイルの元関係者に話を聞くと口々に「日本の市場で500万契約を突破するのが難しい。楽天モバイルにとっても最初のハードルになるのではないか」と語っており、業界内には「500万の壁」という言葉もあったくらいだ。

 今回、楽天モバイルが500万の壁を突破したことで、普及に弾みがつく可能性が出てきた。

 実際、マーケティングやITの世界では「キャズム」と言われることがあるが、消費者のうち、新しもの好きや節約志向の強いユーザーが一気に飛びつき、普及率が16%を超えたところで、爆発的にユーザーが増え、一般化するという。

 学校のクラスで、限られた人から複数人が持つようになり「当たり前」になった途端に急速に増えるという流れができてくる。楽天モバイルもキャズムを超える可能性が出てきたのではないだろうか。

 とはいえ、この500万の壁を越えるには相当、足踏みがあったのは事実だ。

 ゼロ円プランでユーザー数を伸ばしたものの、2022年にゼロ円プランの廃止を宣言。ここで、ユーザー離れが一気に起き、契約者数は450万を切るまでに落ち込んだ。

 今年になって、KDDIとのローミング契約を見直し、パートナーエリアでもデータ通信が使い放題となる「最強プラン」をスタート。これにより、一時は4〜5%も珍しくなった解約率が大幅に改善し、1.40%(MNPによるポイントゲッターを除いた調整後の数字)までに下がった。

 これまでもある程度の契約者が獲れていても、解約されてしまっては全体の数が増えないが、解約率が改善したことで、契約者数が順調に増えていったようだ。

 実際、6月末は481万だった契約者数が7月末で491万契約、8月28日で500万を突破したということは、1カ月で10万件も増えている計算になる。このままのペースを維持できれば、来年には600万を超え、3年後には損益分岐点である800万件も見えてくる。

 ただ、楽天グループとしては3年間で1兆円を超える社債償還が迫っており、時間がないのは事実だ。今後も契約者数増のペースアップが不可欠なのは間違いない。

ユーザーが増えすぎると困る?

 ただ、一方で楽天モバイルは「ユーザーが一気に増えすぎても困る」という悩みを抱えている。

 楽天モバイルにプラチナバンドを与えようと総務省が2021年に画策した会議で、楽天モバイルから提出された資料には「楽天モバイルが2025年に1500万契約を達成する場合、2023年に現在の他キャリアと同レベルのひっ迫度になる見込み」というシミュレーションが記載されているのだ。

 その資料では2022年に600万契約、2023年には900万契約という目標値が設定されており、実際は目標通りには達成していない。すぐにはひっ迫することはないだろうが、いずれにしても、600万~900万契約に近づくにつれ、他キャリアと同程度のひっ迫度になるというのだ。

 確かに、楽天モバイルは「データ使い放題」ということで、他キャリアユーザーに比べて、データの平均利用量が2倍近く多い。2023年7月時点で、1カ月の平均データ量は22.9GBにもなるという。

 楽天モバイルは、まともに使える4Gの周波数帯としては1.7GHz帯の40MHz幅しか所有していない。他キャリアは4Gで240〜250MHz幅を持っている。楽天モバイルはユーザー数は少なくても、同じく周波数の幅も持っていないので、結果として他キャリアと同等のひっ迫度になってしまう、というわけだ。

 8月29日、総務省は700MHz、いわゆるプラチナバンドの割り当て受付を開始した。ただし、3MHz幅×2ということで、「つながる場所が広がる」という目的には使えるが、ネットワークのキャパシティを大きくするというのには心許ない。

 楽天モバイルがユーザーを増やしても、快適な通信を提供し続けるには、3キャリアからプラチナバンドを一部、返上してもらい、再割り当てをする。あるいは全く別の使いやすい周波数帯を新たに割り当てるということが必要になってくるだろう。

 当然、「5Gの周波数が割り当てられているのだから、そちらを活用すべきだ」という声が出てくるのだが、別のキャリア関係者は「ぶっちゃけていうと、3Gであれば3.4GHzとか3.5GHz、5Gであれば3.7GHzや4.5GHzは電波があまり飛ばず使いにくくて仕方ない」とぼやく。

 カバレッジを広げるためのプラチナバンドも重要だが、使いやすくてキャパシティを稼げるミッドバンドの下のほうの電波も楽天モバイルに新たに割り当てられるよう、検討が必要なのかもしれない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。