石川温の「スマホ業界 Watch」

「Xperia 5 V」が示す“ソニー成功体験の再現”と23年秋の“iPhone包囲網”

 ソニーは9月1日、スマートフォン「Xperia 5 V」を発表した。例年通り、国内キャリアでも取り扱われると期待されるところだ。

 発表を見ていて興味深かったのが、これまでのXperiaとは異なる雰囲気を醸し出していた点だった。冒頭から「新しいスマホ。新しいワタシ。」というキャッチフレーズがついており、いかにも若者をターゲットにしているというのがヒシヒシと伝わってきたのだ。

 5月に発表したXperia 1 Vの発表動画ではソニーのモバイルコミュニケーションズ事業部長である濱口務氏が登場し、技術的なアピールを続けていくスタイルをとっていた。チップは「Snapdragon 8 Gen 2」、センサーは「Exmor T for Mobile」、ディスプレイは「X1 for mobile」といったように、デバイスの名前がこれでもかとアピールされ、スペック的な凄さが紹介されていた。

 Xperia 1 VのWebサイトを見ても、最初にデカデカと「新世代センサーでスマホ画質に確信を」というコピーの下にドデカくExmor T for Mobileの画像が載っている。

 ソニーは、会社としてクリエイター向けの商品作りをしているが、Xperia 1 Vではまさにデジカメであれば「α」を愛用しているプロクリエイター向けの訴求となっているのだ。

 一方、今回のXperia 5 Vは、クリエイターを意識しているのだが「ゴリゴリのプロ」というよりも「インフルエンサー」に向けたアピールをしている感が強い。

 ちなみに昨年、発売されたXperia 5 IVの発表動画を見直してみたのだが「ミュージックビデオをXperia 5 IVで撮影してみました。良い感じに映像も音も撮れました」というストーリーになっていた。

 しかし、今回のXperia 5 Vは友達同士の若いフォトグラファーとダンサーが再会し、レジャー施設などに行って一緒にXperia 5 Vで写真や動画を撮影し、新たに搭載された編集アプリで動画を作り、SNSに投稿するという内容であった。フォトグラファーとダンサーは、スマホによって新しい自分に出会ったという結末になっていた。

 見ている人からすれば、「スマホでミュージックビデオが撮れます」とアピールされるよりも「友達との日常を綺麗に撮影でき、バッテリーの不安もナシ。イケてる動画をSNSでシェアできる」と言われたほうが、自分の生活に近く、新しいスマホを所有して、何が変わるのかをリアリティを持って連想しやすいのは間違いない。

コンセプトがハッキリした「Xperia 5 V」

 これまでのXperia 5シリーズは、どちらかというと「Xperia 1のコンパクト版」という印象でしかなかった。春頃、6.5インチのXperia 1シリーズの新製品が発表され、夏前に発売。初秋に6.1インチのXperia 5シリーズが発表となり、晩秋までに発売されるといった流れであった。

 基本的なコンセプトや搭載されているデバイスなどはかなり似ており、「いち早くXperiaのフラグシップが欲しいなら6.5インチのXperia 1シリーズ」、「6.5インチは大きすぎるので、手になじむコンパクトサイズがいいので、Xperia 5シリーズが出るのを待つ」といった選び方をされていように感じる。

 そんななか、今回のXperia 5 Vは明確にターゲットを絞り、ソニーがマーケティング的なチカラで売ろうとしている感が強い。

 実際、Xperia 5 Vをよく見ると、カメラは2つになったものの、チップ、センサーなどはXperia 1Vと一緒であり、「Xperia 1シリーズのコンパクト版」という、ものづくり自体は従来と何ら変わっていない。

 ただ、ユーザー層を明確にして、プロクリエイターからインフルエンサーにシフトした点が新しい気がしてならない。

 ただ、ふと思ったのが、この手法は、ソニーのデジカメである「α」と「VLOGCAM」に近いような気がしている。

 ソニーの「α」はプロクリエイター向けと言えるが、一方で、YouTuberなどに向けて「VLOGCAM」も展開している。VLOGCAMも基本的にはαにかなり近い製品なのだが、「VLOGCAM」と言われた瞬間に、ユーザー層が広がり、多くの人が手に取るようになった感がある。

 ソニーはVLOGCAMの成功体験をXperia 5 Vにも投影しようとしているのではないか。

23年秋の陣、AndroidによるiPhone包囲網

 業界的には、毎年9月下旬にアップルからiPhoneが発表、発売されることで、商戦期に突入することになる。

 今年も9月12日(現地時間)にアップル本社でスペシャルイベントが開催され、例年通りであれば、翌週の金曜日に発売開始となるだろう。

 ライバルであるAndroidメーカーを見ると、ソニーはこのタイミングでXperia 5 Vを発表。サムスン電子は9月1日よりGalaxy Z Fold5やGalaxy Z Flip5を発売。日本国内では8月22日から28日の7日間で予約注文台数が前年比191%、過去最高の記録を達成したという。

 そんなか、グーグルも10月4日に新製品発表会を開催するとアナウンスするなど、Android陣営によるiPhone包囲網が固まりつつある。

 今回のXperia 5 Vが、iPhoneユーザーをガチで獲りに来た感もあるなか、アップルはどんなiPhone、さらには値段で勝負をしてくるのか。

 円安や原材料の高騰など、市場に逆風が吹くなか、今年の商戦期の盛り上がりに期待したいところだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。