石川温の「スマホ業界 Watch」

上昇気流に乗りたい楽天モバイル、iPhone商戦でスタートダッシュを決められるか

 「今後3年間で1兆円規模の社債償還」「相次ぐ幹部の離脱」など不安要素の絶えない楽天モバイル。先日、開催された決算会見において、三木谷浩史会長は「経営に絶対的な自信を持っているとしか言えない」と、ネットではびこる経営危機説を一蹴した。

 ここ最近の三木谷会長の発言から垣間見えるのは「スマホは社会的人権」として、「楽天モバイルを契約すると4人家族が多額の節約ができるという社会的な意義のあるプロジェクトだ」という主張だ。

 20年ほど前、ソフトバンクの孫正義社長が、携帯電話事業への参入を目論んでいたころも「携帯電話は既存事業者が独占し、海外に比べて割高。我々が参入すれば携帯電話料金を引き下げることができる」と主張し、世論を味方につけようとしていたことがある。まさに、いまの楽天モバイルも世間の関心を集め、新規契約するユーザーを集めることが最重要課題となっているようだ。

 足下の数字を見ると、KDDIとの新ローミング契約によって「最強プラン」を提供できたためか、回復基調が見られている。

 たとえば、契約者数に関しては、7月の1カ月だけで10万契約を獲得し、491万契約と500万契約目前までに迫っている。

 解約率においては1.93%で、いわゆる「ポイントゲッター」と呼ばれる、開通月と同月内に解約している人を除くと、1.40%にまでに下がることになる。既存3社の数字にはおよばないものの、かつては4%超が珍しくなった同社の解約率が大幅に改善しているということは、それだけKDDIとの新ローミング契約が功を奏しているということだろう。

 三木谷浩史会長はKDDIに足を向けて寝られないのではないだろうか。

 ただ、KDDIと楽天モバイルの新ローミング契約は実際のところ、まだ完成形には至っていないようだ。KDDIの髙橋誠社長によれば「協定はいくつか論点が残っており、議論している段階。順調に約束したことは進められるのではないか」という。

 楽天の決算会見でも、地方など全国においてのローミングは継続的に使用が可能なのに対して、繁華街においてはこれから新たに使用が可能になるとしている。今後「2023年秋ごろ」をめどにネットワーク接続品質が徐々に改善していくとしている。

 また、700MHzのプラチナバンドもこの秋には割り当てが行われる見込みだ。総務省が設定した審査基準では「プラチナバンドを持っていない」と言った条件に高得点が割り振られているなど、明らかに楽天モバイルに有利になっている。

 楽天モバイルとしては秋に割り当てを受け、2023年12月から2024年年初を目標に700MHzの電波を発射するとしている。

 設備投資もかかるため、実際にプラチナバンドを発射するかはさておき、「楽天モバイルがプラチナバンドを獲得した」という話題を盛り上げていくだけでも、世間には「なんとなく、楽天モバイルのネットワークはまとめに使えるようになったかも」というイメージを植え付けることは可能だ。

 実際に発射せず、KDDIのネットワークに頼っても、プラチナバンドを獲得したというイメージアップにつなげられるだけで、大満足だろう。

 楽天モバイルでは、KDDIとのローミングによるネットワーク接続品質が改善する「2023年秋」以降、マーケティング活動を加速する戦略を立てている。

 実際、楽天銀行や楽天証券、楽天生命保険のユーザーであれば、本人確認が不要となる「音声SIMの簡単申込&開通」もプレゼン資料では8月末提供予定となったが、「もう少し遅れそう」(三木谷会長)ということで、秋ごろまでにずれ込む可能性が出てきている。

iPhone商戦がひとつの山場に

 この業界で「秋」といえば、例年9月に発売される「iPhone商戦」がひとつの山場となるだろう。楽天モバイルとしては、iPhone発売までにKDDIとの新ローミング契約によるネットワーク接続品質の改善、ならびにプラチナバンドの割り当てが行われれば、マーケティング活動への相当な「追い風」になるのではないか。

 今年発売されるであろうiPhoneの新製品も当然のことながら高値安定で、なかなか手を出しにくい価格設定になりそうだ。

 しかし、噂通り「USB-C端子採用」となれば、USB-CとなっているAndroidやノートパソコンとiPhoneを一緒に持ち運んでいるようなユーザーの「買い替え需要」はかなり促進されることになるだろう。

 多くのユーザーがキャリアを乗り換える際に端末も一緒に買い換える。

 ちなみに楽天モバイルが先日、「Rakuten Optimism」というイベントを開催した際、ビジネスカンファレンスで「楽天モバイルのTop 5 5G製品」が紹介されていた。

iPhone 14
iPhone 13
iPhone 12 /mini
Rakuten Hand 5G
iPhone SE

といった具合でiPhoneが上位を占めていたのだった。つまり、楽天モバイルはかつてオリジナル端末を一生懸命手がけていたが、結局、ユーザーはiPhoneで楽天モバイル回線を使っている人がほとんどだということがわかる。

 果たして、iPhone 15が発売されるタイミングで、楽天モバイルはネットワークを強化し、マーケティング活動を加速することができるのか。

 決算会見で2024年からの楽天モバイルは「フェーズ3」として、テイクオフ&上昇気流に乗るとアピールしていたが、この秋にスタートダッシュを決められるのかが注目といえそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。