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楽天モバイル三木谷氏「ここまでは多少強引に進めてきた」――赤字からの巻き返しに自信

 楽天グループは10日、2023年度第2四半期(4月~6月)の決算を発表した。楽天モバイル単体では、売上収益が522億円(前年同期比13.3%増)。Non-GAAP営業損失は789億円を計上した。

 本稿では、決算会見における三木谷浩史氏との質疑応答の様子を紹介する。

三木谷氏

モバイル事業の利益改善

――楽天モバイルの利益改善についてもう少し詳しく教えてほしい。どういった点が利益改善に寄与しているのか。

三木谷氏
 繰り返しになりますが、もともと国有企業だった企業が民営化されたというようなことと違って、我々はベンチャーでやってきました。

 やっぱりまずはネットワークを十分に引かないと(整備しないと)話にならないということで、フェーズ1については、大変正直に言えば、多少強引に進めてきたところがあります。

 ネットワークの99%近くは独自で引けてきたので、今度はコストの最適化に取り組んでいます。人員は他社さんに比べて、多分1/10以下かなと思っていますが、自動化を進めていて、物流などもかなり効率化している。

 一方でネットワークの改善ということで、(KDDIと)新たなローミング契約を締結できたのは大変大きい話かなと思います。ローミング費用も大幅に下がってきていて、これからも下がっていきます。

 マーケティングの効率化などもありますが、一番は、自動化やAIを含めて最適化が進んできているのがかなり大きい。

 ネットワークがさらに良くなって、さらにユーザーを獲得できればいいなと思っています。

組織再編について

――キャッシュレス事業関連で、組織の再編があった。

三木谷氏
 楽天カードについては3000万枚が見えてきました。

 ペイメントの多様化がありまして、うちの場合は楽天カードだけではなく、楽天ポイント、楽天ペイ、楽天Edy、楽天キャッシュといろいろあります。

 オンラインはEコマース事業でやっていて、オフラインのQRコードを中心とした決済として楽天ペイは楽天ペイでやっていたので、そこを統合していくということで考えています。

――楽天カードの上場や資本提携などによって、グループ全体の資金調達とか、そういうところも視野に入れているのか。

三木谷氏
 資本について今のところ予定はありませんが、今後の状況を見て柔軟に考えていきたいなと。

 (事業も)かなり大きくなってきたので、いろいろなことが考えられると思っています。

OpenAIとの提携の背景とは

――OpenAIとの提携はかなり驚きだった。サム・アルトマンCEOと仲がいいようだが、口説き落とせた背景は。

三木谷氏
 すごく仲がいいわけじゃないですよ、正直に言って……友達というくらいで、別にカラオケ一緒に行っているわけじゃないんで(笑)。彼はもともとYコンビネーターというところのパートナーで。

 ただ、(提携の)一番大きな背景は仲がいいっていうことではなくて。データのリッチさ、クライアントベースのネットワーク、楽天モバイルのエッジコンピューティングパワーの3つがあるのかなと思います。

 楽天グループのように、これだけ多岐にわたったビジネスをやっていて、これだけリッチなデータを持っていて、こんなにポテンシャルのある企業は、世界中を見てもないと思うんですよね。正直に言って。

 楽天ペイや楽天カードのデータがある。また、当然パーミッションベースということになりますが、楽天モバイルを作ったひとつの大きな理由として、データの有効活用というのはあるわけです。

 そこも使いながらやっていくデータの価値は、もしかしたら世界でもトップなのではないかなと思っています。

 また、楽天グループだけでなくて、90万社のビジネスパートナーの方々に対して、AI as a Serviceのようなかたちで提供していきます。

 それから楽天モバイルに関しても、おそらく世界で唯一実際的にワイヤレスなエッジコンピューティングができるネットワークなので。他社さんとはネットワークの構造がまったく違うので、我々のエッジにAIを置いていくこともできます。

 あともうひとつ、我々はやっぱり日本の企業のなかでは一番国際的だということなんですよね。ワールドクラスのAIエンジニアが楽天グループにいるので、共通言語で話ができるということも大きいと思います。

料金プラン契約における本人確認への考え

――8月末から音声SIMでも簡易申込みを始めるとのことだが。

三木谷氏
 8月末ではなくて、もう少し先になるかもしれないですね。

――本人確認をしっかりしないことに対して、犯罪防止という意味で他キャリアが不安視する動きもある。反論は。

三木谷氏
 金融(事業)で実施している本人確認はかなり厳格にやっている……むしろ携帯ショップ、ドコモショップでやるよりは厳格にやっているんじゃないかなと思っていますが(笑)、我々の金融事業ではマネーロンダリングなども考慮してかなり厳格にやっています。

 もっと大きな話で言うと、世界では米国も欧州も、クレジットカードによるポストペイドについては、それで本人確認OKということになっています。

 今、海外から外国人の方を呼んでこようという動きがあったり、日本から海外のeSIMを簡単に買えてしまったりするなかで、本人確認を厳格にやるということに対して本当に有効性があるのかと。

 むしろ、“道路”と同じなんじゃないかと考えておりまして、楽天グループとしては、本人確認は基本的に別のかたちでやっていくのが重要なのではと思っています。

 たとえば皆さんご存じかもしれませんが、Instagram上に私の画像が出るような、別のかたちの詐欺が圧倒的に多い。

 それよりも、楽天モバイルが参入したことによって、携帯料金が下がったわけですよね。いろいろなところに移りやすくすることで、さらに競争が生まれる。

 原始的な本人確認の厳格化は、「とても限界かな」とマクロ的には思っています。

アミン氏の退任

――タレック・アミン氏の退任はどのように受け止めているか。

三木谷氏
 本当に個人的な理由ということなので、我々としては仕方がないということが第一です。

 そのなかで、ゼロから1をつくる人と、1を100にする能力(を持つ人)は、別だと思うんですよね。

 よって、ある意味オペレーションに近いシャラッド(スリオアストーア氏)がテイクオーバーする(引き継ぐ)というのは、実務的に言うとむしろポジティブだととらえています。

今後の展望

――アミン氏の退任など、不安要素がある。設備投資も減って、つながりやすさを不安視する声もある。資金的にショートするようなことはあるのか。事業が危ないと言われているが。

三木谷氏
 僕はインターネットやニュースを見ないのでよくわかりませんが(笑)、正直言って、経営にも絶対的な自信を持っているということしか言えないかなと思います。

 楽天モバイルは、巨大なネットワークを3年で作るという未曾有のプロジェクトなわけです。そこに果敢に挑んでいる理由は、利益もありますが、世の中のニーズと社会的な意義があるから。

 データ通信量無制限で、家族4人が使うと多額の節約ができるという社会的な意義のあるプロジェクトは、ほかにほとんどないと思っています。

 我々グループ全体が一体となってこのプロジェクトを進めていこうという決意を固めていることが、ひとつの大きなポイントなのかなと。少し青臭いところもありまして、これを必ず実現しようという強い決意で挑んでおります。

 財務的にはもう間もなく、グループ全体で黒字化というのも復活します。それによる実際のキャッシュフローもポジティブになっていくところが見えてきます。

 今回の楽天カード(の組織再編)のようなペイメント事業のところに関しても、言い方が悪いですけど、「やろうと思ったらいつでもマネタイズができるよ」というメッセージを、マーケットに対して送る意味合いも多少あるのかなと思っています。

 楽天モバイルの収益改善だけでなく、楽天グループの収益構造の向上もすごいスピードで始まっています。

 日本の方々がこのようなチャレンジを応援してくれるよう、我々もさらに一生懸命コミュニケーションしていく必要があるかなと思っています。