石川温の「スマホ業界 Watch」

「Galaxy Tab S9」シリーズ発表からみるAndroidタブレットの現在地

 サムスン電子が8月22日、新製品発表会を開催。折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」などを発表。9月1日よりNTTドコモとKDDIから発売されるとアナウンスがあった。

 今回の発表会で、筆者が特に気になったのが、タブレット端末の充実だ。

 「Galaxy Tab S9シリーズ」として、14.6インチの「Galaxy Tab S9 Ultra」、12.4インチの「Galaxy Tab S9+」、11インチの「Galaxy Tab S9」といった3モデルが一気に投入されるのだ。

「Galaxy Tab S9」シリーズ

 すでに10インチのGalaxy Tab S Liteなどはちょうどいいサイズ感を狙ったタブレット市場におけるど真ん中を狙った商品であったが、今回のGalaxy Tab S9シリーズはハイエンドに位置づけられる商品群だ。

 特にGalaxy Tab S9 Ultraは20万円を超える価格設定になっているなど、まさにターゲットはアップル・iPad Proのユーザー層だと言えるだろう。

 これまで、Androidタブレットは、どちらかというと、価格競争が優先され、安価だけどスペックがイマイチというものがほとんどだった。しかし、ここ数年、サムスン電子はAndroidタブレットでもハイエンド路線を突き進み、日本市場向けでも今年、Galaxy Tab S9シリーズが一気に3モデル投入されるなど、俄然、Androidタブレットでやる気を出してきたように見える。

 サムスン電子関係者によれば「Galaxyスマートフォンユーザーから、タブレットを求める声が非常に大きい。採算は厳しいが、ここでユーザーの声に応えたいと、ラインアップを強化した」と語る。

 これまでサムスン電子は頑なに「Samsung」のロゴをスマートフォンに記載せず「Galaxy」で通すなど徹底して「サムスン」をひた隠しにしてきたが、今年になって、あえて「Samsung」をアピールするようになってきた。

 今回の新製品発表会では「Galaxy Z Fold5」、「Galaxy Z Flip5」、「Galaxy Tab S9シリーズ」に加えてスマートウォッチである「Galaxy Watch6シリーズ」も同時に発表するなど、Galaxyの世界観、エコシステムを前面に押し出した発表会となっていた。

 スマートフォンとウォッチを組み合わせて写真が撮れたり、スマートフォンで撮影した画像を簡単にタブレットにコピーできたりなど、機器間連携のアピールにも余念がなかった。

 サムスン電子関係者は「ここまで、すべての製品を同時に発表したのはいままでにはなかったかも。それだけ、Galaxyの全体像を理解してほしいということでもある」と語る。

 サムスン電子がここまでタブレットやスマートウォッチを強化している背景にあるのは、やはりアップルを意識しているからだろう。アップルはiPhone、iPad、Apple Watch、Macといったように幅広い製品ラインアップを取りそろえ、世界観やエコシステム、機器連携でユーザーをがっちりと囲い込んでいる。

 もはや単にスマートフォン単体での勝負ではなく、周辺機器を含めた、横展開でアップルとガチンコで戦わう道をサムスン電子は選んだのだろう。

鍵を握る「大画面対応アプリの仕上がり」

 ただ、ここで重要となってくるのが「アプリ」だろう。

 これまでAndroid陣営をリードするグーグルは、どちらかというとタブレットに対してはあまりチカラが入っていなかった感がある。コロナ禍前、グーグルの幹部に「タブレットはどうするのか」と質問したところ、「うちはChromeBookがある」として、Chromebookに注力していくという方向性を示していたのだった。

 しかし、世界中がコロナとなり、「大画面で動画を見る」「ビデオ通話でコミュニケーションをする」といった需要が一気に高まったことで、タブレットに対するニーズが爆発した。そこで、グーグルとしては、ここ数年、Androidの大画面や折りたたみ対応を強化し、タブレットにも注力するようになったのだった。

 確かにAndroidOSとしての操作性などは向上したが、一方で、大画面で使いやすい操作性に対応したアプリがまだ足りないといった状況だ。

 Galaxy Tab S9シリーズのプレゼンでは動画編集アプリが訴求されていたが、世のクリエイターが使いたいのは、Adobeのアプリなのではないだろうか。

 動画編集であれば、Adobe Premiereだし、写真編集であればPhotoshopだろう。

 出先でタブレットを使って粗めの編集をしつつ、自宅やオフィスに戻って、パソコンを使って編集の続きを行うといったときに、どちらのプラットフォームでもしっかりとアプリが提供されている編集ソフトがあったほうが望ましい。その点、長年、クリエイター向けソフトを手がけていたAdobeのアプリがAndroidタブレットで使えればいいのだが、どうやらAdobeはAndroidタブレットに対して、いまのところ、あまりやる気がないように見える。

 そのあたりもかつて、Adobeの幹部に聞いたところ「やはり普及している台数がiPadのほうが圧倒的だ」という回答であった。

 今回のGalaxy Tab S9シリーズではペンが付属するが、本格的にクリエイティブな作業をしたい人向けには別売りのペンも用意されている。

 ただ、やはりハードが揃っているだけではクリエイターの気持ちは動かない。これまで、グーグルがタブレット向けをサボってきたツケが回ってきている。

 とはいえ、グーグル自身も「Pixel Tablet」を出すなど、ようやくタブレットに本気になりつつある。

 サムスン電子の努力を無駄にしないよう、グーグルはいままで以上にタブレットでAndroidを使いやすくすべきだし、有力なアプリ開発企業にAndroidタブレット向けアプリを作ってもらえるよう、ロビー活動をしていく必要がありそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。