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石川 温が考える、楽天モバイルの「2023年大躍進」のカギとは?

楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

 4月14日、楽天グループ 三木谷浩史会長による記者会見があった。

 創業25周年ということで「後継者はどうするのか」という質問が飛んだ。三木谷会長は「すでに楽天市場や楽天カードは職掌する役員がリードしており、私の手を離れて権限委譲が進んでいる。いま、私のリソースの大半は携帯電話事業だ」と語った。

 現在、楽天グループでは現在、2030年に向けた中期経営計画を策定しているという。そのなかのひとつのトピックとして掲げられていたのが、三木谷会長がいま心血を注いでいる「楽天モバイル・楽天シンフォニーの大幅黒字化」だった。

2023年が「勝負の年」

 2030年まではあと8年あるが、楽天モバイルとしては「2023年」が勝負の年になる気がしている。三木谷会長が注力したいと考える分野が、いずれも2023年に大きな変化が期待できるからだ。

プラチナバンド問題

楽天モバイルが総務省に提出した資料より

 まず、ここ最近、楽天モバイルがアピールし始めている「プラチナバンド問題」だ。3月末に楽天モバイルの社長に就任した矢澤俊介氏がさまざまなメディアのインタビューに答え、プラチナバンドを獲得したいと力説している。

 三木谷会長は「プラチナバンドや1.7GHz帯のCバンドなどは足りない。そういう意味ではフェアな競争があっていい。2023年ごろ、収益が出てきたなかで、さらにナンバーワンになるためにプラチナバンドを活用したい」というのだ。

KDDIのローミング終了

 三木谷会長が「2023年に収益が出てきたなかで」と語っているが、楽天モバイルは設備投資に加えて、KDDIにローミング接続料を払っているのが赤字体質から抜け出せない原因となっている。

 三木谷会長は「(KDDIへの)ローミングの接続料が国際標準からだいぶかけ離れた状態(金額設定)となっている。そこで『なにクソ』と思って、すさまじい勢いで基地局を建ててきた」と振り返る。

 すでに楽天モバイルでは、計画を大きく上回る4万3000局を超える基地局を建設した。

 矢澤社長は「屋外に関しては、2023年度にはKDDIとの契約を打ち切りたい」と語る。つまり、2023年に屋外ローミングを打ち切れれば、ローミング接続料の出費は大幅に減り、さらに自前エリアが拡大していることもあり、使い放題のユーザーが一気に増え、収益が改善するというわけだ。

エリア拡大のカギは「プラチナバンド」と「通信衛星」

AST&Scienceとの業務提携発表時のようす、中央は当時の楽天モバイル社長の山田善久氏

 プラチナバンドを獲得するには、既存3社から周波数帯の一部を返してもらい、楽天モバイルに割り当ててもらう必要がある。実際にそのような手続きを行うにはNTTドコモが10年、KDDIが7年かかると主張しているが、矢澤社長は「1年で対応できる」と反論する。つまり、2023年中には楽天モバイルがプラチナバンドを手にすることは充分に可能だというのだ。

 楽天モバイルでは地上はプラチナバンドでエリアを広げつつ「ルーラルエリアでは通信衛星でカバーする。この夏から実証実験が始まる」(三木谷会長)という。

 通信衛星とは「スペースモバイル計画」のことであり、地上700キロメートル上空に通信衛星を飛ばし、すでにユーザーが持っているスマートフォンと直接、通信できるようにするというものだ。業界関係者からは「眉唾物」とささやかれているが、これにより、楽天モバイルは日本全国100%のカバー率を達成する見込みだ。

 ちなみに、このスペースモバイル計画も、2023年中の開始を目指しているのだ。

2023年に楽天モバイルは「大躍進」できるか?

 これまで楽天グループは25年間、インターネット企業として、日本だけでなく世界で活躍してきた。自由度の高いインターネットの世界で成功を収めた楽天グループだが、いまは規制だらけの通信業界でトップシェアを目指して奮闘している。

 いまの日本の通信分野における規制に対して、三木谷会長は不満を抱いていたりしないのだろうか。

 三木谷会長は「MNPはアメリカだとワンストップでできてしまう。ところが日本は様々な理由でできないとされてきた」とMNP制度の問題を指摘する。

 現在、日本でMNPをしようと思うと、まずこれまで使ってきたキャリアでMNP番号を発行してもらい、そのMNP番号を持って、これから契約しようとするキャリアで手続きを行うという流れになる。この際、今使っているキャリアでクーポンがもらえるなどの引きとめ策にあうなどして、結局、やめずに、そのまま使い続けるということが多くなっている。

 新規参入事業者である楽天モバイルとしてみれば、せっかく契約したいと思ってくれる人がいても、すでに契約しているキャリアにMNPを阻止されてしまっていることになるのだ。

 ワンストップ化は、新規に契約したいキャリアだけで手続きが完了する仕組みだ。これまで契約していたキャリアへの連絡は不要となるため、楽天モバイルやMVNOにとっては追い風になると期待される。

 実は、このMNPのワンストップ化も現在、総務省で検討、準備が進んでおり、2023年春を目処に実施に向けて動き始めているのだ。

 つまり、2023年、プラチナバンドを手にしてネットワーク品質を改善させ、衛星からの電波で日本全国100%のカバー率を達成。エリアが広がることで、他社からワンストップでMNPしてくるユーザーが激増。自前エリアが増えることで通信料収入も大幅アップ。

 屋外ローミングを打ち切り、KDDIへのローミング接続料の支払いを減らして、大幅黒字化達成というわけだ。

 もちろん、ここまで上手く環境を整えるには、総務省や政府のお膳立てが必要になる。

 ただ、創立25周年レセプションには、岸田文雄内閣総理大臣が挨拶に訪れただけでなく、安倍晋三元首相、さらに楽天グループを第4のキャリアとして新規参入させた張本人とも言われている菅義偉前首相がビデオメッセージを寄せるなど、三木谷会長と政治の世界との強いつながりが見て取れた。

登壇した岸田首相

 2023年までの間、既存3社にとって楽天モバイルは「今まで以上に厄介な存在になっていく」かも知れない。