藤岡雅宣の「モバイル技術百景」
通信障害をAIが自動復旧する、ドコモやauが進める運用の裏側
2026年8月31日 00:00
私たちがスマホで動画を見たり、SNSを利用したりするとき、その通信を支えるモバイルネットワークの仕組みを意識することはほとんどありません。しかし通信事業者は、全国に広がる多数の基地局やネットワーク設備を24時間監視し、障害への対応や通信品質の維持、混雑への対処などを行っています。
近年、このネットワーク運用にもAIの活用が広がっています。異常やその兆候を見つけて原因を分析する、将来の通信量を予測してネットワークを最適化する、つまり「繋がりにくさ」や「通信速度の低下」を未然に防ぐなど、これまで人が行ってきた運用の一部をAIが担うようになってきました。
そこで今回は、ネットワーク運用とはどのようなものか、そこにAIがどのように使われているのか、そして今後、自律化に向けてネットワーク運用がどのように進化していくのかを見ていきます。
ネットワーク運用とは
私たちがスマホを利用するとき、その通信は基地局から通信事業者のネットワークを通り、通信相手やインターネット上のサーバーへとつながっています。利用者にとっては、スマホを操作すればすぐにつながるのが当たり前ですが、その裏側では通信を安定して提供するための運用が24時間、365日続けられています。
モバイルネットワークは、図1に示すように、全国各地に設置された基地局からなる無線アクセスネットワーク(電波を届ける設備)、利用者の認証や通信経路を制御するコアネットワーク(通信を処理する中心部)、これらを結ぶ伝送ネットワーク(設備間をつなぐ回線)からなっています。
ネットワーク運用とは、設備を監視・管理するシステムなどを通して、こうした設備やシステムが正常に動いているかを監視し、問題が起きた場合には原因を調べて復旧させ、日常的に通信品質を維持・改善していく作業全体を指します。
モバイル通信事業者は、全国の地域ごとにネットワークセンターを設けて通信設備を配備しており、それらを監視・運用拠点としてネットワークの状態を常時確認しています。
たとえば、ある基地局で装置の故障が起きると、その地域のネットワークセンターにある監視システムにはアラームが表示されます。運用担当者は、アラームやログ(装置から得られる履歴情報)、通信状況などを確認して原因を調べ、必要に応じて設定変更や装置の再起動を行ったり、現地にいる保守担当者に対応を依頼したりします。
また、装置が故障していなくても、駅や繁華街、イベント会場などで利用者が急増するとネットワークが混雑し、つながりにくくなったり速度が低下したりすることがあります。このような場合には、基地局ごとの通信量や利用者数、電波の状態などを分析し、設定変更や設備増強によって混雑の緩和を図ります。
ネットワーク運用は、障害が起きてから対応するだけではありません。障害の予兆を見つけること、通信品質を継続的に監視すること、将来の通信量を予測すること、設備を効率よく利用することなども重要な仕事です。
近年の5Gではネットワーク機能の仮想化やクラウド化が進み、従来のハードウェアとしての通信装置に加えて、サーバーや仮想マシン、そこで動作するソフトウェアなども管理対象となります。さらに、これらが状況に応じて動的に構成を変えるため、監視すべき項目や収集されるデータも増加します。このため、ネットワークを柔軟に運用できる一方で、運用管理はより複雑になっています。
このようにネットワーク運用では、巨大で複雑な通信インフラを絶えず見守り、問題を見つけ、原因を調べ、必要な対策を行いながら、利用者がいつでも当たり前のように通信できる状態を維持するようにしています。そして現在、この監視・分析・判断・最適化の一部をAIに担わせようとする取り組みが急速に進んでいます。
ネットワーク運用におけるAI
モバイルネットワークでは、基地局やコアネットワーク、伝送設備などから、通信量、通信接続数、電波品質、装置の状態、アラーム、ログといった膨大なデータが常に収集されています。従来は、こうしたデータを運用担当者が監視・分析し、異常が発生した際には原因を調べ、必要な対応を判断してきました。
しかし上記のように、5Gの導入とネットワークの仮想化・クラウド化によって、ネットワークはより複雑になり、監視対象や扱うデータ量も増えています。そこで重要になっているのがAIの活用です。
たとえばNTTドコモは、全国各地の基地局やコアネットワーク、それらをつなぐ伝送ネットワークまで、総計100万台を超える装置群から集めた情報をAIにより分析して障害などに対応するシステムの構築を進めています。
AIの役割の一つは、ネットワークの異常を早期に見つけることです。たとえば、通常とは異なる通信量の変化や、複数の基地局で同時に起きている品質低下などを大量のデータから検出し、障害や混雑の兆候として運用担当者に知らせます。過去の障害データや運用履歴を学習することで、単純なしきい値の監視だけでは見つけにくい変化をとらえることも期待されています。
AIは異常を見つけるだけでなく、その原因を絞り込むためにも利用されます。一つの障害によって多数のアラームが発生することがありますが、それらを人が一つずつ確認するには時間がかかります。AIがアラームやログ、装置間の関係、過去の障害事例などを分析することで、「どこに本当の原因がある可能性が高いか」を見つけ、復旧までの時間を短縮できます。
また、通信量や利用状況を予測し、あらかじめネットワークを調整することも可能になります。たとえば、イベントなどで利用者が増えることを予測して通信容量を調整したり、利用者が少ない時間帯には一部の設備を省電力状態にしたりします。
つまりAIは、問題が起きてから対応するだけでなく、「これから何が起こりそうか」を予測して先回りする運用にも使われ始めています。
さらに最近は、生成AIをネットワーク運用に活用する動きも広がっています。運用担当者が自然な言葉で「通信品質が低下した原因を調べてほしい」と指示すると、AIが複数のデータ群を調べ、原因候補や対応策を整理して提示するといった使い方です。
将来的には、AIが状況を認識し、原因を分析し、対策を選び、その結果まで確認する一連の運用を自律的に行う方向へ進むと考えられています。
ネットワークの自動運用レベル
クルマの自動運転にレベルがあるように、ネットワークの運用にも自動化の進み具合を段階的に示す考え方があります。ネットワーク運用や管理に関連する通信業界団体のTM Forumでは、Autonomous Networks(自律型ネットワーク)の自動化レベルをレベル0からレベル5までの6段階で整理しています。
ここでは理解を助けるために、クルマの自動運転とネットワークの自動運用の各レベルの対比を表1に示します。これらは、それぞれ異なる基準で定められているため単純に対応するものではありませんが、人からシステムへ判断や操作を任せる範囲が徐々に広がっていくという点では、よく似ています。
たとえば従来のネットワーク運用では、障害を知らせるアラームを監視した後、運用担当者がログなどを調べて原因を特定し、対応方法を判断して設定変更などを行っていました。自動化が進むと、システムやAIが異常を検知するだけでなく、関連する情報を分析して原因を推定し、適切な対処を選択するようになります。
さらに高度になると、各装置に必要な設定変更などを自動的に実行し、その結果を確認して問題が解消したかどうかまで判断します。
ただし、通信事業者のネットワーク全体が一律にたとえば「レベル3」「レベル4」になるわけではありません。障害対応、通信品質の最適化、省電力制御など、具体的な運用業務ごとに自動化のレベルは異なります。そのため、自律型ネットワークへの移行は、個々の運用業務について自動化できる範囲を少しずつ広げていく形で進められています。
たとえば、ソフトバンクは無線アクセスネットワークおよびコアネットワークの障害対応でTM Forumからレベル3認定を受けています。
また、楽天モバイルと楽天シンフォニーは、共同開発した自律型RAN(無線アクセスネットワーク)省電力化ソリューションにおいて、TM Forumからレベル4認定を取得しています。商用Open RAN環境での省電力化シナリオでの認定は世界初とされています。
AIが判断する段階からAIが運用する段階へ
上記のように、ネットワークの自動運用は、すべてを一度に自動化するのではなく、人が担っていた監視・分析・判断・実行の一部を段階的にシステムへ移していく形で進みます。その中でAIの役割も、「人の判断を支援する」段階から、「みずから判断し、実際のネットワークを動かす」段階へと広がっていきます。
比較的低い自動化レベルでは、AIは通信品質の低下や設備の異常を検知したり、大量のアラームから原因候補を絞り込んだり、将来の通信量を予測したりという形で、運用担当者を支援します。この段階では、AIが「何が起きているのか」「どのような対応が考えられるか」を示し、最終的な判断や操作は人が行います。
自動化レベルが高まると、AIを含む運用システムが分析するだけでなく、対応方法を判断し、その結果に基づいてネットワークを制御する範囲が広がります。たとえば、あるエリアで通信量が急増して基地局の負荷が高まった場合、通信量や利用者数、電波品質などを分析し、周辺基地局への負荷分散や設定変更といった対策を選択して、自動的に実行することが考えられます。
さらに高度な自律運用では、設定変更後に通信品質が改善したか、新たな問題が発生していないかを確認し、必要に応じて追加の対策を行います。
このように、ネットワーク状況の把握~分析・判断・実行、その後の確認まで、一連の作業を自動で回転させる仕組みを「クローズドループ(Closed Loop、自動巡回)」と呼びます。人が一つ一つ指示しなくても、このループを自動的に回せることが、自動運用レベルを高めるうえで重要になります。
こうした仕組みは、障害対応だけでなく、通信品質の最適化や省電力化にも利用できます。たとえば、利用者が少ない時間帯には一部の基地局設備を省電力状態にし、通信需要が増える兆候を検知すると元に戻すといった制御です。
ただし、自動運用レベルが高くなったからといって、すべての判断や操作をAIに任せるわけではありません。運用業務によって求められる安全性や影響範囲は異なるため、どこまで自動化するかを適切に設計する必要があります。重要な設定変更では人の承認を必要としたり、AIが操作できる範囲をあらかじめ限定したりすることも必要です。
このように、ネットワーク運用の自動化とは、単に人の作業を機械に置き換えることではありません。AIが「異常を見つける」「原因を分析する」「対策を提案する」という支援の段階から、「判断する」「実行する」「結果を確認する」という運用そのものを担う段階へと進むことで、ネットワークはより高い自律性をもつようになります。
生成AIやAIエージェントは運用をどう変えるか
ネットワーク運用で使われてきたAIは、通信量の予測や異常検知、障害原因の推定など、特定の目的に応じてデータを分析するものが中心でした。これに対して最近注目されているのが、生成AIやAIエージェントの活用です。
生成AIは私たちが日常使っているのと同じように、ネットワーク運用においても大量の文書やログ、過去の障害事例などを読み取り、人が普段使う言葉で質問した内容に対して、必要な情報を整理して回答することができます。
たとえば運用担当者が、「昨日からこの地域で通信品質が低下している原因を調べて」と指示すると、生成AIがアラームやログ、過去の類似事例、ネットワーク構成などを参照し、考えられる原因や確認すべき項目をまとめて提示するといった使い方が考えられます。
また、障害対応の手順書や過去の作業記録を検索し、「以前、同じような障害が起きたときにはどのように復旧したか」を短時間で調べることもできます。これまで担当者が複数のシステムや資料を行き来して行っていた情報収集を、対話形式で支援できることが大きな特徴です。
さらに一歩進んだものが「AIエージェント」です。生成AIが主として質問に答えたり対応案を提示したりするのに対し、AIエージェントは与えられた目的を達成するために、必要な作業をみずから組み立て、複数のシステムを利用しながら一連の処理を進めます。
たとえば「この地域の通信品質低下の原因を調査して」という指示を受けると、監視データを確認し、関連するアラームを抽出し、過去の障害事例と照合し、原因候補を整理したうえで、必要な対応策を提案する、といった複数の作業を連続して行うことができます。
さらに自動化が進めば、一定の条件のもとでAIエージェントが設定変更や通信処理の割り当て(混雑に応じた回線の調整)などの操作まで行い、その後通信品質を確認して、改善しなければ別の対応を行うといった運用も考えられます。これは前章で紹介したクローズドループ型の自動運用を、より柔軟に実現する手段の一つとして期待されています。
一方で、AIエージェントにネットワーク操作を任せる場合には、誤操作や想定外の影響を防ぐ仕組みが欠かせません。どの範囲までAIに権限を与えるのか、重要な変更では人の承認を必要とするのか、判断の根拠を後から確認できるようにするのか、といったルールづくりが重要になります。
こうしたAIエージェントは、すでに国内の通信事業者のネットワーク運用にも導入され始めています。
NTTドコモは2026年2月から、「ネットワーク保守業務向けAIエージェントシステム」を商用ネットワークで利用しています。図2に示すように、基地局からコアネットワークまで100万台以上のネットワーク装置から収集されるトラフィック情報や警報情報などを、複数のAIエージェントが横断的かつリアルタイムに分析します。
出典:ネットワークの自律オペレーションを実現する自動化とAI活用|NTTドコモ テクニカル・ジャーナル|NTTドコモ
この仕組みの特徴は、複数のAIエージェントを組み合わせて大量のネットワークデータを分析している点です。AIエージェントが異常を検知し、被疑箇所を特定して対処案を提示しますが、従来の人手による分析や判断が必要だった複雑なネットワーク障害への対応時間を50%以上削減できるとしています。
最終的な対応については、現状は保守担当者が行う形ですが、NTTドコモは今後AIエージェントを活用してネットワーク故障への対処の自動化を進めるとしています。
また、KDDIは図3に示すようにクラウド環境上に構築された、音声通話・データ通信やau PAYなど一部サービスにおける障害原因を即時に特定する「復旧支援AIエージェント」を運用しており、障害が発生したサービスとシステムの相関、設備アラームの発生状況、メンテナンス作業の実施状況などを統合的に分析して原因を特定します。
出典:AI for Network - AIとデジタルツインを用いた障害復旧の取り組み|KDDI Tech note
KDDIでは、このAIエージェントと連携し、設備の切り離しといった具体的な復旧措置や、故障部位の交換対応時などに必要な保全作業を実行する「保全AIエージェント」を2026年度に導入される予定です。同社はAIエージェントの活用により、障害の原因特定から復旧措置までを完全自動化する運用DXを目指しています。
生成AIやAIエージェントの登場によって、ネットワーク運用におけるAIは、単にデータを分析する存在から、運用担当者と対話し、調査や判断を支援し、さらに一連の作業を実行する存在へと変わりつつあります。今後は、人とAIがそれぞれの得意分野を生かしながら協力してネットワークを運用する形が、より一般的になっていくと考えられます。
ネットワーク運用者の仕事はどう変わる?
AIを利用した自動化が進むと、「ネットワーク運用者の仕事はなくなるのではないか」と考える人もいるかもしれません。しかし実際には、仕事がなくなるというよりも、人が担う役割が変わっていくと考えるのが自然です。
従来のネットワーク運用では、監視画面に表示された多数のアラームを確認し、ログを調べ、過去の事例を探しながら原因を特定するといった作業に多くの時間が使われてきました。また、あらかじめ決められた手順に従って設定を変更したり、定型的な確認作業を繰り返したりする業務も少なくありません。
AIによる自動化は、こうした大量のデータ処理や定型作業を得意としています。そのため今後は、人が一つ一つ情報を探して処理する作業は減っていくと考えられます。
一方で、AIが導き出した分析結果や対応案が本当に適切かどうかを判断する役割は、これまで以上に重要になります。
たとえば、AIが通信品質低下の原因を特定し、基地局の設定変更を提案したとしても、その変更が周辺地域や他のサービスにどのような影響を与えるかまで考慮する必要があります。特に大規模な障害や災害、想定外のトラフィック増加など、過去のデータだけでは判断しにくい状況ではネットワーク全体を理解した人の判断が欠かせません。
また、AIに「何を任せるか」を決めること自体も、運用者の新しい仕事になります。どのような条件ならAIに自動操作を許可するのか、どの段階で人の承認を必要とするのか、異常な動作が起きた場合にどのように停止させるのか、といったルールを決めなければなりません。AIの判断結果を監視し、必要に応じて修正する、いわば「AIを運用する仕事」も増えていくでしょう。
さらに、生成AIやAIエージェントが広く使われるようになると、運用者にはAIへ適切な指示を出す能力や、複数の情報をもとに回答の妥当性を確認する能力も求められます。ネットワーク技術だけでなく、データの見方やAIの特性を理解することが、これまで以上に重要になります。
このように、AI時代のネットワーク運用者は単に装置を監視し、障害が起きたときに対処する役割から、AIと協力しながらネットワーク全体を監督し、重要な判断を行うように役割を変えていくと考えられます。
AIが得意な監視・分析・定型処理はAIに任せ、人は例外への対応や最終判断、運用方針の決定に集中することができます。ネットワークの自律化が進むほど、人にはより広い視野と高度な判断力が求められるようになると考えられます。
自律するネットワークへ
モバイルネットワークの運用は自動化技術の進展によって、その姿が大きく変わろうとしています。ネットワーク自身が状態を把握し、異常を見つけ、原因を分析し、必要な対策を選び、実行した結果まで確認するといった一連の動作を自律的に行うAutonomous Networksが、将来のネットワーク運用の一つの方向として注目されています。
自律化が進む背景には、ネットワークそのものの複雑化があります。5Gでは、基地局やコアネットワークに加えて、クラウド、エッジコンピューティング、ネットワークスライシングなど、さまざまな技術が組み合わされるようになりました。
さらに将来の6Gでは、通信とAIがこれまで以上に密接に結びつき、ネットワークが扱うサービスや端末も一層多様になると考えられます。こうした複雑なネットワークを、人の手だけで常に最適な状態に維持することは難しくなっていきます。
AIが大量のデータから現在の状態を理解し、将来の通信需要や障害の可能性を予測する。そして、必要に応じてネットワークの設定や無線や計算処理などの資源配分を調整し、その結果を見ながらさらに改善する。このサイクルを繰り返すことで、ネットワークは環境の変化に応じてみずから状態を整えていくことができるようになります。
もっとも、「自律する」といっても、人がまったく関与しなくなるわけではありません。どのような品質を目指すのか、どこまでAIに判断や操作を任せるのか、想定外の状況ではどのように人が介入するのかといった基本的な方針は、人が決める必要があります。
重要なのは、人が細かな操作を一つずつ行うのではなく、「この地域では通信品質をこの水準に保つ」「消費電力を抑えながら必要な容量を確保する」といった目的を示し、ネットワークがその目的を実現するために自律的に動く方向へ変わっていくことです。
AIは単なる分析ツールから、ネットワーク運用の一端を実際に担う存在へと変わりつつあります。将来、私たちが意識することなく快適な通信を利用しているその裏で、ネットワーク自身が状況を考え、判断し、みずからを最適な状態に保っている――そんな時代が、少しずつ現実のものになろうとしています。







