藤岡雅宣の「モバイル技術百景」

「Wi-Fi」と「モバイル通信」はどう違うのか

 私たちがスマホでデータ通信を行う際、自宅やオフィス、カフェなどではWi-Fi(Wireless Fidelity、ワイファイ)を使うことが多く、移動中や屋外では4Gや5Gのモバイル通信を使うことが多くなっています。

 一方で、パソコン(パソコン)やタブレットなどでは、モバイル通信機能を持つデバイスの割合が増えているとはいえ、いまだWi-Fiを使うことが多いという傾向があります。

 Wi-Fiとモバイル通信の違いは何なのでしょうか。また、これらはどのように使い分けるのが良いのでしょうか。

 今回は、Wi-Fiの概要と種類、Wi-Fiとモバイル通信の基本的な違いを整理して、これらをどのように使い分けていけば良いのかを考えたいと思います。

Wi-Fiとは

 Wi-Fiとは、スマホやパソコン、タブレットなどを、ケーブルを使わずにインターネットへ接続するための無線通信の仕組みです。インターネット回線につながったWi-Fiルーター(アクセスポイント)が電波を送受信し、その電波を利用して通信します。1台のルーターに複数の端末を接続できるため、たとえば家族それぞれのスマホやパソコン、テレビ、ゲーム機などが同時に利用できます。

 Wi-Fiは、家庭、会社、学校、ホテル、カフェ、駅、空港など、さまざまな場所で使われています。利用する際は、接続したいWi-Fiの名称(SSID: Service Set Identifier)を選び、必要に応じてパスワードを入力するのが一般的です。SSIDはWi-Fi接続サービス(ネットワーク)を識別する名称で、Wi-Fiルーターから報知されており私たちのスマホやパソコン画面上に表示される文字列です。
 Wi-Fiの電波が届く範囲は通常、Wi-Fiルーターの周辺数十m程度です。

 ただし、壁や床などの障害物、使用する周波数帯、周囲の電波状況によって、実際にWi-Fiが利用できる範囲や通信速度は変わります。

 なお、一般に家庭に設置するWi-Fiルーターは、アンテナを持ち無線の送受信を行うWi Fiアクセスポイント(AP: Access Point)機能とデータ通信のルーター機能を中心に、必要な機能をまとめて持つ装置です。大きなオフィスなどでは、Wi Fiアクセスポイントとルーターが別の装置となっており、異なる場所に設置された複数のアクセスポイントがルーターを経由してインターネットに接続されます。

Wi-Fiの進化

 モバイル通信は、1Gから4G、そして現在の5Gへと世代を重ねながら進化してきました。同様に、Wi-Fiも時代とともに進化しており、現在はWi-Fi 5やWi-Fi 6が広く利用され、Wi-Fi 7対応製品も普及し始めています。

 表1に、これまでの主なWi-Fi規格とその特徴を示します。また、図1には、モバイル通信で利用する周波数と対比して、Wi-Fiで利用する周波数帯を示します。

Wi-Fiの技術は、通信速度の向上だけでなく、利用する周波数帯の拡大、多数の端末を効率よく収容する仕組み、セキュリティ、省電力性能などの面でも進化してきました。

 Wi-Fiの基礎となる無線技術仕様は、電気・電子・情報通信分野の国際的な専門団体であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子学会)によって、IEEE 802.11シリーズとして標準化されています。

 最初のIEEE 802.11規格は1997年に制定され、当初の最大通信速度は2Mbpsでした。

 その後、1999年には2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11bが登場し、最大通信速度は11Mbpsに向上しました。同じ年には、5GHz帯を利用して最大54Mbpsを実現するIEEE 802.11aも標準化されました。

 2003年には、2.4GHz帯で最大54Mbpsを実現するIEEE 802.11gが登場し、家庭やオフィスでWi-Fiが広く普及するきっかけとなりました。

 2009年に標準化されたIEEE 802.11n、通称「Wi-Fi 4」では、複数のアンテナを用いて同時にデータを送受信する機能や、隣接するチャネルを束ねて使用する機能が導入され、通信速度と安定性が大きく向上しました。2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応したことも特徴です。

 その後のIEEE 802.11b、通称「Wi-Fi 5」では主に5GHz帯を利用し、より広いチャネル幅、多数のアンテナ、複数の端末へ同時に送信する機能などによって、毎秒ギガビット級の通信が可能になりました。

 IEEE 802.11ax、通称「Wi-Fi 6」では、最大通信速度の向上だけでなく、混雑した環境で多数の端末を効率よく通信させることが重視されました。新たな無線方式によって一つのチャネルを細かく分割し、複数の端末に無線資源を同時に割り当てることで、待ち時間や不要な競合を減らします。また、端末の消費電力を抑える仕組みも導入されました。

 Wi-Fi 6の機能を6GHz帯でも利用できるようにしたものが「Wi-Fi 6E」です。従来の2.4GHz帯や5GHz帯に加えて新しい周波数帯を利用できるため、選択できるチャネルが増え、周囲のWi-Fiとの混雑や干渉を避けやすくなります。

 さらに、IEEE 802.11beに基づく「Wi-Fi 7」では、最大320MHzの広いチャネル幅、より多くのデータを一度に送る無線方式、複数の周波数帯やチャネルを組み合わせて通信する機能などが導入されました。これにより、通信速度の向上に加えて、遅延の低減、通信の安定性、混雑時の性能の改善が図られています。

 Wi-Fiの大きな特徴として、新しい規格に対応したアクセスポイントでも、一定の条件の下で旧規格の端末を接続できる後方互換性があります。

 たとえば、Wi-Fi 6対応アクセスポイントには、Wi-Fi 6端末だけでなく、Wi-Fi 5やWi-Fi 4の端末も接続できます。

 アクセスポイントと端末は、双方が対応する規格、周波数帯、チャネル幅、通信速度などの能力を確認し、その端末が利用できる方式で通信します。

 このため、同じアクセスポイントに異なる世代の端末が同時に接続し、それぞれ異なる規格や通信速度で通信できます。

 ただし、アクセスポイントが使用する周波数帯やセキュリティ方式に旧端末が対応していない場合は、接続できません。また、旧規格の端末との共存によって、互換性を維持するための制御が増え、ネットワーク全体の通信効率が低下する場合もあります。

 モバイル通信では、新しい世代の無線方式で旧世代対応のスマホをそのまま接続することはできません。そのため、基本的に通信事業者は4Gと5Gなど複数世代の機能を並行して運用し、それぞれの世代に対応するスマホを収容しています。

 これに対しWi-Fiでは、一つのアクセスポイントが、同じ周波数帯に対応する複数世代の端末と直接通信できるのが大きな特徴です。

Wi-Fiは免許不要

 無線を利用するという観点からのWi-Fiの最大の特徴は、免許不要帯域を利用するということです。

 つまりWi-Fiは、一定の技術基準を満たす機器であれば、利用者が無線局の免許を個別に取得せずに使える周波数帯を利用します。
 技術基準には、使用できる周波数帯や無線出力(電波の強さ)、ほかの無線システムとの干渉を緩和して共存するための機能などが含まれます。

 もう一方のモバイル通信では、国がまずモバイル通信専用の周波数を確保し、その周波数を通信事業者に割り当てます。通信事業者は、割り当てられた周波数で基地局を運用する無線局免許を取得してネットワークを運用します。

 モバイル通信は広い地域で多数の基地局を連携させ、安定した通信サービスを提供するため、基地局やスマホの性能だけでなく、周波数の利用や基地局の設置・運用についても、より厳格に管理されています

 免許不要帯域を利用するか免許帯域を利用するかという観点を含めて、図2にWi-Fiとモバイル通信の特性比較を示します。

 Wi-Fiのアクセスポイントは、家庭やオフィス、店舗など場所を選ばず、また免許申請の必要もないので、比較的容易かつ低コストで設置できます。

 しかし、Wi-Fiの周波数帯は多くの利用者や機器が共同で使うため、近くのアクセスポイントや同じ無線帯域を利用するBluetooth機器や家電製品などの電波と干渉し、通信速度が低下したり不安定になったりすることがあります。
 モバイル通信用の免許帯域は免許を受けた事業者が周波数を専用利用できますが、免許不要帯域を利用するWi-Fiでは混雑や干渉を完全には避けられません。

Wi-Fiでの無線周波数の使い方

 ここで、Wi-Fiにおける無線上での通信データ送受信の仕組みを見ておきましょう。図3は、Wi-Fiとモバイル通信が、複数のスマホなどで限られた帯域の無線周波数をどのようにシェアして利用するか、その基本的な違いを示しています。

 左側のWi-Fiでは、アクセスポイントとスマホやパソコンなどの機器が、一つの無線チャネルを共同で利用します。

 無線チャネルを使ってデータを送信するという点では、アクセスポイントもスマホやパソコンと同じルールに従います。ここでは、これらを総称して「無線機器」と呼びます。

 基本的に、無線機器はデータを送る前に、無線チャネルがほかの通信に使われていないかを確認します。無線チャネルが空いていれば送信できますが、ほかの機器が送信中の場合はいったん待機します。

 通信が終了しても、複数の機器が同時に送信を始めないよう、各機器はランダムに決めた時間だけ待ってから送信を試みます。待っている途中で別の通信が始まった場合は、再び待機します。

 通常の通信では、データが正常に届くと、受信側から送信側へ確認応答(ACK)が返されます。送信側が一定時間内にACKを受信できなかった場合は、データまたはACKが正しく届かなかったと判断し、時間を置いて再送します。通信に失敗した場合は待ち時間の範囲を広げ、再び同時送信が起こる可能性を下げます。

 通常のWi-Fiでは、スマホやパソコンなどはアクセスポイントとの間で通信します。

 たとえば、Wi-Fiに接続したパソコンからWi-Fi接続のプリンターへデータを送る場合、データはまずパソコンからアクセスポイントへ送られ、次にアクセスポイントからプリンターへ送られます。
 したがって、同じデータを届けるために無線チャネルが2回使われます。

 ただし、Wi-FiにはWi-Fi Directという端末同士が直接通信できる機能も標準化されており、たとえば、スマホからプリンターへ直接接続して印刷したり、パソコンからプロジェクタへ接続して画面を投影することができます。

 Wi-Fiを利用するには、アクセスポイントと端末の間で相互に通信できる十分な強さと品質の電波が届く必要があります。端末がアクセスポイントの通信可能範囲を外れると、通信できなくなります。

 Wi-Fi機器は、周囲の電波や受信した通信情報を基に、チャネルが使用中かどうかを判断します。しかし、双方ともアクセスポイントとは通信できるものの、端末同士では互いの送信電波を確認できない場合があります。これは「隠れ端末問題」と呼ばれます。この場合、双方がチャネルは空いていると判断して同時に送信し、AP付近で電波が重なってデータが正しく受信されない可能性があります。

 このように、Wi-Fiでは各機器が周囲の利用状況を確認しながら、自律的に送信の機会を取り合っています。そのため、利用する機器の数や通信量が増えると、待ち時間や再送が増え、実際にデータを送信できる時間が少なくなります。その結果、各機器の通信速度が低下しやすくなります。

 なお、Wi-Fiのように一つの無線チャネルを複数の機器で共有する基本的な仕組みをCSMA/CAと呼びます。

 CSMAはCarrier Sense Multiple Accessの略です。Carrier Senseは、通信路が使用中かどうかを確認すること、Multiple Accessは、複数の機器が同じ通信路を共有することを意味します。

 Wi-Fiは、有線LANのEthernetと同じLAN技術として設計されました。有線のEthernetでも、送信前に通信路の空きを確認するCSMAの考え方が使われていました。Wi-FiでもこのLANで用いられてきた技術を踏襲しています。

 CAはCollision Avoidanceの略で、「衝突を避ける」という意味です。チャネルが空いていることを確認してもすぐには送信せず、ランダムな時間だけ待つことなど、衝突をできるだけ起こりにくくしています。例えるなら、話し合いの場でほかの人が話し終わった直後に全員が一斉に話し始めないよう、それぞれが少し間を置いてから発言する仕組みです。

 さて、一つのWi-Fiアクセスポイントには、異なる規格に対応した端末を同時に接続できます。たとえば、5GHz帯で40MHz幅を使用するIEEE 802.11n(Wi-Fi 4)対応アクセスポイントに、20MHz幅で動作するIEEE 802.11a端末と、40MHz幅に対応したIEEE 802.11n端末が接続する場合があります。
 40MHz幅のチャネルは、二つの20MHzチャネルを組み合わせて構成され、一方をプライマリチャネル、もう一方をセカンダリチャネルと呼びます。802.11a端末は40MHz幅に対応していないため、プライマリチャネルの20MHzだけを使用して通信します。一方、40MHz幅に対応した802.11n端末は、プライマリチャネルとセカンダリチャネルの両方を使って通信できます。

 これらの端末は、それぞれが利用する周波数範囲について、CSMA/CAの原理に基づいて送信前に利用状況を確認します。特に、802.11n端末が40MHz幅で送信する場合には、二つの20MHzチャネルがともに利用可能であることを確認する必要があります。

 プライマリチャネルが他の端末によって使用中であれば、802.11a端末と802.11n端末のいずれも送信を待ちます。このように、異なる規格の端末は同じアクセスポイントに共存できますが、先に述べたように旧規格の端末との互換性を保つためのやりとりが必要となり、通信効率が低下する場合があります。

モバイル通信での無線周波数の使い方

図3右側のモバイル通信での無線周波数の使い方ですが、ここでは4Gや5Gを念頭に見てみます。

図3(再掲)

 モバイル通信でも、Wi-Fiと同様同じ基地局に接続する多数のスマホが、限られた無線周波数を共同で利用します。ただし、各スマホが空いているタイミングを探して自発的に送信するのではありません。基地局にある「スケジューラ」が一括して、どのスマホに、いつ、どの周波数を、どの程度割り当てるかを短い時間間隔で決定します。

 基地局が利用できる無線資源を時間と周波数の細かな区画に分け、スケジューラはこの区画をスマホごとに割り当てます。たとえば、ある時間には周波数帯の一部をスマホAに、別の部分をスマホBに割り当て、次の時間には割当てを変更します。

 これを非常に短い周期で繰り返すため、ユーザーから見ると、複数のスマホが同時に通信しているように見えます。

 割当ては、すべてのスマホに均等に行われるとは限りません。基地局は、各スマホから報告される電波状態、送信待ちデータの量、通信サービスの種類、契約内容、端末の移動状況などを考慮します。

 電波状態のよいスマホには、短時間に多くのデータを送れる効率の高い通信方式を使い、電波状態の悪いスマホには、速度を抑えてもデータが届きやすい方式を選ぶこともできます。

 基地局から端末へデータを送る下り方向の通信では、スケジューラが端末ごとに無線資源を割り当て、その割当内容をスマホへ通知してからデータを送ります。

 スマホから基地局へ送る上り方向の通信では、端末が送信したいデータ量を基地局へ知らせ、基地局から割り当てられた時間と周波数を使って送信するのが基本です。

通信サービス品質

 上記のように、Wi-Fiとモバイル通信では無線周波数の使い方が異なることもあり、通信サービスの品質と、その品質をどの程度管理・保証できるかという点で違いがあります。この辺りは、上の図2にも示しています。

 Wi-Fiでは、一つの無線チャネルを複数の機器が自律的に空き状態を確認しながら利用します。そのため、利用する端末数や通信量が増えると、送信待ちや衝突による再送が増え、通信速度や遅延が変動しやすくなります。

 また、近隣のWi-Fiや他の無線機器から干渉を受けることもあります。このため、一般的な家庭用Wi-Fiや公衆Wi-Fiでは、一定の通信速度や遅延を常に保証することは困難です。

 これに対してモバイル通信では、基地局のスケジューラーが、各端末に対して時間や周波数などの無線資源を一元的に割り当てます。さらに、通信事業者は基地局の配置、使用周波数、送信電力、接続端末数、混雑状況などをネットワーク全体で把握し、通信資源を調整します。このため、通信品質を計画的に制御・管理しやすい仕組みとなっています。

 また、モバイル通信では、音声通話やオンライン会議など、遅延の小ささや安定性が重要な通信を、一般のデータ通信より優先して扱うことができます。

 Wi-Fiにも通信の種類に応じて送信待ち時間や送信機会を調整する優先制御の仕組みがありますが、一つのチャネルを複数の機器が競争して利用するという基本的な仕組みは変わらないため、混雑時には優先制御の効果にも限界があります。

 したがって、モバイル通信はWi-Fiよりも、広い範囲で一貫した通信品質を管理・保証しやすいという特長があります。

 また、スマホで通話しながら移動する場合、モバイル通信は移動中の利用を前提として設計されており、端末の移動に応じて接続先の基地局の切り替えが行われます。このため、移動により電波状態が悪化する可能性はあるものの、移動中も通信を継続しやすくなっています。

 一方、Wi-Fiでは移動中の利用を想定していないため、端末が現在使用しているアクセスポイントから離れてしまうと、別のアクセスポイントを探して、そのAPに接続しなおす必要があります。その切替えも端末やネットワークの設定に左右されるため、切替えに時間がかかったり、オンライン会議であれば画像や音声が一時的に途切れたり、場合によっては通信が切断されることがあります。

Wi-Fiとモバイル通信の使い分け

 Wi-Fiとモバイル通信は、利用する場所や用途に応じて使い分けることが重要です。家庭やオフィスなど一定の場所で、動画視聴や大容量ファイルの送受信などを行う場合は、通信容量を気にせず高速に利用しやすいWi-Fiが適しています。特に、同時に通信する端末数や、一つのアクセスポイントに接続する端末数が比較的少ない環境では、効率よく利用できます。

 一方、屋外や移動中の利用、広い範囲で継続して接続する必要がある場合は、モバイル通信が適しています。モバイル通信は文字通り移動中の利用を前提として設計されており、音声通話やオンライン会議、業務アプリなど、移動しながら通信を継続したい用途に向いています。

 また、基地局が各端末の無線通信を一元的に管理するため、混雑時にもWi-Fiより通信品質を制御しやすいという特徴があります。

 スマートフォンでWi-Fiをオンにしていると、駅や商業施設などで、意図せず公衆Wi-Fiに接続され、かえってインターネットへつながりにくくなることがあります。これは、過去に接続したWi-Fiや、利用登録している通信事業者などのWi-FiのSSIDをスマートフォンが記憶し、その電波を検出すると自動的に接続するためです。
 接続したWi-Fiが混雑していたり、インターネットへ正常に接続できなかったりする場合は、Wi-Fiを一時的にオフにして、モバイル通信を利用することが対処方法の一つです。また、スマートフォンではSSIDごとに自動接続の設定ができるため、自宅や職場など信頼できるWi-Fiだけ自動接続を有効にし、利用頻度の低い公衆Wi-Fiについては無効にしておく方法もあります。

 一方、Wi-Fiに接続されていても、モバイル通信が使われることがあります。通常、スマホのOSであるiOSやAndroidはWi-Fiを優先してインターネット通信に利用します。しかし、Wi-Fiの電波が弱い、回線が混雑している、APには接続できてもインターネットへ到達できない、といった場合には、通信を継続するため、OSの機能によってモバイル通信へ切り替わることがあります。

 そのため、画面上にWi-Fiの接続マークが表示されていても、すべての通信が必ずWi-Fiを経由しているとは限りません。Wi-Fiとモバイル通信の自動切替えは、通信を途切れにくくする点では便利ですが、利用者が気付かないうちにモバイルデータ通信量を消費する可能性があります。

 通信経路の選択には、アプリ側の設定や動作も関係します。多くのアプリは、OSが選択した標準の通信経路を利用します。一方、動画配信、クラウド同期、写真のバックアップなどのアプリには、「Wi-Fi接続時のみ実行する」「モバイルデータ通信を許可する」といった設定が用意されていることがあります。

 モバイルデータ通信が許可されている場合、Wi-Fiが利用できなくなると、アプリはモバイルネットワーク経由で通信を継続することがあります。反対に、アプリごとのモバイルデータ通信を無効にしておけば、そのアプリはWi-Fiが利用できない間、通信を行いません。

 このように、スマホ画面上のWi-Fi接続表示は、「モバイル通信をまったく使用していない」ことを必ずしも意味しません。モバイルデータ通信を確実に避けたい場合は、OSの自動切替え機能に加え、端末全体のモバイルデータ通信や、アプリごとの通信設定を確認する必要があります。

Wi-Fiとモバイル通信の同時利用

 モバイル通信関連の国際標準化を進めている3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、Wi-Fi(実際にはWi-Fiを含む「非3GPPアクセス」)とモバイル通信を同時にあるいは補完的に利用するための仕組みを標準化しています。

 それは、ATSSS(Access Traffic Steering, Switching and Splitting)と呼ばれます。

 従来、スマホはWi-Fiに接続すると、モバイル通信からWi-Fiへ通信経路を切り替えるのが一般的でした。この場合、Wi-Fiの品質が低下しても、端末がモバイル通信へ切り替わるまで通信が遅くなったり、一時的に途切れたりすることがあります。

 ATSSSでは、5GとWi-Fiを単に二者択一で使うのではなく、アプリなどでの利用形態と各経路の状態に基づき通信を適切な経路へ振り分けます。

 ATSSSは、三つの機能を表しています。

 「Steering」はアプリの要件やネットワークの状態に応じて、5GまたはWi-Fiのどちらを利用するかを選択する機能です。

 「Switching」は、利用中の通信を一方の経路から他方へ切り替える機能です。

 「Splitting」は、一つのアプリのデータを5GとWi-Fiの両方へ分けて、同時に送受信する機能です。

 これにより、両方の通信容量を活用して速度を高めたり、片方の品質が低下した際にもう一方で補ったりすることができます。

 たとえば、大容量ファイルのダウンロードでは5GとWi-Fiを併用して通信速度を高め、オンライン会議では、安定している経路を優先しながら、品質低下時にもう一方へ切り替えるといった使い方が考えられます。また、通信事業者は、アプリの種類、遅延、通信速度、混雑状況などに応じて、経路の利用方針を設定できます。

 ただし、ATSSSを利用したからと言って一般のWi-Fiとモバイル通信が自動的に束ねられるわけではありません。対応端末、対応する通信事業者のネットワーク、適切なサービス設定が必要です。また、実際の効果は、それぞれの通信経路の品質や混雑状況にも左右されます。

 なお、日本では未だATSSSは利用できませんし、世界的に見ても現状ほとんどこれを商用ネットワークでは利用できない状況です。仕組みが少し複雑なため実装が難しいという面はありますが、今後のネットワークの進化、アプリ側からの要求の高まりと供にATSSSが利用できる環境になることが期待されます。

おわりに

 これまでは、オフィスや自宅ではWi-Fi、屋外や移動中はモバイル通信という使い分けが一般的でした。

 しかし、クラウド上の業務環境を利用し、移動先でもオフィスと同じスタイルで仕事をするようになると、場所を問わず途切れにくく、一定の品質を保てる通信がより重要になります。

 また、AIエージェントの普及により、利用者が端末を直接操作していない間にも、情報の収集、データの同期、通知、音声処理などの通信がバックグラウンドで継続的に発生すると予想されます。

 このような利用では、接続のたびにその場で利用可能なWi-Fiを選択するよりも、常時接続され、移動時にも通信を継続しやすいモバイル通信の利点が大きくなります。

 一方、大容量データを固定した場所で低コストに送受信する用途では、引き続きWi-Fiが有効です。今後は、端末やネットワークが通信品質、料金、用途などに応じて両者を自動的に選択・併用する方向へ進むと考えられます。

 特に、最後に述べたATSSSはWi-Fiとモバイル通信を競合する別々の通信手段としてではなく、相互に補完する一つの通信基盤として利用するための技術といえます。このような技術が利用可能になり、自動的に適材適所の通信手段が選択、組み合わされるようになることが期待されます。

 なお、ここでは私たちになじみのあるスマホやパソコンの通信で利用するWi-Fiについて述べましたが、Wi-FiにはセンサーやメーターなどのIoTで利用する規格、車の通信で利用する規格、長距離通信用の規格、高精度な位置測定のための規格など、さまざまな規格もあります。

藤岡 雅宣

1998年エリクソン・ジャパン入社、IMT2000プロダクト・マネージメント部長や事業開発本部長として新規事業の開拓、新技術分野に関わる研究開発を総括。2005年から2023年までCTO。前職はKDD(現KDDI)で、ネットワーク技術の研究、新規サービス用システムの開発を担当。主な著書:『ワイヤレス・ブロードバンド教科書』、『5G教科書 ―LTE/IoTから5Gまで―』、『続・5G教科書 ―NSA/SAから6Gまで―』(いずれも共著、インプレス)。『いちばんやさしい5Gの教本』(インプレス)、大阪大学工学博士