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第87回:DSP とは
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大和 哲 1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら。 (イラスト : 高橋哲史) |
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DSPとは
「DSP」とは、「Digital Signal Processer(デジタル信号処理装置)」の略です。現在では、携帯電話や家電、オーディオ機器、モデム、医療機器、ハードディスクドライブの制御など、さまざまな機械に組み込まれて利用されています。
このDSPは、デジタル化された信号を処理するための半導体チップで、特徴としては、デジタル化された信号、例えば音声信号のように単純で膨大なデータを非常に高速に処理できる能力を持っていることが挙げられます。
携帯電話では、通話中に人が会話している音声が扱われるわけですが、携帯電話はこの音声をサンプリングしてデジタルデータにした後も、データを加工して電波に載せて送ったり、逆に電波からデジタルデータを受け取って加工したりしなければなりません。例えば、
・デジタル化された音声信号をコーデックに従って圧縮展開 ・信号音などの生成 ・利用者の設定などによる、再生音量や速度の調整 ・音声レベルの変動を補う利得制御
などです。しかし、デジタル化された音声データは非常に膨大であり、短時間で大量に流れてくるので、携帯電話内のマイクロコンピューターではとても処理しきれません。機種によっては、これらのすべてが行なわれているわけではありませんが、多くのデジタル携帯電話では、このようなデジタル信号処理が電話機内部のDSPで処理されています。
また携帯電話のDSPは、着信メロディ用の音源やCMOSカメラモジュールで撮影した画像データの処理、GPSによる衛星からの信号や現在位置を計算する処理などを受け持つ場合もあります。携帯電話以外の機器では、例えばMP3やAACプレーヤーの音声レコーダー、GPSの信号処理や位置特定計算、音声認識、ハードディスクやコンパクトディスクで読み取った信号の処理など、大量の信号処理が必要な場面においてそれぞれ使われています。
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PDAやデジタルカメラなどのアプリケーションでの用途を想定して開発された、日本テキサス・インスツルメンツの画像処理用DSPモジュール「TMS320DSC24(DSC24)」。MPEG-4、MPEG-1、MP3、JPEGなどに対応し、同社の省電力DSP「TMS320C5000」が採用されている
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マイクロコンピューターとDSPで互いに助け合う
このDSPというチップは、デジタル化された信号、例えば音声信号のように単純でありながら膨大なデータを非常に高速に処理できる能力を持っているのが特徴のLSIです。しかし実は、パソコンのCPUや携帯電話内のマイクロコンピューターなどとその仕組みはよく似ています。
CPUは、メモリ内にあるプログラムを読んでそれを実行し、メモリ内のデータを書き換えたり、コンピューターに付いている装置にデータを入出力し、ディスクにデータを書き出してインターネットにデータを送ったり、あるいはスピーカーから音を出したりします。
DSPも同じように、メモリ内にあるプログラムを読み込んで、メモリや周辺機器からのデジタルデータを加工して出力します。CPUとDSPの最大の違いとしては、DSPは「処理が高速で単純作業を高速にこなすのに向くが、プログラムは比較的単純なものしか作れない」のに対し、CPUは「複雑な命令が行なえ、複雑なソフトウエアを作りやすい」ということが言えるでしょう。
簡単に言うと、DSPは作業量が膨大で、しかし単純な作業の繰り返しになるような計算をするのに向いているということになります。技術的な話をすると、例えば特定の畳み込みアルゴリズムを利用して入力信号を処理し、その後の出力に特定の周波数だけを抽出する「フィルタ処理」などがDSPの得意分野です。このような処理を行なうもののひとつとして、携帯電話の音声信号処理というものがあるわけです。
ちなみにマイクロコンピューターでは、通常加工するデータとプログラムの入っているメモリは物理的に同じものですが、DSPの多くは「ハーバードアーキテクチャ」といって、加工するデータとプログラムが物理的に分離されているなど、信号処理をすばやく行なえるような工夫がいろいろとなされています。
また、マイクロコンピューターは、人間が手間をかけずに複雑なプログラムを作ることができるように非常に多くの命令を持っていて、プログラムも複雑な作業ができ、いろいろな作業に使うことができます。例えば携帯電話だと、インターネットからのデータを解釈して画面に絵や文字を書き込む、アドレス帳のデータを記録する、再生するというような諸々の作業をマイクロコンピューターが担当しています。
ただし、DSPとマイクロコンピュータでは、互いに同じようなことができる作業もあります。例えば、DSPを使ってMP3再生機器が作れるように、マイクロコンピューターが搭載されたパソコンなどでも、マシンパワーが充分にあればMP3を再生することができます。ただし、同じデジタル信号を処理する場合でも、通常のコンピューターではDSPと比べて大きくパワーのあるCPUが必要になる傾向があるので、携帯電話やPDAのような機器ですべてをCPUにまかせるのはあまり現実的ではありません。
DSPとマイクロコンピューターは互いに似たような性質を持っていますが、デジタル方式の携帯電話内部では、それぞれの適材適所をもって分業していると考えていいでしょう。
(大和 哲)
2002/04/09 12:47
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